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罪を重ねし異世界で被る罰の話①


「――うーわ。私が言うのも何だけど、アイツってやること全部が陰湿というか、卑劣にも程があるでしょ。性格悪いにしたって、あまりに歪みすぎじゃない?」


「まあ、彼らしいといえば、まさしくその通りなのですけど……。でも、あの国の女王様を無駄に潰したのはいただけませんね。――はあ、これなら多少無理してでも攻め入って、先に唾つけとけばよかったです」




 これは六魔将の面々が魔王によって異世界に召喚され、新生魔王軍として侵攻を開始してからしばらく経った後。そして、まだレフィリアこと如月 綾美は転移してきていない頃の話である。


 あるところに、《ノーヴェラリア》という島国があった。そこはオストマーク国から西側に位置する、海の向こうのあまり大きくはない国だったのだが、そこは現在、魔王軍からの攻撃を受けている状況であった。


「――あの、女王陛下。これから、我が国はどのようにしていきましょうか……?」


 そのノーヴェラリア国首都の王城にて、会議室内のテーブルにずらりと並んだ貴族たちのうち、一人の中年男性がそう口にする。


「どのようにって……私の方が訊きたいくらいですよ」


 その問いに対し、一番奥の席についている、まだ二十代前半頃と思しき女性が溜息混じりに疲れきった表情で答えた。


 そんな女性は眼鏡をかけた、可愛らしい童顔ながらも見目麗しい人物で、普段は大人しめな性格であるのを無理に毅然とした様子で振舞っている、そんな気真面目で少し頼り気の無い印象が見るからに現れている雰囲気である。


「何を無責任なことを仰る。それを決めて国民を先導し、国全体を纏めるのが貴方様の役目でございましょう」


 すると、別の貴族男性が嫌な感じを隠しもせずそう宣ったのに対し、まだ若い女王は彼を静かに睨みつけた。


「よく言いますね。平時は私の言う事なんて素直に聞きたがらないくせに、こういった時ばかり私に面倒と責任を押し付けて……。それにもうこんな状況下で一体、何が出来ると言うんですか……」


 実は現状、ノーヴェラリア国には彼女らの今いる王都以外の都市や集落は存在していなかった。というか、全て滅ぼし尽くされていた。


 新生魔王軍の脅威が世界各地へ知れ渡りきってしまったくらいの頃、ある日を境に何の前触れも無く、突然空から正体不明の物体がノーヴェラリア国内の市街地へと落ちて来る――否、飛んでくるようになった。それは街中へいきなり落ちてきては地上への着弾と共に大爆発を起こし、建物を悉く破壊し、人々を無惨に焼き払った。


 神からの天罰とも想える、真昼間であろうと平気で降り注ぐ恐ろしい流星に、ノーヴェラリア国すべての民が等しく大きな不安と恐怖に駆られることとなった。その突如空から降って来る“何か”は、場所や時間、その他条件に一切の法則性なく、それでいて一回落ちてくれば狙った街を壊滅し尽くすまで幾つも幾つも飛んでくる。国内から一つ一つ、街が消えていく状況に恐れと絶望を抱かない者などいる筈がない。




 ――だが、それはけして神の罰などではなかった。その事態は六魔将の一人、鐵火のカリストロスが起こしたものであった。


 そして日夜、ノーヴェラリア国内の各都市を襲う謎の飛翔体、それは彼が国外から喜々として撃ち込んできている巡航ミサイル、トマホークのそれであった。なんと彼は、まだ他の六魔将らが手をつけていない地域にして単一の島国であるノーヴェラリア国を自分のG.S.A.たるイマジナリ・ガンスミスの能力実験場――即ち、ちょうど良い“的”として扱い、ただ狙い撃っては破壊する為だけの攻撃を仕掛けていたのである。


 加えて、ノーヴェラリア国の為政者らも、自国を襲う脅威が魔王軍からの攻撃によるものだということは当に把握しきっていた。


「降伏を何度申し出ても、全く聞く耳を持ってもらえず一方的に攻められ続け、この国の都市は私達の今いる王都を残すのみ。国の外へ民達を逃がそうにも、海には例の“化けトンボ”や“化けクジラ”が待ち構えている。他の国への助けも呼べない。……というか、他の国だってきっと自分達で手一杯で他所を助けに行く余裕なんかないでしょう。たとえ助けに来てくれたとしても、あの海の化け物達に一網打尽にされるだけです。せっかく建てた地下避難所さえ台無しにされたというのに、希望なんてもう……何処にも無いじゃないですか!」


 まるで今すぐにでも泣き出したいのを堪えるようにしながら、女王はそのように声を荒げる。


 因みに彼女の言った“化けトンボ”とは、カリストロスが固有能力イマジナリ・ガンスミスで呼び出した攻撃ヘリのアパッチことAH-64の事。また“化けクジラ”というのは、海上自衛隊で運用されているそうりゅう型潜水艦のことであった。


 そうりゅう型とされる艦級は全長84メートル、出力8000馬力の通常動力式攻撃潜水艦。兵装には魚雷発射管が6門、89式魚雷やハープーン対艦ミサイルを搭載している。


 カリストロスはこれらで沖の方から船舶や港を攻撃することにより、ノーヴェラリア国の民たちが島である国の外へ出ないよう、嫌がらせのような牽制を仕掛けていたのだ。更に言えば、海で使用する兵器の能力試験も同時に兼ねていた。


 また、ノーヴェラリア国の女王はカリストロスからの長距離ミサイル攻撃に対し、国内にある地下ダンジョンを改造して避難所――つまりは地下シェルターを急遽用意しては、国民をそちらへ逃がすことも行っていた。


 だが、それを知ったカリストロスはストライクイーグルの愛称で呼ばれる戦闘爆撃機、F-15Eに搭載した地底貫入爆弾バンカーバスター、GBU-28にて当の地下避難所を爆撃。粘土層の地面を30メートルも穿つことの出来るその威力を以て、いとも容易くシェルターを破壊し、女王らを恐怖のどん底に陥れたのである。


 このようにカリストロスからの執拗な襲撃いやがらせを受け続け、ノーヴェラリア国内には住処を失った難民が大量発生することとなり、そんな民を受け入れていった王都は現在、かなり過密な飽和状態となっていた。その状況が更に国民、さしてはそれを纏める為政者たちさえも多大な不安へと駆り立てており、このどうしようもない事態をどうしなければいけないのか惑っているのが、この国の悲惨な現状である。


「しかしですな……! それでも我々がこの国の未来と国民の命を投げ出す訳にはいかないでしょう!」


「ふん。これだから、軟弱な女など国王に据えるべきではなかったのだ。肝心な時に役に立たないばかりか、情けなく泣き言など言いおってからに――」


(何よ、私だってやれる事は出来る限りやってきたじゃないですか……! この馬鹿貴族オッサン共はもう何処にも逃げようがないから、こんな偉そうな事言ってるけど、本当は自分の命と財産が無事ならそれで良いだけのくせに……!)


 実は現女王である彼女、先代の王であった父の急死から立場を引き継いでから、まだ数年しか為政者を経験していない若輩であった。


 しかしそれでも強い責任感と愛国心の持ち主の為、若いながら国民の為に身を捧げてきた訳であるが――今となっては、彼女をよく思わない元老院の貴族らから八つ当たりや嫌味を受ける為のサンドバックにしかなっていない。


 そうして、会議は踊る、されど進まず、の言葉通りな話し合いが延々と続けられていた中、突然、只ならぬ雰囲気のノック音が部屋の扉から聞こえ、一人の使いの者が飛び込むように入室してきた。


「女王陛下に元老院の皆様、会議中に失礼いたします! たった今、魔王軍から王城へ使者が赴き、我が国の降伏を受け入れる旨の書状をこちらへ渡してきたのです!」


「えっ……!?」


「何っ!? それは本当か!」


 会議室内の全員が一斉に注目し、使いの者がその手に持った書状と思しきものを全員へ見せる。


(どうして、こんな王手チェック寸前の状態で今更……?)


 これまで散々、全面降伏したいと告げても無視され続けてきたというのに、意図が理解できぬといった顔をしながらも、女王は使いの者へ声を掛ける。


「その書状を見せて下さい」


「はっ」


 指示に従って使いの者は書状を渡し、受け取った女王はその中身へ静かに目を通す。そうして、しばらく誰しも無言の時間が過ぎたところで、


「……女王陛下。して、その書状には何と?」


 貴族の一人が痺れを切らしたように、静寂を打ち破って問いかけた。


「――はい。魔王軍はこちらの降伏を受け入れるには受け入れるそうですが……」


 書状から目を離した後、女王はなんとも釈然としていない表情で貴族らの方を向く。


「その前に、我が国をここまで徹底的に追い詰めた張本人たる首魁の人物が私達と直接、話をしたがっているようです」


「そ、それはなんと……!」


 女王の答えた内容に、貴族たちはこれまでの静けさから一転して、一気に騒ぎ出し始めた。


「危険です、陛下! よもや、そんな恐ろしき者を国の中枢たる王城へ招き入れるなど……。降伏の受諾を装って、我らを皆殺しにするつもりやもしれませぬ!」


「馬鹿か、お主は。皆殺しにするつもりなら、もうとっくにやっている筈だろう! 滅ぼされた他の都市と同じようにな!」


「何の企みか心変わりかは知れぬが、これはまたとないチャンスだ! 我々が生き延びる為の……むしろ、申し出を蹴って連中を怒らせれば、それこそどんな目に遭わされるか判ったものではない!」


「女王陛下。一体、どのようにされるおつもりですか?」


 その言葉が発せられた後、貴族ら全員の視線が女王一人へと集中する。


「…………」


(返事は今日中にとの事ですが、でしたら――)


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