妖の鉱山に異世界で迷い込む話②
その後、しばらくまた飛行調査を続けていた一行は、コメットの提案で試しにイーストエルジアと南側のサウスエルジアを分ける境界線となる山脈へ足を延ばしてみた訳であるが、
「――あれ? ねえ皆、あそこになんか変な場所ない?」
機竜で飛びながら何かに気づいたジェドがその方角を差しつつ、魔導通信機にて仲間達に伝えた。
「あ、本当だ……。山の中に、すごく大きい穴……?」
ジェドが示したものに対し、それを視認した綾美がそのように答える。
彼女の言ったように、一行の視界に映る山々、その中に何やら擂鉢状をした、あまりに巨大な穴が見えた。そしてその穴を取り囲むように、明らかに人工物である、物々しい城壁や砦のようなものが建てられていた。
「あれはおそらく、鉱山跡ですね。いわゆる、露天掘りという方法で掘られている場所です。……にしても、随分と規模が大きいですが」
綾美に向け、彼女を背に機竜を操縦していたサフィアがそう説明する。
「それにただの採鉱施設でもなさそうだな。鉱床全域がまるで要塞のように巨大な城壁で囲まれている。加えて、防衛用の設備らしきものも沢山ある。――どう見ても要所といった感じだが、コメットはあの場所について何か知っているか?」
ルヴィスからの問いに、コメットはしっかりと頷いて返す。
「はい、アレは間違いなく《アールゼクス鉱山》……エルジア帝国の誇る随一のオリハル鉱ですわ」
「オリハル鉱って……まさか、あそこからオリハルコンの鉱石が採れるってのか!?」
「そうです。その産出量はエルジア帝国一の鉱山で、他にも多種多様な鉱石や魔石等が採れた筈ですわ」
つい、目を丸くしたハンターにコメットがそのまま説明を続けていく。
「ですから当然、帝国にとっては要所中の要所でしたし、故に厄災時はメタビーストからの襲撃も頻繁にありました。ですので、あれだけ巨大な防衛用施設もまた付随して築かれているのです。……といっても、最終的には陥落してしまった訳ですけど」
「確かに、戦闘があった形跡が随所に見られるな……。まあ、何もかも風化してしまっていて、もはや遺跡同然ではあるが」
まるで手酷い爆撃にでも晒されたかのような有様であちこちが崩れている城壁の様子に、ルヴィスがもの悲しそうな視線を向ける。
「とりあえず、あの地点の探索をこれから始めてみますか? まあ、あの広さですから、しばらく時間は掛かるかと思いますが……」
「あー……、えっと、皆さん。ちょっといいですか?」
サフィアが仲間達に鉱山側へ向かうか尋ねたところで、フランジェリカもまた何か言いたげに話へ加わってきた。
「どしたー? もしかして、何か気づいた? というか、視えた?」
「はい、その“視えた”方なんですけど……あの鉱山の穴、底の方へ向かうにつれて、何だかおかしな魔力の流れが発生してるんですよね……」
「魔力の流れ? そもそもマナの枯渇している、この世界でですか?」
眉を顰めたサフィアの声にフランジェリカは頷く。
「そう、あそこには確かにマナがあります。でも単に湧いているとか溜まってるって訳じゃなくて、どうにも不自然な流れ方をしてるように思えるんです。ちょっとそれが何でなのかまでは、よく判らないんですけど……でも明らかに、何かありますよ」
「――よし、それだけ変わった点のあるポイントなら、調査しない訳にはいかないな。なら早速、あの鉱山の穴へと向かってみることにしよう。無論、細心の注意を払ってだ」
ルヴィスがそう纏めて仕切ると、一行の駆る機竜の編隊はアールゼクス鉱山の方へと向かった。
露天掘りによって数百メートルもの深さまで掘られた巨大な穴を眼下に収めた後、彼らはフランジェリカの言っていた地点、魔力が不自然に流れているという奥底の地点を目指し、今度は機体を降下させていく。
そして、機竜が穴の底まで着くのに百メートルをきったところで――唐突に、機体は固い地面へとぶち当たった。
「なっ――どわッ!?」
あまりに着地――もとい不時着が突然過ぎた為、ルヴィスは碌に防御姿勢も取れず衝撃を受けては、乗っていた機竜から思いきり投げ出されてしまう。
「えっ――ひゃあッ!?」
「きゃあああッ!?」
それからそのすぐ後、サフィアと綾美が乗っていた機体も同じ目に遭い、地面に機体が激突した勢いで宙に吹っ飛ばされた。
「ッ……! なんで突然、地面が……というか皆、大丈夫か!?」
「私は何とか……アヤミの方は!? 怪我はないですか!?」
ルヴィスに声を掛けられた後、サフィアは慌てて起き上がっては綾美の居場所を探す。
「う、うん……ちょっとぶつけたけれど、割と大丈夫っぽい……」
すると、綾美もまた二人からそう離れていない位置にて、ぶつけた箇所を擦りながら起き上がろうとしていた。
見たところ、衣服が多少汚れたぐらいで、これといった怪我をしていないようであった。ついでに言えば、彼女にとって生命線である眼鏡もまた不思議なくらいに無傷な状態だった。どうやら、機竜に備わっていた物理保護機能が上手く働いてくれたお陰らしい。
「痛むところは? 少しでもありましたら、我慢せずに言ってください!」
急いで駆け付けてきたサフィアに、
「とりあえずは平気だよ。折れてたりとか打ち身とか、そういうのも特になさそう。すごくビックリはしたけれど……」
綾美はそう返し、彼女の無事にサフィアは胸を撫で下ろした。
「それは良かった……でも、もし後から痛みや違和感を覚えるようでしたら、遠慮せず教えてくださいね。すぐに治しますから」
「分かった。ありがとう、サフィア」
「アヤミさんに怪我が無かったのは何よりだ。――しかし、他のみんなは一体、何処へ行ったんだ?」
ふと、そんな事を言ったルヴィスの発言に、綾美はハッとして周囲を見回す。
突然の墜落事故に驚いて気づくのが遅れたが、なんと今、彼女の周りにはルヴィスとサフィア以外の仲間が誰もいなかった。しかも、現在の綾美たちは何故か、鉱山の中のような景色の場所にいた。




