前兆在りて異世界の凶津神の話⑥
「えッ……!!?」
予期せぬ事態の発生に、思わず女騎兵の手が止まる。というのも、女騎兵の背後から何かが数発、ものすごい音と共に高速で飛んできては、その全てが眼前の黒い怪物へ命中したのだ。
しかも謎の飛翔体をその身に受けたマガツカミは各被弾箇所で爆発を生じさせた後、弾けた果実のように汚らしい肉片を周囲へ撒き散らし、明確に肉体を損壊させた。触手が千切れ、腕が捥げ、胴体が抉れ、体の三割ほどが一気に削れ落ちる。
「一体、何が――」
困惑しつつも、反射的に背後を振り返る女騎兵。すると彼女の視線の先には――なんと、ついさっきまで大怪我を負って倒れていた筈のカリストロスが、何故か五体満足な状態で立っていた。
今の彼はどういう訳か、肩から欠損していた右腕が元通りになっており、ついでに血塗れ且つ泥塗れだった軍服も新品の如く綺麗になっていた。それから更に、今まで老人のようだった白髪が、艶々と棚引いて流れる美しい黒髪となっていた。
「えっ!? か、カリスト……!?」
あまりに情報量の多すぎる訳の分からない光景に、女騎兵はつい理解が追いつかずに固まってしまう。
とはいえ、彼女は振り向いてすぐ、謎の復活を遂げたカリストロスと共に、見た事の無い物体が彼の傍に存在していることに気づいて、そちらへと視線を向けた。それは、おそらく金属製と思しき細長い円筒形をした筒状の何かで、その物体が複数、カリストロスのいる周りの空間に展開されるかのように浮いている。
当然、この異世界の住人たる女騎兵には知る由もない。その物体群は、カリストロスが自らの能力で呼び出したカールグスタフやパンツァーファウストといった、いわゆる無反動砲の数々であった。そして、それらから発射されたロケット弾の直撃を受けたマガツカミはその巨体に負傷を食らうこととなったのだが、
「h@g@'333333!!!! uyd@'b;f333!! up@、0;ktoq@t@xepedue!? msims@\4sdue!? up@d@'、up@d@'、up@d@'!!!?」
ここにきて、マガツカミは初めてダメージらしいダメージを受けたような反応を示しては、狼狽えて騒ぐような声で鳴き散らかした。
というのも、これまで腕を斬り落とされようと、頭を吹っ飛ばされようと、総身を纏めて消し去られようと、忽ちに完全元通りとなっていた体の欠損が全く治らないからである。
何で何で、と小さな子供が泣き喚くような声を上げるマガツカミに、復活したカリストロスは自信に満ちたしたり顔で声高に語り掛けた。
「ハッ、やっぱ効くよなあ! 単に魔法とかで治癒してんのならともかく、神秘なんてもんで自動再生してるヤツにはなあ!」
――そう。カリストロス最大の固有能力にしてG.S.A.たるイマジナリ・ガンスミス。その効果は神秘の否定。本来ならあり得ない非常識を逆に常識で貶める必殺必滅の猛毒。神秘の強さに胡坐をかきながら頼り切っているような相手に対しては、これ以上にない特攻性能を発揮するのである。
「元々ここで使うつもりはなかったが、こうなった以上は仕方がない。せめてお前を試金石くらいには利用してやるよ」
堂々と屹立しながらカリストロスはそう言うと、見せつけるように右腕を高く掲げては、久しぶりにパチンと指を鳴らして響かせた。
直後、彼の周囲には無反動砲に代わって、地面に三脚で設置された別の兵器が複数出現する。それはRBS-17という、地上型ヘルファイアミサイルの発射機であった。
「u、uyd@'c;f!? 2@gt!? c;sm、j-4t!? gxj、ui6d94sdw6.!?」
「俺の快気祝いだ。奢ってやるから遠慮せずに残さず食らえよ。呑み込めるもんならなあ!」
高らかに叫ぶと、カリストロスは右腕を大仰に一閃し、展開した発射機からヘルファイアミサイルを一斉射した。幾つもの対艦ミサイルが一気に集中して迫り、マガツカミに何もさせないままに全弾が直撃する。
「h@g@'333333333Z!!!!!!!!!!」
続けて、凄まじい爆発の連鎖に伴い、猛烈な爆炎に呑まれた邪神は特撮に出て来る怪獣の如く吹き飛び、これまでの不死性がまるで嘘のように、呆気なく倒されてしまった。
そして粉々に散らされては燃え尽きた後も、以前のように再生してくることはなく、周囲一帯を包んでいた悍ましい気配は完全に消え失せることとなった。
「――――――」
「……あー、えっと……カリスト?」
怪物の消滅を見届けて、十数秒の静寂の後、おそるおそる声を掛けてきた女騎兵にカリストロスが視線を向ける。
「何だ?」
「その……急に色んなことがあって、正直混乱してるのだけど……とりあえず、一体何があったの? というか、何をしたの? カリスト、腕が治ってたり、髪が黒くなったり……」
何処か言い辛そうに述べた後、女騎兵は困惑しながらも問いかける。
「それに今さっき、怪物を倒した技というか能力……あれって何なの?」
「…………」
じっと見つめながら訊いてきた女騎兵に、遂にこの時が来たか、とカリストロスは黙り込みながら、短く息をついた。
いずれ来ることがあるかもしれない、と思ってはいたが、まさかこれ程急なタイミングだとは彼も予想していなかった。さて、どう説明したものか。そもそも、説明の必要もあるのか。別に一時的とはいえ、本来の能力を取り戻した以上、今までのように取り繕う必要性は無い。
「あー……あれはだな……」
彼の決断は――
「実は俺、悪魔と人間の混血なんだ。さっきのはそれに由来する能力。そして、例のクリスタルの魔力を得ることで力を取り戻したという訳だ」
「ええっ、そうなの!? てことは、カリストは魔人――ああいや、混血だとベースは人間だから種族的に違うわよね……。てことは、今までは能力を失っていて、それをクリスタルのお陰で再び使えるようになったって事?」
「まあ、そうなるな。本当はもっと落ち着いた状況でクリスタルを使用するつもりだったんだが……」
などと、あくまでまたそれらしい嘘をしれっとついてその場しのぎをするという、謂わばこれまで通りの選択であった。何故、こんな日和るような真似をしてしまったのかは彼にも判らないが、そうしてしまったものは仕方がない。
「なるほど……それにしても、とんでもない力だったわね。魔人になった男魔剣士も相当だったけど、あんな不死の化け物を復活させずに倒してしまうだなんて……。前々から只者じゃないとは思っていたけれど、まさか悪魔の力を持ってたとは想像も出来なかったわ」
「何だ、悪魔の力を持っているようなヤツとは一緒にいたくなくなったか? 別に俺は構わないぞ。嫌なら勝手に離れればいい」
「ちょっ、何言ってるのよ! 私はカリストを恐れてたりとか不審に思ったりなんてしてないし、そもそも命を救われているのよ! 感謝はしても嫌ったりなんかしないわ、変なこと言わないで!」
すると、女騎兵にしては珍しく顔を顰めては、カリストロスに文句を言った。
「ああ、そう。――そういや、一応気づいたから言っておくが……あのメテオぶち込んで出来たクレーターんとこで、誰か見覚えのあるヤツが一人藻掻いてるぞ」
「えっ!?」
カリストロスに指を差されて言われたことで、女騎兵は慌てて振り返っては、魔力で強化した目でメテオスォームを放った場所を見る。
するとそこには、地面に倒れている男魔剣士の姿が確かに見えた。そんな彼は両肘と両膝の先が無い状態で転がってこそいたが、体からしゅうしゅうと蒸気のようなものを立ち昇らせては、復元呪詛により欠損部位を再生している最中のようだった。
「アイツも存外しぶといな。あの黒いのと一緒に全身吹き飛んだだろうに、粉々の肉片から元に戻るとかプラナリア以上かよ」
「こうしちゃいられないわ! 化け物もいなくなったことだし、私達も彼のところへ向かうわよ!」
女騎兵はそう言うと、再び銀の馬を呼び起こしては、飛び乗るように跨った。それからまた同じように、まだ気絶している女呪術師を自分の背中側に乗せて固定し、続けてカリストロスも逃げて来た時同様、荷物のように馬の尾で括りつけた。
「どわっ! またこの恰好かよ! まるで引き回しみたいにしやがって!」
「仕方ないじゃない、流石に三人乗りは出来ないんだから。それにけして地面に引き摺ったりはしてないでしょ?」
「だとしても、体勢が結構きついんだよ! 揺れるし、締まるし!」
「それは悪いけど、我慢して。ていうか、カリストは半分悪魔ならそのくらい大丈夫な筈よ。――さあ、行くわよ!」
「ああもう、どういう理屈――おわああッ!」
そして、またもカリストロスの抗議を流して女騎兵は馬を走らせると、男魔剣士のいる場所へ向かっていった。




