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魔族の王と異世界で対面する話④

「「…………ッ?!!」」


 突然、そんなことを声高に宣言しだしたルヴィスに仲間達は困惑し、一番傍にいたレフィリアにいたっては思わず彼の肩に手を掛けた。


「ちょっ、ルヴィスさん!?」


「……正気か、貴様?」


「無論、冗談でこんな事を言うつもりはないのだが?」


 本気の決意を告げたと気丈にして譲らないルヴィスの様子に、魔王の近くに控えているメルティカが呆れたとばかりに酷く冷めた目を向けてため息をつく。


「はあ、一体何を言い出すかと思えば……我々の手には何が握られているのか、それをもう忘れてしまったのですか?」


 言いながらメルティカはその手に持っている、サフィアの囚われた闇天黒晶ヴォイドクリスタルを当てつけがましく見せつけてくる。


 確かに、両者が交渉の材料に持ち出している物の価値で考えれば、魔王軍側が所持しているものの方がずっと影響力が大きいのはどうしようもない。


 だが魔王は威圧してくるメルティカへ片手を向けて制すと、ルヴィスのみを凝視しては小馬鹿にするように鼻を鳴らして肩を竦めた。


「ふっ、くだらん。今更そんな昔の所持品を見せつけられたところで、とうに未練などないわ。貴様は随分と侮っているようだが、我は魔王だぞ? たかだか飾り物の一つ、交渉材料になどなる筈もない」


「…………」


 それもその筈だ、と謁見の間にいる誰もがそう思った。たとえ味方側からしても正直、ルヴィスの示した物による取引は厳しい物があると。


 だとしても、ルヴィスは少しも視線を逸らすことなく決心の固まった表情で魔王の眼をずっと見つめ続ける。


「――だがな」


 すると魔王は嘲りの態度から一転して真面目な顔つきになっては、座っていた玉座から腰を上げて数歩前に歩み出た。


「貴様があの勇者エメルドの血と意志を継ぐ、次代の勇士であると判ったのなら話は別だ。我は過去の雪辱を自らの手で直接払いたいと願ってやまなかった。……面白い。貴様の挑戦とやら、受けてやろうではないか」


 如何にも魔族の頭目といった戦慄の王気オーラを迸るほど漂わせてそう宣言した魔王に、メルティカとエリジェーヌは予想外とばかりに驚いた顔を見せた。


「えっ、魔王様……!?」


「ちょっ、アレだけ色々言っといて受けるんかーい! ていうか、マジで受けんの!?」


「勿論だ、魔王に二言はない。あの男は一対一の決闘を所望しているのだろう? こちらとてまたとない機会、望むところよ」


 既に静かながら邪悪な闘志を滾らせだしている魔王に、メルティカが考え直してくれとやや慌てた様子で近くへ寄っていく。


「いえ、魔王様。わざわざ貴方様が手を煩わせずとも、こちらにはこの――」


「まあまあ、いいじゃないか。二人とも」


 途端、宥めるように魔王とメルティカの間へすうっとゲドウィンが入ってきては彼女を止めた。


「ここは久方ぶりにやる気になっている魔王さんの好きにさせてあげたらどうだい?」


「ゲドウィンさん……!?」


 往く手を遮られたメルティカは、たとえ仲間であろうと露骨に不満の籠った目でゲドウィンを睨んだ。しかしゲドウィンがそれに動じることは全く無い。


「あれ? ちょっと意外、こういう不安材料の孕む不確定要素ってゲド君なら真っ先に止めそうなもんだけど?」


「まあ、確かに魔王さんの敗北はそのまま僕たちの強制退去に繋がってしまうから、止めるのが普通だとは僕も思うよ? でも魔王さんの気持ちも解らなくもない。だって挑んできた相手が因縁浅からぬ宿敵の関係者、かつ親族とあってはねえ……」


 何とも白々しさを感じる口調でベラベラと述べながら、ゲドウィンは人差し指を立てる。


「それに僕も魔王さんが負けるだなんて微塵も思っちゃいない。何も聖騎士レフィリアとり合うって訳じゃないんだし。ここは我らが主君を信じて見守ってあげようじゃないか」


「うーん、ゲド君がそこまで言うなら私は別にいいんだけどさ」


 肩を竦めながらあっさりそう答えたエリジェーヌに、メルティカは余計困惑した表情で仲間の二人を見つめた。


「えっ、エリジェーヌさんまで……その、いいん、ですかね……?」


 六魔将連中がそんな会話を繰り広げている中、別の意味で戸惑っているレフィリアがルヴィスへと再度声を掛ける。


「ルヴィスさん、大丈夫なんですか? 一騎打ちだなんて、大変な事態になっちゃってますけど……」


「いいんだ。むしろこれは俺が望んでいた通りの展開になった。魔王の言葉をそのまま使わせてもらうなら、またとないチャンスの到来だ」


「確かに、この戦いに勝って魔王を討ち滅ぼせば、一気に全ての終止符が打たれる事になるな……」


 腕を組みながら答えるハンターに、コメットもまた同意を示す。


「そうですわね。前に皆さんから聞いた話では、あの魔王は六魔将にとってレフィリアさんとサフィアさんの関係と同じく、召喚した者とされた者の繋がりがあるのですわよね? ならば――」


「もしここで魔王を仕留められれば、それはそのまま六魔将全員への打倒に繋がる……!」


 結論を賢者妹が口にし、ジェドがグッと強く拳を握った。


「だったらこれは正真正銘の大一番だ! ルヴィスだけに任せる事になるってのだけが正直アレだけど、僕は全力で応援してるから……ッ!」


「ああ、頼む。どうせ一か八かの賭けをするのなら、このくらい大きい一発逆転ギャンブルでないとな」


 仲間達から実質的に同意を得られたところでルヴィスは魔王へと向き直り、彼もまた再度口を開く。


「ならば勇者の甥にあたる青年よ。我らの決闘について、ルールの確認を行おうではないか」


「承知した。この決闘は所謂いわゆるタイマン――つまりは俺とそちらの力量のみで雌雄を決したい」


「ふむ、ならば此度の戦いはどちらかの死によって勝敗が決定し、両陣営とも誰一人として他の者が横から介入する事を認めぬものとする。――これでよいな?」


「ああ、それでいい。その内容であれば、こちらに異論は全く無い」


 ルヴィスがそう述べたところで魔王は厳かに頷いたかと思うと、急に微笑を見せては片腕をスッと上げた。


「であれば、いずれ決戦こんなこともあろうかと用意しておいた、相応しき舞台へとご案内しよう」


 そしてパチンと指を鳴らすと、突然視界に映っていた景色全てが大竜巻に呑まれるかのように切り替わっていき――一同は一瞬にして、いつの間にか円形闘技場コロシアムのような場所へと移動してしまっていた。


「……ッ!?」


「ここは……ッ!!?」


 謁見の間から一転して、運動競技場よりも遥かに広大な空間へ移り変わったことに一行の皆々が驚く中、レフィリアに至っては以前、ナーロ帝国でオデュロと戦った時の試合場を思い出すこととなった。


 しかしあの時の場所よりも更に規模が大きく、頭上を見上げると銀河をそのまま嵌め込んだかのような美しい星空が何処までも広がっている。


「これって、幻術でも空間転移でもない……先ほどまでいた部屋の中の世界が、そのまま変化した……!?」


「そう、これは言うなれば決戦のバトルフィールドっていうヤツさ」


 室内限定とはいえ世界そのものの切り替えというとんでもない魔法行使が行われたことに賢者妹が驚いていると、どこか自慢げな様子でゲドウィンがそのように話し出す。


「もし魔王城の最奥に勇者パーティが攻め込んできた時、必要になるだろうかと僕が予め拵えておいたのさ」


「なるほど、確かにこの広さと構造なら非常にお誂え向きだ。全力で思う存分、技を振るえるというもの」


「ルヴィスさん……」


 コロシアム全体を見回しては自信に満ちた様子で不敵に答えるルヴィスをジッとレフィリアは見つめる。


 そんな彼女にルヴィスはすぐ傍で向き直っては、その目を正面から見つめ返した。


「レフィリア、コイツを預かっていてくれないか?」


 そう言って彼が差し出したものは、先ほど魔王に交渉材料として持ち出したくだんの首飾りであった。


 彼女に持たせておけば、今いる面子の中で最も奪われる心配はないであろうとのルヴィスからの信頼をレフィリアは感じ取る。


「……はい、でしたら私が」


 レフィリアが彼の手から首飾りを受け取ったところで、ルヴィスは静かにだが大きく一回深呼吸した。


「――これこそが、絶対に負けられない戦いってヤツだな。レフィリア、どうか俺の勝利を願っていてほしい」


「ルヴィスさん……どうか、ご武運を!」


 レフィリアは彼の手を取ると強く握り、それに彼もまた応えてはしっかりと握り返す。


「ありがとう……じゃあ、行ってくるぞ!」


 辛気臭い表情ではなく、あえてスポーツ選手が向けるような気持ちのよい微笑を一瞬浮かべたところでルヴィスはレフィリアの手を離すと、これから死合う魔王の方へと向き直っては歩み寄っていった。

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