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剣と魔法の異世界に現代兵器を持ちこんでみた話 ~イマジナリ・ガンスミス~  作者: 矢野 キリナガ
第12章:エルジア大陸編
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妖の鉱山に異世界で迷い込む話①


 綾美やルヴィスたちがエルジア大陸にやってきて数日後。


 一行はヴェレスの大灯台をひとまずの拠点に、コメットが“イーストエルジア”と呼んだ地域、つまりは大陸の東側を機竜(ヴィーヴル)で飛び回っては、この世界に来た目的のもの――レフィリアの力を取り戻す為に必要な何かのありそうな場所の探索を続けていた。


 ただし、大気中のマナが枯渇したこの世界では、機竜(ヴィーヴル)も通常より性能が落ちてしまう故、事実として今までのような調査は出来ないでいた。具体的には、飛行に用いる消費魔力と非使用時の魔力チャージに掛かる時間が倍に増えてしまったのである。


 その為、ルヴィス達はこれまでの半分の速度と時間でしか機竜(ヴィーヴル)を運用しないように制限をかけて扱わざるを得なかった。もし、機体をガス欠にしてしまうと、この世界では魔力炉の自動補充機能が上手く働かず、車のバッテリーがあがったように再起動させられなくなってしまうのだ。加えて、緊急時の離脱手段としても常に幾らか余力を残しておくという必要性もあった。


 そういった悪条件の環境下で調査を続けていた彼らであったが、現時点での調査において進展は無きに等しかった。とりあえず今のところ分かっているのは、調査を行った範囲は全て、人間どころか動物の一匹さえもいない廃墟と荒野ばかりで、そして夜中には例のモンスターが相変わらず群体で徘徊していることだけであった。


 日中はともかく、夜間に安全な場所は今でも大灯台の灯室しかないことから、一行は調査飛行を行っては灯台へ戻り、また調査へ出ては帰ってくる、という活動を何度も繰り返している状態である。


「しっかし、こうも進捗に変化が無いと流石に気が滅入ってくるなぁ」


 一行が昼休憩の為に地上へ降りてきては食事を取っている中、ハンターが如何にも味気ないものを食っている、といった顔で携帯食料――四角くて細長い栄養バーのようなもの――を咀嚼しながら、そんな事を呟いた。


 因みに一行は朝と昼の食事は節約の為、この旅人用の携帯食料のみで済ませるようにしていた。味と見た目の悪さはともかく、栄養摂取の面と携帯性、保存性には非常に優れた品で、数だけは沢山持ってきている。夕飯時だけは精神衛生的な観点からもう少し料理らしいものにしているが、現地での食料補充が今のところ全く叶わない環境の為、それが解決しない限りはこの土を食べてるようなものを主食にしていくしかなかった。


「ああ、加えてこの暗い景色や息苦しい環境が余計にそう感じさせるのだろうが……」


 ハンターの言葉にルヴィスもまた天を仰ぎながら、どこかうんざりしたような表情でそう零した。彼の見つめる先、エルジア大陸の空はいつまでも何処までも、隙間ない黒雲によって包まれており、昼間でもどんよりと薄暗い事この上ない。


「でも、コメットさんの話だと、もうイーストエルジアと呼ばれるエリアで目ぼしそうな所は、だいたい見て回ったんですよね?」


「ええ、あくまで私個人の感覚にはなりますが……。正直、これだけ手掛かり一つ見つからないとなると、いっそ、次のエリアへ探索域を広げた方がいいかもしれません。無論、そうなると必然的にあの灯台以外の拠点も確保せざるを得ませんが……」


 フランジェリカに話を振られ、コメットは食事後の口元を上品にハンカチで拭いながら返した。


「次の拠点……夜に出るあのモンスターらに近づかれない安全な場所となると、そう簡単には見つからないでしょうね。あと、現状で考えて、私達が持ち込んだ物資の量から、ここでの活動可能日数を割り出しておいた方が良さそうです。今後も食材の現地調達不可な状況が続くと予想される以上、物資が無くなってきてから対処を考えても遅いですし」


「なら、場合によってはレヴォン諸島側まで戻ることもあるって話?」


 考え込むように言ったサフィアへ隣にいた綾美が尋ね、それにまたサフィアが答える。


「補給が絶対に必要となれば、そうせざるを得ないでしょう。……ただ、島へ帰るにはその前に、あの広大な海底神殿もまた戻らなければいけません。それをそこの主たる、アルテラス神が良しとしてくれるかは不明ですけど」


「あー、どうだろうねぇ。あの自称神様ってなんかよく判んない考え方してるし、下手したら何度も往来するのは駄目とか言ってきかねないかも。そうでなくても、単純な道のり的に出戻りしてくんのすごい大変だろうし」


 更にジェドも話に加わっては、溜め息混じりに肩を竦める。


「それでも、もしそういう状況になっちまったってんなら、どうにかして行き来させてもらうしかねえだろ。まだいいじゃねえか、この世界では“水”だけは手に入るんだからよ」


「あのねー、ハンター君。その水もコメットがいるお陰で補給出来てんだからね? 普通の海水なら僕やフランでも真水化できるけど、この世界の海ってなんか変なもの混じってて普通には浄化できないし」


 ジェドの言ったように、この世界の海の水は、ただ真水を作り出す効果の魔法を通しただけでは、飲用可能にすることは出来なかった。


 というのも、一行は既にこの世界へ来た二日目の日中、フランジェリカの提案で錬金術による水質検査を行い、結果として彼らの元いた世界には存在しない、それでいて毒性の強い成分が含まれていることが判明したのである。そしてそれを浄化魔法(ピュリフィケーション)により無害化出来たのはコメットだけであり、もし彼がいなければ、一行は水の確保についても心配しなければならなかった。


「んなこた、わーってるよ。お前の言う、さすコメってヤツだろ? コメットにゃ、足向けて寝られねえわな」


「全くです。おそらく、理屈的にはハーメルーナ島の汚染された土壌をコメットさんだけが浄化できたのと同じだと思うんですけどね」


「まあ、私は錬金術方面(アルケミー)には大して詳しくないので、成分的な違いはよく判りませんけれど……もしかしたら、海水中の汚染物質に何かしらの類似点があったのかもしれませんわね」


 フランジェリカの分析に対し、コメットは何とも言えない表情をしながら、そのように答えた。


「……で、食い物の方に話を戻すけどよ。食料不足に陥ったから妖精道(フェアリーロード)で元の世界へ戻ったとしてだ。あの神様と何か揉めてここと島の往来を駄目だと言われてしまった場合、どうにかしてこの世界で食えるものを探さなきゃならなくなる。だが生憎、この世界には木の実どころか雑草の一本もありゃしない。となると、食えそうなもんって言ったら――」


「あのキモい魔物だけは絶対にNO! あんなの食べるくらいなら死ぬ! っていうか、食べた時点で確実に死ぬ!」


 すると、ジェドが大袈裟に両手でバツを作りながら大声で叫んだ。その反応に、綾美も気持ち悪そうに口元を手で押さえながら頷く。


「わ、私も想像したくはない……いくら調理したとしても、アレを食べろってのは流石に……」


「まず絶対に止(よ)すべきですね。アレ、毒抜きとか下処理してどうにかなるものには到底思えません。そもそも体内の溶解液が危険過ぎます。あと、内臓がすっごい臭いですし」


 綾美の意見に同意する形でフランジェリカも答える。彼女は初日の襲撃後に別の場所で見つけたモンスターの死骸を改めて調べたのであるが、少なくとも食用には全く適していなかった。何より、死骸から放つアンモニアじみた刺激臭のせいで誰も近寄りたくさえなかったのだが。


「んじゃあ、初日の夜に会ったあの黒鎧は何喰ってんだろうな? 一応はこの世界に生きてる連中なんだから、何かしらの栄養を摂取してる筈だろ? 夜中のモンスター共を獲ってんのか、それとも別の何かを食べてんのか……」


「うーん、もしあのモンスターを狩猟してるとなれば、あれ以降、彼らを一切見かけていないから不自然ではあるな。かといって、また会いに行って情報を聞き出すなんてことは出来ないからなあ……」


 ルヴィスの言うように、一行は夜間になると必ず現れる例のモンスター達とは真逆に、この世界へ来た初夜に件の城にて潜んでいた黒鎧の者たちを他の場所で見かけることは全く無かった。その為、彼らとのコミュニケーションを取る手段どころか、そもそも正体さえ判らずじまいのままであった。


「……本当に最悪な状況へ陥ってしまった場合、彼らを襲撃しなければいけないことも考えておかなければいけませんね。本当に最悪な時の場合、ではありますが」


「まあな。出来る限り、そうしたくはないものだけど」


 サフィアから静かに告げられた言葉に、ルヴィスもまた真剣な表情で返す。当然、今まで彼らはそのような真似をしたことはないが、もし万が一に極限状況下となってしまった場合、彼らはこの世界において冒険者から盗賊に身を堕とす判断をせざるを得なくなってしまうかもしれない。


「――さて、昼休憩はこのくらいにして、またもう少し飛び回ってみようか。願うことなら、目的のもの、拠点に使えそうな建物、食料になりそうな何か、どれでもいいから見つかってくれるといいんだけどな」


その事実を呑み込みつつ、ルヴィスは気持ちを切り替えて仲間達に声を掛けては、相変わらず暗いままな空の向こうを見据えた。


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