空中要塞と異世界を覆す力の話②
「……その物凄い物、というのは?」
「舟箱庭園の中枢には動力源の魔力炉心部――夢幻永久機関、テスタメントコアがあります。それは通称、“星杯”と呼ばれる超抜級魔導装置。――言うなれば、レフィリアさんの解呪目的にメレシュタリカが作成した“杯”を更に超々大規模化した品物とでもいうべきでしょうか」
その例えに、実際にメレシュタリカからの施しをその身で体感したレフィリアは、絶大であろう力の程を想像してつい言葉を失ってしまう。
あの杯でも、とてつもない規格外の逸品だったというのに、それを遥かに凌駕するような遺産を魔王軍は今、手中に収めようとしているのか。もしそれが叶ってしまえば、余計レフィリアたち人類側の勝ち目が絶望的なまでに遠ざかってしまう。
「永久機関、ですか? ……有り得ない、幾ら途方もない技術を持っていらっしゃる旧文明の方々だとしても、流石にそれは……」
困惑して呟く賢者妹の考えを汲み取るように、コメットは息をついて彼女を見る。
「貴方がそう思うのも理解できますわ。半永久であればともかく、完全なる永久機関だなんて自然の――いえ、宇宙の摂理的にあり得ませんし、あってはなりません。……ですが」
コメットは表情を引き締めると、どうしようもない真実を告げるように一同をジッと見据えた。
「“アレ”は事実としてそういう代物なのです。何といっても、その元となっているのは――“神の遺骸”なのですから」
「神の遺骸……!?」
「はい。少し前提となる神話の話をしますが……」
仲間達の視線が集中し、より緊迫した空気になっていく中、コメットは続ける。
「貴方がたもご存じのメレシュタリカこと女神ミシュタリア。私たち旧文明の民が崇拝していた創造神にして最高神には元々、分身となる七柱の神がいました」
「ミシュタリアの子供……ですか!?」
「ええ、といっても生物が紡いでいくような子孫としての関係ではなく、むしろ分け身のようなものですけれど」
「如何にも超越的存在である神様って感じの話だな……それで?」
「メレシュタリカはこの世界の枠組みや基盤を一通り構築した後、それからの創造と運営を生み出した分身たる七柱の神に任せて、自らは暫く眠りにつきました」
「えっ!? 一番偉い主神のくせに、世界の発展まで自分でやらなかったの!?」
呆れたように声を大きくして言ったジェドに、コメットは肩を竦めながら話す。
「その通り。というのも、全部自分でやってしまっては完全に出来上がって確立された世界を玩弄する愉しみが失われてしまうからと。つまりは自分も知らない未知の発見を求めた訳です」
(まあ、助かに初めから内容が全部分かりきってる作品なんて、どうしても詰まらなくなりますけど……コメットさんたち、超古代に生きた方たちにとっては傍迷惑な話ですよね……)
「それに創世から後の世界運営を進めたのはあくまでメレシュタリカの分神たちですから。結局はメレシュタリカ本人が執り行ったのと功績としては同じという事になってしまいます。そして、ここからが本題なのですが……」
そこでコメットは神妙な面持ちになりながら、おもむろに髪を掻いた。
「実はそのメレシュタリカ、そろそろ世界がいい感じに仕上がった頃合いだろうと起床してその出来栄えに満足すると――なんと、あろうことか今まで世界運営に従事してきた七柱の神を全て皆殺しにしてしまったのです」
「はああッ?! 何で!?」
「ちょっ、皆殺しってそんな……!」
あからさまに驚いてみせるジェドとレフィリアを一瞥し、コメットは更に話の続きを述べた。
「メレシュタリカからしてみれば、分け身に割いた自身のリソースを回収しただけに過ぎないのでしょうが……要は、その世界で既に主役的な立場となっていた生物である人類たちの信仰をバラけさせず、自身へ一点に集まるつもりだったのではないかと言われていますわ」
「つまりは数ある神々の頂点たる主神ではなく、ただ一柱のみで世界を支配する唯一神としての在り方を望んだ訳か。まあ、この辺りの話は人間側が口を挟む事ではないのだろうが……」
「それで、そのメレシュタリカに滅ぼされた神々の遺体が、あの巨大建造物の動力に用いられていると?」
「左様ですわ、サフィアさん」
コメットは頷き、山の中から一部が露出している舟箱庭園と思しきものを再び見つめる。
「我々旧文明の民は存亡の危機に際し、各地で発見、発掘されていた神々の遺骸を加工して、合計七つの“星杯”を作り上げました」
「七つ……てことは、一柱につき一つずつ、その星杯ってのを生み出していったんですね?」
「はい。星杯の使い道は色々ありましたけど、その作成を受けて建造された舟箱庭園は全部で二機。そのうち一機は宇宙へ旅立ち、もう一機は大地へ潜む事が決定されたと聞いていますので、今あそこに見えているものはその後者の方なのでしょう」
「そうか。コメットはその計画が実行される前に、例の女神様からあの遺跡に封印されちまったって訳なんだな?」
「そういう事になりますわ。まあ、私が眠らされたのは舟箱庭園が完成して間もない頃でしたので、まだどちらの派閥につくのかは決めかねていたのですけど」
過去の記憶を辿るかのように一旦息をついて数秒黙ったところで、コメットは再び口を開いた。
「……話を元に戻しますわ。魔王軍にはあの空中要塞を建造出来るほどの、魔導に長けた術者がいるのですよね? だとすれば、要塞の下にあるものが舟箱庭園だった場合、星杯の存在も、そしてそれがどういった代物なのかも既に把握している筈」
この時点でコメットが何を言いたいのかをある程度予想出来てしまい、一同は思わず息を呑んだ。
「まだすぐにという訳ではなさそうですが、魔王軍側の動きをあのまま放置していると、いずれ取り返しのつかない事態になってしまいますわ」
「確かにコメットの言う通りだよ! ていうかもうアレって、こっちが考えてる以上にかなりヤバいとこまで来てるんじゃない!? 無尽蔵に魔力を得られるような神様の力なんて手に入れられたら、それこそ僕たちの勝機が失われちゃうよ!」
慌てて意見を口にしたジェドに、賢者妹も暗い顔で同意する。
「どう考えても拙いですよね……見たところ向こうの作業もだいぶ進んでいるみたいですから、状況的には非常に宜しくないと思います。今回の任務はあくまで偵察ということですけど、星杯の存在が事実ならば、早急に手を打った方がいいのではないですか?」
「俺ちゃんも賢者の嬢ちゃんに賛成だ。空中要塞の方へは乗り込まなくとも、あっちのアスティリアっつーヤツの中に潜入して、せめて無限魔力炉とやらの奪取なり破壊を検討した方がいいんじゃねえのか? きっと悠長に構えてる時間なんかねえと思うぞ?」
「俺もそう思う。魔王軍の連中がこの地で何をしようとしているのか、その企みがある程度推測できた以上は早急に対処せざるを得ないな。本当は戦力を整えてから突撃するべきなのだろうが……状況が状況だけに仕方がない」
「私も兄さんと同じ考えです。後になって本当に手も足も出なくなる前に、敵の目論見を潰しておくべきかと。――レフィリアさんはどう思いますか?」
サフィアから話を振られたところで、レフィリアはどこか困った表情をしながら言い淀むように言葉を詰まらせた。




