別の次元の異世界古代大陸の話⑦
「……ッ! あの黒騎士たちの全身鎧、魔法そのものに極めて強い耐性を持ってるようです! 魔法じゃ援護が出来ません!」
「ならば、コイツはどうだ!」
困惑しているフランジェリカの横から飛び出すように、ハンターが籠手からフックショットを射出する。その先端には蝕みの短剣がついており、高速で動き回っている黒鎧の一人へ狙い通りにヒットした。
だが、短剣の刃は鎧に突き刺さらず、火花を散らしただけで弾かれてしまった。もし生身に少しでも掠りさえすれば、毒の効果でスタンさせられたかもしれないが、刃自体が届かないのではどうしようもない。
(おいおい、アイツらの装備って、もしかしなくてもこっちのと同性能なんじゃねえのか……!? ――くそっ、短剣が効かねえとなると、もう短刀の方を使うしかなくなるが……!)
「どうする、ルヴィス! 殺ってもいいってんなら、短刀を使って加勢するが!?」
「いや、それは駄目だ! この者たちの正体が不明な以上、おいそれと手に掛ける訳にはいかない!」
ハンターへ叫びながら、ルヴィスは黒鎧の猛攻を必死に凌ぎつつ、何とか無力化できないものか、チャンスを探ろうと試み続ける。
(……正直、本当に本気で倒しに掛かれば、殺れない事はない。だが、加減した剣技だけでの無力化はかなり厳しい――いや、はっきり言って無理だ。どうしたものか……)
「兄さん、峰打ちによる封殺はあまりに困難です! せめて、手足を落とすくらいはしなければ――」
もう防戦状態の維持が厳しいと判断したサフィアが、敵との激しい剣戟を繰り広げつつ、兄へと声を上げる。
「――撤退だ! どうにかして彼らの動きを封じた後、この場所より撤退する!」
それに対し、ルヴィスもまた相手からの攻撃を受け止めながら、必死さ全開の勢いでそう叫んだ。
「撤退!? せっかく落ち着けそうなところ、見つけたってのに!?」
「でも、あの黒騎士たちが二人だけとは限らないですし、早めに逃げた方がいいと私も思いますよ!」
「とはいっても、アイツら、魔法全然効かないんだよ! どうやって動き止めるっての!?」
「動きを止める……ですか。でしたら、こちらが“早速”役に立つかもしれません」
すると、コメットが何やら閃いた顔をしては、その手に何かを取り出した。それは中に魔法や物品を入れられる、いつものクリスタルであった。
「おいおい、コメット。今、ジェドも喚いてたがアイツらに魔法は――」
「いいえ、これに入ってるのは魔法じゃあありませんわ。これがどんなものか、ハンターさんが一番身を持ってお分かりしていると思いますけど」
そこまで言うと、コメットはそのクリスタルをハンターへと放り投げた。
「投擲をお願いしますわ。ちょっと魔法で加工済みですので、破裂すると拡散する作りです。貴方が一番、上手く狙って当てられると思いますので」
「……ああ、なるほど。そういやなんか一人でゴソゴソしてた気はしてたが、あんなもん、いつの間に集めて持ってきたんだか」
その後、コメットの意図に気づいたのか、ハンターは少し悪い笑みを浮かべながら、投げられた魔法結晶をキャッチする。
「いいぜ、任せな。――二人とも、そいつらに足止め用のブツ当てっから、なるべく近くに寄せてくれ。そんで二人は巻き込まれないよう避けろよ」
「「――ッ!」」
戦闘継続中の兄妹二人にそう告げた後、ハンターは左手の籠手に魔力の弓を形成、そこに渡されたクリスタルを番えた。
その間にルヴィスとサフィアは彼の指示通り、黒鎧らがなるべく互いに寄るように誘導して位置を調整する。そしてちょうど良いタイミングになったのを見計らい、ハンターがクリスタルを射出。同時に兄妹二人は回避運動を取って飛び退き、黒鎧二人目掛けて飛んでいったクリスタルは目標の傍まで来たところで自動的に破裂した。
――直後、砕けたクリスタルからは白いネバネバした物体が広がるように飛び出し、黒鎧二人の全身を覆って拘束した。
「……ッ! これは……!」
「これって……あの怪物の出した粘性の糸……!?」
「はい、何か役に立つかもと思ってこっそり回収しておいたのですが、まさかこんな早く使うことになるとは思いませんでしたわ」
そう答えたコメットがハンターに手渡したクリスタル。その中に封入されていたのは、前の戦闘でハンターを身動き出来なくした謎の怪生物の糸であった。そして彼の目論見通り、未だ強い粘性のある糸は黒鎧二人の身動きもまた押さえつける効果を発揮するに至る。
「流石はコメットさん! 出会ったばかりの未知の魔物の素材をこんな風に利用するだなんて……!」
「さすコメ! ……って言いたいところだけど、もう補充できないクリスタルをこんなのに使っちゃうのは、正直勿体ない気がするなあ」
「そいつは俺ちゃんも思ったが、実際それで助かってんだから文句も言えねえだろ。つーか、さっさとずらかるぞ! アレだって、いつまで保たせられるかは判んねえからな!」
そう言った後、一行は急いで入って来た扉の抜け穴から王宮の外へと出た。
「ひとまず、抜け穴の方はクラフトウォールで簡易的に塞ぎます! 開けっ放しは流石にあんまりでしょうし!」
「頼む! 本当は修繕魔法で塞いで帰るべきだろうが、そんな暇も魔力も無いからな!」
「律儀だなあ、もう。終わったらさっさと機竜でまた飛び立つよ! あんまりモタモタしてたら、あのキモいモンスターが寄って来るかもしんないんだから!」




