メイドから異世界で聞く内緒話①
「――オデュロさん、ちょっとデートにでも行きませんか?」
「ええっ?!」
魔王軍の空中戦艦、魔導機空艇バルディッシュの一室にて。
カリストロス及びレフィリア捜索の任につき、部隊を率いて作戦行動中のオデュロとシャンマリーであったが――突然、話しかけられたシャンマリーの言葉にオデュロは兜の下からこれ見よがしに驚きの声を上げた。
「あら、嫌だったですか?」
「い、いやいや! そんな事はないが、急にどうしたというのだ……!?」
表情こそよく見えないものの明らかに動揺しているオデュロに対し、シャンマリーはクスリと小さく微笑む。
「ふふ、冗談ですよ。実は少し外へ出かけますので、私の護衛を頼みたいのです」
「そうか、冗談か……それはそうだよな……」
「おや、もしかして残念でした?」
小声で呟いたつもりが聞こえてしまったのか、オデュロの顔をシャンマリーは小悪魔的な表情で覗き込んでくる。
「べ、別にそう言った訳じゃないが……! ううむ、しかし俺と同格の力を持つシャンマリーに果たして護衛が必要なのか? まずそこから気になるんだが……」
「いいえ? というか、それも冗談ですけど」
「って、冗談なのか!」
振り回すようなシャンマリーの返答にオデュロはガクッとオーバーなリアクションを取っては、ガシャリと鎧の金属音を鳴らす。
「……シャンマリー、もしかして俺をからかっているのか?」
「そういうつもりはなかったのですけど、気を悪くしちゃったのならごめんなさいね。――でも、今から私についてきてほしいのは本当ですよ? もし時間が空いていたら、ですけれど」
微笑みながらもしっかりと真っ直ぐ見つめて来るシャンマリーに、オデュロは被っている兜のこめかみ部分を人差し指で小突きながら、ふうと一息つく。
「……そりゃあ、勿論――」
◇
それから暫くして、シャンマリーとオデュロはネアロペ大陸における海に面した地が一切無い内陸国、地理的にはエーデルランドのちょうど北に位置する《イスカンドロス》という国の首都、《繁栄都市アレグザンドリア》へと二人だけで来訪していた。
彼らが指揮している魔導機空艇と乗員の部隊は現在、首都から離れた丘陵地帯へと船体を包むだけの広域幻術を展開した状態で待機させている。
そして首都に潜り込んだ鎧の狂戦士とメイド姿の暗殺者もまた、此度は幻術により一般人の姿に扮して――素顔はともに美形過ぎるので、あくまでモブ顔――堂々と街中を歩きまわっているのだが――
「このデザートのフルーツパフェ、とっても美味しいですねえ」
時間帯は夕方過ぎ、もう日も暮れてすっかり暗くなってしまった頃。日中は普通に街を出歩いて露店を回ったり遊んだりしていた二人は今、とある洒落た飲食店で夕食を取り、食後の甘味を楽しんでいた。
「そうだな。特にこの少し苦みのある柑橘が甘いクリームに対して良いアクセントになっている。この世界の人間たちも俺たちが思っているよりは、それなりにちゃんとした食事を食べているのだな。んぐ……中世ヨーロッパというと、民衆はもっと粗末なものを食べているイメージがあるのだが」
眼鏡が似合う文学女子風な装いをしたシャンマリーの向かい側には、派手で物騒な全身鎧の騎士――ではなく、対照的にスポーティで引き締まった見た目をした妙齢の女性が座っては、同じようにスプーンでパフェを口に運んでいる。
端から見れば、若い女性の友人同士が仲良くディナーを取っているようにしか見えない。といっても、これはあくまでシャンマリーが施した幻術の効果による瞞しでしかないのだが。
「確かにそうですねえ。といってもこの世界は私たちの知るステレオイメージな西洋風に酷似しているだけで、実際は全くの別物ですから。魔法が化学技術の代わりになっているからなんでしょうけど、総合的な文明レベルは19世紀初頭くらいはありそうですよね」
そう言ってパフェを食べ終えると、シャンマリーは口元をナプキンで拭いてはオデュロの方を見る。
「しかしちょっと意外でした。オデュロさんって甘い物は苦手だと思ってたんですけど、むしろ大好きだったんですね」
「そんなにおかしいか? 俺は元々、菓子はよく食べるタイプだぞ? ――っと、こっちの世界ではこの身体を手に入れるまで基本的に食べ物は口に出来ていなかったな。たまに例外はあったが」
「いえいえ、全然おかしくないですよー。でしたら今度、お菓子を持ち寄ったお茶会にオデュロさんも誘ってあげますからね。そしてついでにアナゲとかTRPGなんかにも洒落込んだりしましょうよ」
そんな事をニコニコして語るシャンマリーを微笑ましく見つめながらも、オデュロはグラスに入った果実水を飲み干すと急に真面目な顔つきとなり、彼女へ問いかけた。
「――なあ、シャンマリー。そろそろ訊いてもいいか?」
「ん? 何をです?」
「何ってここに来た目的だ。人間のフリをしてこの街に来てから、本当に人間の友人同士が遊んでまわるような事しかしていないが――君の事だ。わざわざ魔王軍としての仕事を放ってまで、こんな事をしているのには何か理由があるのだろう?」
オデュロの質問に、シャンマリーは変わらず笑みを浮かべたまま返答する。
「まあ、それはそうですね。とはいっても、近頃の私はあまり本腰じゃないというか、半分サボっているようなものかもですけど。指揮官のオデュロさんも見逃して――いえ、見て見ぬフリをしてくれていますし」
「何の話かな? よく分からないが」
オデュロはものすごく白々しい口調でそう答えた。
「俺は君のお陰で最高に自由な肉体を得た身だ。君が裏で何をやっていたとしても、それを別段邪魔するつもりはない――が、表面上はカリストロスや聖騎士レフィリアの捜索を続けている俺まで艦から抜けると、部隊の動きが完全にストップしてしまう。流石に他所へ何をしに来たかくらいは教えてもらいたい」
「勿論、教えますよ。というか、オデュロさんには是非手伝ってもらいたい事があったので誘った訳ですし」
「俺に?」
「ええ……じゃあ、美味しいディナーも済ませましたし、ちょっとまた食後の散歩にでも出かけましょうか」




