勇者兄妹対異世界聖魔剣士の話③
「くッ――!」
飛んできた光線を紙一重で躱し、サフィアは気持ちを切り替えては二振りの木剣を構えなおすと、生き残った聖騎士に向かって一気に飛び掛かる。
(今の身体が凍って動きの鈍った彼なら、十分に隙を狙える――ッ!)
「電光切華ッ!」
その身に火花と稲妻を纏わせ、素早く懐へと潜り込んでは流れるような動作で電撃の剣閃を放ったサフィアであったが、白い聖騎士はしぶとくも辛うじて彼女からの連撃を受け止めた。
「抜かったな! スパークルソード!」
それだけでなく、サフィアの斬撃を防いだ聖騎士は木剣の刀身から光の魔力をありったけ解き放ち、閃光弾の如き輝きによってすぐ目の前から彼女の視界を真っ白に塗り潰す。
「あぐッ……!?」
(いけない、目が……ッ!)
その眩い極光は、紛れもなく失明効果のある魔力投射であった。サフィアが気づいた頃には既に遅く、思いきり光を直視してしまった彼女は、完全に視力が機能しなくなってしまう。
「サフィア!?」
「貰ったあッ!」
目が視えなくなったサフィアに、至近距離から聖騎士の斬撃が迫る。
「――ッ!」
だというのに、なんとサフィアはスレスレで身を引くと聖騎士からの剣の振り抜きを避けてしまった。
つい聖騎士が呆気に取られたほんの一瞬に、彼女は後方へと飛び退いて彼との距離をなるべく離す。
「なッ?! 今の状態から躱しただとッ……!?」
「流石ですよ、サフィアさん!! とってもカッコいい……ッ!!」
仮に偶然だとしても凄いの一言に尽きるサフィアの動きに、観戦していた魔剣士は驚きから目を瞠り、レフィリアは思わず叫んでしまうそうなくらい興奮してしまった。
本来なら審判の立場なので公正でいなければいけないと分かってはいるのだが、どうしても友人である彼女に勝ってもらいたいというのが本音ではある。故に彼女の活躍はレフィリアにとってあまりに嬉しいものだ。
「くっ、清浄洗身ッ!」
白い聖騎士は飛び退いていくサフィアを無理に追わず、まずは自身の身体に浄化の魔力を巡らせて凍結状態を解除した。
「続けて、白極光穿ッ!」
それからすぐに剣先から光線を放って遠距離に届く特技を使っての攻撃。彼女に状態異常解除の魔法を使わせる余裕など与えはしない。
「……ッ!」
ところが、その光線すらもサフィアは緊急回避の動作を取ることで躱すにいたった。
その事実に聖騎士は思わず歯噛みするが、動揺している場合ではないとすぐに次の行動へ移って今度は自らサフィアへと直接攻撃にかかる。
「これならどうだ! 剣晄連斬舞ッ!」
すぐ目の前に迫って来てからの凄まじい連続斬撃。しかしそれでさえも、サフィアは全て避けきってみせた。目は確実に視えていない筈なのに、たった一撃も彼女を捉えることは出来ず、掠り傷さえ与えられない。
「どういう事だ!? 確かに目は潰している筈――」
あまりにも異様な事態に流石の聖騎士も困惑を隠せなくなる。その一瞬生じた隙に、サフィアは賺さず両手の双剣を逆手に持ち帰ると、刀身に魔力を纏わせては剣の先端を足元の地面へと突き立てた。
「氷牙地顎衝ッ!!」
直後、地面から無数の氷柱が勢いよく飛び出しては、彼女の前方へ二列になって突き進んでいく。
虚を突かれたことでそれを完全に躱しきれなかった聖騎士は足元を負傷し、そのまま倒れ込みそうになってしまった。
「ぬがッ! まだまだあああッ!」
だが、聖騎士は片手で逆立ちするかのように身体を回転させては済んでのところでバランスを取り、何とか転倒を防いではそのまま体勢を整えなおした。
それからただちにサフィアへと反撃に掛かろうとする。しかし、いつの間にか背後へ回り込んでいたサフィアは彼の胴へ向けて渾身の斬撃を叩きつけた。
「はあああーーーッ!!」
さしもの防御に秀でた聖騎士も後ろから超至近距離で体当たりじみた攻撃を受ければ、倒れざるを得ない。
前のめりに地面へ転んでしまった聖騎士は、剣を手放すと潔く負けを認めて振り返り、両手を上げて降参の意思を示した。
◇
「くっ、まさか今回も負けてしまうとは……悔しいが、実に見事な腕前であった……!」
「流石は勇者兄妹の異名に恥じぬ実力。それに剣の技量も以前戦った時より明らかに洗練され、強みを増していた。伊達にレフィリア殿とともに各国を巡ってはいないな!」
模擬戦終了後、各自回復を済ませたクリストル兄妹とシュヴァルツヴァイス、そしてレフィリアの五人は集まって試合の結果について談笑し合っていた。
「といっても、俺は負けてしまいましたからね。称賛は全て妹のサフィアに捧げてほしい」
「確かに君の妹は凄かったなぁ。まさか視界を奪ったのに私の攻撃を全部躱してしまうとは……あれには本当に驚かされたよ、いやあ参った、参った」
「それに関しては私もビックリしちゃいました。さっすが、いつだっで冷静なサフィアさん。あの少しも狼狽えなかった動きは、自分も見習わなくちゃって思ったくらいに凄かったです」
レフィリアからも感心された事にサフィアはやや照れくさそうにしていたものの、すぐに首を横へ振った。
「いえ、私はけして褒められるような事はしていません。そもそも本来なら私は目を潰されたあの時点で敗れていました。私が今回の試合に勝てたのは貴方のお陰ですよ、レフィリアさん」
サフィアの言っていることの意味が分からず、レフィリアは首を傾げる。
「えっ、それってどういう事です?」
「私が視力を失った時、急に視界がこちらを観ているレフィリアさんのものに切り替わったんです。理由や理屈は判りませんけど、きっと私とレフィリアさんの繋がりが引き起こした……サモンアライズのような新能力の一つではないかと思いまして……」
「そんな事が……」
「てことは、サフィアはレフィリアの視点を通して自分の位置を把握し、回避や攻撃を行っていたという訳か?」
「はい、兄さん。だから別に気配感知や第六感による予測で躱していたのではないんです。一回や二回くらいなら出来たかもですが、あれだけの連撃を完全回避となるとまず不可能ですから。ですので、今回の勝利を胸を張って喜ぶ事はちょっとですね……」
「なるほど。しかし意図せず急に切り替わった他人の視点で即座に自分の身体をコントロールできるのは、気配のみで攻撃を躱すのと同じくらい凄いじゃあないか。むしろ難度としては、それ以上かもしれん」
申し訳なさそうにしているサフィアに対して、白服の聖騎士が笑いかける。
「そうだな、普通ならまず混乱する。そもそも自分に起きた状況を判断しようと固まっているうちに攻撃を受けるだろうな。それをあれだけの見事な身のこなしを見せたのであれば、やはり称賛せざるを得ない」
腕を組みながら黒服の魔剣士もうんうんと頷いてみせる。
「それに私たちだって目眩ましや道連れといった手段を使っているから人の事は言えないしな。お互い細かい事は言いっこ無し。素直に君たち兄妹の勝利を讃えさせてくれ」
「……ありがとうございます、お二人とも」
屈託のない笑みを浮かべる白黒の剣士二人に対し、サフィアは心からの礼を述べた。
「それはそうと、身体を動かしたら腹が減ったな。今回は我々が全て奢るから、どこかおすすめの店があれば紹介してくれないか? 高い店でも全然構わないぞ」
「おや、本当ですか。かのシュヴァルツヴァイスのお二人にご馳走して頂けるとは光栄ですね」
「いやいや、此度はあのレフィリア殿も共にいらっしゃるのだからむしろ、こちらから出させてほしいくらいだ。……ところでレフィリア殿、あとで折り入ってお願いしたい事があるのですが」
「あら、私にですか? 一体、何でしょう?」
すると突然、どこに仕舞っていたのか白服の聖騎士は羽根ペン型の筆記用魔道具を取り出した。
「どうか一筆、貴方様のサインをいただきいのです! 実は私、レフィリア殿のファンで御座いまして……!」
「私にも是非……! 色紙もありますが、もし宜しければ剣や鎧にも……!」
「は、はあ……」
美青年二人に言い寄られて戸惑いつつ満更でもなさそうにしているレフィリアに、ルヴィスは目だけ笑っていない笑みを浮かべて白黒の剣士二人を見た。
「お二人とも、レフィリアの直筆サインがご所望なら俺たち兄妹を倒さなければ手に入りませんよ?」
「えっ!? ちょっ、兄さん!?」
その発言に、白黒の剣士二人は目を瞠ると本気の形相でルヴィスに食ってかかった。
「何!? それが本当なら、今度こそ君ら姉弟を叩きのめしてくれるぞ!?」
「何なら次は実剣での戦闘も辞さない!」
「ふっ、望むところ――」
「いやいや、兄さん! もう試合とかいいじゃないですか!」
「そうですよ、ルヴィスさん! サインくらい、ただでいっぱい書いてあげますから!」




