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男の正体と異世界で挑む者の話⑤

 威勢よく宣言した直後、カリストロスは賺さず右腕をスレイアに向けて真っ直ぐ突き出すように伸ばす。


「――吹き飛べ」


 途端、カリストロスの肘から先が即座に変化し、M61A2 バルカン――即ち、回転式多砲身機関ガトリング砲となった。


 ある反乱組織のリーダーの如く、腕の半分が銃器となっては六本の細長い砲身が突き出て、根元の本体部分には給弾装置リンクレスコンベアと繋がった、酒樽を横にしたような円筒状の弾倉を軽々と右肩に担いでいる。


 そしてそのままカリストロスは20mm口径の砲弾を一切の情け容赦なく、正面のスレイアへとぶっ放した。


 ミニガンの通称で知られるM134重機関銃や人力操法式のJM61-Mならまだしも、CIWSや戦闘機に直接搭載されているM61をあくまで人間大のスケールの存在が、反動に全く押されることなく携行武器として扱うという事がまず常軌を逸している。



どこかの傭兵部隊の隊長の言葉を借りるなら、まさしく馬鹿と冗談が総動員。従来のものから軽量化が成されたM61A2ですら、システム全体の重量は100キロ近い。まさしく、魔人を名乗るに相応しき所業である。


「ふッ――」


 ところがスレイアは、秒速1050mで迫る弾丸の雨を前にしても余裕そうな笑みを崩さず、刀身が赤く光る得物の長剣を手元に一瞬で取り出すと、あろうことかそれらを全て剣戟で弾きにかかった。


 毎分6000発、つまりは一秒に百発飛んでくる重さ100グラムの砲弾を少しも避けようとはせず、なんと律儀に一発ずつ斬り飛ばしているのである。


 例えるならば、まるでサイボーグ化したドイツ軍人の銃機関砲を難なく防いでみせた柱の男のように。しかも今回の弾速はその際の十倍はあるのだ。


 だというのに、スレイアは涼しい顔をしながら一発も弾き漏らしたり掠り傷を負うことすらなく、それどころかあてつけがましく嘲笑うかのように、その場からちょっとも立ち位置を変えることなく銃撃を凌ぎ続けていく。


 もはやその行為はカリストロスに対する挑発と取っていい。


「――――――」


 更に言えばカリストロスがバルカン砲から発射しているのはM53徹甲焼夷弾。


 その名の通りに徹甲弾と焼夷弾の両方の特性を兼ね備えた砲弾で、着弾すると目標物に貫入しつつ火炎を発生させるという代物。


 この兵器は通常、人間に使用すると対象が柔らかすぎて逆に焼夷弾の機能を発揮しないこともあるのだが、スレイアは剣で弾いているので勿論、炸裂しては強烈な炎熱を生じさせている。


 にも関わらず、スレイアはこれといってダメージを受けているようには全然見受けられない。


「うっわ、何アレ!? 初っ端からもう訳が分かんないよ!」


 ところ変わって、戦場となっているエリアからある程度離れた位置にある建物の三階にて。


 その部屋の窓から身を隠しつつも外の戦いを覗いたジェドが、驚愕と唖然を織り交ぜた表情でそう口にした。


「つーか、あのいけ好かねえ野郎が変身した黒い魔人バケモンの方の攻撃、あまりにメチャクチャで物騒だが……見た目だけは正直カッコいいのが、なんかムカつくな! どういう構造してんだ、ありゃ? 魔弾連射装置ってヤツか!?」


「カリストロスの砲火も凄まじいが、更に恐ろしいのはそれを真正面からなしているスレイアだ。あんなものを見せつけられては、もはや絶句するしかない……!」


 ハンターとルヴィスもまた、なるべく身を晒さないようにしながらも、観察して目に映った壮絶な戦闘の様子に思わず息を呑む。


『――本当にその通りですね。とにかく皆さんはなるべく身体を出さず、万が一に備えていつでも逃げられるようにしていて下さい。私も最大限の警戒はしていますけど』


 すると、賢者妹が胸の位置に付けている小さな装飾品バッジからレフィリアの声が聞こえてきた。


 それはアクアポリスでの戦いでも使用された、無線機のように魔導通信が可能な彼女手製の携行型魔道具。


 実は現在、レフィリアだけは一行が逃げ込んだ建物の屋根から生えた煙突の後ろへ隠れるように身を寄せつつ、外でカリストロスとスレイアの戦闘状況を見張っていた。


 というのも、もし自分たちが今、潜伏している建物そのものをぶち抜いたり丸ごと吹っ飛ばすような威力の流れ弾が飛んできた場合、対処出来るのが事実として彼女のみだからである。いや、場合によっては彼女ですら対応しきれないかもしれない。


 だとしても不意打ちならともかく、初めから気を張って注意して置けば大抵の事態には応じれる自信があるが――しかし、慢心は禁物だ。


 緊急時にはセイントギフトやブロードシールドといった防御手段を状況に合わせて発動させ、仲間たちだけでも無事に逃がすつもりではあるものの、視界に収まっている両者はどちらもレフィリアの特殊能力を打ち破って来る可能性がある。


(それにしても、いきなり凄いバトルを展開してる……カリストロスには手を出すなって言われたけど、スレイアから接触してきた以上は無闇に撤退って訳にもいかないしな……)


 本来、当初の任務を最優先にするのなら、自分らが攻撃の対象になっていないこの隙にモースカヴァから何が何でも離脱するべきである。


 それは勿論分かっているのだが、一行はあえてそうしなかった。というか、出来なかった。


 現時点で最も脅威性が高く、且つ神出鬼没な敵であるスレイアが生存していたとあっては、おいそれと放置は出来ない。


 どの道絶対に倒さなければいけない相手でもあるので、この戦闘でスレイアが敗れるにしろ生き残るにせよ、事の顛末はなるべく知っておく必要がある。


 状況次第では汚いやり口と罵られようと、漁夫の利で仕留める事すら辞さない考えだ。


(――コイツ、剣使いだったのか。しかもよりによって聖騎士あのおんなと似たような武器を使ってやがる)


 そして話は戦場に戻り、カリストロスが機関砲を連射し続けて十数秒が経過するもののスレイアに疲弊した様子は一切なく、変わらぬ勢いのまま弾を斬り飛ばされては虚しく歯痒いだけの時間が過ぎ去っていく。


(それにしてもまた、すかした顔以上にふざけた野郎だ。砲撃を避けずに全弾斬り払ってくるとか、調子に乗っているにも程がある……だったら――)


 途端、砲撃継続中であるカリストロスの斜め後ろ方向から突然、空気の壁をぶち破る猛烈な衝撃波を伴って何かが物凄い速度で飛んでは通り過ぎていき、それから真っ直ぐスレイア目掛けて突っ込んでいった。


「――コイツはどうだ?」


 カリストロスの後方から飛来してきたもの、それは120mm対戦車榴弾――即ち戦車砲から発射されたHEAT弾の一発であった。


 その砲弾が放たれた方向に観戦中のレフィリアが目を向けると、いつの間に呼び出したのか、建物の影に隠れるようにして砲塔を向けた10式戦車が配置されている。


 それからその砲撃を皮切りに、様々な種類の武装した軍用車両が次から次に姿を現し始めている様子が確認された。


 紛れもなくカリストロスの能力によるものであろうが、よもや銃撃を仕掛けながら同時に自分の背後へ戦車部隊を召喚から即時展開していたとは。


 とにかく唐突に撃たれた砲弾はスレイアへ見事命中。彼もまたM61の20mm口径弾と同じくそれを避けたりはせずに真っ向から剣で斬り払う。


 切断はされてもヒットした事に変わりない弾頭は炸裂して凄まじい超高圧かつ超高熱の液体金属噴流メタルジェットを撒き散らし、爆炎とともに粉々に吹き飛んだ石の破片や砂埃を大量に発生させては彼をその中に呑みこんでいった。


 あまりに漂う砂煙の多さでスレイアがどうなったのかは分からず、カリストロスは撃ち続けていた右腕からの砲撃を一旦止めて彼の様子を見定める。


 常識で考えれば、そもそも人に向かって撃つような代物ではないので、直撃を食らって無事で済む筈も無いのだが――


「――そいっと」


 突如、スレイアの立っていた位置に竜巻のような旋風と赤い光を帯びた魔力放出による衝撃波が生じたかと思うと、一瞬にして濛々とした黒煙は全てきれいに消し飛ばされてしまった。


 加えてその中心には一切その場から動いていないどころか、ほんのちょっとの怪我も負っておらず、衣服にさえ微塵の破けや汚れすら見当たらないスレイアが相変わらずの笑みを浮かべたまま、余裕そうに佇んでいる。


 つまりは瞬間的にマッハ20もの速度で吹き出るメタルジェットを身体中に直接浴びても、全くのノーダメージだったという訳だ。


(チッ、やはり効かなかったか……何となく判ってはいたが、それでも涼しい顔で受けられるのは癇に障るな……)


 表情にも言葉にも出さなかったが、完全に無傷な敵の様子にカリストロスが内心舌を打っていると、当の本人は何事も無かったかのようにヘラヘラとした調子で話しかけてくる。


「いやあ、流石に戦車砲の直撃はビックリしますねえ。ですがカリストロス殿、一つお約束を忘れておいでですよ?」


「……何?」


「ひとしきりグミ撃ちしたり、大技をぶっぱしてモクモク煙を立たせたら――やったか!? と迫真の表情で言わなければ」


 人差し指を立てながら笑いかけてくるスレイアに、カリストロスは数秒ほど無言になってしまう。


「――そうかよ。じゃあもっと沢山馳走してやるから、遠慮せずに腹いっぱい食らっていけ」


 カリストロスが右腕をガトリングから元の状態に戻しては天高く掲げると、それを合図としたかのように頭上からけたたましい何重ものローター音が鳴り響きだす。


「おや……?」


 それを耳にしたスレイアがふと視線を上げると、あっという間に戦場の上空が数十機もの攻撃ヘリ――AH-64E アパッチ・ガーディアンの大群によって埋め尽くされていた。

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