狂戦士たちの宴
(驚いたな……まさか、優真を本気にさせるのが私でなく真島になるなんて)
西東優真。親友にして、一番のライバルでもあると神奈は自負している。
優真の能力――――空間使いは、神奈に言わせれば最強の能力の一つである。この能力は、使い方次第ではあの1位を破ることが出来る可能性を秘めている、唯一の能力。
神奈自身、本気を出した優真と戦えば現時点では100%勝てないと思っている。
(また、あの時のようなことが起きなければいいが……)
何故、優真はそれほどの力を持っていて43位などという地位に甘んじているのか。
それを知っているのは、神奈ただ一人だけであった。
(万が一のことがあれば私たちだけではどうにも出来ん。あの人を頼るしか――――)
念には念を。
神奈は席を立ち、この戦いを間違いなく見に来ていないある人物の元へ足を運んだ。
◆
『なんということでしょう!西東選手、あれだけの攻撃を受けて反撃に出ました!この勝負、まだまだ分かりません!』
「いや、反撃っていうか……あれ、ホントに優真だよな……?」
口調の変化、雰囲気の豹変――――とても自分があの時会った西東優真という人物と何もかもがかけ離れていてた。
「これでやっと楽しめるってもんだ。――――かかって来いよ」
「言われずともッ!」
大剣で地面を叩き付ける――――と同時、火恋の目の前の景色が歪んでいく。
そして気付いた時にはもう、目の前まで優真が来ていた。
(速い!一体どうやって!?)
「西東流奥義――――滝登り!!」
「!?」
爆炎を纏った斬撃を、さらに上回る威力で切り上げられる。
剣だけを弾き飛ばすというより、剣ごと火恋の体を浮かせる一撃。宙に浮かせて何をするというんだ。
(面白れぇ。ここまで来てみせろ!!)
足に纏った炎を爆発させ、さらに上へと自分の体を浮かせてみせる。
しかし、優真も即座に反応する。まるでそこに階段でもあるのかと言うように空間を蹴りながら、瞬く間にして火恋の頭上へと駆けていく。
「地球狩り!!」
「くっ!」
体を空中で1回転させ、トップスピードで大剣を叩き込む。
火竜ノ太刀で受け止めるが、足場に何もないためそのまま地面に叩き付けられる。
しかし、火恋は全くの無傷。むしろ傷ついたのは大地の方だった。
(なるほど。両方だったか)
特殊な剣術と、特殊な超能力。
火恋の予想は、ある意味当たっていた。半分正解で半分不正解。だが、むしろこっちの方が火恋にとっては朗報であったのは間違いない。
「やるじゃん。でもやられっぱなしってのは――――」
「西東流奥義!!」
「――――休む暇もないか!」
空間を蹴り、急降下で火恋に向かっていく優真。
最後まで言わせてもらえないことを不服に思わず、むしろその闘争心を評価して笑みを浮かべていた。
「地鳴!!」
地面に大剣を深々と突き刺す。率直な技名通り、闘技場が揺れる――――規模は小さいものの、激しい揺れが。
『揺れてます!めっちゃ揺れてます!」
「次はなんだァ!?雷か?火事かァ?それとも親父でも――――」
大剣ごと、大地を引っこ抜く優真。その光景に、火恋も言葉を失った。
「岩刃!!」
「上等だァ!!」
火竜ノ太刀の一突きで、爆炎が巻き起こる。
爆炎は引っこ抜かれた大地をバラバラにし、四方八方へ吹き飛ばしていく。
しかし、散らばったかと思ったその破片は優真の大剣の一振りとともに、ひとつ残らずぱったり消えていた。
さらに優真は、再び空間を蹴りながら上昇していく。
「これならどうや!」
誰もいない空中で大剣を振る。
剣の軌跡が裂け目となり、そこから姿を表したのは――――消えた地面の残骸と炎の塊だった。
優真はそれに踵を下ろす。
優真から力を加えられ、地面と炎の塊は隕石――――比喩ではなく、現実にあるものとして火恋に向かっていく。
(力比べか!上等だ!受けて立つ!)
炎をコントロールし、逆に隕石を優真に返すなどという発想はない。
力と力のぶつけ合い。ただそれだけを望んだ。
「砕けちれェ!!」
不死鳥を模った炎がその翼を広げ、隕石に向かって飛び立つ。
隕石を優に超える全長を誇る不死鳥は、隕石が豆腐のように思えるほどそれを簡単に壊し、その破片を跡形もなく焼き尽くしていく。そして不死鳥は、優真に向うため翼を翻す。
「このっ!!」
これまでと同じく、大剣の斬撃とともに不死鳥の一部が消えていく――だが、真っ二つになった不死鳥は、すぐに再生する。
何度も何度も斬り裂くが、消えるたびに復活し、その煌めきを維持しつつける。まさに不死鳥。その名に偽りはなかった。
「楽しませてもらったよ!でもこれで終いだ!」
今から回避することは不可能。
この不死鳥を跡形もなく消しさることも不可能。
万事休す。それが大衆の思考だ。
『き、決まったーー!こ、これ大丈夫なんでしょうか!?西東選手の安否は!?』
不死鳥が過ぎ去った跡ーーそこには何も残されていない。
灰燼さえも、跡形もなく消え去った。
「う、嘘だろ……?」
「いくらなんでもやり過ぎじ……?」
「ヤバイんじゃないのかこれ?大問題じゃないのか?」
誰もがこう思っていただろう。
西東優真という人物は骨の髄まで溶かされてしまった、と。
だがそれはとんでもない勘違いだった。
優真は生きている。ただ、この世界の次元から外れた場所にいるだけなのだ。
(あいつ、どこに消えやがった!?)
火恋も確かに抱いていた――――感触の無さ。
優真まだどこかにいる。だが、気配を一切感じられない。
「!?」
突如として、目の前の空間がぱっくり割れる。自分の目を疑うような光景。
刹那――――痛みとともに、体が宙に浮く。
見えたのは、自分を蹴り上げた優真の姿。
優真は地面を、空間を蹴り上げる。火恋への追撃、追撃、追撃。
大剣は火竜ノ太刀によっていともたやすく捌けても、体は力のまま、どんどん上昇していく。
「こんの……!舐めてんじゃ……」
「地球狩り!!」
一回転からトップスピードをぶつける一撃。
一度見ている攻撃なのでこれを捌くことは容易。この後どうなるのかも分かり切っていた。
素直に受け身は取らず、反撃に出る!
やられっぱなしが性に合わない火恋は身の安全の確保より攻撃に転じることを選ぶ。
だが、優真がそれを許さなかった。
空間を蹴り上げ、急降下。最初に地球狩りを受けた時と違い、地面との距離は遠い。地に足が着く前に攻撃するという魂胆だった。
避けるという選択肢はない。この攻撃を、真正面から打ち破ってみせる!!
「画竜点睛!!」
「爆炎龍撃!!」
竜を模した爆炎と、竜の目を貫かんとする大剣がぶつかり合う。
力と力の、意地と意地のぶつけ合い。互いの力は均衡していた――――が、重力を味方につけた優真に、一歩軍配が上がった。
「落ちろやァ!!」
竜を貫き、大剣ごと火恋を地面まで落としていく。
衝撃――――またも闘技場が揺れる。大地が割れ、大地の破片が飛び散っていく。
その中心に、大剣の下敷きとなり、地面の一部と化した火恋がいた。
『……はッ!こ、これは……まさかの……!?』
実況するのも忘れてしまうほどの激しい戦い。
これぞ番狂わせ。誰が予想するというのだ。43位が3位を下すなど。
『き、決まった~~~!!西東選手、まさかまさかの逆転――――うえっ!?』
しかし――――真島火恋という人物が、この程度で終わるわけがなかった。
「ッ!?」
大剣を手放し、優真は距離を置く。
大剣はどろっと溶けていく。まるでアイスクリームのように。
「ククク……いいねぇいいねぇ。最高だ……!これでこそ、戦いってやつだよ……!!」
そこに立っていたのは、火恋の姿を借りた――――紅い悪魔だった。
「久しぶりだ……本気を出すのは。最後に本気を出したのは1位との戦い以来だ……!!」
火竜ノ太刀の、鱗のような刀身が赤く脈打つ。
1位に届くことはなかったが、かつて会場を恐怖のどん底に陥れたその力。
紅蓮の悪魔。人は今の火恋をそう呼んだ。
「さあ!楽しもうぜ!!飽くなき戦いをよぉ!」
「上等や!とことん付き合っ――――」
「お座り!」
「んがっ!?」
「いぎっ!?」
お座り――――火恋でもない、優真でもない声とともに、二人は抵抗することも出来ず地に伏す。
「お前ら何やってんだ。ここは殺し合いの場じゃないぞ」
煙草を銜えながら現れたその人を――――来人もクリスも知っていた。
そもそも、来人の人生を大きく変えた元凶であるその人は、来人やクリス以外でも誰でも知っていた。
その人の名は――――
「き、霧生先生!?」
元世界序列二位にして、現覇道学園の養護教諭――――霧生晴夏だった。




