妖の鉱山に異世界で迷い込む話③
「あっ、本当だ! 一緒に降りてきてた筈のみんながいない! ていうか、ここ何処!? なんか、いつの間にか地下にいる!?」
「これはどういう事でしょう? 私達は空から穴の底へ降下していた筈なのに、いつの間にか天井を岩盤に覆われた場所へと墜落した……いえ、もしかして、何処か別の場所へと転移させられた?」
「かもしれないな。ここは見た感じ、坑道の中のように思えるが、俺達が降りようとしていた地点に出入り口があった訳ではないし。――しかし、降下中に転移現象が起こったとなると、フランが事前に気づけなかったのがどうにも不可解だが……」
そこまで言って、ルヴィスは機竜をカプセルに戻して仕舞うと、改めて周囲を見回した。
三人の今いる場所は、鉱山内に設けられた坑道が幾つか分かれた、分岐地点兼資材等を仮置きする中継地点のようで、それなりに広い空間にちょうど四方へ一つずつ通路が確認される。
「とにかく、まずは他のみんなとの合流を最優先にしよう。アヤミさんが独りにならなかったのが本当に幸いだが、どのくらいパーティが分断されてしまったのか、てんで判らないからな。――む?」
直後、何かに気づいたルヴィスはラスターソードを構えだし、サフィアもまた同じく双剣を手に、綾美を守る体勢を取った。そんな二人の只ならぬ様子に、綾美は恐る恐る訊ねる。
「どうしたの、二人共?」
「何やら、良からぬ気配が近づいてきてます。アヤミは私の傍を離れないように」
サフィアの指示に綾美は緊張から息を呑み、それから誰も喋らず一時の静寂が流れる。
そうして間もなく、通路のうち一つの奥からペチペチと小動物の足音らしいものが聴こえたかと思うと、何やら丸っこくて毛むくじゃらなものが数体、三人の視界へと姿を晒した。
「……ッ!? モンスター!?」
目の前に現れた動体に対し、綾美は思わず声を上げる。それらは子供くらいの背丈をした、卵型に近いシルエットで全身を真っ白な毛に覆われた生物であった。
その顔面には小さな双眸と大きな口があり、口内には細かく並んだ剥き出しの歯が覗く。そして最も特徴的なのが体に対してやけに長い両腕で、手の先には短剣がそのまま生えたような爪が備わっていた。
それらの群れは独特な甲高い鳴き声をあげながら、あからさまに威嚇を示す仕草をルヴィス達に向けてきている。
「こちらに対して、明確に敵意があるな。――ならば、打ち払う!」
まるで因縁でもつけてくるように寄って来た謎の生物らを前に、ルヴィスは剣を構えて真っ向から戦意を返す。
それに触発されてか、モンスターの群れのうち、前列の数匹がルヴィスへと向かって、鉤爪を振り翳しながら飛び掛かって来た。
「ふッ――!」
そんな敵モンスターにルヴィスは瞬時に剣を連続で繰り出し、それら全てを近づけさせる事無く迎撃する。だが、
(……ッ!? コイツら、やけに硬いぞ! 何だ、今の手応えは……!?)
反撃後、ルヴィスは相手を斬りつけた際の奇妙な感覚に、より注意深く眼前のモンスターへと目を向けた。
ルヴィスが斬り払ったモンスターらは全てが吹っ飛ばされこそしたものの、そのどれもが切創を負わなかったのである。その事実にルヴィスが不可解だと観察していると、モンスター達の剣を食らった箇所の体毛が剥がれ、その下から金属質な白銀の皮膚が覗き見えた。
「兄さん! あの魔物、もしや希少種のメタルモンスターなのでは!?」
「ああ、俺もそんな感じに思える。にしても、随分と頑丈ではあったが――まさか!?」
そこでルヴィスはモンスターの爪や毛の抜けた体表にて、単に金属的なだけの質感ではない、淡く虹色に輝く特有の光沢があることに気づいた。
(このモンスター達、体組織にオリハルコンを取り込んでいるというのか……!?)
そうルヴィスが推測したところで、先ほど彼に弾かれたモンスターらが再び起き上がっては、またもや飛び掛かって来る。それに続けて、今度は後列のモンスター達も側面から回り込むようにして、サフィアと綾美がいる位置へと急接近してきた。
「クリティカルブレイド――ッ!」
「鋼爪斬鉄閃――ッ!」
しかし、わらわらと群がって来たモンスター達にルヴィスとサフィアはそれぞれ、相手の特性を考慮した上での奥義を放ち、一切の手傷を貰う事も無く、あっという間に一掃してしまった。
片や、荷電粒子の光刃。片や、鋼体割断の特技。いくら神鉄の外皮とはいえ、同じ材質の武器に加えて、特攻手段を有する勇者兄妹らに対処できないことはない。
仕組みさえ判れば恐るるに足らず、とばかりに蹴散らされたモンスター達は、そのどれもが体を分断されたことにより絶命してしまった。
「……ひとまず、増援が来ることはなさそうですね」
モンスターの群れを全滅させた後、しばらく待っても襲撃が来ないことから、サフィアはそう判断し、ルヴィスもまた首肯する。
「ああ、それにしてもまた、奇妙な魔物が生息しているものだ。外観の特徴的には、どうにも妖精種っぽい気がするが……」
「妖精……? ドライグ王国に行った時に会ったみたいな?」
「ええ、特に廃坑となった鉱山跡などには、後から妖精が住み着きやすいものですが……ちょっと、種類の特定までは出来ませんね。初めて見る形状のモンスターです」
兄妹二人からしても、これまで見聞きしたことのない類の魔物のようで、推定妖精種とされるそのモンスターらの死骸を三人は改めて観察していった。
……綾美としては、この金属質な外皮を有する魔物に対し、もしかして倒すと経験値を沢山貰えたりするのでは、なんてことをふと考えてしまったのであるが、当然ながら口に出したりまではしなかった。
「しかしこのモンスター、爪や牙どころか、ほぼ全身にオリハルコンの性質を有しているな。どおりでやけに硬かった訳だ」
「でしたら、この魔物らに魔法攻撃の大半は通用しないでしょうね。戦闘力はともかく、外装的にはメタビーストとほぼ変わらないですから」
「えっ……それじゃあ、もしフランやジェドが単独で出会ったりなんかしたら……」
「ああ、心配だな。近接の出来るハンターやコメットはともかく、魔導師組の二人では追い払ったり拘束までは出来ても、倒すこと自体はまず厳しいだろうから……」
そう言ったルヴィスの言葉に、綾美は心がザワザワとするような感覚になった。今、ここにいない仲間達がどんな風に別れてしまったのかは知れないが、どうしても嫌な想像が思い浮かんできてしまう。そのような事態が実現してしまう前に、どうにか合流を遂げたいところであるが……
「――ところで兄さん、この場所ですけど、普通にマナが満ちていますね」
「ああ、この世界に来てからずっと纏わりついていた息苦しさが全く無い。それに見てみろ。ここにある魔光石の照明はどれも普通に光を放っている。つまりはマナの循環と供給がきちんと行われている証拠だ」
ルヴィスが指摘した点に、綾美は思わず今いる地点の周囲を見回した。坑道内と推測される現在地には、この世界に来てから初めて見る、点灯している照明が壁や天井に並んでは、しっかりと照度を確保している。
因みにこれは以前、綾美が仲間達から聞いた話ではあるが、魔光石というものは、周辺のマナがある程度存在する空間であれば、半永久的に発光し続けるものなのだという。要するに、今彼女らが見上げている光源は、数万年もの時をずっと光り続けてきたのであろう。
「えっと、それって……その、どういう事? 地上にはマナが無いけど、地下にはまだまだ残っているって事?」
「うーん、一概には何とも言えないが……ただ、ここが地下だからというよりは、この場所自体が何かしらの特殊な領域だからかもしれないな。フランもここへ来る直前、妙な魔力の流れを感じると言っていた事もあるし」
「マナが多く溢れたダンジョンともなれば、妖精なんてものが出現するのも納得はできます。――とにかく、不明な事と不可思議な要素だらけの場所ですから、探索は慎重に行っていきましょう」
「そうだな。ただでさえ、坑道というものは入り組んでいる、見通しが悪い、崩落の可能性がある、と色々危険だらけだ。パーティの合流と同様に外への脱出ルートも確保したいところだが……くれぐれも気をつけなければ」




