大魔導師に異世界で問い質す話①
レフィリア一行が魔王と直接対面してから数日後のデモンニグル――直下のナローノベル山地下から覗いている超古代の巨大構造物、その名を遥かなる船箱庭園。
その外壁から内部へと向かって、あえて極力魔法を使用せず物理的に、時間を掛けてでも慎重かつ地道に奥へ開けられた侵入孔は、遂に目的地である中枢の最深部へと到達するに至った。
そこには勿論、構造物内を一度は探索済のゲドウィンが発見した、“世界を容易く支配できる程の力を秘めている”という動力源の遺物が存在したのだが、その実物もまた例に漏れず奇妙な外観をしていた。
強いて例えるならば、砂時計に近い形状をした円筒形の物体で、全高は約13メートル、円の直径6メートル程。見様によってはSF映画で宇宙戦艦なんかの機関部に搭載されていそうなリアクター的なものにも思える。
その異様且つ不可思議な超抜級の魔導器が中央に鎮座した施設内の大広間にて、ゲドウィンはその場所からデモンニグルへの遺物搬出及び運搬作業を行う為の準備を今しがた全て済ませたところであった。
「――いやあ、ようやくか。しかしこれからが本番だ」
これより運び出す超級遺物こと“星杯”を間近で見上げるように眺めながら、いよいよだと高まる気持ちをあえて抑え込むように、彼はこれまでの作業を思い返す。
まず外からここまでの搬出用通路を切り開くまでがとにかく手間で大変だった。
というのも、魔法を受け付けないオリハルコン製の外壁はともかく、中の構造材自体は魔法による破壊も分解も可能なので、外側を取り払ったら手っ取り早く穴を開けてしまおうと彼は考えていたのだが、案外そうもいかなかった。
実はこの巨大構造物、防衛機構は数万年の時を経てなお、今も問題なく生きていたので、下手に内部で魔法を用いた一定規模以上の破壊を行うと、その対象を異物として判断し次元圧縮を掛けた後、即座に強制転移排出してしまうのである。簡単にいうと、要らない紙をグシャグシャに丸めてゴミ箱にポイといった感じだ。
とはいってもゲドウィンならばその防衛機構そのものにハッキングして改竄すること自体は可能だったが、該当するプログラムに変更ないし消去が掛けられた場合、すぐに最上位の警戒プロテクトが起動して、最悪この遺跡そのものが自爆し兼ねなくなってしまうという事が、彼の魔導解析によって判明した。
故にわざわざ物理的に隔壁等の解体を行い、眼前の遺物を外に持ち出せるだけの大きさをした通路を作っていったのである。
しかも問題はそれだけではない。星杯はゲドウィンの力を以てしても、空間転移によって座標転送できない程の魔導器であった。つまりはこれもまた、物理的に運び出さなければならない。
なので現在、星杯には反重力で物体を浮かせてモノレールのように運ぶ魔導牽引装置が各部に取り付けられている。
そして一旦、運搬作業が始まればそこからは何があってもノンストップだ。理由として、星杯が機関部中枢より分離してしまうと、当たり前だが船箱庭園の動力源が無くなってしまう事になる。
一応、そうなってもしばらくは稼働できるように施設内には超々大容量の魔導バッテリーの類が幾つか設けられているのだが、それが完全に切れてしまうと構造物内の空間拡張装置もまた止まってしまい、結果として内側からペシャンコになってしまうのである。
「さて、それじゃあ早いところ始めてしまおうかな」
そう言って、ゲドウィンは手元に魔導通信機を取り出した。星杯の運搬ルートには一定間隔で中継装置を設けており、デモンニグル内にある自身の工房へと連絡を繋ぐ。
通話先には彼の部下がいて、遺跡内からデモンニグル内へ星杯を運ぶ牽引装置の起動及び操作を魔導コンソールにて行うのだ。
因みにゲドウィン本人はというと、もしもの事態の備えて牽引装置によって運ばれる星杯の傍で常に追随する形で、デモンニグルに到着するまで様子を見守る役目がある。
「もしもし。これより遺物の運搬作業に移るけれど、そちらの準備は整っているかな?」
「あー……、ゲドウィン様。準備そのものはこちらもしっかり完了しているのですが……」
「――んん?」
何とも歯切れの悪い通話越しの部下の声色に、ゲドウィンは思わず骸骨頭ゆえに無い眉を顰める。
「実は、つい先ほどメルティカ様がこちらにいらっしゃいまして、ゲドウィン様に即急で面会を求められているのです。今すぐ、それも直接会って話さなければいけない内容だと」
「ええ……、よりによってこのタイミングで? 何とかして待ってもらうことは出来ないのかい? 彼女も僕が今凄く大事な作業をしてるって事は知ってるんだろう?」
「はい、ですがいくらご説明差し上げてもとにかく至急、魔王城まで戻って来てほしいと。ゲドウィン様がそちらから動けないのでしたら、今から自分がそちらに飛んで向かうとも仰られていて――」
「はー……、ああもう、分かった。今からすぐ戻るから、メルティカさんには工房で待ってもらうように伝えておいて」
「承知しました、それでは失礼致します」
通話を終えた後、魔導通信機を仕舞ったゲドウィンは困ったように額を指先で掻いた。
「こんな時に何かなあ、まあメルティカさんの事だからそれ相応の内容ではあるんだろうけど……いや、まさかねえ……」
そんな独り言を呟きながらも、ゲドウィンは自分の不在時に星杯へ大事が無いよう、最大限の防護措置を厳重に施してから、船箱庭園の外へと出ていった。
◇
「――すみません、ゲドウィンさん。とても大事な作業の真っ最中だって事は解っているのですが、どうしても貴方と話をしなければならない事がありまして……」
ゲドウィンがデモンニグル内にある自身の工房へ戻って来ると、そこで待っていたメルティカが気づくと共にすぐ近づいては話しかけてきた。
因みにここで作業員として配置されていた筈である他の魔族たちは、六魔将だけの内密な話という事情で全員、一旦席を外してもらっている。
故にこの部屋には、彼女とゲドウィンの二人しかいなくなっていた。
「まあ、それを理解した上でわざわざ僕を呼んだ訳だから、余程重要な案件なんだろうね。それで、肝心の話って何かな? できれば手早く済ませたいところだけど」
「そうですね……、ゲドウィンさんの回答次第では早めに終わらせられるかもしれません」
「……?」
どこか含みのある言い方をしたメルティカにゲドウィンは内心首を傾げるが、構わずメルティカは本題の話へと移った。
「ゲドウィンさん、単刀直入に聞きますけど今、魔王様ってどちらにいますか?」
「え? そりゃあ、城の何処かにはいると思うよ? 今朝だって報告の為に僕も一度会ったし、多分私室か、もしくは庭園の方で密かな趣味の草いじりでも――」
「いえ、そっちじゃなくて“本物の”魔王様の方です」
メルティカに真正面から覗き込むように唐突な勢いで言われ、ゲドウィンは突拍子もない言葉の意味がすぐに呑み込めなかったのか一、二秒ほど黙ってしまう。
「――はい? ちょっと何を言ってるのか、よく判らないんだけど……」
「あー、あくまでしらばっくれるんですね。まあ、それはそれで構いませんが」
少し冷たい声色でそう答えた後、メルティカは更に話を続けた。




