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勇者剣士と異世界の大魔王の話①

 レフィリアたちと六魔将らがそれぞれ円形闘技場コロシアムの観客席側へ向かい合わせに移動し終えたところで、舞台中央に残った二人の男のうち、魔王がまず口を開く。


「双方のギャラリー、ともに配置へ着いたようだな。――では今代の勇者よ、準備はよいか?」


「勿論だ、いつでもいいぞ」


 そう言ってルヴィスはビームのような光刃を輝かせたラスターソードを携えつつ、どこからでも掛かってこいとばかりに臨戦態勢を取っては対峙している魔王を見据える。


「ふむ、その大層な武器に鎧。何より漂わせている気迫……我に大言を吐いたのも伊達という訳ではなさそうだな。貴様は既に、我を下した時の先代勇者を遥かに超えている」


 顎髭を指で擦りながら、まるで骨董品を品定めするかのようにルヴィスの様子を観察した魔王は、そのように感想を述べる。


 流石は魔王を名乗っている存在だけあり、今の彼がどれ程の力を持っているのかを視ただけで大方認識できているようだ。


「であれば第一形態にんげんとしての恰好で戦っても前座にすらならないであろう。光栄に思うがいい、貴様には初めから我の真なる姿で相手をしてくれる」


 途端、急に魔王の輪郭が溶けるようにぼやけては霧状になったかと思うと、それが湧き立つ蒸気の如く拡散していっては何やら巨大な影を形作っていく。


 そして弾けるような魔力の連鎖反応による突風や稲妻が巻き起こってから数秒後、ルヴィスの目の前には十数メートル程ある異形の怪物が圧倒的な存在感を伴ってその巨体を晒した。


「わっ、魔王が変身した……!?」


「如何にも魔族どものかしらって感じの禍々しい見た目してんじゃねえか……!」


 観客席の手摺から身を乗り出して呟いたジェドやハンターに続き、レフィリアも明らかにラスボスっぽい見た目をしたモンスターの登場に思わず目を瞠る。


 変身を遂げた魔王は、全体を見回してみると魔獣や竜種といった感じとはまた異なる雰囲気の形状をしていた。


 例えるならばそう、アレは特撮にでも出てきそうな怪獣であった。某亀の大魔王から愛らしさを抜いて、某怪獣王のような厳つさを足し合わせた化け物だった。


 物騒な牙と角に、太くて長い尻尾。黒くてゴツゴツとした全身には、流れる溶岩を想わせるオレンジ色の紋様ラインが至るところに浮かんでいる。


(ちょっ、最初っからいきなり第二形態……!? いや、アレがあの魔王の本来の姿ってこと!??)


 もしこれが王道ファンタジーRPGなどであれば、第一形態にある程度ダメージを与えたところで敵が本気を出し、第二形態へ移行するものなんだろうが、視界に映る魔王はそんなお約束通りの行動はしてこなかった。


 それだけルヴィスの有している力量を的確に把握し、本気で挑んできているという事なのだろう。所詮は人間の戦士などと悠長に玩弄したりせず、初っ端から全力を振るってくるつもりらしい。


「ならば行くぞ。手始めにまず、この一撃をどうにかしてみよ」


 そう宣った魔王は、すうっと息を吸い込んだかと思うと、口を開いてはルヴィス目掛けて強烈な火炎を吐いてきた。


 いや、それは火炎というよりは、もはや放射熱線のそれであった。


 メルティカの相棒であったドラゴンたちのブレスに比べれば流石に劣るものの、それでもその威力は大挙した数百人の兵士たちを一瞬で焼き払えるくらい悍ましいもの。


 ナパームと同等かそれ以上の火力は人間を炭化させるどころか、鋼鉄さえ瞬時に溶解させてしまう。竜種の火息と同じく、数で攻め入る人間を容易く大量虐殺できる広範囲攻撃がたった一人の男に向かって放たれる。


「――剣陣隔絶結界!」


 だが、ルヴィスはその業火を真正面から見つめては一切怖気づくことなく対峙し、賺さず剣を自分の足元の地面へと突き立てた。


 そして防御結界を展開し、迫る火炎放射を真っ向から受け止めては完全に防ぎきってしまう。半球状の障壁が脇に炎の波を分けては逸れていき、周囲の温度が一気に上昇していく。


 その始終を見届けた魔王は悔しがるどころか満足そうに笑いながら、火炎を吐くのを止めると片腕を掲げるように上げた。


「ほう、これを難なく凌いでみせるとは、口先だけの勇者でないのは確かなようだ。――であれば、果たして次はどうかな?」


 魔王がそう言うと、突然彼の周囲の空間に何も無いところから無数の岩塊や瓦礫が浮き上がった状態で出現する。


「――ッ!」


「ふんッ――!」


 ルヴィスが身構えたのも束の間、魔王は自身の周りに漂わせた大量の瓦礫を彼に向かって一斉に射出してきた。


 散弾の如く高速で飛んでくる岩塊それらは一つ一つが自動車くらいの大きさをしており、ぶち当てられようもんなら一溜りも無い。


 加えて物理攻撃としての特性が大きい以上、先の火炎と違ってルヴィスの防御結界では防ぐことが叶わない。故にルヴィスは直接回避行動を取らざるを得なくなる。


「なんのっ、この程度――ッ!」


 しかしルヴィスは嵐のように流れ飛んでくる無数の岩を機敏に避けていっては、隙間を潜り抜けつつ、そのまま魔王への接近を試みた。


 ほんの少しも掠ることなく全ての瓦礫を避けきっては、迂回するようにして即座に魔王の背面へと回り込んでいく。


「ふッ――!」


 背中ががら空きだとばかりに飛び込んでは急接近するルヴィス。とはいっても、それを感知できていない魔王ではない。


「甘いわッ!」


 そう叫んだ魔王は、先端が槍のように尖った尻尾をルヴィスへと勢いよく伸ばした。もはや射出されるように伸縮した尻尾の突起が、ルヴィスの胴を刺し貫ぬかんと襲い来る。


「はあッ――!」


 ところがルヴィスはほんのちょっと横へ逸れるように躱したかと思うと、流れるような動作で魔王の尻尾を切断してしまった。


 大木を彷彿とさせる太さの尾が、一刀の下に見事斬り捨てられ、地面へと無造作に転がっていく。


「ぬううッ……!? おのれッ!」


 負傷した魔王は懐まで急接近してきたルヴィスの斬撃を済んでのところで飛び退くように躱すと、空中へ浮かび上がってはそれから頭上高くへと移動し、ルヴィスとの距離を大きく開けた。


「やるな……随分な身のこなしだが、コイツはどうだ!?」


(来る……ッ!!)


 その後、魔王が腕を差し向けたところで、ルヴィスは何かを感じ取ったように咄嗟に緊急回避を試み大きく後ろへ跳躍する。


 彼がその場を離れてすぐ、元居た場所の足元からは間欠泉のように猛烈な炎が噴き上がった。


 高さ15メートルにまで及んだそれは、まさしく火の柱だ。当然、直撃を食らう訳にはいかない。


 だがその一発だけでは終わらず、まるで逃げるルヴィスを追いかけるように連続して彼の足元から幾つもの火柱が発生していく。


「くッ……!」


「よく避ける。ならば、こちらも追加サービスしてやろう!」


 魔王は口元を邪に歪めると、今度は彼の頭上から落雷による矢のような電撃投射を連射してきた。


「ちいッ……!」


 地面からの火柱と上空からの雷電による板挟みの追撃に、さしものルヴィスも面倒だと舌を打った。


 今のところは完全に避けきれているが敵の連続攻撃はあまりにしつこく、現状のままだと魔王への接近はなかなか望めそうにない。


「くくっ、見事な動きだがいつまで続けられるかな? ただ踊っているばかりでは、我は倒せぬぞ!?」


 回避行動に専念しているルヴィスを空中に浮かんで見下ろしながら言った魔王は、そこから更に相貌を輝かせると、その眼からレーザーのような光線をルヴィスに向かって飛ばした。


 白い一筋の閃光がルヴィスの身体を穿たんと放たれ、彼が火柱と落雷を避けた先の地点を狙っては不意打ち気味の偏差狙撃が行われる。


「迂闊――ッ!!」


 しかしそれへ瞬時に反応したルヴィスは、ほぼ無意識のうちに剣を振っては魔王から撃たれた熱視線を光の刀身にて弾き返した。


 本来なら極度の集中を必要とする剣戟反射リバースセイバーを此度は即座の反撃にて成功させ、真っ直ぐ跳ね返されたレーザーはそれを発射した魔王の瞳へと返っていく。


「がああああああッ?!!!」


 獲物を貫いたつもりが、あろうことか自身の眼が反射された光線によって文字通り焼かれたことにより、流石の魔王も痛々しい叫び声を上げる。


 いわゆる目潰しが決まって火柱や落雷による追撃が止んだ途端、その好機を逃さずルヴィスはラスターソードへ魔力を注ぐとともに、一気に跳躍しては魔王の眼前へと飛び掛かった。


「クリティカルブレイド・オーバーエッジ――ッ!!」


 何倍にも伸びた光の刀身が眩い軌跡を描く。


 ――本当に一瞬だった。魔王は避けたり防ぐどころか反応する間もなく、その太く大きなそっ首が光剣による一閃で思いきり刎ね飛ばされていく。


 急所である首をやられたことで意識を失ったのか、空中高くに浮遊していた魔王の巨体は崩れ落ちるように重力に従って落下し、軽やかに着地したルヴィスと共に地響きを立てて地面へ転がった。

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