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北国で潜む異世界の昏き牙の話①

 新たに生まれ変わったルヴィスの剣こと“ラスターソード”を受け渡されてから翌日、レフィリアたちは空駆ける機竜ヴィーヴルにてエーデルランドを発ち、次の目的地であるロスタリシアへと向かった。


 因みに機竜ヴィーヴルは全部で五機しかないので、レフィリア機には賢者妹、ジェド機にはコメットが二人乗りをする形で使用している。


 まずはエーデルランドから北東の方角へ飛んでシャルゴーニュ公国上空を横断しつつ進み、そこからロスタリシア国内へと侵入を試みた。


 とりあえず初めに目指すのは、かの国の首都である《白銀皇都モースカヴァ》。


 レフィリアとサフィアが出会った謎の詩人の話を信じるならば、魔王軍の本拠地である空中要塞とやらはロスタリシア最大の山岳地帯であるゴラル山脈にいるであろうという事だが、ひとまずは首都を中継地点として先に立ち寄ることとする。


 ロスタリシアはネアロペ大陸の中でも最も寒さの厳しい地域であるが、幸いにもレフィリアたちが移動した時にはそれ程天候も荒れておらず、結果的に予想していたよりも然程苦労せずに現地へ辿り着くことが出来た。


 とはいっても、街がある辺りは比較的気候が安定しているからこそ人が住める訳で、これが天気の変わりやすい山の方へ向かうとなると話は違ってくる。故に改良した機竜ヴィーヴルと長旅用の魔道具があるからとはいえ、けして油断は出来ない。


「ここがロスタリシアの首都、モースカヴァ……」


 首都に直接降り立つのではなく、あえて一旦街の外に機竜ヴィーヴルを降下させたレフィリアたちは、遠目から街の外観を見渡して白い息を吐きつつそう呟いた。


 ロスタリシアもまた一応、魔王軍の占領下ではあるものの、実質ほとんど放置状態となっているので、街中に魔族の姿は一人も見受けられない。


 というのも、ロスタリシアは前大戦前までは軍事力にも優れた立派な大国であったのだが、過去の魔王軍によって散々荒らされつくしたダメージから未だに回復しきっていない為、国内全域がとにかく閑散としているのだ。


 以前は山岳から獲れる豊富な鉱物資源によって工業的にかなり栄えていたのだが、とにかく人口が減り過ぎてしまって前大戦から既に10年が経過している今となっても、国の情勢はけして良くなってはいない。とにかく現在の元大国は非常に貧しい国家である為、魔王軍にとっても価値と優先順位が低く、管理がかなりおざなりになっているのが現状である。


 だからこそ逆を言えば、この国の住民たちは魔王軍を下手に刺激さえしなければ、かなりギリギリではあるものの最低限の生活を送ることが叶っている。要するに人的リソースを割くのも勿体ないくらいの辺境という扱いで、ほぼ見放されているといった方が正しいか。


「真っ白……というよりかは、どちらかというと灰色な景色の街ですね。路面の石畳と建物の色、あとは曇り空のせいでそう見えるのでしょうか?」


 警備が厳重な検問所がある訳でもなく、一応はギュゲスの指輪を使用したものの、難なく街の中へ入り込めた一行はきょろきょろとモースカヴァの様子を見て回る。


 もうしばらくしたら日が暮れてしまうので今日のところはここで休息を取り、明日から改めてゴラル山脈への捜索に向かう算段をレフィリアたちは考えていた。


「それにしても見事な雪の積もり具合です。とりあえず厚着をしてきたとはいえ、クロスクローバーが無かったらそれでも寒かったかもしれませんね」


 賢者妹の言葉にハンターも頷く。


「そうだな。この魔除けのブローチのお陰でこんな雪の中でも全然寒さを感じないのは、逆に不思議な感じだわ。流石は天才魔技師のエステラ先生様々だぜ」


「ああ、しかし凍った路面にだけは気を付けるようにな。クロスクローバーで防げるのはあくまで冷気だけだ。ぼうっと歩いてると滑って怪我をしかねないぞ」


「わーってるよ、ガキじゃああるまいし」


「あと足元だけでなく、頭上の氷柱なんかにも注意だな。こういった雪国の太い氷柱は落ちてくると平気で人の頭をかち割ったり、突き刺さったりするのだそうだ。まあ、ドラゴンの血で身体が頑丈な貴方なら大丈夫なのだろうが」


「ああ、全くその通りだぜ。氷柱程度にあたって死ねるほど、俺の肉体はヤワに出来てねえからな。そもそもそんなもんを食らうようなマヌケでもねえしよ」


「ていうかさ、いやに暗いなあこの街。全体の見た目もだけど、雰囲気が何だかどんよりとしているというか寒くて寂しいというか……」


 ジェドの発言にサフィアは息をつく。


「それも仕方ないでしょう。ロスタリシアは前大戦での被害が国家崩壊レベルでとにかく酷かったですから」


「えーっと確か、軍事力と鉄量が多かったことが返って災いして、徹底的に滅ぼされちゃったんだっけ」


「ええ、加えてその上で再度、魔王軍が襲来してきた訳ですし。こうしてまだ住民たちが辛うじて生活できているだけでも幾らかマシなのかもしれません」


「だけど、ここって一応はこの国の首都だよね? なのにこのスラムどころか廃村じみた寂れ具合、ちょっとヤバすぎじゃないの?」


「だからこそ、魔王軍もほとんど放置状態なんじゃないでしょうか? 曲がりなりにも占領地だというのに、魔族の兵士とか全然見かけませんし」


 賢者妹が言い、ジェドは髪を掻きながらそんな廃れきった街の景色を憐みの籠った目で眺める。


 過去には栄華を極めていたであろう帝国の大都市も、今となっては浮浪者のたむろする廃墟群と殆ど変わらない、飢えて荒んだ雰囲気に包まれていた。


「魔王軍からしてみれば、既に出涸らしみたいになった街をわざわざ大事に管理する必要もないってか……まあ、連中がいない分にはこっちも困らないんだけれども」


「とにかくまだ日のあるうちに今夜の宿を取りましょう。明日からは天候の安定しない山脈へ向かいます。今日はしっかりと休んで、体力を回復させておかなければ」


 サフィアの言葉に仲間達全員が頷き、とりあえずは街の中を進んで宿泊できる施設がないか探しに向かった。







「――たまの行商人とかならともかく、他所からの旅人だなんて本当に珍しいな。この時世によくこんな街へ来る気になったものだ。ここには見ての通り、何も無いというのに……」


 口の周りに髭を蓄えた、不愛想な顔つきをした宿屋のオヤジが、泊まりに来たレフィリアたちを前にカウンター越しからそう口にする。


「まあいい。ろくに旅人の泊り客も来なくなって宿屋をまだやっているのは、この街でもせいぜいウチくらいだ。宿泊料は一人、300ジルバで泊めてやろう」


 カウンターに頬杖をついて告げるオヤジの言葉に、レフィリア一行は全員が戸惑った表情を浮かべる。というのも、宿屋のオヤジが提示した金額は日本円でいうところの三万円くらいに相当するのだ。


「ちょっ!? どこのお高い宿屋なのさ! もしかして、豪華な食事が朝夕ともついてくる訳!?」


 真っ先に苦言を呈したジェドの言葉に、宿屋のオヤジは露骨に嫌そうな目を向ける。


「ほう? うちのボロい宿はその金額に見合わないって言いたいのか?」


「そこまでは言ってねえが、流石に宿代が全員分で大金貨二枚っつーのはボリ過ぎだろ」


 続けて文句を述べるハンターに、宿屋のオヤジは大きく鼻を鳴らした。


「払えねえってんなら、泊めてやる訳にはいかねえな。しかしこんな街だ、どこで泊めてもらおうとしてもこれと同じぐらいの額は要求されるぜ? 嫌なら諦めて外で野宿でもするんだな。そしたら明日の朝には立派な氷像が七体も出来上がっている訳だが」


 びた一文譲ろうとしない亭主の様子に、レフィリアたちは顔を見合わせる。


「えっと、どうしますか? 一応、クロスクローバーのお陰で凍えるような目にあう事はないと思いますが……」


「かといって別に暖かい訳でもないけどね。そりゃあ、火を起こせば暖を取ることは出来るけど……」


「しかし余所者が街中で勝手に火を焚いて居座るというのも、あまり褒められたものではありませんわね……」


「野宿はどうしても体力や気力に疲れが生じてしまう。明日からは更に過酷な場所へ向かうのだから、ここはたとえ多少の金額を払ってでも宿で休息を取るべきだと思うが」


「私も兄さんに賛成です。確かに高いですが払えない金額ではありませんし、素泊まりでも雨風を凌げるきちんとした施設で休むんだ方がいいかと」


「にしても、ぼったくり過ぎだと思うけどなあ。……なあ賢者の嬢ちゃん、なんか催眠魔法みたいなのであのオヤジを洗脳してだな……」


「ちょっ、そんな犯罪行為を私にやらせないで下さいよ……見損ないました、ハンターさん!」


 ボソボソと集まって言い合いをするレフィリアたちを訝しむような目で見ながら、宿屋のオヤジは苛立ったように声をかける。


「で、結局泊まるのか? 冷やかしならとっとと出ていきな」


「――分かりました。ちゃんと支払いますので、一泊お願いします」


 そう言ってルヴィスは自分の手持ちから大金貨二枚と金貨一枚をカウンターの上に置いた。


「ちょっ、ルヴィスさん!? 何も一人で全員分出さなくたって――」


「いいんだ、レフィリア。この程度すぐに払えなくて、何がアダマンランク冒険者って話だ」


「ふむ、確かに受け取った。そうら、宿帳に記載してさっさと鍵を受け取りな。そしたらあとは好きにするといい」


 金貨を手にした宿屋のオヤジは宿帳とペン、そして部屋の鍵の束をカウンターへ雑に置くと、そのまま奥の扉から中に消えていってしまった。


「なんか嫌なオッサンだなあ、客商売のくせに愛想メッチャ悪いし」


「生活に余裕がないのでしょうけど、あの態度はちょっとですね……」


「だがあの亭主の言う通り、この街で機能している宿はここくらいなものなんだろう。何といっても今の状況下では、客になる旅人なんてまず来ない。収入源はせいぜい常連の行商隊しかいないのだろうからな」


「仕方ないことなのかもしれないが、街の住民はどいつもこいつも飢えた狼みたいな目をしてやがる。こんな所はなるべく早めに出たいところだねえ」


「まあまあ、とりあえずはルヴィスさんのお陰で今晩の宿が取れました。明日に向けて、今日はベッドでゆっくり眠る事にしましょうよ」

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