勇者兄妹対異世界聖魔剣士の話②
その頃、たった数秒の間に幾重もの剣戟をぶつけ合ったルヴィスと黒い魔剣士は、また距離を離しあっては互いに体勢を整える。
「――黒影玄舞ッ!」
すると魔剣士は突然五人に分身し、一瞬にしてルヴィスを取り囲んでしまった。幻術の類であろうか、それぞれが一斉に動き出しては追い詰めるようにルヴィスへと迫り剣を振るっていく。
「ちいッ……!」
ルヴィスは様々な方向から襲い来る五人分の攻撃を躱しつつ、分身の一体に対して剣を振るった。ところが攻撃をあてた影は残念ながら偽物であり、まるで煙を散らすように搔き消えてしまう。
それだけでなく、霧散した闇の魔力は触れたルヴィスの身体へ纏わりついては体内へ流れ込み、全身に重りが括りつけられたかのように彼の動作を遅くした。つまりは鈍足効果の状態異常が発生したのである。
「なッ……!?」
「カースドスラッシュ!」
ルヴィスに弱体化が入ったことを見計らい、彼の背後から赤黒い魔力を迸らせた魔剣士の容赦ない剣技が迫りくる。
咄嗟に反応したルヴィスはすぐに振り返っては同時に剣の腹で受け止めてガードするも、酸化した血液を思わせる色の刀身に触れた途端、急速に身体から生命力と魔力が奪われていく感覚に戦慄した。
(拙い、エナジードレインの効果か――ッ!)
体力を減らされる事態を防ぐ為に、ルヴィスは急ぎ剣を振り払っては退避しようとするも、それをさせまいと魔剣士はしつこく食らいついては剣を受けざるを得ない状況を作り出し、ジリジリと彼を攻め立てていく。
「柘榴吹雪ッ!」
その隣では、サフィアが遠距離攻撃の可能な魔法剣の特技を飛ばして白い聖騎士に攻め込んでいた。
振り回した双剣の刀身からは荒れ狂う冷気の旋風とともに、桜の花びらを思わせる小さな氷片が大量に放たれる。しかしそれは一枚一枚がガラスのように鋭利で、渦に巻き込まれれば総身をズタズタに引き裂かれてしまう事は避けられない物騒な術技。
しかし接近して斬りつけても弾かれる以上は、間合いを離して魔力投射をぶつけるしか手はない。
「聖鏡光波盾ッ!」
だが白い聖騎士は剣を突き出してその正面に光の魔力障壁を発生させる。それはサフィアのくりだした凍てつく散桜を鏡のように反射し、そのまま無数の氷片を撃った彼女に対して送り返してしまった。
当然、サフィアは回避に転じて、戻って来た攻撃を躱しきるも、結局は相手に有効打を一切与えられないままに終わる。
(直接攻撃だけでなく飛び道具まで跳ね返してくる……! 牽制は出来ても、このままでは埒が明かない……ッ!)
現状は兄妹ともに不利な状況。そして闇雲な時間の経過は、より二人を窮地へと追い詰めていく。
早急な事態の打開が必要だと、目配せをせずとも互いの気配だけで兄妹は意思を共有し、まずはルヴィスが反撃の一手を掛けに出た。
「激震地砕衝ッ!!」
ルヴィスは何とかギリギリ魔剣士の追撃から逃れたタイミングで、多少の隙を覚悟で全身の魔力を一点集中させた斬撃を地面へと叩きつける。
いくら魔力で補強しているとはいえ、それでも木剣が折れてしまい兼ねない勢いで刀身を振り下ろし、その衝撃で訓練場のグラウンド全体が震える程の衝撃とともに大地が激しく隆起しだした。
案の定、ルヴィスが持っていた木剣は技の威力に耐えきれず派手に砕け散ってしまう。だがその支払った代償に見合った全体攻撃は、分身を伴った魔剣士だけでなく、剣での防御に徹した聖騎士にまでダメージを与えることになる。逆に、サフィアだけは上手く位置取りを調整している為に殆ど影響が生じる範囲には入っていない。
「うおッ?!」
「いかんッ……!」
ルヴィスの意図を理解した聖騎士と魔剣士のコンビは、両者ともその場から咄嗟に跳躍しては捲れ上がる地面から逃れようとする。
今回の模擬戦のルールは相手を倒すのではなく、あくまでも転倒させる事が肝要。そのまま地面に立った状態では、足を取られて最悪転ぶ羽目になってしまう。そうでなくとも、動きが止められ大きな隙を晒す事となるのだ。
「雪華烈風刃ッ!」
しかし、それも想定の範囲内。ルヴィスが大地を揺らす特技を放ってから一番有効なタイミングで、今度はサフィアが広範囲へ及ぶ冷気の竜巻を発生させる。
一旦、宙へ跳んでしまった二人の剣士はこれを躱すことも防ぐ事も出来ず、殆ど全身で直撃を食らう事になってしまった。
「ぬう……ッ!?」
「ぐおお……ッ!」
それでも流石は彼らもアダマンランク冒険者、二人とも転倒どころか膝を地につくこともなく、何とか踏ん張っては上手く着地して持ち堪える。
とはいっても凍結効果のある冷気の突風によって身体中のあちこちが凍り付き、身動きが非常に鈍くなってしまっていた。
「今だッ!」
そこへルヴィスが一気に疾走し、刀身が無くなって柄だけになった木剣を手に、位置が比較的近い魔剣士へ向かって突撃する。
握った木剣の鍔から先には、風の魔力を編んで空気を固めたような透明の刀身を一時的に形成させていた。これなら斬りつけることは出来ずとも、一撃だけなら打突によるインパクトが可能である。
「マズ――」
「無刀空刃ッ!」
転倒を防ぐ為の動作で生じた隙と凍結で機敏に動けなかったことにより、黒い魔剣士はルヴィスの一撃を思いきり受ける。
そして今度は体勢を整えることが叶わず、後ろへと勢いよく転倒してしまった。
「ぐあッ!?」
「やったぞ!」
魔剣士が完全に地面へ倒れこんだ事を確認し、ルヴィスは笑みを浮かべる。
「うぐおッ……?!」
だがその直後、数秒遅れてからルヴィスは急に高重力が圧し掛かってきたような感覚に襲われ、持ち堪える間もなくその場に膝をついてしまった。
「ルヴィスさん!?」
訳が判らず、審判役であったレフィリアもつい彼の名を叫んでしまう。
「な、何だこれは!? まさか……ッ!」
謎の重圧を受けたルヴィスは、すぐに何かへ思い至っては自身の身体を確認する。
すると先ほど空気の刃を突き立てた木剣を握っていた自らの腕に、何やら禍々しい呪印がいつの間にか刻まれていたことに気が付いた。
おそらくはルヴィスから決めの一発を貰った瞬間、敗けを悟った魔剣士が、ただではやられぬと接触に伴って咄嗟に呪いを仕込んできたのだろう。
「くっ、自分が敗れることを見越して最後に道連れを掛けてくるとは……不覚ッ!」
「ハハッ、良い作戦だったが最後の最後に油断したな……!」
負けはしたが仕返しはしてやったぞ、と魔剣士は苦笑しながら疲れたように大きく息を吐いた。悔しくはあるが、後は相棒に任せるのみである。
「兄さん!?」
勝ったと思っていたら負かされていた、という兄の状況にサフィアもまた思わずルヴィスの方を見て驚きから声をあげてしまう。
「余所見をしている場合か! ――白極光穿ッ!」
ところがその時、動揺の隙を見逃さなかった聖騎士は真っ直ぐに剣を突き出すと、その剣先から光線を発射してサフィアを狙った。




