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勇者剣士と異世界の大魔王の話⑦

「…………ッ?!」


 いきなり自分の得物を手放して捨てるという突拍子もない行為に、普通の者なら自棄でも起こしたのかと正気を疑ったことだろう。


 だが、事ここに至って魔王は別の反応を見せた。怪獣化した頭部では判り難いが、酷く驚愕した表情を示した。


 というのも、魔王はルヴィスが唐突に行った動作が何かを“知って”いたのだ。


「その反応、流石にこれが何なのかは理解しているみたいだな」


 ルヴィスがそう言っている最中にも、空中高く投げられた剣は縦方向に回転しながら20メートル近い高さまで到達し、そこから突然緑色をした眩い光が剣全体から生じだした。


 そしてまた回転しつつ真下へと落下してくるのだが、その時なんと――剣の柄の部分から鏡合わせのように反対側へも剣の刀身が出現したのだ。


 柄を基点に対称シンメトリーとなった武器はいわゆる両刃剣の状態となり、ルヴィスの傍まで落ちてきたところでバトントワリングの如く、紅髪の剣士は華麗にその手へキャッチしてみせる。


「貴様……ッ! それは、その奥義わざは……ッ!!?」


「言っただろ? 俺は勇者の甥だぞ? その俺が、魔王おまえを倒した勇者の秘伝を知らないとでも思ったのか?」


 目を奪うくらい美しい緑光による魔力の激しい奔流を迸らせながら、遥か遠い銀河系のセーバー使いの如くブンブンと光剣を振り回しつつ、ルヴィスは大仰な構えを取って魔王を見据える。


 その気迫は凄まじく、彼の持つ剣からだけでなくルヴィスを中心として周囲から旋風が渦を巻くように放出される魔力がより勢いを増していく。


「おのれぇ! よりによって、その技で我に抗おうとするか! いい度胸だ!」


 苛烈に吠えながらも、明らかに狼狽した様子を見せている魔王は、自らが生み出し侍らせていた魔物の軍勢を慌ててルヴィスへと差し向けた。


 百体近い様々な魔物の群れが、一気にルヴィス一人へと突撃を掛けては群がっていく。


 それらを正面から迎え撃たんと、ルヴィスは自身と武器の出力を最大限に開放しては今、先代の勇者が用いたという最強の奥義を解き放ちにかかる。


「――コメットさん、今です!」


 その時、賺さずレフィリアはコメットへと声を掛けた。


 というのも、ルヴィスがとにかく派手な必殺奥義を披露しようとし、それにまた都合よく魔王も大袈裟な反応を示していることで、六魔将むこうの注意がこちらから逸れていると判断したからだ。


「……ッ! 了解ですわ!」


 レフィリアの意図を即座に理解し、小声で返したコメットはレフィリアのブレスレットに触れるか触れないかのところで手を添える。


 それと同時に、賢者妹もまた急いで逆召喚に必要な魔法陣を形成する為の準備に取り掛かった。


(好きなだけ魔力、持っていって下さい……!!)


 レフィリアがマントを構成している魔力を紐解き、ブレスレットを嵌めている方の手へと流し込んでいく。


 それを受けてコメットが装飾品アクセサリーを神具化する為に、とにかく手順を短縮しまくった必要最低限の簡易術式でありながら、見事なまでに裏技じみた儀礼魔法を敢行した。


「星辰満たす招来の門よ、開け――刻印開始セットッ!」


「万象司る我が神に代わり、星の神子が導かん。願いを器に、望みを形に、今一時だけの奇跡をここに――ッ!」


 通常ならまずあり得ない質と量の魔力で成し得る、発動に必要な工程と時間を極限まで縮めた超速錬成。


 ほんの数秒間だけの限定的なものでありながら、レフィリアのブレスレットは確かに神具となり、レフィリアもそれを直接肌から感じ取った。


 そしてレフィリアの目の前には賢者妹が空中に描いた、直径一メートルちょっとの光の魔法陣が浮かび上がっている。


 そんな中、ついに魔力の収束を極限まで高めたルヴィスは、両刃剣となったラスターソードをぶん回すようにして勇者秘伝の奥義をぶっ放した。


「エメラルド・ストームラッシュ――ッ!!!!」


 その技は、一言で言えば光の鎌鼬であった。


 翆玉の名を冠するに相応しい程の美麗な緑に輝く極光が、剣を振り回すとともに嵐、竜巻、暴風となって広い範囲に飛んでいく。


 解放された光の風は当然、ルヴィス目掛けて突っ込んできていた魔物の軍勢全てに及んだのであるが、流れる光に接触した途端、魔物たちの肉体は一瞬にして細切れに焼き切れてしまった。


 その攻撃はいうなれば、魔力を用いた粒子ビームによるシュレッダーといったところ。通過したところにあるものが何であれ、無慈悲に凄惨に解体していく広域殲滅型全体攻撃奥義。


 しかもルヴィスの放ったものは、アストラルアーマーとラスターソードの強化機能によって、勇者エメルドによる奥義の原典オリジナルよりも大きく規模と威力が上昇していた。


 それから勿論の事、そのような強力過ぎる必殺技に晒されたのは魔物の雑兵たちだけではない。


 当たり前だが、一番後列にいた魔王も殆ど減衰せずに到達した光熱の旋風によって、全身を悉く斬り刻まれた。


「グガアアアアアアアアッ!!!!!!」


 実は魔王は寸前で闇の魔力による防護障壁バリアを張り巡らせる事でダメージを抑えようと試みたのであるが、抵抗虚しく一瞬でバラバラにされた肉体の部位を地面へばら撒き落とす結果に終わる。


 またもや屠られた魔王が闘技場全体の大気を振るわせる程の絶叫を上げる中、準備が全て整ったとコメットはレフィリアに合図を送った。


「レフィリアさん、オーケーですわよ!」


「はいッ! サフィアさん、絶対に連れ戻しますから!」


 コメットの声掛けを受け、レフィリアはサフィアの存在を感じ取れるよう必死に意識を向けながら賢者妹の展開している魔法陣の中へ飛び込むかのように、即座に手を伸ばす。


 神具化したブレスレットを付けた方の腕が光で描かれた円の中を通過し、そのまま入り込んでいく。


 ――途端、レフィリアの視界は急に暗転した。

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