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男の正体と異世界で挑む者の話⑧

「あっ……!」


 カリストロスの首が呆気なく斬り飛ばされてしまった光景に、それを目にしたレフィリアは思わず声を上げてしまう。


 いくら生命体として強靭な魔人といえど断頭されてしまえば、流石にただではすまない――いや、普通に考えればまず即死だろう。


 とはいっても彼女は近頃、首を刎ねても平然と蘇ってくる常識外れをよく見かけているので一概には決めつけられなかったのだが。


「――ん?」


 そして、今しがた頭が無くなった筈のカリストロスも、何故かすぐには倒れずその場に立ったままであった。


 それどころか、残った胴体が突然カリストロスの姿から針金を巻いて作ったような人型の物体へと一瞬にして変容していく。


 しかもその人型は即座にバラけては、うねるような動きで独りでに拡散していくと、次の瞬間にはスレイアへと飛びついて彼の全身を拘束するかの如く巻き付いてきた。


「これは……ッ!?」


 例えるならばそれは、時を止められる男の実娘が持つ能力のような挙動であった。人間大のワイヤーアートが紐状にほどけたかと思うと、あっという間にスレイアの身体中を雁字搦めにして動きを奪う。


 加えてたった今、彼を縛りあげた物はなんと軍用の鉄条網――要するに、有刺鉄線であった。


 しかもただの有刺鉄線と違って針金の切り口が突き出た棘ではなく、ギザギザとした剃刀のような細かい刃がビッシリと並んでいる。


『――リストレイント』


 まるで茨の蔓にでも絡みつかれたような痛々しい格好で束縛されたスレイアはふと、周囲の何処からか女の声と、合わせて魔法の遠隔発動が行われた反応を機敏に感じ取った。


 それから反射的にそちらの方向を向くと、そのずっと先には街の中でも一際背の高い建物である教会があったのだが――そこの屋根にて、一人の女性がこちらを見ながら立っている姿が確認できる。


「いくら戦力外でも、邪魔いやがらせくらいはさせていただきますよ」


 その人物は紛れもなく、ロズェリエだった。


 どうやら彼女はカリストロスから預かっていた鉄条網の束をゴーレムに仕立て上げて幻術による偽装を施し、魔法を用いた遠隔操作で操ってはスレイアへとけしかけたようなのである。


 その上、二重の仕掛けで前以て埋め込んだ拘束魔法を傀儡の破壊を条件に作動させては、カリストロス本人だと思って斬りかかってきたスレイアをまんまと縛り上げた訳だ。


「ふっ、こんなものが足止めになるとでも――」


 だが、幾ら魔力による素材強化が掛けられているとはいっても元はただのワイヤー。スレイアからしてみれば、ちょっと藻掻けばすぐに千切れる絹糸くらいの強度でしかない。


 本来ならば肌へ凄惨に食い込んで血塗ちまみれになる筈の剃刀状の刃も全然刺さっていない為、切創によるダメージどころか痛みによる負荷さえも期待できない。


 こんなものは一切拘束になどなっておらず、スレイアが抜け出すことなどあまりにも容易だ。


「ええ。ですから一、二秒ほど稼げれば上出来でしょう」


 しかし、そんな事くらいロズェリエだって判り切っていた。今の魔法発動は彼を縛って捕らえる為のものではなく、あくまで虚を突いて一瞬でも動きを止める事こそが最大の目的。


 その目論見はどうやら上手くいったようで、スレイアがロズェリエの魔法拘束に気を取られている最中、四機いたうち一機だけ生存したアパッチから既に彼へ目掛けて本命の攻撃――一発のミサイルが放たれていた。


「――ッ!?」


 何をするかと思えば今更ミサイル一発で何を、と一瞬思い嘲笑ったスレイアであったが、その表情はすぐに怪訝なものへと変化した。


 というのも今、残り一機のアパッチから発射されて彼に向かってくるミサイルから、花びらのように六枚の鋭い刃がせり上がるように生えた様子を視認したからだ。


 それはヘルファイア AGM-114R9Xという武装で通称、ニンジャミサイルと呼ばれるもの。


 元々は爆発による周辺への二次被害を避けて標的を殺害することのみを目的とした“炸裂しないミサイル”であり、弾薬の代わりに弾頭から展開するブレードによって標的を斬り刻むのである。


「ちいッ――」

 

 二回連続で披露された珍妙な攻撃手段に僅か一瞬でも注意を奪われてしまったスレイアは、急いで鉄条網の拘束を無理やり引き千切ると、ようやくその場から離れては回避行動に移ろうとする。


 今からのタイミングでミサイルを迎撃しようとしたのでは仕損じる可能性があると判断したからであったのだが、それでも――なんとニンジャミサイルのブレードは、長剣を握っているスレイアの右腕を肘先から切断することに成功した。


「なッ……!?」


 今までずっと余裕に満ちていたスレイアの顔から初めて笑みが消え、その特徴的な細い目が驚きによって見開かれる。


 ミサイルが通り過ぎていった衝撃によって長剣ごと右腕は投げ出されたように遠くへ飛んで行ってしまい、今すぐには拾い上げる事が叶わない。


「しまった、私とした事が――」


 スレイアは慌てて自身の得物を取り戻しに行こうと、その方向へ身体を即時反転させるが、それから駆けだそうとしたところで逆に急ブレーキを掛けた。


「何ッ……!!?」


 なんと、まだスレイアに対する攻撃は続いていた。


 カリストロスが武器を回収しに向かおうとした方向の正面から、地面スレスレという恐ろしい程の超絶低空飛行で一機の戦闘機――F-35 ライトニングⅡがこちらに突っ込んできていたのである。


「なんて、馬鹿げた真似を……ッ!」


 かつて、ナーロ帝国のコロシアムにおいてカリストロスがオデュロに向かって行った奇襲戦法の再現リプレイ


 全長16メートル弱、重量約1.5トンの鉄の大怪鳥によるマッハ1.6の神風特攻。


 ところがそんな思いも寄らぬ急襲をスレイアは曲芸師の如き体裁きで身を翻しては、強烈なソニックブームも物ともせずに間一髪で躱しきってみせた。


 突撃を避けられた戦闘機の機体は当然、虚しくも反対側へあっという間に遠ざかっていっては、戦域からいなくなってしまう。


 だが、せっかく現れたF-35はただ何も成し得ず通過していった訳ではなかった。スレイアのいる地点を通り過ぎていく瞬間、その影から密かに何かをその場へと残していったのだから。


 それは――


「カリストロス――ッ!?」


「――――ッ!!」


 そう、カリストロスであった。


 カリストロスはF-35の機体下部にあるウェポンベイの中へ張り付くように潜んでおり、そこから飛び出しては回避行動の直後で体勢を崩しているスレイアへと、ここぞといった最高のタイミングで躍り掛かってきたのだ。


 そんな彼の右腕からはいつの間にか、軍用剣鉈タクティカルマチェットのような形状をした鋭利な長刀が生えており、スレイアの背面から急所である心臓を貫こうと、勢いよく腕を突き出す。


「ごはあ……ッ!!!?」


 ――しかし、心臓を貫かれたのはなんと、カリストロスの方であった。


 極めてバランスの悪い姿勢だったにも関わらず、スレイアは瞬時に反転且つ身を屈めると、武器化した右腕を伸ばしたカリストロスの懐に潜り込んでは彼もまた無事な左腕を突き出し、あろうことか単なる手刀にて胸の中央どまんなかをぶち抜いたのだ。


 ロボットのボディやメタルヒーローのパワードスーツを想わせる、如何にも頑丈そうな金属質の装甲を背中まで易々と貫通させ、真っ直ぐに突き抜けては真っ赤に濡れた手のひらを覗かせながら、スレイアはほくそ笑むような表情で語り掛ける。


「いやはや、残念でしたねえ。貴方なりに色々頭を捻ったようですが、結局私には届かなかった。――まあ、貴方にしては頑張った方じゃないんですか?」


 さしもの強力無比な肉体を有する魔人といえど心臓部の破壊は例外なく致命的だったようで、カリストロスが全力で突き出した右腕は途端にダラリと力なく下がり、身体の方も糸が切れた人形のように項垂うなだれてしまう。


 機械じみた無機物感の強い外観をした彼でも体内にはきちんと血液が巡っていたようで、口元からはせり上がって来た赤い体液が止め処なく漏れ出てきていた。


「……、――、――……ッ」


 口の周りを覆う顎の外殻マスクの隙間から喀血を垂らしつつ、カリストロスはボソボソと力なく何かを呟く。


 それは言葉通りに蚊の鳴くような掠れ声であって、すぐ傍にいたスレイアでさえよく聞き取ることが出来なかった。


「何です? 遺言でしたらはっきりと、でも手短にお願いしま――」


「掛かったな……ッ!」


 すると突然、スレイアは背後から強い衝撃を感じたかと思うと、次の瞬間には細長い何かで胸を刺し貫かれていた。


「がはッ……?!」


 その正体は、カリストロスの伸ばした尻尾であった。


 銀色に輝く蛇腹状をした尾の先端部分は槍の如く鋭利になっており、それを瞬時に回り込ませてはスレイアの背中側から心臓を的確に抉りぬいたのである。


「ようやく、捕まえたぞッ……!」


 でも、それだけでは終わらない。カリストロスの刺した尾の切っ先は釣り針か錨のように“返し”を生やし、串刺しにしたスレイアの身体へと食い込ませて外れないよう固定する。


 それから自身の胸に腕を突き入れたままのスレイアを引き抜くと、また即座に自分のすぐ傍まで引き込んでは、武装解除した右手で彼の後頭部をガッチリと掴み、逃げられないよう押さえ込んだ。

 

 更に銀色をした左手には、同じく白銀の煌めきを放つ異形の大型拳銃が出現する。そして流れるような手捌きで、賺さずその太くて長い銃身をスレイアの口の中へと無理やりぶち込んだ。


「もごがッ……!!?」


 もはや食道を抉る勢いで喉奥までバレルを突っ込まれたスレイアは、いつも居眠りしているかのような細い目を今は大きく見開き、極めて苦しそうにくぐもった声を上げる。


 そんな彼の口を塞いだカリストロスの拳銃とは、これまでの武装と違って元となるモデルが存在しない――いわば、彼のオリジナルの銃器であった。


 その銘を、《幻葬哭銃 しろがね》。


 強いて例えるならば、S&W M500とほぼ同サイズの超大型拳銃で、そのデザインはフレームに禍々しくも美しい複雑な紋様が刻まれており、古風とも近未来的ともいえる異様な意匠をしている。


 そして特徴的なのが銃身の下部から銃口に沿って鰭のような剣刃が備え付けられており、見る者が見ればまるでガンブレードのようだと形容した事だろう。


「――イマジンデナイアル・シルバーブリット!」


 普段は技の名を唱える事を好まず頑なに拒むカリストロスが、ここにきて武器に秘められた機能を解放する為に、臆する事なくそれを口にする。


 必中必殺かつ幻想否定と神秘貫通効果の特性――いや、概念を帯びた呪いの弾丸こと“凶魔弾”をたった0.1秒間に12連射。


 リボルバーのシリンダーなど飾りとばかりに装弾されることもなく超高速でグルグルと回転しては、それこそ機関銃のように銃口から弾丸が流し込まれる。


「ふぉごおおオオオオオオッ!!!!!!」


 惨い拷問を受けた者の悲痛な鳴き声か、それとも屠殺された家畜の断末魔のような絶叫を上げながら、スレイアは抵抗する間もなく120発もの弾丸を飲み込まされた。


 口からだけでなく、鼻や耳、目と顔にある全ての穴から血液が大量に噴き出し、発射された銃弾は肉体をぶち抜いて反対側へと新たな孔を開けては飛び出ていく。


 そこからありったけの内臓がグチャグチャになって外へと排出されては、もはや人の形をした筒のようになってしまった。


 流石のスレイアも超至近距離――というより体の内部へ直接、必殺の連撃を叩きこまれては成す術も無かったようで、見るも無残な有様となっては事切れて沈黙してしまった。


 ――つまりは、死んでしまったのだ。


「――――――」


 徹底的に憎悪を込めて銃を撃ち切ったカリストロスは、酷い顔を晒してピクリとも動かなくなったスレイアから尾を引き抜くと、まるでゴミのように足元へと放り捨てる。


 血塗れになったスレイアの身体はベチャリと嫌な水音を立てながら、力なく無造作に転がっていき、彼が完全に死体となってしまった事は誰が見ても明らかであった。


「……ッ!」


 しかし、カリストロスはまだ気を抜かなかった。


 目の前に投棄したスレイアの死体を見下ろしたかと思うと、次の瞬間には彼の頭を力いっぱい踏みつけ、道路に落ちた果実のように潰してしまったのだ。


 まるで水風船の如く弾けたスレイアの頭部は、真っ赤な肉と骨の混じり合った物体と脳漿を撒き散らし、カリストロスの銀色をした足を濡らして汚す。


 そんな足をカリストロスは煙草の吸殻でも処理するかのように、念入りなくらい地面へグリグリと擦りつけた。


 更にまだまだ死体蹴りは終わらず、黒き魔人はバックステップで数メートルほど後ろへ飛び退くと、それとほぼ同時にスレイアの死体へ缶ジュースくらいの大きさをした赤い円筒状の物体を十数個ほどボトボトと降らせる。


 それはTH3焼夷手榴弾――すなわちサーメートで、鉄すら容易に溶かす数千度の燃焼を引き起こす兵器なのだが、降り注いだ全ての手榴弾からは既にピンが外されており、スレイアに接触した時点で爆発してはすぐさま猛烈な炎熱を生じさせた。


 それでも横たわるスレイアの遺体が起き上がってくるようなことは無く、遂にカリストロスは忌々しい恩敵の屍を派手に火葬――いや、単なる生ゴミとして焼却処分するに至った。

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