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剣と魔法の異世界に現代兵器を持ちこんでみた話 ~イマジナリ・ガンスミス~  作者: 矢野 キリナガ
第12章:エルジア大陸編
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前兆在りて異世界の凶津神の話①


 既に日が暮れてしまってから森を出たカリストロスたち四人がツァートルテへ辿り着いたのは、代わりに昇った月が地上を照らして久しい真夜中であった。


 もうとっくに殆どの住民が寝静まっている時間帯なのだから、昼間の喧騒とは真逆に街中が静寂に包まれているのは、至極当然の話である。


 ――とはいえ、今夜のそれはあまりに静かすぎた。静寂どころか、もはや無音であった。酔っ払いのいびきどころか、風の音一つ聴こえない。たとえ物音がしても吸い込まれてしまうような、そんな何処までも続く暗闇が街の全てを覆い尽くしてしまっている。そう思えるような、あまりに不気味すぎる静けさであった。


 言うなれば、この街には生気が無い。そして実際、この街からはあらゆる命が失われていた。つい数時間前までには確かにあったものだ。それが今は皆無となっていた。住民全員がとっくに二度と目覚めぬ眠りにつかされ、街そのものが一夜のうちに死してしまった――そんな光景と状況をツァートルテに戻って来た一行は、然程掛からずに知ることとなった。


「何よ、これ……本当に、何なの……?」


 街の入口前から一目覗いただけで、女騎兵はその異様な景色に圧倒された。


 まず街中の建物が怪獣でも暴れたのかというくらい、壮絶に破壊されていたのだが、それと同時に建物の残骸が酷く腐食しきって見るも無惨な有様となっていた。また、街全体の空気が強い瘴気で満たされており、とてもじゃないが中へ入ることははばかられた。


「覚悟はしていたが、まさかこれ程とは……。想像を絶するとは、まさしくこの事だな」


 男魔剣士も余程驚かされたのか、普段は気丈なその顔を引き攣らせて、眼前に映った惨状に眉を顰めている。


(こいつは……確かに、そんじょそこらの魔物や魔獣で起こせる規模の被害じゃないな。昔ならともかく、今の俺でこのレベルの汚染のろいを食らったら流石に拙いかもしれない)


 そしてカリストロスでさえ、他の者達とは異なる観点であるものの、街中に広がっている状況に目を眇めた。


 彼にとっては別に、この街や住民が無事であるかなどへの関心は消して無い。しかし、もしこの街を襲った存在が今の自分を妨げる大きな障害となるのならば、ケース次第で今後の活動方針を改めることも考えざるを得なくなる。


 それこそ、街の惨状を引き起こした脅威に関わろうとしている、今一緒の三人と別れて単独行動するという選択をだ。正直、超古代の武器と最上級の魔力資源を手に入れた現時点の彼にとって、必ずしもこの人間たちの行動に付き合い続ける必要性は無い。


「流石にこれだけの呪蝕と瘴気が蔓延した街中へ、おいそれと入る訳にはいきませんね。また眼杖ゲイザーロッドを使って、偵察をしてみます」


 一通りの観察を終えた上で女呪術師はそう言うと、アマデスの森の湖でした時と同じように、眼杖ゲイザーロッドの端末を飛ばしては街の中へと向かわせた。それからこれも前と同様、視覚共有魔法サイトシェアリングで仲間達にも端末からの映像を見せる。


「酷い……何処もかしこも、壊れた建物の瓦礫と住人の遺体だらけね……」


「直接的に攻撃されたというよりは、呪いや瘴気に悶え苦しんだ末に死亡した、といった感じが大半だな……。兵士や冒険者と思しき者は、その限りでないが……」


 空中を浮遊移動する眼杖ゲイザーロッドの端末越しの映像を目にし、女騎兵と男魔剣士がそれぞれ所感を語る。二人の言うように、街の至るところで住民の遺体が転がっているのが見受けられたが、そのうち一般市民にあたる者たちの殆どが、まるで毒ガスにでもいぶされたかのような死に様を晒していた。口からは血の混じった泡を吹き、苦しみ抜いた顔で白目を剥いている。


 それとは別に、兵士や冒険者といった者たちは体を真っ二つに引き裂かれたり、バラバラに千切られていたり、原型を留めぬ程に潰されていたりと、それはそれで惨たらしい状態となっていた。


 ――何にせよ、カリストロスたちが何度も泊まった宿屋も、市場も、酒場も、飲食店も、冒険者組合の施設も、何処もかしこも無事だった場所など一つもなかった。その全てが大勢の人々の死体と共にただれた情景を晒し、紛うことなき地獄として全員の目に映った。


「……見るからに、生存者は絶望的な感じね。それはそうと、ツァートルテをこんな風にした元凶は、まだ残っていたりするのかしら?」


「どうなろうな。しかし、推定される巨体から考えれば、まずもって身を隠せはしないだろうが――ん?」


 直後、眼杖ゲイザーロッドの端末のレンズは、ツァートルテの中でも特に大きい建物の一つである、伯爵邸の裏にて何かの影が動いたのを捉えた。


 それに気づいた女呪術師は、端末を速やかにその方向へと向かわせる。そうして屋敷の上空まで端末が飛んで行くと――


「「なッ……!?」」


 その屋敷の裏側では、見るからに化け物と形容するしかない、あまりに悍ましい巨体の存在が人間の死体を貪り食っている様子が映り込んだ。それを視認した女呪術師は直ちに視覚強化の魔法を用い、月明りのみで照らされている怪物がどういった形状をしているのか、子細に観察出来るようにする。


 端末から各人の視界へ送られる映像内の怪物――それは例えるならば、十数メートルもある巨大な猿に近しいシルエットをしていた。ただし、手足は異様に長く、全身が重油のように真っ黒な液体でまみれており、背中からは腸を引き出したような見た目をした無数の触手が伸びては、空中にて蠢いている。


 更に最も目立つ特徴として、怪物の顔面と思しき部位が真っ白な能面のようになっていた。ただし、双眸は丸く血走った眼球がギョロリと剥き出しになっており、口は耳元まで裂けてギザギザの歯を晒している。頭部からは髪のような黒く長い体毛を垂らしていることも相まって、ホラー映画にでも出てきそうな女怪を彷彿とさせる不気味さであった。


「何よ、あれ……! 何なの、あれ!?」


 端末越しに見た化け物の異様さに、女騎兵が思わず悲鳴じみた困惑の声を上げる。


 少なくとも、彼女の知識の中であんな姿の魔物など全く知りはしない。しかしそれでも、あの怪物が単に強くて大きいだけのモンスター等ではない、まず根本からして異常な只ならぬ脅威であることは感覚的に認識できた。故に体の芯から震え上がってしまいそうなくらい、恐ろしくて溜まらなかったのだ。


「俺もあのような化け物に心当たりは無い……が、確かに危険すぎる存在である事だけは即理解できた。呪いを際限なくばら撒き続ける災厄の怪物――いや、もはや意思を持って自ら動く呪詛の塊そのものに他ならない」


 そして男魔剣士もまた、信じられないものを見たとばかりの強張った表情で、目にした怪物に対する感想を口にした。


 そんな怪物の体表からは黒いもやのようにして大量の瘴気が常に湧き立っており、それが周囲の地形を悉く汚染しているのは一目で認識できた。アマデスの森から続いて、このツァートルテの街全体を腐食させるだけの大規模な呪詛を発する事は、流石に彼の持つ魔剣でも出来る所業ではない。とてもじゃないが、今この街に滞在している怪物というのは、あまりにも常軌を逸しているのである。


(うっわ……随分と気色悪い見た目してんな、あのクリーチャー。それと、思っていた以上にヤバそうな感じがあるぞ)


 それから、カリストロスでさえも視認した怪物に一定以上の脅威性を認めざるを得なかった。少なくとも、あれだけの呪詛と瘴気を周辺へ散布し続けている以上、今のカリストロスの状態ではけして接近を許してはならない。


(つーか、アレに似たようなデザインの化け物って、どっかで見た事ある気がするんだが……なんか超有名なアニメ映画辺りに出てきてなかったか?)


 とはいえ、他の仲間達と違ってカリストロスだけは震撼する程の驚異を抱くまではしていなかった。確かに近づけば危ないとはいっても、そもそもあんなものにわざわざ近づく必要は無い。今の自分には強力な遠距離射撃武器がある上、あれだけのデカい図体だ。離れた位置から狙い撃って、即効で仕留めてしまえばいいだけのこと。


 そうやって四人が観察を続けている中、当の怪物の方は手に握った人間の死体をフライドチキンでも食べるかのように齧っては、未だに食事を続けていた。しかも怪物は、背からイソギンチャクの如く伸ばした大量の触手にもそれぞれ屋敷の使用人や兵士らと思しき者達の死体を掴んでおり、食べては次を手に運んでまた口へ放り込み咀嚼する、といった動作を繰り返している。


 すると途端、唐突に怪物の体が僅かにだが、膨らむように大きくなった光景を四人は確かに目撃した。


「……ッ! ねえ、あの化け物、今ちょっと大きくならなかった!?」


「ああ、俺も見た。アイツ、どうやら人を喰ってデカくなる性質のようだな。体が大きくなるってことは、それに伴って呪いを拡散させる範囲も広げられるのかもしれん」


「もしかして、それこそがあの怪物の目的なのでしょうか? 瘴気を撒きながら人の集落地を襲い、成長を続けつつ、延々とこの大地を呪詛にて染め上げていく……」


(……まあ、確かにそんなものを放置してしまえば……)


 人類にとって取り返しのつかない脅威にもなるか、とカリストロスは内心で思った。あの化け物の放つ呪詛の強さは、まず常人が耐えられるものではないと、彼でさえもすぐ理解できる程のものだ。おそらく、この街の住民らはあの怪物を目視した時点で大多数が死してしまったのだろう。そんなものがどのくらいの規模まで増長出来るのか知れないが、仮に怪獣サイズにでもなろうものなら、この世界の連中ではまず太刀打ちできそうもない。


 ――といっても、カリストロスにとっては、自分の邪魔にさえならなければ、この世界の人類がどうなろうと知ったことではない。しかし、この化け物の復活がスレイアの思惑により生じた可能性がある以上、思考を放棄して無視することも出来はしなかった。


「とりあえず、あの黒い怪物へはどのように対処する? あれ以上、人の死体を食べられて成長されると対処がより難しくなるだろうが……」


「そうね……パッと思いつくのは、カリストの機弓クロスボウで先制攻撃をしてもらうことかしら。あの武器の威力と射程、そして何よりカリストの狙撃の腕なら充分有効だろうと思うし――」


 と、ここにきて男魔剣士と女騎兵は少し冷静さを取り戻すと、これからの行動について考えを言い合う。


 ところがその直後、映像内の怪物が急に首を振り上げたかと思うと、怪物を観察していた四人と思いきり目が合った。――つまりは、遠隔端末による観察を気づかれてしまった。


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