勇者剣士と異世界の大魔王の話⑥
一方、レフィリアたちが事態の打開に向けて話し合っていた頃。
魔王との戦闘を再開したルヴィスは、より苛烈さを増して飛んでくる魔法の複合連続攻撃を避けながら、闘技場内を必死に走りまわり応戦していた。
足下から噴き上がる火柱、頭上から降り注ぐ落雷、宙に漂い炸裂する氷塊、それらを躱しきるのは勿論のこと、加えて更に襲い来る六本の触手を彼は往なしつつ、全て切断していく。
それだけでなく、回避と反撃の合間に生じる予備動作の隙を狙って振り回された尻尾さえも、今度は上手く弾き返しては見事にその先端を斬り飛ばしてみせた。
その大振りが払われたタイミングでルヴィスは魔王の懐まで踏み込み、急接近とともに一撃を与えようと考えたが――突如、魔王が誘い受けに近い不自然な動きを見せたことに不穏さを感じ、跳躍を取り止めて即座に逆方向へと飛び退いた。
「――ッ!!」
ルヴィスが直感的に後ろへ跳んだ直後、彼がいた場所の地面には長さ30センチほどの鉄杭のような細長く鋭い棒状の物体が、幾つも勢いよく突き刺さっていく。
なんと魔王は全身を覆う装甲の如き皮膚の表面から、まるでウニの棘のような突起をビッシリ生やしたかと思うと、それらを纏めて射出してきたのだ。
兵士の軍勢による弓矢の一斉射か、はたまた投槍の雨のように放たれた大量の飛弾はルヴィスを狙って――というよりは大雑把に広範囲へばら撒かれ、まるで剣山を想わせる奇妙な光景を闘技場内に作り出す。
その高速で飛んできた鋭利な杭の間をルヴィスは紙一重ですり抜けるとともに後方へと小刻みに跳び退り、結果的に少しも掠ることなく敵との間合い開けるにいたった。
ところが、魔王の攻撃はそれで終わりではなかった。
「……ッ!? これはッ……!」
魔王が放射状に拡散させてはルヴィスに一発も命中することなく地面に食い込んでいった棘の数々。
それらは刺さった地点から周囲の土を吸い上げるようにして取り込んでいき、急激に膨らむと、まるで粘土細工じみた形状へ独りでに変異していく。
それから各々が異なる姿形へ即座に転じていったかと思うと、あっという間に多種多様な魔物の軍勢が出現してしまったのであった。
「クレイゴーレムの多重召喚……!? いや、大地を素材に一からこれだけの魔物を生み出したというのか!? 随分とまた奇怪な真似を……!」
少し見渡しただけでも小悪魔、悪質妖精、樹怪、怪鳥、魚人、石魔、魔蠍、食人植物、双角馬、巨怪牛、死霊、単眼巨人などと節操のない様々な妖物魔物の顔ぶれに、さしものルヴィスも呆気に取られてはつい悪態をついてしまう。
加えてその中にはオーガキングやボストロール、ラミアクイーンやナーガラージャ、エルダーグールやスケルトンロードといった上位種も数多く存在し、更に言えばグレーターデーモンやアークデーモン等の強力な悪魔すら混じっていた。
現在、視界全域を埋め尽くす魔物どもの軍勢は、単に見た目だけを模倣した土塊のゴーレムという訳ではなく、その一体一体が魔力による仮初の生命を与えられた正真正銘の怪物たちであると、ルヴィスは咄嗟に理解した。
自らが生み出した大勢の魔物たちを見せつけては威圧するかの如く、魔王は厭らしくもすぐには攻撃に掛からずにルヴィスへ話しかける。
「ふっ、今の我であれば僅かな肉片からでも魔の軍勢を作り出す事など造作もない。それにだ、少しは戦法にも変化をつけてやらねば、お主も飽きてくるだろうと思ってな」
「それはまた、お気遣いをどうも……ッ!」
不敵に皮肉で言い返してみせるも、ルヴィスは内心だと非常に面倒かつ厄介なことをしてくれた、と無意識に舌を打ちたくなった。
というのも、広範囲に及ぶ大技で眼前に大挙している魔物の群れを蹴散らすこと自体は、さしてそんなに難しくもない。
だが当然の事、それには魔力を少なからず消耗する上に相応の隙も晒すので、突破口を見つける為に継戦を考えるならば、いたずらに敵を片っ端から迎え撃つという訳にもいかないのだ。
かといってこれまでのようにまた逃げ回って時間を稼いだところで状況は解決しないどころか、ジリジリと包囲されて終いには追い込まれる羽目になってしまう。
無理やり標的である魔王のみに狙いを定める手もあるが、正面に展開している軍勢が壁となって現状だとすぐには斬り込めそうもない。
どうしたものかとルヴィスが思案を巡らせていると――
「ルヴィスさああああああん!!」
突然、自分たちの陣営の観客席側からレフィリアに大声で呼ばれたことで、ルヴィスは敵への警戒はそのままにしながらも、そちらへチラリと意識を向けた。
(レフィリア……?!)
「ルヴィスさん! 私はルヴィスさんのこと、信じています! だからどうか、諦めずに頑張ってくださああああい!!」
そんな会場内の空気を振るわせる程に大きな声援が闘技場内に響き渡って再び戦場がしんと静まった後、魔王が嘲るように鼻を鳴らしながらルヴィスの方を見下ろした。
「これは、これは……良かったなあ勇者よ、今は役立たず同然な聖騎士様からのありがたい応援だ。初めから手など抜いておらぬだろうにもっと踏ん張れと、意地でも現状をどうにかしてみせろ、と無責任な催促を送ってくれているぞ?」
魔王がレフィリアの声掛けに対して小馬鹿にするように皮肉を述べる中、何か考えがあるとばかりに進み出ておきながら、やった事といえばただ声援を送るのみで終わったレフィリアの行動に、仲間達は正直言って意味が判らないと困惑した様子を見せた。
「えっと、レフィリア……今のが天啓? で浮かんだ妙案?」
「別に私は天啓とか妙案がどうなんて言ったりはしてないですけど……でも今ので、おそらくどうにかなるかと思います! ……多分!」
「多分って……結局、ルヴィスに頼るというかもうひと頑張りしてもらうってコトぉ!?」
「まあ……身も蓋も無いことを言うとそうなります。ですが……」
そこまで言った後、レフィリアはどこか手応えを感じたというか、確信めいた表情で闘技場内のルヴィスにもう一度目を向けた。
(私が声を掛けた後、ルヴィスさんは一瞬だけど確かに私へ視線と笑みを返してくれた……! ルヴィスさんにならきっと、伝わってくれている筈……!)
レフィリアの声援を受けたルヴィスは、深呼吸するように大きく長く一息つくと、それから一転して余裕のある顔つきになっては肩の力を抜くかの如く、急に剣の構えまで解いてしまった。
そのような彼の実に隙だらけで不可解な行動に、あえてルヴィスの反応を聞こうと魔物の軍勢たちを待機させていた魔王は怪訝そうに彼を見つめる。
「む? どうした、この絶望的な状況が馬鹿馬鹿しくなって諦めの境地にでも達したか?」
「――はっ、何を言っている魔王。むしろ今の俺は希望も気合も頗る湧いてきて、更なるやる気に満ち溢れているところだ。何ていったって、最高の応援を貰ったからな……!」
自信に満ちた眼差しで堂々とそう告げたルヴィスは、突然片手に握っていたラスターソードを勢いよく、自分の真上へと放り投げた。




