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北国で潜む異世界の昏き牙の話⑧

「そういえばレフィリアさん。あの首だけになった男を最後に斬り伏せた時、何やら猛烈な濃度の呪詛を浴びておられましたが……その、大丈夫でしたか? 見たところ、一応は防がれていたようですけど……」


 すると唐突に尋ねてきたコメットからの指摘に、レフィリアもまた思い出したように自身の身体を見下ろしてみる。


「あっ、言われてみれば何か赤い煙みたいなのを撒き散らしてきましたね……でも全然平気ですよ。これといって変な感じもなければ、具合は悪くありませんから」


「そうですか……それでも戦いの後ですし、ひとまずは回復を――って、あれ?」


 剣で直接斬られていないとはいえ、石像に激突したりなどで少なからず相応の消耗をしているであろうレフィリアに、コメットは治癒魔法を掛けようとする。


 ところが、そうしようと近寄ったところで立ち止まっては、彼は不思議そうにレフィリアの顔を見つめた。


「……? どうかしましたか?」


「レフィリアさん、貴方……体力が満タンの状態ですわね。いつの間に回復を?」


「あ、確かにレフィリアってば知らないうちに傷一つないくらい綺麗に治っちゃってるね。それも身体だけじゃなくて、服とか鎧まで。……マントだけはビリビリに破れてるけどさ」


「ああ、これはですね……その破けたマントのお陰なんですよ」


 そう言って、レフィリアは先ほどの戦闘で二カ所大きく裂けてしまった白いマントを手に取っては皆に見せた。


「このマントが? 確かこれは、あくまで呪い避け用の装備でしかないと女神ミシュタリアは言っていたと思うが……」


「はい。ですけどこれ、実は編まれている魔力を必要な分だけほどいてから、私の魔力としてすぐに補充することが出来るんです。今回の戦闘中、改めて判ったことなんですけどね……」


 要するにレフィリアが身に着けている、女神から賜ったこのマントは外付けの大容量電池バッテリーとしても使えるという話である。


 本来の用途は勿論、以前彼女を蝕んだ規格外の呪詛バグから身を守る為の超抜級防具。だがマントを構成している膨大な魔力の一部を任意消費することで、減った分の体内魔力を即座に充填させる使い方も可能なのだ。


 そしてレフィリアは自身の貯蔵魔力が満ちている程、自然治癒能力オートリジェネで身体や武装が再生する量も増す。故に、レフィリアは肉体的な消耗を既に完全回復してしまっていたという訳である。


(女神ミシュタリアはこれを対六魔将戦では役に立たないって言ってたけど……全ッ然、役に立つよコレ! むしろ、役に立ちまくるよ! 有限ではあるけど、大技使ってもずっと魔力9割以上をキープできるなんてすっごく破格の装備!)


 レフィリアが内心そう考えていると、近寄って来たジェドがレフィリアのマントを指で摘まんでは少し捲った。


「それにしても、せっかく立派なマントなのにこれだけ破れたままってのもちょっとアレだよね……」


「私が直してあげましょうか? 修繕魔法イクイップメントリペアで」


 そう言って賢者妹は錬金術による魔法錬成を応用した、装備品の損傷部位を補修する魔法を行使する。


 ――ところが、マントは魔力反応の淡い光に包まれこそしたものの、少しも破れた部分が元に戻ることはなかった。


「んん……?」


「……あれ、直んないよコレ?」


「ああー……なるほど、そういう事ですか……」


 首を傾げているジェドやレフィリアの前で、賢者妹は何かを理解したように残念そうな顔になる。


「どうかしたんですか?」


「すみません、レフィリアさん。このマント、組織構成が高次元過ぎてその規模レベルにそぐわぬ魔法や神秘による変質を一切受け付けないみたいです。流石はレフィリアさんを害せる程の呪いを防げる逸品なだけはありますね」


「つまりは外部からの魔法による変成を弾いてしまうんですか」


 サフィアからの指摘に賢者妹は頷く。


「はい、しかもこのマントは物理的に破かれたのではなく、呪いを逃がす為に自ら破けてますからね。既に元から破損した状態として存在が上書きされていますから、“この状態”がもう直っている物という扱いになるのです。だから申し訳ないですけど、私程度の魔法じゃ修繕は出来そうにありません……」


「そう気を落とすなよ、嬢ちゃん。何せ正真正銘の神様が仕立てた代物だからな、人間が手を出せなくても当然っちゃ当然だぜ」


「ハンターさんの言う通りですよ。私はこれでも全然構わないですから、気にしないで下さい」


 そのように言いながら、レフィリアは彼女の肩に手をかけて微笑んでみせた。


「それに私の外見みてくれなんかよりも、気にすべきはこの後どうするかについてです。とりあえず、襲って来た敵は全て迎え撃った形になりますけど……」


 レフィリアの話にルヴィスも頷きながら、戦いの影響で荒れに荒れた街の景色を見回した。


「そうだな。加えて敵の増援がすぐやって来そうな気配も特に感じられない。――が、かといってこのままこの街に留まって休むのも良くはないだろう」


「だよねぇ。僕たち……っていうか、レフィリアがこの国に来たってことを魔王軍の本部側に通達されて、追手の部隊を差し向けられる可能性も大いにありえるし……」


「やっぱ敵さんのいない今のうちにこの街からなるべく遠くへ離れるべきだな。街の外を真夜中に移動するのはなるべく避けたいところだが、事情が事情だから仕方ねえ」


 ハンターの意見にサフィアも同意を示した。


「何にせよ、外から敵に発見されにくく、それでいて眠りにつける場所を直ちに探さなければ。明日からの捜索に向けて、充分な休息を取ることは必要不可欠です」


「はあー、幾らクロスクローバーのお陰で凍えず済むとはいえ、きちんとした建物のベッドで寝たかったなあ……全く魔王軍の連中って余計な事してくれちゃってさあ」


「とはいっても結局ここは敵側の領地ですから、そもそも街で安心して休めることを期待してもしょうがないですよ。……まあ、気持ちは解りますけどね。一旦、ベッドで寝てたところを急に起こされたんですから」


「とにかくサフィアさんの言った通り、速やかにこの街を離れましょう。……そういえばこの街に来る途中で、そう遠くない位置に森林地帯があったのを見かけましたわ。とりあえずそこへ行ってみて、野営に適しているかどうか調べてみませんこと?」


「了解です。それじゃあ皆さん、手早く出立すると致しましょうか」


 そう纏めて、レフィリアたちは宿の布団への恋しさを断ち切るように空駆ける機竜ヴィーヴルを出現させると、すぐに乗り込んでは街から飛び去って行った。

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