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魔族の王と異世界で対面する話③

「――ちょっと待った!」


 すると、レフィリアが返答する前に彼女の後ろから一人の男の声が響き渡った。


 その叫びが聞こえた方を謁見の間にいる全員が向くと、レフィリアの背後からその隣を抜けて更に前へ進み出る紅い髪の剣士、ルヴィスの姿があった。


「魔王よ、聖騎士レフィリアを問いただす前に一つ宜しいかな?」


 全く恐れを見せず堂々とした振る舞いで話しかけてきたルヴィスの様子に、魔王は極めて辛辣な態度で彼を睨んだ。


「何だ、貴様は? 我は聖騎士に縋るしか出来ない、矮小で脆弱な人間キサマらに話すことなど何もないのだが?」


「まあ、そう冷たい事を言わないでくれ。ところで魔王、こんな物に見覚えはないか?」


 そこでルヴィスはポケットに手を突っ込むと、その中からシャランと金属製の何かを取り出しては魔王によく見えるよう掲げてみせた。


 それは黄金造りの鎖帯で繋がった装飾に、どこかの石の仮面にでも取り付けられそうなくらいに大粒の丸い紅玉ルビーらしき宝石が嵌め込まれたアクセサリーと思わしき代物であった。


「なッ……?! 貴様、何故それを……ッ!!」


 その装身具を視認した途端、これまでずっと厳めしく落ち着き払っていた魔王が一転して明らかに動揺した様子を見せ、その反応に傍で控えていた六魔将らは何事かと首をかしげながら注目する。


「ん? 何あれ? なんかキレーな首飾りっぽいけど、何で魔王ちゃんがそんなに狼狽えちゃってる訳――」


「おい、貴様! それを何処で手に入れた!?」


 エリジェーヌの言葉を遮って声を荒げた魔王に対し、ルヴィスは手応え有りといった確信のある表情を浮かべながら、ネックレスらしい装飾品を握った手を降ろした。


「なるほど、その反応……やはりこれはそちらにとって大切な品に間違いないようだな」


「それを何処で手にしたと訊いているのだ!!」


「……魔王様?」


 思わず玉座から立ち上がって遂には怒鳴りだした魔王の姿に敵味方関係なく集った全員が困惑する中、ルヴィスだけが余裕のある佇まいで眼前の相手へと話しかける。


「そう喚かないでくれ。そんなに騒がなくても、ちゃんと教えてやる」


 そんなルヴィスの静かにしろと言わんばかりの圧が込められた言葉に、魔王は憎々し気に彼を睨みつけながらも話の続きを聞く為、それ以上声を上げることなく再び玉座へ腰を下ろした。


 それを確認して、わざと数秒の間を開けたところでルヴィスは魔王を見つめながら口を開く。


「――これは今から10年前、勇者エメルドが魔王を打ち倒した後に、魔王城から持ち帰ってきた品の一つだそうだ。……少なくとも、俺は叔父からそのように聞かされている」


 その話を聞いたところで、急に魔王は何かへ気づいたような顔をしながら唸るようにルヴィスの顔を覗いた。


「……そうか。もしや貴様、あの勇者おとこの血縁だな? この我ともあろうものが、今頃になって気づいたわ。その翠玉の如き瞳、忌々しくも我が好敵手と認めたあの英傑によく似ている」


「おや、判るものなのか? ああ、一応その通りだ。俺はお前から一度世界を救った英雄おとこ、勇者エメルドの甥にあたる」


 そんな二人の会話を聞き、魔王の傍に控えているゲドウィンが腕を組みなおしながら思い出すように呟く。


「ふうむ……勇者エメルドとは確か、過去に魔王さんを打ち負かした人間の戦士の名だったかな? 僕たちが異世界こちらに来てからまだそんなに経たないうちに、カリストロス君が仕留めたっていう……」


「でも、それとあのアクセに何の関係があるの? アレってそんなに魔王ちゃんの大切なもの?」


 エリジェーヌからの問いに、彼女の方をチラリと見て魔王が話し出す。


「それはだな――」


「それは、この装飾品に魔力を通すと分かる」


 しかしルヴィスがわざわざ彼の言葉を遮ると、また手に握ったネックレスを掲げては言った通りにその装身具――に、嵌め込まれている宝石へと魔力を流し始めた。


 途端、紅玉が輝き出したかと思うと、彼の正面にまるで立体映像ホログラムの如く一人の女性らしき者の姿が現れる。


 それは雪のような銀色の長い髪を伸ばした、魔族ながらもとても美麗で気品に満ち溢れた雰囲気の、如何にも高貴そうな容姿の人物であった。


「えっ、女の人……? でも、この姿ってなんだか……」


 突然映し出された謎の女性の映像を目にして、レフィリアは知らない相手の筈なのに、どうにも何処かで見覚えがあるような感じがしてならなかった。


 その奇妙な感覚の正体について探っていると、急にエリジェーヌが指を差しては何かへ気が付いたとばかりに声を上げる。


「あっ! 魔王ちゃんの娘さんの――そうそう、ロズェリエちゃんに似てるねっ! なんか髪型とか髪色は違うけど!」


 そんな彼女の台詞にメルティカは小さく息をつく。


「エリジェーヌさん、ロズェリエ嬢の御髪おぐしの色は元々銀髪ですよ。カリストロスに出会ってから黒く染めただけであって」


「ん? そういや、そうだったっけ? ロズェリエちゃんって髪黒い印象しかないから、つい忘れちゃってたわ」


 呆気らかんとしながら返すエリジェーヌに、仕方ないかと肩を竦めるメルティカ。確かに六魔将じぶんたちにとっては黒髪だった頃のロズェリエの方がずっと印象深い。


 だがそれとは別に今、目の前に映されている魔王令嬢ロズェリエによく似た顔立ちの淑女に、メルティカもまた何か引っかかる違和感を覚えていた。


「それにしても、あの宝石から投影されている御方の姿はもしや……」


「そこに映っているのは、今は亡き我が伴侶だ」


 魔王が謁見の間全体によく通る声でそう答え、その一言に全員の視線が一気に彼へと集まった。


「えっ、うっそぉ?!」


「おやおや、それはまた」


「では、この女性が魔王様の……」


「――やはり、そんなところだったか。俺が過去に叔父から聞かされた話はこうだ」


 六魔将の三人が口々に反応する中、ルヴィスは手にしたアクセサリーの宝石を未だに光らせたまま話し出す。


「勇者エメルドは魔王を征伐して魔王城から帰還する際、偶然この装具を拾った。そして故郷に戻ってから接収品の一つとして、専門家に鑑定を依頼したそうだ」


「鑑定……ですか?」


 レフィリアの問いにルヴィスは頷く。


「ああ、エメルドもこの装具を魔王が身に着けていた物の一つだと認識していたようで、もしこれが呪いの装備だったりすると今後の取り扱いに困るかもしれないと考えたみたいでな」


「確かにどれだけ高価で優秀なアイテムも、呪われてちゃ下手に売ったり自分らで再利用って訳にもいかねえもんな。当然っちゃ当然だ」


「それでコイツを鑑定士が診た結果、この首飾りの宝石には誰かの魂がほんの一欠片ほどではあるが封じられ――いや、保存されており、その対象の生前の姿をこうして映像化する……そんな機能しか有していないと告げたのだそうだ」


「てことは、まさか……」


 つい口元に手を当てて呟きを漏らしたレフィリアに、その通りだとルヴィスはもう一度首を縦へ振った。


「そう、そこの男は人類を脅かしている魔の大王でありながら、その実は亡くした妃をいつまでも想い続けている、どうにも人間臭い愛妻家だったという話だ」


 ルヴィスの言葉に魔王へ集まっていた視線と場の空気が奇妙なものへ変わっていく中、当の魔王は息をつきながら様々な感情を抑え込むような顔をして、無造作に長い髪を掻き上げる。


「……そうか、勇者との戦いで紛失したとばかりに思っていたが、よもやあの男が持ち去ってしまっていたとはな……」


「俺の叔父も宝石の映像を見て思うところがあったのか、この装具をおいそれと人に見せたりなどはせず、ただ保管だけしていたそうだ。まさか叔父が推測していた考察が、ほぼその通りの真相だったとは俺も驚いたがな」


 そこまで言って宝石に流していた魔力を切っては女性の映像を消したところで、レフィリアがルヴィスの方を向く。


「ルヴィスさん、それってもしかしてこの前、エーデルランドに戻った時に……」


「ああ、急にこんな物があったなと思い出したもんで親父に頼んで叔父の遺品から持ち出してきた。場合によっては何かの役に立つかもしれないと思ってね」


「――それで、我が昔無くした私物を今頃見せつけて、貴様はどうするつもりなのだ?」


 すると、この謁見の間を訪れて初めの冷酷な態度と厳格な雰囲気を取り戻した魔王が、凍てつくほど鋭い眼を向けながらルヴィスへと問いかける。


 しかしルヴィスはその視線に一切怯むことは無く、手にしていた装飾をグッと掌へ押し隠すように握り締めては、真っ直ぐに魔王を見つめ返した。


「魔王よ、俺はこの宝物を賭けてお前に一騎打ちを申し込みたい」

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