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剣と魔法の異世界に現代兵器を持ちこんでみた話 ~イマジナリ・ガンスミス~  作者: 矢野 キリナガ
第9.5章/a:転移者露呈編
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これからの異世界生活に煩う話①

 レフィリア、もとい如月 綾美と仲間達がモースカヴァを発って数日後。


 道中では六魔将どころか魔王軍による襲撃を受けることすら特になく、一行は無事にエーデルランドの王都へと辿り着くことが出来た。


 ただし、残念なことに移動の最中、女神ミシュタリアからの連絡も一度として来ることはなかった。


 唯一の交信用手段である妖精門鍵ラスターキーには常に注意を払っていたものの、結局それが何も反応を示さぬまま帰還してしまった為、全員が余計に不安を抱えることになってしまう。


 まだ女神が事態を把握できていないのか、それとも交信が邪魔されている等の連絡が叶わない状況に陥っているのか、あるいは女神にすらどうにも出来ない事態なので通信してこないのか――。


 何にせよ、ミシュタリアと話が出来ない事には、普通の人間に戻ってしまった綾美に現状を解決する糸口など掴みようもない。


 それでも王都へ戻って来た以上は当初の目的を完遂する為に、今回はルヴィスとサフィアの二人のみが王城へと報告に向かった。


「よくぞ戻られました、クリストル兄妹。大変危険な遠方の敵地への偵察任務、誠にありがとうございました」


「恐れ入ります、元帥閣下」


 登城した兄妹を出迎えたのは、軍人ながら物腰の柔らかく気品漂う風貌をした壮年の男性である元帥であった。


 普段は国王の隣に控えてレフィリア及び兄妹からの話を共に聞く人物であったが、何故か今回は彼一人だけである。――というより、此度は何故か国王へ謁見できないどころか、謁見の間へと通されることさえもなかった。


 代わりに城内の会議室のうちの一つへと兄妹二人は案内された上、他に誰もいない、元帥も含めて三人のみで会合を行っている。


「それとすみませんが、本日はとある諸事情により陛下への謁見を執り成すことが出来ませぬ故、この場にて私が皆さんから報告を受ける事をご容赦いただきたい」


 身分の高い軍人でありながら礼儀正しい振る舞いで話す元帥に、ルヴィスたちもまた丁寧に礼を返す。


「了解いたしました。元帥閣下が直接お会いになられてくれただけでも、こちらとしては幸いで御座います」


「そう言っていただけるのはありがたいですね。ところで……」


 すると元帥は急に、少しわざとらしく訝しむような表情で兄妹二人を見た。


「今回はお二人だけで登城されたようですが、かの聖騎士殿はいらっしゃらないのですかな? 出来ればあの方からもお話を伺いたいところですが……」


「申し訳ありませんが彼女は今日、こちらに連れてきてはいません。その件につきましては、偵察任務のご報告の後に説明させて頂こうかと思います」


「ふむ……、分かりました。では先に本題の、ロスタリシアに存在しているとされる新魔王城についての話を聞かせていただきましょうか」


 それからルヴィスとサフィアは、ロスタリシア国やその首都であるモースカヴァの現状、及び現在の魔王軍の本拠地である、空中魔導要塞ことデモンニグルについて、王国に伝えるべき事は一頻り説明を行った。


 勿論、逆を言えば伝えなくていいと判断した内容については、あえて割愛して報告内容からは省いた。主にコメットの口から聞いた、超古代における神の遺骸関連の詳細に関してはである。


「……なるほど。情報を纏めますと、ゴラル山脈最高峰、ナローノベル山の上空に全長数キロに及ぶ浮島のような巨大城塞が浮遊していて、それが新たなる魔王城であると」


 会議室のテーブルいっぱいに大きめの地図を広げながら、ちょうどナローノベル山のある位置を指差し、それを見つめつつ元帥は呟く。


「加えてそこで山の地下に埋まっている、世界侵略が可能な程の極めて強力な力を持った、古代の遺物アーティファクトの発掘を行っている……」


「はい、見たところ向こうの作業自体も終盤に差し掛かっている様子でしたので、いつ準備を済ませて拠点を動かし、襲撃を仕掛けてきてもおかしくない状態にあると思われます」


「ううむ、何という事だ……。よもや魔王軍側も一気に勝負へ出るような計画を企てていたとは……」


 顎髭を指で弄りながら、元帥は難しい顔をして思わず唸りを上げる。


 別に王国軍かれらも呑気に構えていた訳ではないが、魔王軍への認識と警戒をより改めなければならないと考えているのだろう。


「しかし、よくこの情報を無事に持ち帰ってきてくれました。やはり貴方がたに依頼したのは正解でしたね」


「お褒め頂き、光栄に御座います。元帥閣下」


「ですが……、新魔王城の所在についてはともかく、よく彼らの進めている計画の内容についてまで突き止められましたね? まさか城内への潜入でも行ったのですか?」


 だとすれば王国からの依頼はあくまで新魔王城の存在証明と現在位置の特定なので、場合によっては失敗した際に、王国の計画そのものが破綻しかねないような勝手な真似は控えてほしい、とでも言いたげな怪訝な目を元帥は一瞬だけ見せる。


「そのことですが、実は魔王軍側も厳重な罠を張っていまして……、偵察を済ませた我々はその後の帰還途中、一度魔王軍に捕らえられてしまったのです」


「それは、なんと……ッ!?」


 ルヴィスからの報告に、元帥は思わず目を丸くして兄妹を凝視した。


 実際に捕まったのはサフィアだけなのだが、報告をスムーズにする為に、ルヴィスはあえて話の内容を幾らか変えて伝えている。


王国こちらの作戦については一切漏らしておりませんが、我々は魔王本人とも直接対面することとなり、結果として戦闘にもなりました」


「魔王本人と、ですか……ッ!?」


 立て続けにカミングアウトされる驚くべき情報に、さしもの元帥も信じられんとばかりに目を見開く。


 そしてそんな冷静さを欠いた自分に気づき、何とか表面上だけでも落ち着こうと咳払いを一つしては、再び兄妹へと話し出した。


「それはまた、思ってもいない急展開といいますか……それで、その後はどうなったのです?」


「魔王は城塞内だと不死身の能力を有している故に、現状では倒せないものと判断して止むを得ず撤退しました。そして魔王城から逃げ出すことそのものには何とか成功したのですが……」


「……何かあったのですか?」


 数秒ほど間を空けたところで、神妙な面持ちでルヴィスが口を開く。


「レフィリアが再度、敵から呪いを受けました。それも以前、アクアポリスで負ったものよりも遥かに強力な呪詛をです」


「今の彼女は戦闘能力を一切失っている上に、城へ連れて来ることも憚られる状態故、現在は別の場所にて匿っている次第であります」


「……ッ!?」


 兄妹二人からの痛恨の報告に、元帥は言葉を失っては酷く困惑したような顔を浮べた。


「何ということでしょう……まさか、そんな事態になっていたとは……」


「申し訳ありません。我々がついていながら……」


「……いえ、魔王城に赴いた誰もが生き延びるのに精一杯だった筈。私は貴方がたを非難するつもりは全くありませんよ」


 一旦ため息をつくと、元帥はまたもや何とか自身を落ち着かせては兄妹の顔をジッと見つめた。


「しかし、ルヴィス殿にサフィア殿。レフィリア殿は呪いを受けてしまわれたとの話ですが、どうにかしてこちらに登城――もしくは、別場所でも構わないのでほんの少しでも面会させてもらう事はできませんか? 我々はどうしても、彼女から話を聞かなくてはならなくてですね」


 元帥にしては珍しく食い気味で話をしてくるところに、兄妹はどうにも妙な違和感を覚えた。しかしそれだけは絶対に了承する訳にはいかない為、二人は揃って首を横に振る。


「……誠にすみませんが、これは閣下や陛下からの頼みでも承諾する訳にはいきません。今の彼女は異常な程、凶悪な呪詛に蝕まれています。私たち兄妹は遺物アーティファクトの鎧で辛うじて耐えられますが、現状のレフィリアはあらゆる接触者を呪いで冒します」


「近づくどころか視るだけでも呪蝕感染を引き起こしますし、遠隔透視や千里眼による視認も同様です。観測者は即座に呪いの影響を受けることになります」


「でしたら、我々がスターペンダントを身に着けては如何でしょう? アレはあらゆる状態異常を無力化できる魔道具ですが――」


「いえ、六魔将の特殊能力と同様にレフィリアの受けた呪いは、スターペンダントですら無効化は出来ません。あと我々のレベルでの浄化魔法では到底取り除けません」


「抵抗判定次第では即死しますし、そうでもなくても一度に猛毒、麻痺、失明、沈黙、錯乱、老化といった様々な状態異常が複数かかる、あまりに危険極まりない呪いです」


「そんなに恐ろしい呪いなのですか……!? ならばレフィリア殿は、そもそも生命の危機に晒されているのでは――」


「ひとまず、今のところ命に関しましては無事です。しかしこの呪いの除去にはおそらく、アクアポリスの時と同じように解呪用の遺物アーティファクトを探し出す必要があります。ですが残念ながら、現在はその在処を特定出来てはいません」


「それでも私たちがレフィリアさんを絶対に復活はさせてみせますので、それまではどうか彼女との接触は待っていただきたいのです」


 もはや捲し立てるようにベラベラと早口で語るこの話に関しては、完全に兄妹の考えた噓八百であった。


 些か無理やり過ぎて怪しく取られかねないのは承知の上で合ったが、とにかく今は何としても王国の人間にレフィリアの真実を伝える訳にはいかないのである。


「そ、そうですか……お二人がそこまで言うのであれば、きっとそうなのでしょう……。今のレフィリア殿にはどうしても会うことは叶わない、との事で承知いたします」


 兄妹からの怒涛の説明に圧されてしまったのか、やや納得しきれていない感じもあったものの、元帥はこれ以上レフィリアとの面会を頼み込むようなことはしなかった。


 その結果に、ルヴィスとサフィアは内心ホッとして同時に胸を撫で下ろす。


「しかし……、レフィリア殿とお会いできないとなると、王国こちらとしても少なからず面倒な事態になってしまうのですがね……」

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