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北国で潜む異世界の昏き牙の話⑥

「――――――」


 遂に得物を手に取ったスレイアと真正面から対峙し、レフィリアは光剣を握り締めつつ用心深く彼の様子を伺う。


 ようやく武器を出しこそしたものの、現状のスレイアは余裕そうな態度のまま佇んでは未だに構えすら取らず、自ら攻撃してくる気配は微塵もない。どうやら先手はレフィリアに譲るつもりのようである。


 加えて彼は、今回もあからさまにレフィリア“だけ”しか見ていない。おそらくは他の仲間達など相変わらず気に掛ける必要も無い雑魚オマケ――それこそ、金魚の糞くらいにしか思っていないのだろう。そんな彼の態度は癪でこそあるが、自分のみに注意が向いているというのであればむしろ好都合とレフィリアは考えを切り替えた。


 とにかく、討つと宣言したからには確実に仕留めなければならない。そして前回の戦闘で得た経験則において、この敵は後の余力を考慮して立ち向かえるような相手でもない。初めから全力でぶつかり――常に必殺のつもりで仕掛ける!


「――ディバインデュアルソード!」


 レフィリアはより相手の注意を自分だけに引き付けるよう、気合の籠った声で叫んではもう片方の手にも光剣を出現させ、二刀流の状態となった。


 その後、賺さず駆け出しては突進するように急接近し、スレイアとの距離を一瞬で詰めに掛かった。


「テンペストストライクッ!」


 それからスレイアの眼前まで迫ったところで、サフィアの持ち技である“風斬車輪”によく似た双剣による回転斬りを繰り出しては、初手から一気に畳みかける形でスレイアに踊りかかる。


「――ふん」


 しかし、全身をコマのように高速回転させながら光の竜巻となってぶつかったレフィリア渾身の斬撃は、身構えもしないどころか直立状態のままであるスレイアの雑に片手で振るった長剣の薙ぎ払いで、無様に弾き返されることとなった。


「がはあッ……!」


 ホームランを決められた野球ボールの如く見事に吹っ飛ばされたレフィリアは、スレイアの右斜め側から数十メートル先にある街中の広場に置かれた、過去の建国者を模った大きな石像へと思いきり激突する。


 反撃の刃自体は光剣で受け止めていたので身体に直接的な怪我こそ負っていないものの、凄まじい衝撃で石像を崩しながら背中を強く打ち付けた彼女は、苦悶の表情とともに咽ながら後ろへと倒れ込んだ。


「レフィリア!?」


「レフィリアさん!?」


 仲間たちが驚愕しつつレフィリアの方を反射的に向いたのも束の間、その時には既に瞬間移動したかのような速度でスレイアが、攻撃を食らったレフィリアのすぐ傍へと接近を果たしていた。


「――ッ?!」


 予備動作を一切見せなかった縮地の如き足運びで目の前まで飛び込んできたスレイアは、レフィリアに反応してからの防御や回避をさせる隙も与えぬまま、赤い光の長剣を素早く振り回す。


 流れるような超高速の連撃で放たれた剣閃は、レフィリアの身体を五つに分けては無慈悲に解体バラしてしまった――ように見えた。


「ぬッ……?!」


 ところが、斬り刻んだ筈のレフィリアの肉体は無惨な肉片として散らばることはなく、なんと五人もの全く同じ姿をした女騎士に分かれては、包囲するようにスレイアの周りを取り囲んだのである。


「なんだと……ッ?!」


 その突拍子もない事態にスレイアが細い目を僅かに開いて瞠った瞬間、分裂した五人のレフィリアが彼の逃げ場を塞ぐように、別々の方向から飛び掛かるように斬り込んでくる。


 本来なら極めて回避困難な筈の超至近距離からの同時包囲斬撃。だというのに、スレイアは木綿が宙を舞うかのような神がかった流麗な動きで、紙一重ながらその攻撃をヒラリと躱してみせた。


 だが、そんな彼でも今の奇襲は避けるのが手一杯だったようで、そこからすぐには反撃に移れず、近づかれ過ぎた間合いを幾らか離さなければと判断したようであるが――


「――サンドストーム!」


「――グランドブレイカー!」


 その時、タイミングを見計らったかのようにルヴィスとサフィアが同時に、レフィリアとスレイアがいる方へ魔法結晶クリスタルを投げつけてきた。


 上手い具合に二人の眼前へ投擲されたクリスタルは空中で破裂するように内包魔力を解放しては、封じられていた魔法を一瞬で即時発動させる。


 それはジェドが義手のクリスタルメイカーで予め作成しておいた、ここぞという場面で用いる為の上級魔法を込めておいた代物。このクリスタルは使用するにおいて、ただ少し魔力を流しては手榴弾のように放り投げるだけでいいので、如何に強力な上級魔法でも呪文を必要とせずすぐに繰り出すことが可能だ。


 そして発生した魔法は、強烈な砂嵐の結界と局所的な地震による大地の隆起。レフィリアごと巻き込む形でスレイアに放たれた範囲魔法は、上と下から挟み撃ちするように彼を包み込む形で襲いかかる。


「ふっ、横から何をするかと思えば……!」


しかしこれだけの上級魔法による二重攻撃も、スレイアにとっては微風そよかぜも同然。せいぜい蜘蛛の巣が顔にかかった程度に鬱陶しいだけで一切の有効打ダメージソースにはならず、掠り傷すら負うことはない。微塵も気に掛ける必要のない程、他愛のない横槍であった。


 普通ならこの空振り同然な情けない結果に、何の支援にもなっていない無駄な足掻きだと嘲け嗤われる事だろう。だが、足元が揺れて視界を邪魔する突風と砂埃が吹いているという事は、たとえコンマ一秒以下の一瞬でも、常軌を逸した能力を持つ異世界転移者への障害となり得るのである。


 加えてそれは、異世界転移者同士の戦いに取ってはけして無視できない、大きな隙へと転じてしまうのだ。


「「はあああッ!」」


 砂嵐と地震の影響で、スレイアの体勢がほんの僅かにだが崩れて動きが乱れた瞬間をつき、砂塵の中から現れたレフィリアたちが彼の四方を囲むように一斉に斬り込んでくる。


 それにスレイアは咄嗟に反応し、再度の回避を試みた。――が、今度は完全に躱しきることが出来ず、致命傷にこそ至らなかったものの身体の数カ所に斬撃を受ける事になってしまった。


 切創を負った場所は肩口、横腹、背中。狙った訳ではないものの、奇しくもそれは以前の戦闘において、スレイアがレフィリアに傷を与えた場所と殆ど同じ部位であった。


「チッ、小癪な真似を……」


 まるで意趣返しでもされたかのような攻撃に、スレイアは少しだけ忌々しそうに口元を歪ませる。だが、彼もただ手傷をくらって済ませるつもりはない。


「緋劔、四斬血牙――ッ!」


 攻撃を仕掛けたことですぐ傍まで寄って来た分身状態のレフィリアに対し、スレイアはここに来て初めて名のある剣の奥義を放った。


 途端、全く同じ瞬間に四カ所の方向へ赤い長剣による分裂したような別々の斬撃が振るわれると、彼を取り囲んでいたレフィリアたちは全員が一息のうちに斬りつけられてしまった。


 それも剣があたった部位はどこも致命的な急所。疑いようもなく完全な即死で、助かる術などある筈もない。


「――何……ッ?!」


 ところが、必殺の凶刃で仕留めた筈のレフィリアたちはその全員が健在のままであった。というより、斬り裂いた手ごたえが一切なく、虚像にでも触れたかのように剣の刀身は空を切っただけに終わる。


 ――これが、分身したレフィリア“五人”全てに剣が振るわれていれば、紛れもない彼女の敗北であった。だが、スレイアに隣接して攻撃を仕掛けた分身は四人。残り一人はスレイアから距離を取りつつ、なるべく注意を向けられないように背後へと回り込んでいた。


 彼女の発動させていた術技、ファントムソードダンスはその性質上、分身全員に同時攻撃を与えなければ明確なダメージとはならない。故に、先ほどの剣聖の如き絶技も結果的に通用しなかった訳だ。


「今だ――ッ!!」


 スレイアの周りにいた四人のレフィリアは急にゆらりと煙のように消え去り、離れていたレフィリアのみが一人残った状態になる。もうあと数秒で時間切れとなるファントムソードダンスの効果を彼女が自ら解除したからだ。


 そしてレフィリアは分身がいなくなったのとほぼ同時に、全力疾走してはルヴィスの雷電光剣を思わせる高速の剣技で一瞬のうちに間合いを詰めると、奥義が空ぶって動きに隙の生じていたスレイアに神速の一閃をお見舞いした。

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