勇者剣士と異世界の大魔王の話②
「決まったッ!」
「やった! ルヴィスがやったぞ!?」
巨大魔獣と化した魔王の首を斬り刎ねたルヴィスの快挙に、ハンターとジェドが揃って拳を振り上げながら大いに歓喜の声を上げる。
いくら魔族の王といえど完全に斬首されたとあっては、紛れもなく即死の致命傷の筈。だというのに、人類側の観客席においてレフィリアと――そして闘技場に立つルヴィスは、いまだ警戒を緩めない険しい表情のままであった。
「……あの、レフィリアさん?」
仲間たちの中で独りだけ、無言のまま眉を顰めている隣のレフィリアが気になって、声を掛ける賢者妹。
「いえ、アレはまだ――」
その時、首と胴体が別たれた魔王の死骸は急に全身がブクブクと泡立ち始め、炭酸が激しく気化するようにしながら一瞬で溶けだしてしまった。
それからまた霧状になったかと思うと、すぐに結集しては大きな靄の塊となってルヴィスの眼前に漂う。
「……流石は魔王。やはり、この程度であっさり終わるような輩ではなかったか」
「当然だ。――とはいっても、10年前の我なら今ので間違いなく絶命していたがな。誇るがよい、お前は間違いなく先代勇者を凌駕していることを先の戦いにて証明した」
まるでテレパシーか何かで語り掛けられているように、何処からともなく響き渡る魔王の声が脳内へと届く。
「だが、我もただ城に籠り玉座に踏ん反り返っていた訳ではない。一度我の首を刎ねた貴様の功績を称賛して、褒美に我の新たな姿を披露してくれよう」
魔王がそう言うと靄の塊だったものが突如、明確な形と質量を以てみるみる現れていき――ルヴィスの視界の先には、更に巨大で禍々しい化け物が聳え立った。
「魔王が復活、ですって……!?」
「おいおい、そんなのアリかよ!? つーか、あのバケモンは何だ!?」
「ちょっ、なんかもっとヤバそうなのが出てきたんですけど!?」
「アレこそが、魔王の本当の姿……!? さっきよりも更に凶悪な魔力を感じます……!」
観客席の仲間達が驚いたり困惑したりで口々に言葉を述べる中、レフィリアも手摺を強く握り締めながら戦場の二人をジッと見据える。
(まさか第三形態まであるだなんて……! いや、別に珍しいことじゃないけど、やっぱり敵も隠し玉を用意していた……! ルヴィスさん、どうか頑張って……!)
「……これはまた、随分と悍ましい姿に変わったものだ」
二回目の変身を遂げた魔王の巨体を見上げながら、ルヴィスは気圧されないよう気丈に構えて呟く。
今の魔王は全身を刺々しい鎧のような皮膚で覆っていて、背中からは竜に似た翼と六本の棘のような突起が生えており、全長も一回り程大きくなっていた。
相変わらず怪獣らしいフォルムはそのままだが、此度の異様さと凶悪さがより上乗せされた形相は、いうなれば“宇宙怪獣”とでもいったように威圧感が段違いに増している。
「くくっ、最高の誉め言葉だ。何よりこの形態での力を実際に振るえる機会をくれた事について、貴様には感謝せねばなるまい。礼は勿論、我の新なる力にて最初に屠られる死の名誉だ」
変身した作用によるものか、少しハイになった様子でベラベラと喋ってはルヴィスを見下ろす魔王。
そんな彼を魔王軍側の観客席にて、エリジェーヌが手摺にもたれ掛かりつつ眺めながら隣のゲドウィンへと話しかけた。
「ねえ、ゲド君。第三形態ってゲド君の仕業?」
「ええ、とはいっても魔王さん本人から請われての改造だけどね。万が一の時を考えて、自身にも新たな力が欲しかったとの事だったから本人の要望に合わせた施術を行ったんだ」
「魔王さま……」
ゲドウィンが明かした情報に対し、メルティカはどこか複雑そうな表情をしながら視界の先に映る異形の怪物を見つめる。
「うん、だと思った。如何にもデザインの方針が変わったっていうか、なんかゲド君とかオデュロ君が好きそうな見た目になったなーって思ったもんだからさ」
「それは目敏い、流石はエリーだね。因みにアレは破壊者の名を冠した大怪獣とか、亀と戦った邪神とか、そんな平成の素敵怪獣たちの形状を色々とミックスさせた感じなんだ」
「ふーん。それはスゴイねえ、よく判んないけど」
二人がそんな風に呑気な様子で駄弁っている間にも、ルヴィスは魔王を見上げながら強い眼差しとともに声を上げる。
「たとえお前がどんな見て呉れになろうと、俺のやる事は変わらない。お前が真の本気を見せたとなれば、俺はそれを乗り越えてみせるまでだ」
「よく言った、今代の勇者よ。であれば、せいぜい我を失望させてくれるなッ!」
そう返した魔王は如何にも怪獣らしい咆哮を上げたかと思うと、広げた翼を羽ばたかせぬまま空中に浮かび上がっては、更に高い位置からルヴィスを見下ろす。
それだけでなく片腕を差し向けると、ルヴィスの全方位の空間にレンズのような丸くて平たい透明の物体が無数に出現し、それらから一斉に眩い光流が放たれた。
「剣陣隔絶結界ッ――!」
咄嗟に反応したルヴィスは剣を地面に刺し、半球状の防御壁によって夥しい光流の斉射を間一髪で防ぐ。
「そう来ると思っておったわッ!」
ところがその対処を確認するや魔王は、自身の背中に二列三本で生えている、計六本の突起を勢いよく射出したかと思うと、それらを触手のように長く伸ばしてはルヴィスに向かって高速で飛ばしていった。
しかも槍状になった鋭い先端は闇の魔力を迸らせて闇属性中級魔法のような状態になっており、刺し貫かれずとも少し触れるだけできっと肉が抉られる程の損傷を受ける。
だが今のルヴィスは陣を敷いて結界を形成している為にその場を動けない。だからといって安易に結界を解けば、即座にルヴィスは全周囲光流照射に総身を焼かれることとなってしまう。
「ルヴィスさん!?」
「ヤベエ! ありゃあ、逃げようがねえぞ!?」
「さあ、どうする勇者よ!?」
このまま群がってくる槍の触手にて滅多刺しにされるか、一か八かと結界を解いた後に成す術もなく光流で焼かれるか――魔王は嘲り笑うように口元を歪ませてはルヴィスを眺める。
「……ッ! 見くびるなよ、魔王!」
しかし絶望どころか動揺すら一片も感じさせずにそう叫んだルヴィスは、剣を躊躇なく地面から思いきり引き抜いてみせた。
これにて展開していた防御結界が消失すると同時に、一瞬で全身を逃れようのない閃熱に晒す事になる――筈だったのだが、何故か結界は途切れずに維持されたまま、光流の照射を遮り続けた。
「なッ……?!」
その光景に魔王は思わず目を瞠って驚きの声を漏らす。陣を解いた筈なのに、ルヴィスを包む防壁は変わらず残ったままだ。
それどころか、発生している魔力障壁は渦を巻くようにして更に強度を増していき、剣の光刃をより強く輝かせたルヴィスは切っ先を突き出すようにしてそのまま一直線に疾走した。
「ラスターソード・アサルトドライブ――ッ!!」
もはや背中に推進装置でも括りつけてジェットで跳躍してるんじゃないか――それ程の勢いで飛び掛かるように突進したルヴィスは、無数の光流による照射範囲を抜けつつ、直ちに迫ってきた触手のうち二本を擦れ違い様に斬り飛ばした。
それから一息で数十メートル先まで移動した後、ブレーキを掛ける為に反転するように足を止めては、すぐさま魔王の方を振り向く。
「貴様、何を……ッ?!」
「なあに、こちらもちょっとした新しい機能のお披露目だ。もしもの事態に備えて準備をしていたのは、そっちだけじゃあないって事だ」
そう言って一旦、防御結界を解いたルヴィスは剣を構えなおしながら、あえてわざとらしく魔王へ挑発的なしたり顔を浮かべてみせた。




