妖の鉱山に異世界で迷い込む話⑤
「兄さん、これ……」
「ああ、俺たちじゃない別の誰かが残した印だな。それにこの文字、刻印魔法で直接印字してあるぞ」
実のところ、ルヴィス達も探索を進めていく上で、マッピングの為に同じようなことはずっとし続けてきていた。つまりは、各出入り口のすぐ傍に記号や数字などを書き残してきた訳だが、彼らはその辺にある魔石から錬成したマジックチョークにて物理的に記入を行っており、今、目の前にあるものとは全く手法が異なっているのである。
「もしかしてこれ、フランとかジェドが描いたのかな? てことは、この近くにいるかもしれない……!?」
「うーん、そうかもしれない、といえばそうなんだが……」
「どうしたの? 何かあるの?」
どこか歯切れの悪い反応を示したルヴィスに、綾美は心配そうに訊き返す。
「……いや、何でもない。ひとまず、これを見つけられたのは大きな収穫だ。見たところ、これは描かれてからまだそう時間は経っていない。もしかしたら、他の誰かと合流を果たせるかもしれないな」
「なら、この光る印が描かれてるところを優先して探してみようよ! 特に魔導師組の二人は早く一緒になれた方が良い筈だから!」
「そうだな、そうしていくとしよう」
綾美の言葉にルヴィスは同意を示すと、発光している印の刻まれた出入り口へと足を進めていった。
(しかし、今の刻印されていた印……どうにも、フランやジェドの描いたものには思い難いんだよな。明確な理由がある訳じゃないから、口には出さなかったが……)
だが、先頭を行くルヴィスは表情にこそ出さなかったものの、何か頭の奥で引っかかるような感じが抜けきらないままでいた。
(まさかとは思うが……まさか、な)
それからまたしばらくして、三人は探索を進めていきながら、途中でさっきと同様の光る印を何度も見つけては、それを追う形で坑道内を移動していった。
「敵……ッ!?」
そして、一つの通路へと向かう出入り口を前にして、前方より何かが迫って来る気配を感じ取ったルヴィスが、直ちに剣を構える。
すると数秒後、もう幾度戦ったともしれない妖精種の群れがわらわらと現れては、ルヴィス達のいるところへと突っ走って来た。
「またコイツらか!」
向かってくるのであれば迎撃するまで、とルヴィスは奥義にて一気に蹴散らす姿勢を取る。
ところが、やってきた妖精種らはルヴィス達へと襲いかかることなく、その全てが彼らの脇へと逸れては、そのまま他の出入り口から奥の通路へと逃げ去ってしまった。
「えっ……あれ? なんかいきなり現れたと思ったら、みんな走り去ってったけど……!」
集団で突然、襲撃を仕掛けてきたというよりは、どう見ても一目散に全力疾走していったという妖精群の様子に、綾美でさえもその不可解さから困惑してしまう。
(なんだ、今のは? これまで散々襲いかかってきておいて、今度は俺たちを無視して走り抜けていった……? というか、まるでパニックに陥りながら逃走していった感じだったが――)
あまりに変わった事態への遭遇に思考を巡らせるルヴィス。――だがその時、彼はほぼ無意識且つ反射的に手にした剣を振るっては、自身の正面にある出入り口より、高速で飛んできたものを斬り払った。
「ひゃあッ!?」
唐突に脇へ流れた、放電現象の如き魔力光の衝撃と破裂音に、綾美は思わず悲鳴をあげてしまう。
それは咄嗟にルヴィスが剣閃にて弾いたもの。何の前触れもなく一瞬で飛来してきた、鎌鼬もかくやといった投刃が裂かれた余波であった。
「兄さん!?」
「な、何!?」
状況のよく判らない事態の連続に綾美が竦んでしまう中、そんな彼女を守るように構えながら、ルヴィスは視界の先の通路奥を睨む。
「……今、あの通路の向こうから魔力の刃が飛んできた。しかし、あの妖精種が放った攻撃には到底思えないな」
「攻撃って……でも、通路の向こうには何にもいないけど……」
綾美の言う通り、三人の真正面にある出入り口、妖精種の群れが走ってきた後に謎の魔力刃が飛んできたその先には、特に何も存在していなかった。あれ程の威力ともなれば、そんじょそこらの魔物が簡単に投射できるものではない筈なのだが、今の位置より見える通路の奥には何者かの影一つさえ見当たらない。
「おそらくですが、あの入口の先が転移地点になっているのでしょう。そして、今の投刃はそこから飛ばされてきたものであると」
(それにさっきの手応え、正直言って、俺はアレを知っている……。今、飛んできたものは単なる魔力刃じゃない。俺たちの流派と同じ魔法剣の攻撃だ。そして、そんな術技を扱う者がいるとすれば――)
何かを確信したように表情を険しくしたルヴィスは、気を張って振り返らぬままに、後ろへいるサフィアへと話しかける。
「サフィア、すぐにあの向こう側へ行くぞ。お前はアヤミさんを守りつつ、注意してついてきてくれ」
「兄さん、ですが――」
それ以上はあえて聞かず、有無を言わさぬ足取りで先に進んでいってしまったルヴィスに、サフィアと綾美もまた急いで後を追いかける。
そうして、ルヴィス達が思っていた通りに出入り口を超えていったところで三人は転移し、奥へ抜け出た向こう側は、三人が始めにやって来た地下のスタート地点と同じくらいの空間となっていた。
「――――――」
そこへ進入した三人がまず目にしたのは、とにかく大量の妖精種が倒された死骸が散らばっている様子であった。何十体という丸いモンスターの群れ――それも小中大とサイズの異なる集団が等しく肉体と生命を断たれており、動くものは一体として見受けられない。
そんな中、その空間の中央にて佇んでいる“人物”が一人いた。その人物は、頭も含めて全身の何もかもを白銀の装甲で覆っており、背中には大きなマントを装備していた。それから、手には見るからに目立つ長大な剣を持っていた。
そんな謎の誰かは、ちょうど来たばかりの三人には背を向けた状態であったのだが、
「もしや、貴方は――《白き閃晄》のディアン殿ではないか!?」
一帯へ響かせるくらいの勢いで声を掛けたルヴィスに対し、銀の装甲に身を包んだ人物はマントを翻しつつ、三人の方へと振り返ってみせた。




