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剣と魔法の異世界に現代兵器を持ちこんでみた話 ~イマジナリ・ガンスミス~  作者: 矢野 キリナガ
第9.5章/a:転移者露呈編
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これからの異世界生活に煩う話④

「……流石はエステラさん。俺たちが悩んでいる問題を的確についてきますね」


「まあ、むしろ私たちにとっては最も肝要なところですからね」


 実に答えにくそうに返したルヴィスに、エステラはわざとらしく肩を竦めてみせた。はっきりとしないルヴィスの回答をまるで、そんな事だろうと思った、とでも言いたげなように。


「ですが、ルヴィスさん達はもう明日には出立してしまうのでしょう? だったらもうある程度、どうするのかについては先延ばしせずに決めておくべきだと思いますけど?」


「それは御尤も……。仰る通り、その辺りをどうするべきか、自分たちも未だに決定しかねていたものですから……」


 観念したように言ったところで、ルヴィスは急に綾美の方を振り向いては彼女の事を見つめてきた。


「アヤミさん。唐突で悪いんだが、君は明日からどうしたい?」


「どうしたいって……、今の私がついていっても皆の足手纏いにしかならないと思いますけど……」


「いや、違うんだ。俺たちにとってどうだからとかじゃなくて、アヤミさん自身の事について聞いているんだ」


「私自身の……事?」


 いまいち理解の及んでいない顔をしている綾美に対し、ルヴィスは気遣いを心掛けた口調で話を続ける。


「アヤミさんもこれまでの話でおおよその想像はつくと思うけど、明日以降、俺たちはより危険な脅威と遭遇する可能性がずっと高くなる。それこそ、凶暴な魔物の群れに突然襲われるより遥かに恐ろしい目にだ」


「……っ!」


 その言葉を聞いて、綾美はルヴィスが何を言いたいのかを彼女なりに理解した。


 というのも、実はモースカヴァから移動したその日の夜、綾美たち一行はとある雪の無い森林地帯で野営をしたのだが、眠りについているところを野生の魔物から襲撃を受けたのだ。


 寝ていたとはいっても当然、交代で見張りは立てていた上に職業冒険者のプロが何人もいるので対応は迅速で、誰一人として怪我人も出なかった。襲って来たのも数十匹という結構大勢な群れとはいえ、特に珍しくも無い狼の魔物であった。


 しかしその直後、なんと唐突にギガントモンスターまでもが現れては一行に急襲を仕掛けて来たのだ。それはグラッディーバグスといって全長が7メートルを超える、身体中が毛むくじゃらで二足歩行の熊を彷彿とさせるような巨人型の怪物である。


 そのグラッディーバグスは逆三角形の胴長短足でずんぐりむっくりとした体型ながら動きは機敏で素早く、しかもテナガザルのように長い腕の先には鋭利で凶悪な爪が伸びている。


 そんなものを振り翳しながら飛び込んできたグラッディーバグスを綾美はかなり近くで思いきり直視してしまい――というか、真っ赤にギラついた不気味な双眸と目が合ってしまい――情けないことに、元救世者の剣士だったとは思えないような、みっともない悲鳴をあげてしまったのだ。


 綾美に向かって襲い掛かって来たグラッディーバグスは勿論のこと、彼女の護衛に張り付いていたサフィアが見事に迎撃して屠ったものの、それでも綾美はまたもや腰を抜かしては一人で立ち上がれなくなってしまった。


 それだけでなく、綾美は精神的な負荷からか不眠症に近い状態になってしまったので、ここ数日は賢者妹から就寝時に催眠魔法を掛けてもらっていた程である。


 故に綾美は身を以て思い知ることになったのだ。自分が如何に聖騎士レフィリアとしての“外殻アバター”に救われていたのかを。


 聖騎士レフィリアだった時はどれだけ悍ましい化け物を目にしても、せいぜい物凄くリアルなグラフィックをしたゲーム内のクリーチャーを見た程度の感覚でしかなかった。無意識ではあったが、今思い返してみると、画面を通して仮想現実を見ているように認識が麻痺していた。


 だが、如月 綾美に戻ってしまった途端、その精神的な超人視点フィルターは完全に取り払われてしまい、ちょっとした魔物を目撃してしまっただけでも言い様の無い恐怖に駆られてしまう羽目となる。


 当たり前だ。普通に生活している現代日本人がすぐ目の前にいきなり猛獣が現れたとして、正気でいられる筈などないのだから。


「…………」


「つまり兄さんはですね、今のレフィリアさんが無理して怖い思いをする必要はないんじゃないかって言ってるんですよ」


 思いつめた顔をしている綾美のすぐ横からサフィアが寄り添っては、優しい声色でそう述べる。


 それ自体は綾美も解っているつもりなのだが、結局はパーティのお荷物になってしまう事に変わりなので、どうとも納得のいく返事など出来なかった。


「そんなところだ。何なら、君に聖騎士レフィリアとしての力が取り戻せるような目処が立つまでの間、この王都に隠れ住んでいてもらったって構わない。少なくとも、そちらの方がずっと安全ではある」


「もしレフィリアさんがそうされる場合、私たちの実家の屋敷で匿いますので衣食住については安心してくださいね。使用人もいますし、普通に生活をおくる上で困る事はない筈ですよ」


「二人とも……」


 二人からの提案は非常に助かるし実際にこの上なく有難いのだが、それとは別に、綾美としては遠回しながら本格的な戦力外通告をされてしまったみたいで、正直に言うと寂しい気持ちもあった。


 だが、それも仕方のないことだ。今の自分が彼らに無理してついていったところで、役に立てないどころか邪魔になってしまうのは綾美自身がよく判っているのだから。


「しかし逆に、アヤミさんがリスクを承知の上で俺たちに同行したいと言うんだったら……俺は全力でアヤミさんを守る」


「えっ……?」


 ところが、そんな役立たずでしかない自分がついてくる場合の話もし始めたルヴィスに、綾美は思わず戸惑いながら彼を見つめた。


「そもそも戦えないとか役に立たないとか、そんな些末事で君を責めたり置いていく気は全く無いんだ。俺はとにかくアヤミさんの気持ちを尊重したいし、他の誰が何と言おうと、君の存在を否定せずにい続けたいというか……」


 少しだけ顔を赤くしながら照れ隠しをするように目を逸らして、片手で髪を掻きながらルヴィスは言い淀んだ話の続きを口にする。


「……すまない。どうにも上手く話を纏められないんだが、とにかく俺はアヤミさん自身がどうしたいのかを第一にして、今後の事を考えたい」


「あーあー、何この兄さんは周りを差し置いて自分だけ点数稼ぎしようとしちゃってんのかなあー」


 すると後ろの方からハンターがわざと茶化すかのような口調で声を上げては割り込んできた。


「俺ちゃんだって姉さんがついてくるってんなら、それこそ本職のナイトばりに守り抜いてみせるに決まってんだろ。つーか、そもそもが傭兵だしな。警護に関しては俺ちゃんのが頼りになると思うぜ?」


「やれやれ、野郎ども二人がいつにも増して張り切っちゃってまあ」


 更に茶化すように、今度はジェドが肩を竦めながらも話に加わってくる。


「まっ、かくいう僕だってレフィリアと一緒なのは全然問題ないけどねー」


「わ、私だって! むしろ私としては、もっともっと頼ってもらえれば個人的には嬉しいかなって……」


 賢者妹も続いて意思表明し、サフィアに至ってはもはや言葉にする必要も無いとばかりに、ニコリとただ綾美に向かって微笑んでみせた。


「聞いての通り、勿論私もですけど、レフィリアさんが何をするにしても非難する者など一人としておりませんわ」


 最後に、見計らったかのような流れでコメットが話を纏めていく。


「それにですね、レフィリアさんが王都に残る事と私たちに同行する事、それぞれに違ったメリットがあります。前者は当然、旅に出るより安全なのは言うまでもありません。そして後者の場合、メレシュタリカから連絡が来る等といった状況の変化へ即座に対応することが出来ます」


「コメットさん……」


「ですので、レフィリアさんはご自身の好きなように今後の選択をしていいのですわ」


 仲間達からここまで全肯定的な事を言われてしまっては、綾美としては気持ちは有難いながらも逆に内心では困ることになった。


 邪魔なのであればむしろはっきり拒絶してほしかったのだが、仲間達はその誰もがそんな事はけしてないと述べている。だが、仲間達からの心遣いを受ける程、そんな彼らへ迷惑をかけて余計失望されたくないという思いも強くなってしまうのである。


「あー、ちょっと待った。色々盛り上がってるところ悪いけど、少しいいかな?」


 そんなこんなで綾美が考えあぐねては言葉を詰まらせていた最中、急にソノレが一転して真面目な顔になっては手を上げた。


「どうしました、ソノレさん?」


「そういえばサフィア君ってレフィリアさんを何処からでも瞬時に召喚できる術を使えたよね? だったらわざわざ彼女を危険な旅に連れ回さなくても、呪いを解く手段が見つかった段階で呼び出せば一番無難なんじゃないかな?」


 ソノレの発言は至極尤もであった。しかしその発言の後、何故かラスター族の二人以外の一同は揃って微妙そうな表情をしたまま黙りこくってしまった。


「あれ? 私って何か変なことを言ったりしたかな? 今のはけして戯けた放言なんかじゃなかったと思うんだけど」


「……ソノレさん。すみませんけどそれ、実はもう試してみたんですよ」


 するとサフィアがやや言い辛そうにしながら嘆息して、そう答えた。


「私たちも思いついて早々にサモンアライズが現状でも可能か、やってみたんです。しかし結果として、何度試みても今のレフィリアさんを呼びよせることは出来ませんでした。存在そのものは今まで通りに感知することは出来るのですが……」


「なんと、既に実験済みだったのか……! だったら確かに、レフィリアさんに王都へ残るか否かを決めてもらうしかないねえ……」


 額を片手で押さえながら、参ったという風にソノレは首を横へ振る。


「私個人としては、無理せず街にいた方が堅実だと思うけどね。無論、その場合は私だってレフィリアさんの安否ついては気に掛けるさ」


「そんな事言って、アンタはただ仕事をサボる口実を作りたいだけなんじゃあないの? レフィリアさんの様子が気になるから見に行ってくるとかいってさー」


「失礼な、横暴で人使いの荒い君なんかと違って、こんな可愛らしい知的女子をこの私が放っておくとでも思ってるのかい!?」


 またもや言い合いを始めた二人に綾美が申し訳程度の苦笑いをしていると、再びルヴィスが彼女を見つめては声を掛けてくる。


「まあそういう訳で、今の時点でアヤミさん自身がどうしたいのか、その考えを正直に聞かせてほしい。けして丸投げにするつもりで言ってるんじゃないんだが、俺たちとしてはとにかく君の選択を重視したいんだ」


「私が、どうしたいか……」


 そう呟いてから数秒ほど黙った後、再び綾美は仲間達の方を見回して口を開く。


「……みんな、ありがとう。私の事を気遣って色んな言葉を掛けてくれて……」


 これまで聞いた話を纏めてとにかく色々と考えた彼女は、やや瞳を泳がせながらも必死に声を出して回答を述べていく。


「でも今の私がみんなについていけば、いずれ絶対に大きな迷惑を掛けると思う。私のせいでみんなに負担が掛かるのは私自身が耐えられないから……本当に申し訳ないのだけど、私は王都ここに残ることにします」


 綾美の出した決断は、仲間達から離脱して街に隠れ潜む方の選択であった。


 出来ることなら仲間達と離れ離れになりたくないのが本音ではあるものの、その為に彼らを余計危険な目に合わせる事など容認できる筈がない。


 そしてその答えを聞いたルヴィスは安堵も落胆も全く見せない、あえて感情の分からない無表情な顔つきでまた綾美に問いかけた。


「アヤミさん、本当にその選択でいいんだな?」


「……はい」


 それを聞き届け、ルヴィスはただ静かに目を閉じては頷いて応えた。


「了解した。君が王都に残る事を選んだのであれば、せめて安心安全に暮らせるよう、出来る限りの手配を済ませておこう」


「というより、もうある程度は既に準備済みです。今夜からでもレフィリアさんはうちの屋敷で気兼ねなく過ごしてもらって構いませんからね」


「……ありがとう、ございます」


 なんとも複雑そうな顔で答えた綾美に対し、兄妹二人は、いいんだよ、とばかりに優し気な表情を向けては優しく彼女の肩へと手を置いた。


 その対応に綾美は余計に心が重くなるのを感じたが、一度決めてしまった以上は納得するしかない。こうするべきだったのだ、こうするしかなかったのだと――。

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