勇者兄妹対異世界聖魔剣士の話①
これはエーデルランド王都においてルヴィスの剣が出来上がるまでの間、レフィリアたちが各自休暇を取っていた時の話。その、ある一日。
ルヴィスとサフィアの二人、クリストル兄妹は同じアダマンランク冒険者であるチーム、シュヴァルツヴァイス――白服の聖騎士と黒服の魔剣士の男性二人組――と再会していた。
エーデルランドとシャルゴーニュ公国の国境線近くで古代遺跡及び遺物を発見しただけでなく、王国軍とともにエステラとソノレを含めた調査隊への案内と護衛を任された彼らは、いまだ王都内へと滞在していた。というより、ソノレたちから話を聞いて、いずれルヴィスたちが王都へ帰って来るのを待っていたのだと言う。
出会った当日、両者はともに酒場で飲み食いしながら様々な話を互いに交わしたのであるが、次の日、シュヴァルツヴァイス側からの模擬戦の申し込み――もとい、前回のリベンジマッチという事で王都内の訓練場を貸し切り、急遽アダマンランク冒険者同士による二対二の試合が行われる事になったのである。
しかもその場所には、シュヴァルツヴァイスの二人からの頼みで観客兼審判役ということでレフィリアもまた同席していた。
「お初にお目に掛かります、聖騎士レフィリア殿。お会いできて光栄です」
「休暇中のところを急に呼びつけてしまい申し訳ありません。ですが我々、どうしても貴方に一度は直接お会いしたく、そちらの兄妹に無理を言い連れてきていただきました。我々との会合を了承していただけて感謝致します」
恭しく深い礼をする白い聖騎士と黒い魔剣士の美青年二人に、レフィリアは少し照れたように戸惑いつつも微笑みを返す。
「いえ、私なんかにそう畏まらなくて大丈夫ですよ。世界屈指の冒険者チームの一つ、シュヴァルツヴァイス。お二人の話も兼ね兼ね聞いています。この度は私の友人たちの護衛を引き受けて下さってありがとうございました」
「これはこれは。今や人類にとって救世主たるレフィリア殿に認知して頂けるとは光栄の極み。しかも礼まで頂けるとは、我々も鼻が高いですね」
「さて、今回お招きしたのは個人的に貴方とお会いしたかったというのともう一つ、私たちと彼ら兄弟の模擬戦を審判役として見届けて頂きたいからで御座いますが――」
そう言って、夜闇を想わせる黒髪に同じく黒い外套を纏った魔剣士はルヴィスたちの方へ視線を向け、二人もまた頷く。
「審判役といってもレフィリアは開始と終了の合図さえしてくれれば、後はゆっくりと観戦してくれていい。そもそも試合内容的に審判なんていなくても別に構いはしないんだからな」
「そもそもレフィリアさんが見ている前で私たちは負けたりなんてしませんし、絶対に負けたくなんかありませんけどね。そちらの二人もそれを分かっていて、私たちをより本気にさせる為にあえてレフィリアさんも呼び寄せたのでしょう」
やる気に満ち溢れているサフィアの様子に、銀髪の白い外套を着た聖騎士は苦笑いをする。
「はは、そこまでの意図は特に無かったのだが、二人が更に力を増すというのならより幸いだ。それでこそリベンジのし甲斐があるというもの」
「分かりました。因みに模擬戦のルールというのは?」
「今回、双方ともに特別な装備や武器は用いず、単純な技量比べのみを行う。武器はこの訓練場で支給されている、こちらの木剣を使う」
そう言いルヴィスは用意していた竹刀袋のような細長い鞄から、同じものが幾つも入った木製のロングソードを見せた。
「試合内容は前に兄さんとハンターが遺跡でやり合った時のものとほぼ同じです。先に地面へ膝をつくか、転倒した方の負けという事で」
「ただし今回は二対二のチーム戦だから両方ともそうなってしまった方が敗北という事になる」
「なるほど、シンプルで分かりやすいですね。では、もう始めちゃったりするのですか?」
「こちらはいつでも準備オーケーだ。後はクリストル兄妹の返事次第であるが」
「勿論、俺たちだって今すぐいけますよ。ならば、早速やり合うといたしましょうか」
一斉にやる気のスイッチが入った強者の剣士四人は、それぞれ鞄から木剣を手に取って速やかに訓練場内のグラウンドへと移動する。そして二人一緒に並んでは互いに20メートルほどの間合いを取って配置についた。
「皆さん、準備の方は宜しいですね!?」
同様に距離を離して観客席側からレフィリアが大きな声で聞き、両チームの剣士たちは全員が構えを取りながら彼女を向いて頷きと合図を送る。
「それでは――試合開始ーーーッ!」
レフィリアによる号令がかかると、四人の剣士は一斉に動いてはそれぞれが異なる動作を見せた。
「――聖堂守護障壁ッ!」
まず白い聖騎士が前方へ勢いよく木剣を翳すと、その正面を覆い尽くすようにガラスかアクリルを想わせる半透明の板が何枚も重なったような魔力障壁が出現する。
これは攻撃よりも防御を得意とする聖騎士の職業を極めた彼の奥義の一つで、発動中は使用者がその場から一歩も動けなくなる代わりに、物理や魔法を問わず接触した攻撃を全て反射して弾き返す効果があるのだ。
しかもそれはあくまで敵に向けた外側のみで、内側からは光盾魔法と同じく外部への攻撃が可能となっている。
「――闇黒竜激葬ッ!」
その特性を利用し、障壁が展開されてすぐのタイミングで黒い魔剣士は木剣に収束させた闇属性の魔力を一閃とともに解き放つ。
剣の刀身から解き放たれた暗黒剣の奥義は、九頭竜の首のように幾つもの帯を一斉に伸ばし、退路を断って覆い尽くすようにルヴィスとサフィアの二人へ襲いかかった。
因みにこの技は対象の生命反応の数と規模に応じて半ば自動的に変容する特殊攻撃であり、主に際限なく分裂するような相手へ有効とされている。
「――剣陣隔絶結界ッ!」
ところがルヴィスは白黒の剣士たちが取った行動を見越していたのか、即座に飛び掛かって斬りつけるような事はせず、試合開始直後すぐに地面へ剣を突き立てては防御用の特技を展開した。
敵の攻撃を見てからではなく相手の出方を予想して術技を講じたことで、魔剣士の放った闇の奔流は半球状の壁に阻まれ、兄妹二人は無傷で大技を防ぎきるに至る。
「疾風の如き俊足で駆け抜けろ――クイックネス!」
兄が防御に回ったのと同じくして、サフィアは剣技ではなく呪文を詠唱し、ルヴィスの敏捷性と反応速度を強化した。これでしばらくの間はより速い俊敏な動作が可能となる。
「ふッ――!」
魔剣士の闇黒竜激葬が障壁によって全て後方へ逸れていき、攻撃が止んだ直後、ルヴィスは剣陣隔絶結界を解除するとともに、一気に走り込んでは眼前の剣士たちへ接近した。
加えてただ単に正面から直進して突撃をかけるのではなく、三角飛びでもするかのような動きで跳躍しつつ迂回し、障壁の張られていない側面側から防御態勢にある白い聖騎士へと踊りかかる。
ここからなら反射の特性がある防御壁であっても意味を成さず、その場から動けない聖騎士に対して攻撃する事が出来る。
「雷電光剣ッ!」
「させん! 黒王轟剣ッ!」
横から木剣の刀身に雷の魔力を纏わせたルヴィスの素早い一撃が飛んでくる。ところが黒い魔剣士はすぐに間へと割り込んで影の魔力を迸らせた剣の特技とともにそれをガードし、両者は互いに鍔ぜり合うこととなった。
それから一旦相手を弾き飛ばし、二人はまた肉薄しては高速の連撃を叩きつけ合う。
「風斬車輪ッ!」
だが、攻撃を仕掛けたのは何もルヴィスだけではない。
サフィアもまた反対側の側面から回り込むようにして急接近し、今度は守り手のいない聖騎士に向かって回転斬りの特技にて飛び掛かっていく。
「甘い! 霊耀輝刃ッ!」
しかしその頃にはもう防御特技を解除していた白い聖騎士は、すぐさま木剣の刀身を眩い光の魔力で覆い尽くすと、それを薙いではサフィアの剣閃をしっかりと受け止めた。
またそれだけでなく、光に包まれた剣の刃は接触した途端、まるで同じ攻撃がそのままぶつけられたかのような衝撃を伴ってサフィアを弾き返す。
「――ッ!?」
体勢が大きく崩れるのを防ぐ為にサフィアは反動を利用して一度後ろへ下がり、聖騎士との間合いを離した。
先ほどの特技は光属性の魔力を用いたもので、受けた物理衝撃を反射して向かって来た相手を吹っ飛ばすものであると、サフィアはすぐに理解、認識するに至る。
(流石は防御と迎撃に秀でた聖騎士。下手な攻撃は逆にこちらの不利を誘いますか……ッ!)




