男の正体と異世界で挑む者の話⑥
「はは、これはスゴイ。今日は自衛隊の航空ショーでもやっているのかな?」
剣を握っていない方の手を額にあてては、もはや楽しんでいるかのような口調で呑気に空を見回すスレイア。
アパッチ・ガーディアンの機体数はざっと見て30機弱。
前方の数機が横一列隊形を取り、その後方から三機一組で三角隊形を組んだ幾つもの編隊がズラリと、幾何学模様のような陣形を維持しながら追随していく。
当然、カリストロスが単なる見世物の為に武装満載の軍用ヘリなんて呼び出す筈もなく、それらが全て自分一人に照準を合わせているというのに、スレイアはぼうっと突っ立ったまま全くその場から動こうとはしない。
大編隊で迫る数十機ものアパッチが騒然と大空を埋め尽くす光景は、まるで集団飛行するトンボの群れのようであった。
「――殺れ」
準備完了と判断したところでカリストロスが掲げた腕を降ろすと、展開したアパッチのうち、まずは前列の数機から空対地兵器――ハイドラ70ロケット弾やヘルファイア対戦車ミサイル等――によるスレイアへの集中爆撃が敢行された。
無論、標的であるスレイアの立っている箇所は即座に耳をつんざく轟音を伴った爆炎と黒煙、そして猛烈な砂煙に包まれては、訳が分からないくらいに何も見えなくなってしまう。
だが今度は一回の攻撃で様子を確認するようなことはせず、一射目を撃った列から次の機体がタイミングをずらして二度目の襲撃を掛ける。
まるで大地が続けざまに弾け飛んだかのような凄まじい爆発の音に、現地からだいぶ離れている筈のレフィリアの仲間達ですら、驚きながら思わず耳を塞いでしまった程だ。
しかし二度目の連撃が着弾して爆ぜたところで、再び赤い魔力光を伴った竜巻が発生しては、舞い上がる火炎と砂煙を一息で吹き散らしてしまう。
それだけでなく頭上に滞空しているアパッチのうち数機が、突然バラバラに解体されては爆発を起こし、そのまま地上へと落ちていった。
「何――ッ?!」
一瞬で火煙を消し去っては、またもや平気そうな顔をして姿を晒すスレイア。
今の爆撃をまともに食らっても未だにダメージを受けた様子は無いどころか、立ち位置すら少しも変わっていない。
周りの地面だけはボコボコに抉れているというのに、本人は反動で後ろに仰け反るどころか、半歩ほど後ずさった様子さえ見受けられないのである。
(コイツ、さっきのはただ爆炎を散らしただけじゃない! 同時に反撃も混ざっていた……!)
それでありながら、カリストロスの関心は既に別のものへと移っていた。スレイアが無事なことよりも、アパッチの数機が撃墜された件だ。
彼の射手として優れた超視力は、既にその正体を捉えていた。
スレイアは竜巻状の魔力放出で爆撃による炎と煙を吹き飛ばした際、同時に鎌鼬のような視えざる真空の刃を飛ばしていた。それがシュレッダーの如く、アパッチの機体を豆腐みたいに裂いたのだ。
加えてカリストロスには、スレイアが生じさせている赤い旋風が何なのかについても、凡そは視て取れた。
――あれは剣風。つまりは手に持っている、あの長剣を瞬時に振るって巻き起こしている魔力衝撃波であり、反撃で放った風の刃もおそらくは剣圧の産物によるものだろう。
要するに特技や術技ですらない、ただの通常攻撃でスレイアはカリストロスを一蹴しているのだ。
『攻撃目標からの反撃行為を確認。前列のうち四機が撃墜。攻撃目標は未だ健在、負傷は確認できず』
『了解、機動隊形に移りつつ第三撃から斉射を敢行する』
カリストロスが咄嗟に分析している間にも、アパッチに搭乗している猟犬兵たちは誰一人引かずに再び空対地攻撃を継続する。
彼らは人間の兵士と違って恐怖で怯む“機能”はなく、主であるカリストロスの命令が無い限りはけして撤退などしない。
ただし三射目は偏差的に小出しするのではなく、全機一斉射による飽和攻撃。
スレイアがバリアのように発する赤い風を突破出来るほどの猛烈な火力を叩きこんで、その身を消し炭に変えようと全力で牙を剥く。
「ふん――ッ」
ところが、結果的にその牙は、ほんの少しも届かなかった。人間大の単一目標を仕留めるには過剰すぎる砲火を集中させた爆撃だというのに、逆巻く赤風の壁を一向に越えられない。
それだけでなく、竜巻が発生する度に回避行動どころか反応すら叶わぬ速度で地上から鎌鼬が飛ばされては、その都度アパッチが何機も纏めて撃破されていく。あまりに無惨で一方的な光景と言わざるを得ない。
「――さて、これでいよいよ品切れですかね?」
最初から数えて合計七度目の剣を振るったところで、あれだけ大量に大空を飛び回っていたアパッチの部隊が遂に全滅してしまう。
ミサイルにより沸き立つ炎と煙で視界は殆ど利いていないにも関わらず、遠く離れた複数の動く目標を正確に撃ち抜き破壊するその技量は、もはやふざけていると言っても過言ではないだろう。
剣を振った際の突風で邪魔な砂埃を散らしては、残った最後のカトンボどもを撃墜したと認識したところで――突然、スレイアの頭上から大きな影が現れては彼を覆った。
「なッ――!?」
「潰れろ――ッ!!」
その影はなんと、10式戦車であった。
10式戦車の巨大な車体が空高く宙を舞っている――いや、自分目掛けて突っ込んできている。
しかもそれは、カリストロスが戦車の砲身を手で掴んでは、まるでハンマーのように車体を振りかざしてスレイアへと飛び掛かってきていたのだ。
「ちょっ、ええええッ!?」
そんなとんでもない光景にさしものスレイアも、そして傍から観ていたレフィリアでさえ驚きの声を上げる。
総重量44トンもの車両を片腕で軽々持ち上げては正面から跳躍してきたカリストロスは、そのまま勢いに任せて力いっぱいにスレイア目掛けて戦車ハンマーを叩きつけた。
それこそロードローラーやタンクローリーで押し潰そうとしてくる吸血鬼のように壮絶な一撃をお見舞いする。
「ぬおッ……!?」
だというのに、それをスレイアは多少驚きつつも剣を持っていない方の腕で賺さずガードしてはペシャンコにされないよう、しっかりと踏み留まってみせた。
流石に幾らかは身体を下に沈み込ませられたものの、それでもその場から彼の立ち位置を動かすには至らない。
「なんのおッ!」
それどころか、スレイアは戦車の車体を受け止めた腕を押し退けるように無理やりぶん回すと、カリストロスごと覆い被さっていた10式戦車を物凄い勢いで吹っ飛ばしてしまった。
「うおおおッ?!」
戦車砲の砲身を掴んでいたカリストロスは10式戦車と一緒に、20メートル以上先の距離まで一気に投げ出された後、そのまま思いきり地面へと激突する。
まるで発泡スチロールの塊でもぶん殴ったかのように放物線を描いて飛ばされた超重量の車体が大地に転がれば、それは当然凄まじい衝撃と轟音が生じるものだ。
だが、カリストロスにボサッとしたまま驚いたり怯んでいる暇はなかった。
土煙を巻き上げながら地面にぶつかった直後、即座に悪寒を感じ取った彼は横倒しとなった10式戦車の車体を踏板代わりに蹴り、前方へ飛び込むかのようにその場を離れる。
途端、間一髪のところで剣圧による鎌鼬が通り過ぎていっては、残った10式戦車の車体が三枚おろしにされたかと思うと、爆散して周囲に複合装甲の残骸を散らしていった。




