浪漫求める異世界の狩人の昔話
――これは、物語本編から二十年くらい昔の話。
とある場所に一人の老人の男性と、同じく一人の孫の少年がいた。二人は自宅の敷地内にある木製のベンチに隣り合わせで座り、夕暮れを前に、彼らだけで何やら話をしていた。
「――なあ、爺ちゃん。何で爺ちゃんは超古代の遺跡なんて探してたんだ?」
「んー? あれ、その辺の話、した事なかったかのう?」
「ぜーんぜん。遺跡探しの冒険譚とかはいっぱい聞いてきたけど、そもそも何でやってたのかは一度も聞かされてねえよ?」
「あー、そうじゃったっけなあ。てっきり、儂ちゃんはとっくに話したつもりになっとったわ。――んじゃあ、聞きたいんなら、そこんとこの話もしておくかなぁ」
「うん、是非聞かせてよ」
「……儂ちゃんは昔、それこそ今のお前と変わらん歳の頃、ある行き倒れの旅人を助けたことがあったんじゃ。その旅人はなんと自分は旧文明人の末裔なのだと語ってな、証拠に色々と不思議な魔道具――超古代のアイテムを儂ちゃんに見せてくれたんじゃ」
「それって爺ちゃんが探し求めてた、遺物ってヤツ?」
「そうそう。空を歩ける靴とか幾らでも伸びる棒だとか、その旅人はとにかく色んな面白いものを持っておった。そして、儂ちゃんを命の恩人じゃと、助けてくれたお礼にと“コイツ”を譲ってくれたんじゃ」
「あっ、爺ちゃんがいつも使ってるルーペだな! えっと、見定めの透視鏡だっけ?」
「その通り。当の旅人はその後別れてから二度と会うことはなかったが、その出来事で儂ちゃんは超古代という浪漫の虜となった。その旅人に聞かされた話を誰にしても、子供騙しの与太話だと誰も相手にしてくれんかったがな。儂ちゃんの会った旅人は単に珍しい魔道具の蒐集家で、有史以前の旧文明なんて御伽噺に過ぎないと」
「ふうん……」
「それで儂ちゃんは、旧文明は本当にあったのだと見返してやりたくなった。旧文明の存在を証明できるもの――即ち、遺跡や遺物を探し求めるようになったんじゃ。尤も、実際に各地を渡り歩く旅をするようになったのは、もう少し成長してからじゃがの」
「へえ……じゃあ、今まででどのくらい遺跡探しをしてたことに何のさ?」
「うーん、そうさなぁ。彼此、もう50年くらいになるかのう……。じゃが、儂ちゃんが一生を費やしても結局、旧文明の存在証明をすることは叶わんかったわ。この前、ようやく探し当てた遺跡で手に入れた石板の欠片、そいつを持ち帰る前に失ってしまったんじゃからな……」
「爺ちゃん……」
「はあ……何でよりによって、一番大事な時に盗賊なんかに出くわしてしまったのか……。まあ、命までは取られなかっただけでも幸運だったんじゃろうが、それでもやるせないのう……」
「災難だったなあ……。でも俺、爺ちゃんが生きて帰ってこれただけですごく嬉しいよ」
「ありがとなあ。しかし、まだ他に何か残ってないかと再び遺跡に戻ってみたら、そこはいつの間にか地の底に崩落しておったし、オマケに儂ちゃんはその帰りに大怪我までしてしまった。お陰でこの通り、儂ちゃんはもう二度と旅なんか出来ない体たらくじゃ」
「っても、元からもう無理して長旅出来るような歳でもなかっただろ……」
「まあな。じゃが、儂ちゃんが一生を掛けた成果物は、石板の内容をその場で翻訳して書き殴ったメモだけになっちまったわい。何ともまあ、惨めで情けない有様じゃな」
「そんな事ねえよ。爺ちゃんはすごく頑張ったし、少なくとも俺は爺ちゃんが帰ってくる度にしてくれる土産話が大好きだったよ」
「そう言ってくれると嬉しいのう。でも、もう新しい話を聞かせてやることは出来ん。それにお前も、あまりこの話題を他の者達の前では口に出さん方がいいぞ? 儂ちゃんと同じように変人扱いされれば苦労するからな」
「別に大丈夫だよ、そんなの。――あのさ、爺ちゃん。一つ、頼み事があるんだけど」
「ん?」
「爺ちゃんのそのルーペ、俺に頂戴よ。そしたら爺ちゃんの夢、俺が引き継いでやるからさ」
「なっ……!?」
「本気だぜ、俺は。大きくなったら、俺も爺ちゃんみたいに世界のあちこちを旅してまわってみたいし」
「…………」
「…………」
「……全く、何を言い出すかと思えば。もしそうなら、コイツをお前に渡す訳にはいかんなあ」
「ちょっ、何でだよ!?」
「未来も才能もあるお前に、儂ちゃんみたいに人生を棒に振るような真似はさせられんじゃろうが」
「じゃあ、爺ちゃんは今まで自分のしてきた事が全部無駄だったって言うのか? たとえ成果を出せなかったとしても、楽しくはあったんだろ? 充実してたんだろ?」
「生意気に知ったような口を叩きおって。……そうさなあ、確かに楽しくはあったし、充実もしてたなあ。悔いは残れど、未練までは無いなあ……」
「だったら――」
「だとしても、今はお前にコイツはやれん。コイツは儂ちゃんにとって、これまでの冒険全ての思い出が詰まっておる」
「……そうかよ」
「じゃがまあ、儂ちゃんの気が変わったら……もしくは、この世から去った時は好きにするといい。どの道、そう長くもないだろうからなぁ」
「縁起でもない事言うんじゃねえよ。爺ちゃんらしくねえな」
「おっと、すまんすまん。つい話を暗い方へ持っていってしまったわ。――ところでお前、まだ彼女は出来んのか? しみったれた遺跡探しなんかより、女の子探しの方がずうっと有意義じゃぞ?」
「ばっ……何で急にそんな話になるんだよ! 女たらしの爺ちゃんじゃあるまいし……んなもん、すぐに作ってきてやらあ!」
「はっはっは、まあせいぜい頑張るがよいわ。コイツが欲しければ、まずはお前の実力と成長ぶりを儂ちゃんに認めさせることじゃな」
「ぐぬぬ……今に見てろよ! 俺はお宝も女も欲しいものは何でも手に入れる、一流の“ハンター”になることが夢なんだからな!」
「うーん、子供がするにしては問題発言のような気もするが、儂ちゃん好みの心意気ではあるなあ。……なあ、ハイネ。儂ちゃんにとって人生を掛けた一番の成果とは、こうしてお前に旅の土産話をするひと時だったのやもしれん。お前以外、誰も儂ちゃんの大好きな話に耳を傾けてはくれんかったからなあ。……ありがとよぅ」
「――全く。爺ちゃんが一生掛けて一つしか見つけられなかった遺物、俺ちゃんはもう幾つも見つけちまったぞ。っても、爺ちゃんは旧文明の存在証明がしたかったのに対して、俺ちゃんは遺物の蒐集が目的になってっから、動機の時点で全然違ってるけどなあ」
とある墓前にて、黒い外套を着た長身に灰色の髪の男が一人、曇天の中で呟く。
「久しぶりに里帰りしてみたけど、次の俺ちゃんの向かう地はアーガイアだ。また長いこと、戻ってくることはないだろう。もしくはもう、戻っては来ないかもしれねえなあ。――まあ、次も帰って来れた時は遺物と一緒に、旅の土産話でも聞かせてやるよ」




