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剣と魔法の異世界に現代兵器を持ちこんでみた話 ~イマジナリ・ガンスミス~  作者: 矢野 キリナガ
第12章:エルジア大陸編
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吉報凶報は異世界で急に届く話④


 夕暮れ時を超えた日没前、赤く染まった洛陽が地平線の彼方へ消える寸前の時間帯に、カリストロスたち四人はアマデスの森の湖へと辿り着いた。


 前回はロードランボス討伐の為に訪れた、森の中に広がる大きな湖であったのだが、


「なッ……!?」


 現在、四人が湖畔から見る眺めは、以前来た時のそれとは全く変わってしまっていた。


 前の頃はせいぜい、湖の底にヘドロの如く溜まっていた黒い泥状の物体が、此度は湖面全体をコールタールのように隅々まで染め上げてしまっている。――というより、今は湖に水自体が殆ど無く、水を軒並み抜かれた跡地に残された黒泥がそのまま堆積しているといった感じだった。


 それから最も目を引くのが、シンクホールとでもいうべき、謎の巨大な陥没穴の存在である。元々は大量の水を湛えていた場所の地面に、現在は非常に大きく深い穴が空いてしまっており、その景色があまりに異様且つ不可思議でしかなかった。


「何だ、これは……! 明らかに異常だと一目で判る光景だぞ!」


「それに、あの不自然すぎる大穴……。一体、何が起きたっていうの!?」


 絶句した様子で、一頻り目の前の状態を視認した後、男魔剣士と女騎兵が口々に驚きを示す。


「それこそ、恐ろしい何かってのがあの中から出て来たんだろ。要は未来視の状況に間に合わなかった訳だ。……で、その出てきた奴は、あっちの方向へ進んでいったと」


 四人の中で最も冷静にカリストロスが言った後、ある方向を指差す、その先には、一箇所だけ森の木々が不自然に朽ちては、まるで掻き分けられたかのように崩れている様子が見えた。


「何あれ? あそこの所だけ、樹木が腐り落ちたようになっているけど……」


「しかも大きな何かが無理やり、突き進んでいったように見えるな……近づいて、調べてみるか」


「いいえ、近づくのは駄目です! あの辺り、非常に強い呪蝕と瘴気の反応が感じられます!」


 すると、女呪術師が慌てて仲間全員に制止の声を掛けた。


「呪蝕……!? てことはアレ、呪詛の影響でああなってるの!?」


「はい、ここからでも判るくらい、ものすごく汚染の濃度が酷いので、傍に寄りつくだけで体を害しますよ。……ここは、私の杖の出番ですね」


 そう言うと、女呪術師は手持ちの眼杖ゲイザーロッドから目玉型の端末を分離させて飛ばした。オリハルコン製の端末であれば、呪蝕の効果は一切受け付けない。それを森の木々が腐食してしまっている場所まで向かわせたところで、女呪術師は視覚共有魔法サイトシェアリングにより、遠隔で視ている景色を仲間たちにも一緒に見せた。


「……腐り落ちた森の木が崩されている箇所が、ずっと向こうまで真っ直ぐ伸びているわね。まるで、獣道って感じ」


「しかも腐食しているのは樹木だけでなく、地面だってそうです。おそらく、湖から出てきたと思しき何かというのは、周囲のもの全てを汚染させられるだけの強烈な呪いを発しているんでしょう」


「おまけにだ、足跡らしきものが残っているが……サイズから推定して、普通に竜種くらいはあるんじゃないのか? 木々が薙ぎ倒されている幅から考えても、ここを通っていったヤツってのは相当デカいぞ?」


 それぞれが続けて所感を述べた後、一旦、調査を終えて視覚共有を解き、女呪術師は眼杖ゲイザーロッドの端末を回収した。


「じゃあ、あの穴から出ていった何かっつーのは、ドラゴンだってのか?」


「うーん、ドラゴンくらい大きくはあるけど、ドラゴンそのものとは断定できないわね。そもそも、足跡の形が竜種の特徴と全然違うし」


「かといって、ベヒモスなんかの典型的な大型魔獣のそれとも異なる気がするな。あれは……なんというか、デカい人型をした何かが這って移動したもののように、俺は思える」


「デカい人型ぁ? なら、巨人か!?」


 思わず口に出して言った後、カリストロスはもう一度、湖のあった場所に空いている陥没穴へと目を向けた。


 確かにあの規模の空間ならば、まるで土葬された遺体のように巨人が中へ収まっていたとしても不思議ではない。むしろ、言われてみればどうにもしっくりするような気さえしてくる。


「別に巨人と決まった訳じゃないぞ。ただ、あくまで足跡の指の長さから、おそらく人型に近い体型の何かだろうと推測されるだけで――」


「あぐぅ……ッ!」


 その時、女呪術師が急に呻き声を上げて、崩れ落ちるようにその場へ膝をついては、如何にも辛い苦痛へ晒されたとばかりに左目を押さえだした。


「……ッ!? お、おい!」


「大丈夫!? まさか、また……」


 心配して傍に寄っては手を貸した仲間に女呪術師は息を荒くし、一気に白くなった顔を上げては、震える手で眼帯を外しに掛かる。


「ええ……またも、続けて反応が……。ッ……しかも、今度のはもっと……」


 そう言いながら、女呪術師は眼帯を取り去り、露出させた左眼の瞳を光らせては、再び目の前のものではない別の景色へと視線を向けた。


「あ――はあああああッ……!!」


 ところが数秒後、彼女は酷く怖いものを目にしてしまったように悲鳴を上げると、思わず手で目元を押さえながら蹲ってしまった。


「なッ!? しっかりしろ、おい!」


 そんな思いも寄らぬ反応に男魔剣士が慌てて肩に手を掛けるが、女呪術師は答えることも儘ならず、額に脂汗を浮かべては、怯えたように体を震わせるばかりである。


「一旦、この場を離れましょう! もしかしたら、視覚からここ一帯に滞留してる呪詛の影響を受けてしまったのかもしれない!」


 女騎兵の言葉に男魔剣士は頷くと、女呪術師を抱き抱える。そして、一行はとりあえず、黒く染まった湖が視界に映らないくらいの場所まで離れては、動けなくなってしまった女呪術師を介抱した。


「……すみません、急に取り乱してしまって……」


「いいのよ、気にしないで。……それで、少しは落ち着いた?」


 水と薬を飲ませてもらってから少し経った後、女呪術師はまだチアノーゼ気味に見える顔色ながらも、何とか頷いてみせる。


「はい、もう大丈夫です……」


「それで……何が視えた? 思い出させてしまうのは悪いが、お前があれ程の反応を見せたのならば、余程の内容だったと思うのだが」


 男魔剣士に訊かれると女呪術師は、今は再び眼帯をつけなおしている左眼にそっと指先をあて、静かに呟きだす。


「……率直に言うと、ツァートルテの街が大変なことになっていました。おそらく、あの湖から出てきた何かに襲われたのだと思います」


「「…………ッ!?」」


 女呪術師からの回答に、男魔剣士と女騎兵は同時に目を瞠り、それから何かへ気づいたように湖のある方向の背後へと振り返った。


「そういえば、あの獣道みたいなのって、方角だけでいえば完全にツァートルテの方へ伸びていたわね……!」


「まさか、湖から出現したものはツァートルテを目指して進んでいったというのか!? しかし、ここへ来る途中にそんなものを見かけたりはしなかったが……」


「私達は街道に沿ったルートで迂回して森に入ってるから、地形を無視した最短距離で進行してるものとは出くわさなかったんでしょう。つまりは、入れ違いになってしまった訳ね」


「……何でもいいけど、結局、あの湖から出てきたとかいう何かの正体は視れたのかよ? お前、さっきの口振りだと、まだ具体的には確認できてないんじゃないのか?」


 すると、割り込むようにそう言ってきたカリストロスの言葉に、女呪術師は申し訳なさそうにしながら頷く。


「ええ、残念ながら……。私が視ることが出来たのは、悉く破壊された街並みと思い出したくも無い死屍累々な惨状の景色が主でして……それを引き起こした元凶の姿については、どうしてもはっきりとは捉えられなかったのです」


「何だそりゃ。呪眼の未来視ってのも、肝心なところで役に立たないな」


「アンタなあ! ふざけた事抜かすのもいい加減にしろよ!」


 相変わらず無神経なカリストロスの物言いに、男魔剣士は癇に障ったとばかりに胸ぐらを掴みに掛かる。


「止めて下さい! ……確かに、湖より生じたものの正体については視ることが出来ませんでした。ですけど、最も“肝要な情報”は得ることが出来たと思います」


「――何?」


 真っ直ぐに見据えながらはっきり告げた女呪術師の言葉に、全員が揃って彼女の方を向く。


「湖からツァートルテへ向かい、これより街を襲う……もしくは、もう襲っているかもしれない何か。それはいざ対峙してしまうと、私達がこれまで戦ったどの敵よりも恐ろしい脅威となります。ですが、今ここでその何かを速やかに食い止めなければ、取り返しのつかないことになってしまう……それだけは非常に強く、運命として明確に感じ取ることが出来ました」


 鬼気迫る表情で語る女呪術師の様子に、誰も途中で割り込むようなことはしなかった。今の彼女の語りには、それだけの震撼させられるものを無意識に感じさせられたからである。


「つまり、今からツァートルテへ向かうとすれば、そこは私達にとっても紛れない死地となります。しかし、今行かなければ、それはそれで更に酷い事態が後に待っています。……それを踏まえた上で、この先どうするかを考えていただきたいのですが」


「……そう。だったら、是が非でも急いでツァートルテに戻るしかないわね」


 女呪術師の話を聞き、女騎兵は元よりその選択しかないとばかりに、一切の迷いなく即座にそう決断を口にした。それから、他の者はどうかと意見を仰ぐように仲間達の方を見る。


「まあ、コイツがそう言った以上はまず間違いなくそうなのだろう。被害の発生そのものはおそらく防げないだろうが、それでも今すぐ向かえば、多少は救えるものもあるかもしれない。……それにそのような災厄、我が身可愛さで無視を決め込むほど落ちぶれてもいない」


 それに対し、男魔剣士もまた同意を示すよう、言いながら女騎兵に頷きを返した。


「…………」


 そんな中、カリストロスはというと、特に何も喋ることはなく、ただじっと湖のある方向を見つめては、何やら考え込むように目を細めていた。


「おい、何をボーっとしている。……それとも、臆病風に吹かれて、自分は行かなくて済むような言い訳でも考えていたか?」


「はあ? 寝言は寝て言え。誰も行かないとは行ってないし、俺だけここに残ってもしょうがねえだろうが。――つーか、具体的な情報がとにかく足りてねえんだから、色々と考え事するのは当然だろ」


「まあ、それもそうよね。只でさえ、今回の状況はあまりに不穏だし。でも、今はとにかく時が惜しいわ。考察も大事だけど、まずは現地へ急行することを優先しましょう、カリスト」


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