これからの異世界生活に煩う話②
「……どういう事です?」
何か只事ではない事情を秘めていそうな浮かない表情をしながら呟いた元帥の言葉に、兄妹の二人は怪訝そうに問いかける。
「実は貴方がたが旅立たれてから二日後の夕暮れ時に、隣国イスカンドロスから我が王国へ抗議文書が届いたのですよ」
「抗議文書……? この時世にそんなものを送り付けて来るとは、穏やかではありませんね……」
「ええ、そしてその内容は――魔王軍に寝返った聖騎士レフィリアが、イスカンドロスの首都であるアレグザンドリアを突如襲撃し、人民の大量殺戮を行ったというものでした」
「「なッ……!?」」
元帥から告げられた、予想だにもしていなかった内容にルヴィスとサフィアは声を揃えて驚き目を瞠る。
「何ですか、それは……!?」
「レフィリアが、街を襲撃……!?」
「我々としてもあまりに信じ難い話ですが、レフィリア殿を全面支援している我が国にも嫌疑の目が向けられたとあっては、対応次第で後の外交問題にも発展しかねません。故に事の真偽を確かめる為、我が国からもイスカンドロスへ調査団を派遣したのですが……」
「……どうだったんですか?」
サフィアの質問に対し、元帥は少し口ごもったように黙った後、ため息をついては続きを口にする。
「帰って来た調査団の報告によると、アレグザンドリアのすぐ隣にある街、バジレストでも襲撃が起こったようなのですが……そこで殺戮に及んでいた人物は、間違いなくレフィリア殿だったらしいのですよ」
「「……ッ!?」」
「遭遇した調査団もまた幾らか被害を受けたのですが幸いにも全滅は免れ、生き残った者が今の情報をつい先日、我が国へと持ち帰って来てくれました。彼らの話によれば顔も声も、そして凄まじい身体能力や戦闘技能も、その全てが紛れも無く聖騎士であったと……」
「馬鹿な、そんな筈はありません!」
「そうです! だってレフィリアさんはずっと、私たちと一緒に行動を共にしていたのですから……!」
「ええ、私個人としては貴方たちを信用も信頼もしていますし、きっとそれは陛下も同じことでしょう。ですが問題は、私たちが納得するだけでは収まりがつかない事なのです」
ルヴィスとサフィアが必死に元帥の語った内容の否定とレフィリアの無実を訴えるも、元帥は困った顔をするばかりで頷くことまではしなかった。
そして彼の立場的にそうせざるを得ないことを当然、兄妹の二人も理解しており、苦い顔を浮べては唇を噛む。
「まさかレフィリアさんの偽物が現れるだなんて……しかも、よりによって最悪のタイミングで……」
「叔父の活躍していた時代も偽勇者問題は少なからずあったと聞くが、今回のはあまりにスケールが違い過ぎる……」
「イスカンドロス国や調査団からの情報によると、イスカンドロスの国軍も一方的に大きな打撃を被ったとの事。それも襲撃者は常にたった一人で、アレグザンドリア近辺の街を強襲してまわっているのだとか」
「国の軍隊を丸ごと相手にして単独で攻め滅ぼすなんて真似は、確かにレフィリアのような異世界からの使徒にしか実現できない所業だな……」
「見た目だけでなく戦闘能力まで再現しているとなれば、それはまず間違いなく六魔将の誰かの仕業では?」
サフィアの指摘は尤もであった。意図こそ明確ではないものの、少なくとも手段としては六魔将なら十分にレフィリアを騙って他国を襲撃するくらい造作も無いことだろう。
むしろ考えてみれば、今までそうしてこなかった事が不思議なくらいですらある。大方、ゲドウィン辺りが幻術をかけて六魔将の面子の誰かを偽装し、都市の真ん中で暴れさせたのではないか、と兄妹は予想した。
何にせよ、許す事のできない卑劣な行いだが、敵を混乱させる作戦として見れば確かに有効ではある。かといって、頭にくることには変わりないのだが。
「……なるほど。だからこそ、元帥はレフィリアに会えないかと私たちに尋ねられたのですね?」
「その通りです。レフィリア殿本人に会って話を聞ければ、こちらとしても事態の解決を早急に進めることが出来ます。それでも……レフィリア殿への面会は望めませんか?」
元帥からジッと強く見つめられるも、兄妹二人は揃ってはっきり頭を下げる。
「申し訳ありませんが先ほども話しました通り、それだけは承諾できません」
「……分かりました」
ルヴィスとサフィアの頑なに拒否する様子に、元帥は息をつきながらも物分かりが良すぎるくらいに、それ以上の追求はしなかった。
そして、仕方ないとでも言いたげに肩を竦めながら、両腕を組んで息をつく。
「本来であれば私は立場的に国家権力を振るい、貴方がたを拘束かつ尋問してでも事態の収拾を図らねばならないのでしょうが……」
「……ッ!」
「ここには幸い、私たちしかいません。お二方の意思を尊重する代わりに、勝手ながら私が独断で貴方がたへ追加の偵察任務を依頼――いえ、命令することと致します」
「追加の偵察任務……ですか?」
「はい。危険な敵地から戻られて早々で申し訳ありませんが、貴方たちには明日にでもイスカンドロス国へ旅立ってもらいます。調査内容は勿論、偽聖騎士の正体を暴くこと」
「閣下……!」
元帥の心遣いに、ルヴィスとサフィアは希望の籠った表情で彼の目を見返す。
「ご厚情、痛み入ります。是非ともその任務、受けさせていただきます」
「それは結構。何にせよ、最果ての地へ赴いたにしては、皆さんは随分早く戻ってこられましたからね。こちらも魔王城への突撃作戦に向けて、準備にまだしばらくの時間が必要です」
「でしたら……!」
「ええ、その間に出来る限りの事態の解決を頼みますよ。それこそイスカンドロス側からの内政干渉が原因で、我々も他国と足並みを揃えるのに少し手間取っている状況でして……即急にでも、この問題を片付けておきたいのです」
「了解致しました。イスカンドロスへなら、私たちの機竜を使えば半日ほども掛からずに辿り着けますので……!」
「即刻、偽の聖騎士の正体について暴き立て、我が国へ向けられた不当な疑惑を晴らしてご覧にいれます!」
自信の籠った表情で告げた兄妹二人の言葉に元帥はしっかりと頷き、そして真っ直ぐに両者を見据えた。
「頼みましたよ。ですが貴方がたは自分たちの命についても大切にするように。目的はあくまで調査が第一で、敵の討伐までは望みません。何せお二人がいなくなられてしまうと、呪いを受けたという聖騎士殿の再起がより困難になってしまいますからね」




