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メイドから異世界で聞く内緒話②

「あっ、そこのお二方!」


 シャンマリーとオデュロが夕食を終えて、またアレクサンドリアの街中を歩いていると、急に道の向かい側からとある女性に呼び止められた。


 二人が声のした方を向くと、何やら武装した若い女性の集団が9人程、ゾロゾロと二人のもとへ近寄って来る。


 そんな彼女らにシャンマリーは愛想よく微笑みながら返事をした。


「はい、どうかしましたか?」


「急に話しかけてすまない。もしかしたらご存じかもしれないが、近頃この街で夜間に若い女性の失踪事件が頻繁に起きているんだ」


 そう告げてきた20代前半頃の艶やかな黒髪をした女性剣士は、どうやら女のみの集団のリーダーらしき人物に思える。


 見たところ冒険者ではあるようだが、王宮勤めの騎士といっても信じられるくらいの気品に満ちた服装と佇まい、そして精悍な顔つきをしており、腰にはけして安物ではない立派なショートソードを携えていた。


「まあ、そうだったのですか?」


「ああ、だから私たちは組合からの依頼で自警団を組み、夜の街の見回りを行いながらこうして注意を呼び掛けている」


 知らなかったとばかりに驚いてみせるシャンマリーに、黒髪の女性剣士は気丈ながらも物腰の柔らかい態度で話を続ける。


「もし不要不急の外出であれば、なるべく控えて直ちに帰宅し、夜の間は安全な家の中で過ごしてほしいのだ」


「わざわざご親切にありがとうございます。私たちは今日この街へやってきたばかりなのですが、そんな恐ろしい事件が起きていたのですね」


「しかし、皆様方もその若い女性に該当すると思うのだが大丈夫なのか?」


 オデュロからの質問を受けて黒髪の剣士の隣にいた、バトルアックスを持った背の高い水色の髪の女性――歳はやはり二十代頃――が勝気な表情で答える。


「あはは、こう見えて私たちはプラチナランクとゴールドランク冒険者の集まりなんだ。だからちょっとやそっとの悪漢や野党、増してや魔物にやられるような連中じゃないから心配ご無用よ」


 次にミスリル製の甲冑を纏い、片手に短剣、もう片方に長槍を持った赤い髪の女戦士――年齢は彼女も同じくらい――がウインクしながらシャンマリーたちへ話しかける。


「もし怪しいヤツを見かけたり、絡まれたりするような事があったらすぐ私たちに声を掛けて。絶対ボコボコにしてあげるから」


「まあ、すごく頼りになりますね。ではご忠告通り、すぐに用事を済ませて急いで家に帰ることにいたします」


「そうしてくれると助かる。どうかお気をつけて」


 最後に黒髪の女剣士からそう言われ、女性冒険者たちの集団はシャンマリーたちから離れてはその場を去っていった。


 そしてシャンマリーたちは再び移動を開始し始めたのであるが、その時――シャンマリーの着ている衣服のスカートから密かにスズメバチくらいの大きさをした羽虫が数匹、遠ざかっていく女性たちを追っていったことにオデュロは目敏く気づく。


「……シャンマリー。もしや今、あの女たちが美味しそうだなあ、とか考えていたんじゃないか?」


「あら、分かっちゃいました?」


 そう答えたシャンマリーはわざとらしく艶めかしい舌舐めずりをしてみせた。


「さっすがオデュロさん、私の好みを理解してくれていますねぇ」


「まあ、付き合いも長くなってきたからな。因みにさっきの夕食のデザートとあの女冒険者たち、選ぶならどっちを食べるつもりだ?」


「そりゃあ勿論、後者ですよねえー。女剣士とか女騎士とか、とっても大好物なもので」


 クスクスと笑いながら歩みを進めるシャンマリーについていきながら、オデュロはふと思い浮かんだ問いを投げる。


「ていうかシャンマリー、さっき聞いた若い女性の失踪事件とやらはもしや――」


「はい、私が犯人ですよー」


 悪びれた様子など一切なく、とても楽しそうにあっさりとシャンマリーは答えた。


「やはりか……しかし、いつの間にそんな事を……」


「それについても、これから向かう場所に行けば真相が全て分かりますよ。とりあえずこのままついてきて下さいな」







「……ッ!? これは……ッ!!」


 オデュロがシャンマリーに連れてこられた場所、そこは街の地下に設けられた謎の広大な空間、というか何かの施設跡であった。


 一見するとあくまで貯水施設の類に思えなくもないが、まるで埼玉にある首都圏外郭放水路を彷彿とさせるような造りは、どうもこの街の構造的には似つかわしくない奇妙な怪しさが感じられる。


 そしてその空間一面には――以前、シャンマリーがウッドガルドを支配していた頃、世界樹の内部に住まわせていたものと同じ触手の怪物が、所狭しと蔓延ってはウネウネ蠢いていた。


 加えて室内の所々から、十数人ほどの女性のものと思しき嬌声のような呻き声が断続的に聞こえてくる。


「驚きました?」


 唖然としながら周りを見回しているオデュロに、シャンマリーが隣から平然とした顔で聞いてきた。


「ああ、街の地下にこんなものが……」


「実はこの街、国家転覆を企む巨大な秘密魔法結社とやらが暗躍していたみたいで、ここはそんな彼らの本拠地兼実験施設だったみたいなんですよ。――まあ、私がたまたま見つけて丸ごと滅ぼした後、奪っちゃったんですけど」


 テヘペロと悪戯をやってしまった子供のような表情で話しながら、シャンマリーは続ける。


「それで、手に入れたこの施設を私が隠れ工房として再利用している訳です」


「なるほど……そういえばこの触手のモンスターは確か、ゲドウィンさんが召喚した異界の魔物だったよな?」


「そう、名も無い邪神もどきの触手さんですよ。再びゲドウィンさんに呼び出してもらったものをこの地下空間で育てているんですよね」


「ふむ、ならば街から女性を攫っていたのは、あの怪物を育成する為だったのか。しかしそれなら、わざわざ回りくどい事などせずともゲドウィンさんからエリクシルなり魔力リソースを都合してもらった方が早く済むのでは――」


「いえ、これは隠れてやっているからこそ意味があるのです」


 するとシャンマリーは今までの笑みを引っ込め、真面目な表情でオデュロの顔を覗いた。


「この事はオデュロさんだから話しますけど、今の魔王軍ってちょっときな臭い感じがするんですよね。具体的に何がと聞かれると困るので、答える事は出来ないのですが……」


「……そうか。まあ、別に俺はシャンマリーがやっている事をいちいち他に報告したりする気はない。君がそう思うのならば、やりたいようにやればいいだけの事だ」


「ふふ、ありがとうオデュロさん。オデュロさんなら私の秘密を教えても大丈夫だろうと思っていましたけど、やはり正解でしたね」


 少しだけ微笑んでみせた後、シャンマリーは視界を覆い尽くす触手の群れを見つめながら、更に話を続けた。


「ああ、それと……私が街の女の子たちを捕らえているのは、何もあの触手さんを育てる為ではありませんので勘違いなさらず。触手さんはあくまで私の目的を遂行する為の手段というか、単なる道具に過ぎませんから」


「そうだったのか? だとしたら、ウッドガルドの時のようにソーマエキスを抽出しているとか?」


「はい、ですがそれも最終的な理由ではないのです。――オデュロさん、更に地下へと案内しますね。そこで答えが判りますから」







 シャンマリーたちがいたフロアから更に一つ下へ降りた場所、そこに広がっていた光景を目にした途端、オデュロはつい言葉を失ってしまった。


「なッ……!?」


「ビックリしたでしょう?」


 二人がやって来た部屋の中はまるで蜂の巣の内部構造を覗いたかのような状態になっていたのだが、そこには半透明の大きな繭に似たものが柱の如く等間隔で幾つも並んでいる。


 その一つにオデュロが近づいてよく確認してみると、それはまるで培養槽のように中が何かの液体で満ちており、そして人間ほどの大きさをした“何か”がホルマリン漬けの標本みたいに浮かびあがっていた。


 遠くからではよく見えなかったそれをすぐ近くで食い入るように見つめては、オデュロは半分笑いの漏れているような声で興奮したように話し出す。


「ははっ! ああ、驚いたとも……! やはりシャンマリーはすごいな。何か準備しているのだろうとは思っていたが、まさかこんなものを拵えていたとは……! コレは確かに、他の者たちには教えられないな……!」


 そこまで言って、オデュロは後ろにいるシャンマリーの方を振り向く。


「それで、コレを見せた俺にシャンマリーは何を手伝ってほしいのだ?」


「実はこの中のもの、稼働させるにはまだまだ全然栄養が足りていないのです。もっと養分を搾取する為の生贄が要ります」


「贄か。だが生憎、俺は獲物を生かして捕らえるのは苦手だ。何分、手加減は不得手なものでな。殺す事と壊す事くらいしか得意な事がない」


 するとシャンマリーは笑みを浮かべながらゆっくりと首を横に振った。


「そう、それでいいんですよ。だからこそオデュロさんに任せるのです」


「何?」


「オデュロさん、久しぶりに楽しい愉しい大運動会マンハントへ興じてみたくはありませんか? ですが条件として――」


 わざと小声で囁くように、密着するくらいすぐ傍へ寄り添って話しかけてきた彼女の提案を聞き、オデュロは兜の下でニヤリと口元を歪める。


「――なるほど、心得た。是非、君の期待に応えてみせるとしよう」

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