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道具使いの学園戦記~勘違いから始まる物語~  作者: 泡漢
第三章 勘違いヒーロー
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炎皇VS能力不詳

『西東選手、真島選手の強烈すぎる先制パンチを華麗に回避!でもどうやってやったのこれー!?』


 初日のクリスがやったように、また瞬殺されるのだろう。

 誰もがそう思っていた。あれだけの規模の炎を見てしまっては。

 避けることはほぼ不可能。火恋の火力では防ぐことなどもってのほか。

 終わったな、誰もが抱いたその言葉をいい意味で裏切った。


「へぇ。やるじゃん」

「あはは……ど、どうも」


 褒められても気が気ではなかった。

 なんせまだ命の危機が去ったわけではないし、むしろ火に油を注いでしまった気がしたから。


「これなら楽しめそうだ。投了サレンダーは許さねぇ。全力で抵抗してみろ!!」

(顔怖っ!?)


 満面の笑み――ただし、それは強敵を見つけた狂喜。とても可愛いものではない。


業火の番犬ケルベロス!!」


 三つ首の大型犬を模した炎。生物っぽさこそ皆無だが、その凶暴性はよく再現出来ている。

 まるで空腹を満たすかのように、他のものには目もくれず優真を食らおうとする。


(アンタの能力の正体――――それを意地でも暴く!)


 一度そう決めたらとことんやる。

 来人の時もそうだった。一度動かぬと決めたから、本気で一歩も動かず勝利しようとした。

 今回もそう。優真の能力の正体を暴く。それまでとことんいたぶってやろうと。


(これくらいなら避けられるッ!)


 軽々と業火の番犬を回避する優真。だが、火恋もそれぐらいは読んでいた。

 火恋は両足に纏わせた炎を爆発させ、一気に距離を詰める。


「避けてんじゃねぇよ!!」

「うぐっ!?」


 あえて体は狙わず、わざとESPブレードに受け止められるように、炎を纏った《火竜ノ太刀》をぶつけていく。

 剣と剣の衝突と同時、爆炎が生じる。その爆炎に吹き飛ばされ、優真は再び業火の番犬の餌にされようとしていた。


(さあ見せてみろ!アンタの能力をもう一度!)


 再びどうにもならない状況。開幕で見せた、謎の力を使わなければ餌食になるような状況を自ら作り上げた。


(仕方ないか……!)


 業火の番犬を真っ二つにするように、大剣が天から地へ振り下ろされる。

 その剣に呼応するようにして、業火の番犬の三つ首中央がその体ごとすっぱりと消失する。

 右と左に分かれ、文字通り真っ二つにされた業火の番犬はそこでようやく消火された。


『西東選手、またしても窮地を乗り切ったーーーッ!しかし一体何が起きてるんだ!?もしやこれが西東選手の能力だというのでしょうか!?』


 火恋の炎をいともたやすく消し去る力。

 その力の正体に胸を躍らせる生徒達。

 中にはこの勝負がとんでもない結末になるのではと期待しているものもいた。


(風系の能力の線はないな。水もあり得ないね。アタシの炎がそう簡単に消されてたまるかっての。だとすると、残るのは二つ。”世界でただ一つの力”か”剣術の達人”だ)


 この際どちらでもいい。

 能力の正体を暴くだけなんてもったいない。

 そんなものより――――今この戦闘しゅんかんを楽しみたい!

 体が焼けつくような熱い戦いをしたい!

 そのためには――――あの女の本気を引き出す!!


 メラメラと燃え上がる。心だけでなく、実際に体も。

 炎の中で笑みを浮かべる。少女の面影なんて捨ててきた。今の火恋戦いに飢えた狂戦士だ。


「さァ……こっからが本番だ!!」


 纏った爆炎が火恋を加速させる。

 クリスの《雷人剣》ほどではないが、それと比べても遜色ないほど狂ったスピード。

 勢いに乗ったまま、火竜ノ太刀をぶつけていく。


「うぐっ……!?」


 腕力には自信があった。勝った勝負はすべてこの力でねじ伏せたものばかり。むしろ腕力だけなら全生徒で一番ある自身もあった。

 だというのに。火恋はいともたやすく上回ってくる。こんな出鱈目な力、どうすればいいというんだ。


「うああ!!」


 なすすべなく飛ばされる優真の体。

 握力が強いおかげで大剣を離すずにいられたが、これは運が良かったといえるだろうか――――


「いッ!?」


 そんなことを考えている暇もないらしい。

 大剣を地面に突き立て、ようやく停止する。

 そして火恋の迎撃に備えて、再び地に足を着き剣を地面から引っこ抜いて構える。


「オラオラァ!」


 爆炎を纏った火竜ノ太刀の斬撃、斬撃、斬撃。

 もはや力に力で対抗するのは無理だ。なるべく力を受け流すように、一発、二発と防いでいく。

 剣だけなら捌ける。だが、今の火恋は全身凶器とも状態になっている。

 ただのパンチやキックでも、相当な威力に――――


「そこだッ!」

「が――ッ!?」


 考えてい居た矢先、火恋の蹴りが優真を襲う。

 手のシビレではなく、直接的な痛み。蹴りとともに巻き上がった爆炎で、優真の体はボールのようにいともたやすく飛ばされていく。


業火の龍頭(ドラゴンズヘッド)!!」


 地面に何度か叩き付けられ、ようやく止まれる――――かと思えば、すでに容赦なく放たれた炎が大口を開けて優真の方に向かっていく。しかも五頭だ。


「ッ!」


 優真は即座に体制を立て直す。まず一頭目、二頭目とすり抜けるようにして回避する。

 しかし三頭目と四頭目に道を阻まれ、五頭目に後ろをとられる。

 またしてもどうしようもない状況。

 優真は三頭目と四頭目をまとめてその大剣で切り裂く。これもまた、剣の辿った軌跡をなぞるようにして業火の龍頭が消滅する。

 そうしている間にも、五頭目がこちらに迫っている。優真はまずその場で高く跳ぶ。だがこれだけでは避けられない。だから優真は、まるで何かを踏み台・・・にするように空中でもう一段高く跳んだ。


『優真選手、まさかの二段ジャンプ!?ここ、ゲームの世界じゃないですよねー!?』


 五頭目は優真の足元を這っていく――――優真はこれを見逃さない。通り過ぎていく前に大剣で切り裂き、またしても消滅させる。

 そして再び大口を開けて戻ってきた一頭目と二頭目を、振り向きざまに両方まとめて大剣で薙ぎ払い、例によって消滅させた。


『西東選手!またしても――――』


 実況が言い終わるよりも早く、爆音。

 火恋に対して背を向けた優真に、容赦なく炎を纏った蹴り。


「がっ……!」

「よそ見してんじゃねぇよッ!!」


 爆炎に巻き上げられ、優真は再び宙を舞う。

 さらに火恋は足の炎を爆発させ、空中で体制を立て直そうとする優真に追撃を狙う。

 

『真島選手の怒涛の追撃!恐ろしい!恐ろしくて目を逸らしたい!けど実況しなきゃなのでちゃんと見ます』


 再び爆炎を纏った蹴り。そして再びそれを追いかけ正拳突き、膝蹴り、後ろ回し蹴り――――

 爆炎で加速し、執拗に追撃を与える。もはや優真は地に足を着くことすら許されない。


「お、おい……いくら何でもやりすぎじゃね?火恋のやつ、本気出しすぎだろ。このままじゃ本当に優真が……」

「いいえ。真島さんはまだ本気を出してないわ」

「うえええ!?あ、あれでかよ!?」

「本気ならとっくに決着よ。それに……」


 来人はすさまじい攻防に優真の身が本気で案じていた。あれで本気でないのなら、自分の時は本当に手を抜いていたんだなと改めて認識する。あの時本気を出されていたら、今ここで火恋の試合を見るどころか五体満足でいることも危うかっただろう。

 一方で、一般人視点で”すごい”、”やばい”という感想を抱いていた来人とは対照的に、クリスはあることに気付いていた。

 ――――この激しい追撃の中で、優真がダメージを最小限に抑えるための動きをとっていることに。

 そう、互いにまだ本気でないことに気付いた。


「オォラァッ!!」


 それまでずっと空中に居たままでいた優真が、火恋に首根っこを掴まれて闘技場の壁に叩き付けられ、ようやく静止する。

 

「ケッ。だらしねぇ。この程度で伸びちまってよォ。期待するだけ損だったわ。所詮は43位の雑兵だったってわけか」


 壁の一部になっている優真に吐き捨てるように言う。

 火恋のその発言に、各方面からブーイングが上がる。 


「ち、違うからね?あの子は不器用なだけで根はいい子だからね?ただちょっと、今回はテンションがおかしかっただけだから!悪役っぽいのはそれが理由だから!」


 必死に弁明する来人だったが、それを無視するように火恋はとどめを刺そうとしていた。


「もう終わりにしようぜ三下。アンタみたいな雑魚に時間を割くのは馬鹿馬鹿しいし、アタシも飽きちゃったからさァ!!」

「撤回!やっぱアイツ悪役だ!おいコラ不良女!もういいだろ!やめろ!!」


 一瞬で変わり身する来人。もう誰がどう見ても戦闘不能の筈の優真に攻撃を加えようとする火恋を必死に止めようとするが、ブーイングの入り交じった歓声によってかき消される。

 

 炎を纏った火竜ノ太刀。トドメはESPブレードの斬撃。無防備な優真に向かって、火竜ノ太刀が――――

 

「……調子に乗るんやないよ。このスカタンが」

「は?」


 火竜ノ太刀を軽々と受け止める――――どころか、受け止めた上で何倍ものパワーで押し返す。


「!?」


 何かを感じ取った火恋は一目散に後退する。その直後――――火恋がさっきまで立っていた場所の地面が、円形を描くようにしてごっそり消滅していた。

 あと一歩でも判断が遅ければ、火恋自身も――――

 

「せっかくここらでワザと倒れようとしたのに、ペラペラペラペラ余計なこと口走りおって。ウチもそろそろ我慢の限界や」


 優真――――の筈だが、もはや別人のような口調になっていた。

 雰囲気も、殺気を孕んで恐怖を感じる。初対面で抱いた、特徴もなく普通という感想が覆されて瞬間だった。


「……へぇ。そっちが本当のアンタか」


 ニヤリ。再び火恋に笑みが戻る。

 これだ。これが火恋の求めていたもの。

 ここからが真の勝負。第二幕、開戦――――!


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