これからの異世界生活に煩う話③
綾美やルヴィス達がエーデルランドに戻って来た、その日の夜。一行は揃って、王都内に設けられているエステラの個人工房兼住居へと集まっていた。
勿論、エステラに加えて相棒のように同席しているソノレの二人には、元帥への説明時と違ってレフィリアの現状や魔王軍が手に入れようとしている神の遺骸の内容を含め、全ての情報共有を包み隠さず済ませてしまっている。
「うーん、これはまた何ていうか、いつにも増して面倒な事態になってしまったねえ」
一同で共に少し遅めの夕飯を取った後、座椅子の笠木にダラリともたれ掛かった状態でソノレがそう口にする。事態の深刻性を理解していながら、あえてそれをはぐらかすように呑気な口調で。
「はい……、まさかよりによって私の――いえ、聖騎士レフィリアの偽物が現れて、あまつさえ人を大勢殺し回っているだなんて……」
その言葉に対し、綾美は落ち込んだように目線を落としては暗い顔をしながら受け答えた。
彼女だけでなく、今この部屋に集っている全員が隣国にレフィリアの偽物が現れた事件と、その調査をルヴィス達が元帥より命じられたことを既に知り得ている。
「全く、ただでさえ不届き千万だってのに、タイミングも最悪で困ったものですよ」
聖騎士でなくなってからずっと元気のない綾美の代わりに怒るかのように、すぐ傍で賢者妹がため息交じりに悪態をついた。
「それで、その傍迷惑な偽物の聖騎士が何なのかを調べる為に戻って来て早々、今度はイスカンドロスへ行かなきゃいけなくなったんですねえ」
同情するような顔をしながら言ったエステラの言葉に、ルヴィスも頷きを返す。
「ええ、元帥の計らいでレフィリアの件を大目に見てもらった手前、モタモタもしていられませんからね。早急に準備を整え、明日の昼前にでも出発する予定で考えています」
「まあ、レフィリアさんの今の異状を解決する手立てが判明していない以上、そっちの案件に着手せざるを得ないですよね。こればかりは噂に聞く、女神ミシュタリアからの情報を待つ他ないでしょうし……」
「んー、それにしても……」
すると綾美は、さっきから頻りにジロジロと見つめ続けてくるソノレの視線に、戸惑った表情で応じた。
「えっと……、何でしょうか?」
「いや、レフィリアさんの素顔――というか、中身ってこんな人だったんだなあって思ってね」
軽口なのか真面目なのか、いまいち判断のつかない口調で答えるソノレの様子に、綾美は余計困惑しては思わず目を逸らしてしまう。
「……すみません。なんかガッカリさせちゃいますよね。というか、引いちゃいますよね。曲がりなりにも救世者扱いされてきた異世界からの使徒の正体がこんな――」
「あー、勘違いしないで。別にそういったマイナスな意味で君を眺めていた訳じゃないんだ」
「えっ……?」
わざとらしく取り繕うような笑みを見せながら手のひらをヒラヒラと振るソノレを見て、ふと綾美はきょとんとした顔になる。
「何ていうか、こう……ギャップというか、今の君もこっちじゃあ中々見ない、ミステリアスでエキゾチックな魅力があると思ってねえ……。特にその眼鏡が似合った知的な顔立ちが実にチャーミングだ」
(えっと……もしかして私、口説かれてたりする? ……いや、これも多分ソノレさんなりの気遣いなんだろうな。そもそも知的さとかなら、エステラさんの方が遥かに上だと思うし……)
「何より素敵な女性の隠された一面を覗いてしまったようで、私もつい久方ぶりに気分が高揚してしまった。要は、見惚れしまっていたというヤツさ」
「は、はあ……」
ニコニコと爽やかなくらいに笑い掛けながら軟派な台詞を堂々と吐くソノレに、綾美は返答に困り過ぎて曖昧な返事しか出せなかった。とはいっても、けして悪い気はしなかったのだが――
「はいはい、今のレフィリアさんを無闇に混乱させるような放言は慎みなさいねー」
直後、エステラが澄まし顔で横からヌッと現れたかと思うと、賺さずソノレの長い金髪を思いきり掴んでは、そのまま容赦なく引っ張り上げた。
「アイダダダッ! 何をするんだ! こっちは心に浮かんだ素直な感想を口にしただけだってのに、酷いッ!」
「ところでエステラさん、造船所で調整されているスカイヴラズニル号の方はどんな感じですか?」
そんな二人のやり取りを何事も無かったかのようにスルーしては平然と問うサフィアへ、エステラもまた表情は普通のまま横目で質問に答える。
「ん? ああ、スカイヴラズニル号の作業進捗自体は特に問題なく順調というか、もう殆ど大詰めですね。継続的に細かい調整はあるにしても元帥閣下が仰った通り、今は作戦に連れていく人員を選抜して纏める方が手間取ってるんじゃないかなと?」
「ううむ、やはりイスカンドロス国から向けられた圧力が、少なからず国連軍の確保に影響を及ぼしているのか……。これは一層、我が国の潔白を証明しなくてはいけないな……」
「んじゃあ今度は、私からも質問いいですか?」
難しそうな顔で唸っていたルヴィスにふと、一頻り引っ張ったソノレの髪から手を離したエステラが、人差し指を立てつつ問いかけてきた。
「イスカンドロス国へ行くのはもう決定事項として、そこにはここにいるパーティ全員で向かうんですか?」
「あー……、実のところ、初めのうちはパーティを半分に分けるつもりでいたんですよ」
どこか言い辛そうにしながら、片手で髪を掻きつつルヴィスは話し出す。
「今のところ、女神ミシュタリアからの連絡は全く来ていません。となれば、こちらから交信できる可能性のあるアクアポリスの地下神殿へ並行して、綾美さんと護衛に三人ほど、そっちの方へ向かってもらおうとも考えていました」
そう語ったルヴィスは言いながら綾美とコメット、そしてサフィアや賢者妹の方へ一瞥するように視線を向けた。おそらくはその四人がメンバーだったのだろうとエステラはすぐに把握する。
「ですが……、イスカンドロス国に出没したという偽聖騎士とやらがレフィリアと同等の能力を有していると確認されている以上、普段の半数の人員で向かったところでどうしようもない。――いや、たとえ全員でも正面から遭遇すれば極めて危険なことに変わりはないんですが……」
「つまり、中途半端にパーティを分けるくらいならいっそ全員でイスカンドロスへ向かう事にした訳ですね?」
「その通りです」
「なるほど、それはよく分かりました。では、次のクエスチョン」
続いてエステラはもう一本指を立てると、まるで覗き込むようにルヴィスの目をマジマジと真っ直ぐ見つめてきた。
「率直に聞きますけど、その調査部隊にレフィリアさんは含めれていますか?」




