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剣と魔法の異世界に現代兵器を持ちこんでみた話 ~イマジナリ・ガンスミス~  作者: 矢野 キリナガ
第9.5章/a:転移者露呈編
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女の正体と異世界で惑う者の話④

「――さて、ルヴィスさん」


 綾美と仲間達の雑談をしばらく見守っていたところで、そろそろ頃合いだと判断したのか、コメットが真面目な表情でルヴィスに話しかける。


「皆さんはこれから、本来の目的通りにエーデルランドへの帰還を目指すと思いますが……王都へ無事に戻った後、レフィリアさんの事はどのように報告なさいますか?」


 コメットからの問いに、一気にルヴィスだけでなく仲間達全員の面持ちが神妙なものへと再び戻る。


 たとえ話題が多少は逸れようと、こればかりは今のうちに決めておかねばならない、非常に肝要かつ避けられない問題だった。


「そうだな……何にせよ、起こった事をそのまま国王陛下へご説明する――という訳にはいかないだろう。そもそも今のレフィリア――いや、アヤミさんを王城の敷地内に連れていくことも、正直良くないと思っている」


「まあ、まず余計な混乱を招きますよね……。今まで、救世者扱いしてきた聖騎士が、ろくに戦えもしない、ただの一般人女性だったなんて知られた日には……」


「レフィリアさん、卑屈にだけはなっちゃいけませんよ」


 サフィアはあえてピシャリとした口調で、綾美を窘めるように横から言った。


 けしてキツイ言い方ではなかったものの、はっきりしたその声色に綾美はほんの少しだけドキリとしてしまう。


「別に全部をぶっちゃける必要はないだろうけどさ、レフィリアがまた魔王軍から呪いを受けて、今度は戦闘そのものが出来ない姿に変えられちゃいました――くらいは言っといた方がいいんじゃないの?」


 ジェドからの提案に、ルヴィスは難しい顔をしながら息をつく。


「それもそうだが、最初からレフィリア=アヤミさんとして報告するのだけは止した方がいいと俺は考えてる。そこまでつまびらかに公開すると、アヤミさんはまず軟禁状態に置かれるだろうから、肝心な時に機敏な対応を取り辛くなってしまう」


「場合によっては、事態がより大袈裟になってしまう可能性もありますからね。どこから情報が漏洩してしまうか、分かったものでもありませんし」


「なら、今の姉さんは直接登城させずに、あくまで口頭のみの説明で済ませるつもりなんだな?」


 ハンターの確認にルヴィスは頷く。


「ああ。もし必要に迫られれば真実を伝えて、王城の兵士たちにアヤミさんを守ってもらわなければならない状況もあるだろうが……、現状はあえてこういった措置を取らざるを得ないだろう」


「……すみません。私のせいで迷惑ばかり掛けることになってしまって……」


 申し訳なさそうに肩を落とす綾美へ、ルヴィスは慌てて彼女の方を向いては手を横に振った。


「何を言ってるんだ。君が謝る必要なんて、どこにもない。そもそも問題があるとすれば、今まで異世界からの使徒だからって君に頼りきりだった現地人こっちの方だろうからね」


 優し気に声を掛けるルヴィスに、サフィアも続いて綾美へと寄り添う。


「聖騎士レフィリアが戦えなくなったからといって、私たちは貴方を見捨てたりなんかしませんよ。それだけは絶対ですから、どうか安心してください」


「そうそう。むしろ普段がレフィリアに守られっぱなしだったんだから、こんな時くらい僕たちが役に立ってみせないとねー」


 暗くなりがちな綾美を元気づけるようにジェドが明るく言ったところで、彼女はふと何かを思い出したかのような顔になる。


「あっ! ていうかさ、こういう時こそ邪神――じゃなかった、女神ミシュタリアの出番なんじゃあないの? 何で肝心な時に限って連絡寄越してこないのさ?」


「前回、レフィリアが呪いに蝕まれた時も、ミシュタリアと話が出来たのは半日ほどの時間が経過してからだった。女神といえど、こっちの事態を把握するのには幾らかのタイムラグが発生するのかもしれない」


 ルヴィスの推測にジェドはやれやれといった様子でボリボリと髪を掻く。


「全く……、妖精門鍵ラスターキーにこっちからも通信できる機能をつけてさえくれれば、こんなアクシデントに見舞われてもすぐ対処できるってのに。別に出来ないって訳じゃないんでしょ? 世界を創造した神様ってんならさあ?」


「それは当然ですわ。ですが彼女は、きっとやりたがりませんわね。人間側にとってだけ都合の良いホットラインを与えるような真似はけっして」


「――なあ、コメット。そういやアンタは一応、女神ミシュタリアを崇拝していた神子だったんだよな? その女神様から大層気に入られてたって話だし、アンタなら特別に神への交信を試みる……とかは、出来たりしないのか?」


 ハンターはふと思いついた考えを彼へと告げたが、コメットはすぐに首を横へ振っては否定を示した。


「残念ながら、現状だと出来ませんわ。交信自体は別に不可能でもないのですが、それには専用の祭壇がある神殿がどうしても必要になりますので。それに応じてくれるかは女神の気分次第ですので、けして確実でもありませんし」


「うーん、今からアクアポリスにあった地下神殿に行ってる余裕もないしなあ……」


「出来ないこと強請ねだりをしていても仕方がない。とにかく今はエーデルランドへの帰還を第一にしつつ、ミシュタリアからの連絡を待つ他ないだろう」


「結局はそうなるんですよね……こればっかりはしょうがない事ですけど……」


 賢者妹は困った表情で呟きながら、早く連絡が来ないかなあ、と妖精門鍵ラスターキーを手元に取り出してジッと見つめる。


 キラキラとホログラムシール風に輝くカード型の金属板は、今のところ発光したりといった、何かの反応を示すことはない。


 そんな中、仲間達の会話を一頻り聞いていて、綾美の内心には一抹の不安な気持ちが更に湧き出ていた。


 というのも、前にスレイアから受けた呪詛――というかコンピューターウイルスのように義体アバターそのものを浸蝕するバグすら、ミシュタリアは完全に真っ向から治療出来た訳ではなかったのだ。


 今回の事態は、その時よりもっと深刻なもののように思える。もしミシュタリアに診てもらったところで、解決の手段が得られなかったのであれば、それこそどうなってしまうのか、と――。


 しかし、そんな気持ちを言葉にすることだけは憚られた。考えても答えが出ないと分かり切っている内容で、悪戯に仲間達を心配させる訳にもいかない。


「――日没までには、まだ結構時間がある」


 綾美がそんな事を思案していると、それを打ち切るかのようにルヴィスは仲間達全員へ声を上げた。


「アヤミさんには悪いけど、あともう少しだけ休憩したら、ここを出てちょっとでも移動を開始しよう。機竜ヴィーヴルを使えば、日が暮れるまでに雪の無い森林地帯まで辿り着ける筈だ」


「確かに。たとえ野宿することになっても、この街に留まり続けることだけは避けた方がいいかと。根拠こそありませんけど、私もそんな気がしますから」


 ルヴィスの意見にサフィアも同意を示す。


「私のことはお構いなく。何とか足手纏いにならないように、頑張ってついていきますから」


 綾美もまたこれ以上、自分のせいで皆に迷惑は掛けたくなかったので、一生懸命にそう発言した。自分が傷心しているからと、仲間達を足踏みさせてしまう訳にもいかない。


「レフィリアさん、そう無理に気張らなくたっていいですよ。レフィリアさんは私の機竜ヴィーヴルの後ろに乗っていてくれればいいですからね」


 そう言って、サフィアは綾美の肩へと優しく手を乗せてきた。彼女の向けてくれる優しさに、綾美はどうにもいちいち泣きそうになってしまう。


「それにしても、レフィリアの持ち物まで無くならなかったのは不幸中の幸いだったね。とりあえずクロスクローバーさえあれば、寒さで凍える心配だけは無くなるからさ」


 ふと、そのように話したジェドの言葉に綾美も確かに、と今更だが思った。


 というのも、レフィリアの光剣やマント等と違って、クロスクローバーやギュゲスの指輪といった装備品の類はそのまま、彼女の手元に残っていたからである。


 あくまでレフィリアという義体アバターに付属していた武装だけが消失してしまったという事なのだろう。


「そうですわね。それに魔封じの十字杖クロスを持つ私の傍にいれば、大抵の状態異常にもかかりませんし」


「あっ、でもギュゲスの指輪みたいな、魔力を流すことで効果を発揮するアイテムは使えなくなってるんじゃないですか? 今のレフィリアさ――じゃなくて、アヤミさんは魔力そのものを持っていないと思いますから……」


 賢者妹の意見に、それもそうだ、と綾美が思っていると、隣にいるサフィアが指輪を嵌めた方の手をすっと掲げる。


「その時には私がどうにかします。便利な事にギュゲスの指輪には装備者だけでなく、触れている他者も不可視の対象に出来ますからね」


「ま、仲間の誰かが弱った時には他のヤツがフォローするのはパーティにとって当然の事だ。姉さんもいちいちそんな気負いした顔してないで、遠慮なく俺ちゃんたちを頼ってくれよ。何だったら、甘えてくれちゃってもいいんだぜ?」


 わざとカッコつけたように振舞っては、ニッとした笑みを浮かべてそんなことを言うハンターに、レフィリアは思わず顔を少しだけ赤くしてしまった。


 そんな彼女の反応に、ルヴィスはムッとしては前回の仕返しとばかりにハンターをこっそり肘で打つが、彼の方はこれっぽっちも気にしないまま話を続けていく。


「それに命だけは繋がったんだ。生きてさえいりゃ、挽回の機会なんていずれ巡ってくる筈だと思うぜ。だから元気だしな、今の姉さんも笑顔の方が似合ってるからよ」


 そんな台詞を真正面から気持ちの良い笑顔で言われては、綾美も流石に気恥ずかしくなってきてしまう。


 そんな感情を誤魔化すかのように、視線を逸らしながらも綾美は素直な気持ちを何とか口にしてみた。


「……ありがとう、みんな」


 その言葉に、仲間達もまた揃って微笑みを浮かべるのであった。

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