吉報凶報は異世界で急に届く話③
「あ、お帰りなさい。どうしたの、何か慌ててるみたいだけど……?」
「ついさっき、ここへ帰って来る途中、冒険者組合の者に呼び止められてな。彼らにも連絡が届いたばかりの大変な情報を伝えられた。――俺達が数日前に行った、オルツ村が壊滅させられていたそうだ」
「「ええッ……!?」」
唐突に男魔剣士から伝えられた話に、女騎兵と女呪術師は思わず驚きの声を上げた。
「ど、どういう事!? 私達が村を離れた後、すぐにまた襲われたって事!?」
「それはよく分からんが、何分、村を訪れた行商隊からの通報らしい。彼らの話によれば、住人が皆殺しにされた村内で、銀色をした怪物が見かけられたのだとか」
「そんな……」
(あの村が壊滅した……てことは、あのガキ共も……)
男魔剣士からの説明を受けて、カリストロスだけが殆ど無表情ではあったものの、それでも頭の中ではふと、彼にクリスタルをくれた少年たちの顔が映った。彼としては別に何の思い入れもなければ、特に心が動かされもしなかったとはいえ、それでも思い浮かんだのは、今はもう亡いであろう、やんちゃな子供らの姿であった。
「…………」
「その行商隊の者達も多大な被害を受け、一部の人間のみが生き残ったそうだが――」
「……痛ッ!」
だがその時、女呪術師が左目を片手で押さえながら急にふらつきを見せた為、反射的にその場の全員が彼女へ注目した。
「ちょっ、大丈夫!?」
「お前、まさか……!」
「ええ、この感覚……どうやら、何か知らないといけない事があるみたい、ですね……」
そう言うと女呪術師は眼帯を外し、赤紫色に輝く左目の瞳を覗かせては、目の前ではない別の風景を見つめるように、虚空へ視線を向けた。
「――おい、何が視えた?」
そして十数秒の沈黙後、カリストロスが急かすように彼女へ声を掛ける。
「…………アマデスの森」
そんな彼に、眼帯を再び付け直しながら、女呪術師はぼそりと呟く。
「あそこにあった湖の光景が……ほんの数秒ほどですけど、視えました」
「湖? というと、あのロードランボスと戦ったところ?」
女騎兵からの確認に女呪術師は、はいと頷く。
「あと、湖の中から何か黒くて大きな……そして、とてつもなく恐ろしいものが出て来る様子が見えて……」
「とてつもなく恐ろしいもの?」
「そう、その詳細までははっきり視認できなかったんですけど……とにかく、身の毛もよだつような何かが、湖から地上へと上がってきていたんです」
「何それ……。確かに、あの森の湖周辺には変な黒いドロドロがあったりはしたけれど……」
女呪術師から告げられた、あまりに不穏でしかない情報に女騎兵は眉を顰める。
(アマデスの森の湖……壊滅したオルツ村……んん?)
しかしそこで、カリストロスは唐突に何かへ気づいたような表情を浮かべた。
「おい、ちょっと地図を出せ」
「――え? 急にどうしたの、カリスト?」
「いいから早く出せ。あと、ペンと定規も寄越せ」
「え、ええ……」
訳が分からないままながら、女騎兵は言われた通りに普段使っているオストマークの地図、それからペンと定規をテーブルの上へ用意する。
「アンタ、一体何を……」
訝しむ男魔剣士の声になど耳を貸さず、カリストロスは黙ったままペンと定規を手に取ると、机に広げられた地図に何やら線を引き始めた。
その地図には既にメタビーストから滅ぼされた村の場所へ印が書き込まれていたのであるが、その印同士を対角線になる形で均等に繋げていく。――すると、今回で六箇所となった廃村を繋げた線が全て交わる点、そこがちょうどアマデスの森の湖がある位置となっていた。
「「…………ッ!?」」
「銀色の怪物に襲われた村、全ての交差する中心点が、あの森の湖……!?」
思わず口に出していった女騎兵に、チラリとカリストロスが目線を向ける。
「前に超古代の遺跡の件もあったから、何となく思い浮かんだんだが……まさか、こうも綺麗に重なるとはな。っても、これが単なる偶然で、そもそも因果関係があるのかさえ分からないけどな」
「……いいや、俺にはどうも偶然に思えん。今回、俺が情報を持ってきたことが女呪術師の呪眼が発動したきっかけに感じられるからな。証拠能力の有無はともかく、何の関係性が無いとも思いにくい」
唸るように顔を顰めた男魔剣士の言に、女騎兵も眉を顰めては線の書き込まれた地図に指を差す。
「もしかしてコレ、各村の住人を生贄にする形で、何かを儀式的に呼び出したんじゃないの? 事前に大規模な術式と陣の敷設こそいるけど、立地としては十分成り立つわよ?」
「いえ、それならむしろ、既に封印されていた何かを解き放ったように思えます。でなければ、わざわざこの位置関係で行う必要性を想像しにくいですし……」
「――で、解き放ったって何を?」
カリストロスから割り込まれるよう投げられた問いに、女呪術師は困った顔で視線を落とした。
「すみません、視覚的なノイズが強くてそこまでは視れなかったんです。とてつもなく恐ろしい、というのは、あくまで感覚的なものでして……。肝心なところが判らず仕舞いで申し訳ないのですが……」
「…………」
(であれば、あの銀カマキリ共の一連の行動は、森の湖に封印されていた何かの復活というように考えられる。そして、それら全てにあの真っ黒な汚物が関わっているとなると……)
カリストロスがここしばらくの間、倒し続けてきた銀色の怪物の中身、それから凶暴化したランボスの群れがいた湖には、いずれも過去にスレイアの差し向けたものと同じような、黒い泥状の物体――物質化した呪いの塊が見られた。
もしや今回の件、場合によってはまともに携わらない方が良いのでは、といった考えが思わずカリストロスの頭の中を過ぎる。明確な理由こそないものの、そのくらいに嫌な予感をどうにも覚えてしまったからである。
「――行きましょう。アマデスの森へ、今すぐに」
ところが、彼の内心で秘めていた考えを吹き散らすように、女騎兵がはっきりと強い意志を持ってそう告げた。
「今からか? 現地へ到着する頃にはもう日が暮れてしまうだろうが」
「それでもよ。私も何だか、嫌な胸騒ぎがする。……それに彼女が視たのって、要はこれから起こるであろう未来の事態でしょ? なら、今からでも出向けば、何か手を打てるかもしれないわ」
やや否定的に意見したカリストロスであったが、女騎兵の表情は既に決意が固まっており、考え直すつもりなど微塵もないのは明らかである。
「俺も賛成だ。女呪術師が実際に視て、恐ろしいと感じた危険なものをむざむざ放置する気にはなれん。――アンタが怖くて街に残りたいというのであれば、止めはしないが?」
「何だと?」
「いいえ、今回はカリストも一緒に来て。カリストの力は私達にとって必要不可欠よ。パーティの仲間として、お願いするわ」
女騎兵に正面からじっと見つめられて言われ、カリストロスはやれやれと言った様子で、わざとらしく髪を掻きながら返事をした。
「仕方ないな……。お前ら揃って雑魚ばっかだし、俺がいないと何かあっても生き残れなさそうだからな。そこまで言うなら、一緒にいってやるよ」
「はあ? 調子に乗るのもいい加減にしろ。アンタなんか、別にいなくとも――」
「ふふ、いつもながらの発言、頼もしいわね。――それじゃあ、手早く準備を済ませてアマデスの森へ急ぎましょう。早ければ、今からでも日没までには到着できる筈よ」




