罪を重ねし異世界で被る罰の話③
なんと、6であった。
「はああー……!」
サイコロの目を確認した後、女王は詰まらせていた器官が解放されたかのように涙目で大きく息を吐き、周りの貴族たちが部屋中へ響き渡るくらいの騒がしい歓声を上げる。
「おおおっ! 流石は女王陛下!」
「貴方様はまさしく、この国の希望そのものだ!」
「やはり、これからの時代は女性が王になるべきですな! 私は昔からそう思っていましたとも!」
貴族たちが口々に言いたい放題喋りまくる中、女王本人にそれらを気にする余裕はなく、只々手を振るわせては、祈った先である先代王こと愛する父親へと感謝の気持ちを捧げていた。
(ありがとうございます、お父様……! 私、この国の未来を勝ち取りましたよ……!)
「ほう、6が出ましたか。でしたら、この国の管理者は私という事になりますね。――でしたら次は、こちらのダイスも併せてもう一度振ってください」
すると、カリストロスは笑みをそのままに、手に持ったままだったもう一つの黒いサイコロの方を彼女が見つめている白いサイコロのすぐ傍へと放り投げてきた。
「――え?」
そのカリストロスのしてきた事に、女王は意味が分からないと固まった顔で彼の方を向く。
「え、じゃないです。私は初めに二つ、ダイスを見せましたよね? だったら、ダイスは二つ使うってことくらい察しがつきますよねぇ?」
「えと、いや――ダイスを二つって……。今度は一体、何を決めるって言うんですか?」
「それは勿論、これから“間引き”する人間の数です」
カリストロスの口にした唐突な内容に、今まで騒いでいた全員の声が止んでは一気に静かになった。
「今となってはこの国唯一の都市であるこの王都、各地から集まって来た難民のせいで完全に飽和状態でしょう? ですから、女王様がこれより示す運命に合わせて、その数だけ私の手で人口を減らして差し上げます」
本当に何てことはないように説明をするカリストロスに、女王は我慢ならないといった剣幕で食ってかかった。
「ちょっ、そんな……! 話が違うじゃないですか! 貴方が管理者になったら、これ以上は攻撃しないってさっき言ったばかりで――」
「攻撃ではありません。これはこの国の管理者として、国を運営する上での人口調整を行おうとしているのです。まあ、要するに単なる口減らしではありますけど、真っ当な業務には他なりませんよ」
「そんなの詭弁です! というか、ただの屁理屈です!」
女王の抗議に合わせて、周りの貴族たちからもカリストロスへと野次が飛ぶ。しかし、
「おや、この国の管理者である私に口答えですか? だったら、全員揃ってあの世に行きますか?」
「……っ」
カリストロスが笑顔はそのままにふと見せた冷たく鋭い視線に、あまりの恐怖から女王は言葉を発する事が出来なくなった。
「では、無駄話を続けたくはないのでささっと説明を。そこにある二つのダイス、白の方は出た目の数をそのまま、黒の方は出た目の数分だけ白の目の数にゼロを付け足します。例えば、白が2、黒が3なら、2にゼロが3つついて2000人となりますね。当然、その数だけ人間の間引きを行います」
「そ、それは……!」
あまりに横暴が過ぎると女王は思った。口にこそ出せなかったが数の算出の仕方があまりに酷すぎる。
女王本人は現在の王都にどれだけの民がいるのかを把握できてはいないが、それでも多くてせいぜい数十万人といったところだろう。もし仮に黒の目で5以上を出してしまえば、最悪皆殺しと変わらない結果になってしまう。
「さあ、さっさとダイスを振りなさい。この国が人の住む場所として生き残る為の貴い生贄の数を“女王たる貴方”が決めるのです。勿論、振らないのであれば皆殺しです。別に私はそれでも構いません。元より、領土運営には然したる興味も意欲もありませんし。――もっとも、出た目次第では振らないのと大して変わらない結果になるかもしれませんが」
「くっ……!」
またもや周りから貴族たちの身勝手な声援やら野次が飛び交う中、女王は体を恐れに震わせつつ、白と黒、二つのダイスをその手に取る。
(うう、お父様……何で、何で私がこんな辛いことしなくちゃいけないの……)
だが、自分の手で失われる自国民の命の数が決まってしまうというその責任に、女王は涙を目に溜めて俯いたまま、それ以上動くことが出来ないでいる。
「――ほら、早くしろ。それとも、全員抹殺でいいのか?」
すると、カリストロスから凄むように彼の素の口調で急かされ、女王はビクリと背筋を大きく振るわせた。
「ヒッ……ふ、振ります! 振ればいいんでしょう!?」
そうして遂に、もはややけっぱちな心理状態で女王は手の中にある二つのダイスを放った。
(お父様、もう一度私に力を……! どうか、犠牲になる方が少なくて済みますように……!)
再び強く祈るようにしてダイスが振られ、二つのダイスが転がってはやがて動きを止める。またもや全員の視線がダイスへと向けられる。
そして、上を向いていた面とは――白が6、黒が5の出目であった。
「……ッ!?」
「ふむ、これまた絶妙な数になりましたねぇ。今残っている国民が一人もいなくなるか、それとも少しは残るのか、実際に殺ってみなければ分かりません。――貴方、エンターテイナーの素質がありますよ」
如何にも愉悦を感じているといった表情をしたカリストロスからの声掛けに、女王は堪らずその場に蹲っては全身を振るわせていよいよ泣き出した。
これだけの数の国民の命が奪われては、たとえ生き残りが出たとしても確実に国家としては存続できない。つまり、このノーヴェラリア国はただいま、愚かな自分の手によって滅亡が決定してしまったのだと、女王は大きな自責の念に押し潰されそうになっていた。
「うああああ! ごめんなさい、ごめんなさい! 私はあああっ!」
「――さて。それでは国民の運命を賭けてただ一人頑張った貴方に、この私から一つプレゼントがあります」
直後、カリストロスは形だけの紳士ぶった所作で女王のすぐ傍まで近づいてきては、服のポケットから何かを取り出してみせた。それは、どうもネックレス――金の鎖帯に豪奢な赤い宝石がついている――と思しき、装飾品の類であった。
「……え?」
あまりに意味が判らず、女王は蹲っていた状態からカリストロスを見上げては、彼へきょとんとした視線を向ける。
そんな彼女へカリストロスは手にしたネックレスを首に掛けてあげた訳だが――その数秒後、ネックレスの宝石が強く輝いた途端、女王の姿が一瞬にして消え去ってしまった。それから、彼女に掛けたばかりのネックレスのみが残っては床へと落ちた。
「なッ……! 陛下!?」
「貴様! 女王陛下に何をした!?」
その唐突な事態に他の貴族らが慌ててカリストロスに喚き立てるが、カリストロスは一切気にすることなく、床に落ちたネックレスを拾い上げては、今度はそれを自分の首へと掛けた。
「何をしたって、見て判りませんか? 貴方がたの女王はたった今、このアクセサリーそのものになったのです。といっても、死んだ訳ではありません。普通に意識はありますし、視覚も聴覚も生きていますよ。ただし、自ら動いたり喋ったりなんかは出来ませんけどね」
と、貴族らの方を向いて言いながら、カリストロスは首元のネックレス、その赤い宝石へと指を差した。因みにその装飾品とは、魔王令嬢ロズェリエ手製の高度な魔道具の一つであった。
「さて、ではこれより早速、女王陛下の決めた人数分の間引きを開始いたします。ですが、私は彼女へはすぐに手を出しません。私が彼女を手に掛けるとすれば、それはこの国の人間を全員殺しても間引き分の数に至らなかった時だけ。国民全てが息絶えた景色の中、最期に彼女へ引導を渡します」
そう告げて、邪に口元を歪ませたカリストロスに貴族たちは揃って息を呑む。
「……つまり、間引きされる順番が女王陛下は一番最後に決まっているということか」
「その通り」
「か――カリストロス殿! いや、カリストロス様! 我々もどうか、その間引きの順番を後ろの方へ回してはいただけないでしょうか! 為政者たる貴族が残っていなければ、民だけでは生きていけませぬ故!」
などと、貴族の一人が身勝手に叫んだのを皮切りに、他の貴族らもまた縋るように同じ物言いをカリストロスへと嘆願しだす。
「いやいや、私にとって仮に生き残った連中がその後、どうなろうと知ったことではありませんので。――それに言った筈ですよ。魔王軍は人類側の身分や階級で対応の区別はしないと」
だが、カリストロスは厭らしい喋り方と共に彼らの頼みを突っぱねては、自らの周りに数人の兵士を出現させた。いきなり、何処からともなく現れた黒ずくめの物騒な人影に、貴族たちはその場から逃げようとするも、たった数秒の銃声が轟いた後、誰一人として動く者はいなくなる。
「――さあ、行きましょうか、女王陛下。貴方にはこの国の行く末を見届け、その目に焼き付ける義務があるでしょう?」
その後、血臭立ち込める謁見の間にて、カリストロスは首に掛けたネックレス、ちょうど胸元の位置にきた赤い宝石へ話しかけるようにそんな独り言を呟くと、猟犬兵らを引き連れてその場を後にした。
(うう、殺して……殺してよお……! こんな惨劇、見せつけないで……! ねえ、私を殺してよおお!)
アクセサリーに変えられ、物を言えなくなった女王の悲痛な嘆きが誰に聴こえることもなく、いつまでもずっと叫ばれ続けていった。
※補足情報
この当時の能力実験により、その頃のカリストロスの能力規格では艦船や原潜の類は運用出来ない事が判明している。
厳密には用途を極力限定化させつつ、魔力リソースの補助を大々的に行うことで、ハリボテじみたものを極短時間だけ召喚する事は可能。海上に浮かべるだけで移動はまず無理。
ただし、艦砲の斉射等を行った途端、艦そのものが消失して海にほぼ魔力切れのカリストロス本人が投げ出されてしまう結果になるので、実戦ではまず使えない。
実質、海上から一回限りの強力な長距離範囲攻撃をぶっぱするだけの代物で、実験的に試したバージニア級原子力潜水艦からのトマホーク十二連射は圧巻でこそあったものの、実際に使用するとなれば地上にBGM-109G(地上発射巡航ミサイル発射機)を並べてグリフォンを撃った方が遥かに負担が軽いとなったので、カリストロスはもう二度と原潜召喚はやらないという感想に至った。




