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道具使いの学園戦記~勘違いから始まる物語~  作者: 泡漢
第二章 勘違いで広がる新たな可能性
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次は絶対に負けない

 夜の《朱雀》を駆ける影が一つ。

 当てなどない。ただただ走り続ける。

 このイライラを晴らすために。

 けど、どれだけ走っても、走っても。イライラは晴れるどころか募るばかり。それに体力もどんどんすり減らしていく。

 そもそも、自分がなににイラついているのか。

 クリス?いや、違う。口うるさうけど、非があるのは自分だ。そんなことでこんなにイラつくほど自分は餓鬼じゃない。

 じゃああの薄ら笑い――――義輝か?少し考えたが、それも違う。確かに奴はムカつくが、このイライラの理由とは近いようで程遠い。

 分からない。分からない。走っても走っても、答えが見つかるどころか、どんどん迷宮入りしていく感覚。

 もはやどうして走っているのかさえも分からなくなってくる。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 足が止まる。

 いくら心が走ろう、走ろうと思っていても、自分の体力がそれを許してくれなかった。


「もう、ダメだぁ~……」


 情けない声とともに、周りに誰もいないことをいいことに大の字でごろんとじ地面に寝転がる。

 目の前に広がる夜空。あの星がどんな星なのか、ここに何座があるのかなんて分からないけど、とても綺麗だと感じることが出来る。


「こんなとこで何やってんだ」


 その夜空を遮るように現れた、燃え盛るような赤。

 相変わらず目つきが悪い不良女。


「……黒だな」


 ボソッと呟いて見せる。

 見えそうで見えない、短いスカートの中身。当てずっぽうだ。


「……殺す!!」


 顔を紅く染め上げながら、右手をメラメラと燃やし始める。


「冗談だから!見てないから!」


 勢いよく立ち上がり、不良少女に弁解を求める。


「って、当てずっぽうで言ったのにそんな動揺してるってことは……まじで黒だったのか!うひゃー火恋ちゃんおっとなー」

「よし殺す!今日の晩飯にしてやるよ!!」

「ごめんなさい!調子に乗りすぎました!!だからね、そんな物騒なもんしまって!俺絶対に美味くないからマジでしまってくださいお願いします!!」


 激しさを増していく炎の前に、全力で捲し立てていく。


「ふん。確かにアンタは不味そうだ。晩飯のすんのは止めだ」


 炎が消火され、ホッと胸を撫で下ろす来人。

 良かった。晩御飯にされなくて。


「けど!アタシをおちょくったことは許さねぇ!」

「えええ!?」


 謝ったのにどうしろと言うんだ。

 とりあえず体を起こして火恋を見る。


「なーに。ちょっと世間話に付き合ってくれりゃ許してやるよ」

「へ?」

「近くに公園があんだろ。そこに行って駄弁ろうぜ」

「そりゃデートの誘いってことですかい?」

「ちげーよ馬鹿。ほら。さっさと行くよ」


 まさかの誘いに戸惑う。しかしまだ帰る気分じゃないし、話に付き合うのも悪くない。

 そう思いながら、火恋の後ろを歩いていった。





 自販機で何か買ってくると言った火恋を、公園のブランコに腰を下ろして待つ。

 やることもなくブランコを漕ぎ始めた矢先、手に二つの缶ジュースを持った火恋が戻ってくる。


「ほれ」

「おっと!」


 ひょいと投げられる缶をしっかりキャッチする。

 ひんやりと冷たい感覚。何を買ってくれたのかと見てみると、今日がぶ飲みしたばかりのコーラだった。


「ん?コーラは嫌いだったか?コーラ好きそうな顔してたから買ったんだけど」

「なんだよコーラ好きそうな顔って。まあ好きだけどよ。ただ……」

「気分じゃないってか?しゃーないな。アタシのと交換してやるよ。ほれ」


 もう一度投げられる。それも難なくキャッチ。でもその缶ジュースをよく見てみると、それも同じくコーラであった。


「同じじゃねーか!」

「あははは!からかってみただけだよ!」

「やり返されたってわけか……ほらよ」


 渡された方のコーラを投げ返す。火恋はそれを受け取ると、来人の隣の開いたブランコへと腰かける。

 そして缶を開け、それを口につける。


「ぷはぁ。悪いね。アタシの好みで選んじまって」

「不良らしい好みだぜ」

「アンタは人のこと言えないだろ」


 来人も同じく、缶を開けてそれを口につける。

 ペットボトルのコーラよりも美味い。


「見てたよ。訓練場トレーニングルームでの喧嘩」

「!!」


 来人にとって、今一番触れてほしくないこと。

 火恋はそれに堂々と触れてきた。


「完敗だったね。完敗。見てるこっちが恥ずかしくなっちまうくらいダッッッサい負けっぷり。アタシを倒した、あの新城来人はどこに行ったのかと言いたくなるくらい――――」

「俺は負けちゃいねぇ!!」

「あん?」


 完敗、完敗、負け。

 浴びせられる言葉にとうとう耐えきれなくなった来人は、その場で立ち上がっていた。


「そもそも、まだあの勝負は決着がついてねぇだろうが!」

「いいや。あの勝負、あのまま続けててもアンタの負けだった」

「んなことねぇよ!最後までやってみなきゃ分からな」

「いい加減にしろ!!」


 怒号とともに火恋は立ち上がり、来人の胸ぐらを掴む。


「アンタさ、まさかとは思うけど負けを認めないことがかっこいい事だと勘違いしてんだろ?」

「だ、だから!俺はまだ負けてなんか――――」

「そう言うのは喧嘩の最中に言いな!もう喧嘩は終わっちまったんだ。大人しく負けを認めろ」

「……ッ」


 そうだ。喧嘩は終わった。

 だからいくら吠えようとも、それは言い訳にしか聞こえない。強がりにすらなってくれない。


「……はぁ。一つ、いいことを教えてやる」


 ため息をつき、来人を解放する。


「負けを認めるっていうのは恥ずべき事なんかじゃない。負けを認めるっていうのは、強さなんだよ」

「え?」


 負けず嫌いそうな火恋からでたこの言葉。意外だった。一番、負けを認めなさそうな性格をしているのに。


「だって当然だろ?負けを認めることが出来なきゃ、人はそこで立ち止まっちまう。けど、負けを認めることが出来たんなら――――次はもう負けない!そう思って強くなることが出来る」

「!!」

「アタシだってそうさ。アンタに負けて、私もまだまだだなって思って。それでまた、強くなろうと思えた」


 火恋の言葉が、体の中へ溶けていく。

 負けを認める。それが嫌だった。だから自分はイライラしていたんだ。

 どうして嫌だったのか?理由は簡単だ。自分のことを強いと勘違いしたままだったからだ。

 けれど目の前の少女――――自分よりはるかに強い少女はこう言った。自分はまだまだ、と。


「これでもアンタには感謝してんだ。三位になって、二位と一位というデカい壁にぶち当たって。どうせ勝てっこない。アタシの実力はここまでなんだって。そう思って、負けを認めず、努力することも止めちまった。けど、アンタに出会ってそれを覆された。どんなに雑魚でも、必死になれば格上の足元を掬うことが出来るんだって。そう思い知らされた」


 もう一度ブランコに腰を下ろし、缶に口をつける。


「そしたらさ、アタシもまだまだいけるんじゃないかって思えてきちゃってさ。ホント久しぶりだったよ。こんなに汗かいたの。もうずっと特訓なんてしてこなかったから」


 パタパタと手で仰いでみせる。

 火恋自身、今日は久しく特殊訓練場を使って汗を掻いてきた。予約が遅くなったから、帰りも遅くなった。そこでたまたま来人に出会ったというわけだ。


「さあどうする?アンタはここで立ち止まるか?それとも前へ進むか。挫折するにはまだ早いぞ。新人序列所持者ルーキー!」


 答えなんて、もう決まっているじゃないか。

 自然と笑みがこぼれる。負けを認める。こんな簡単なことがなんで今までできなかったんだ。

 イライラはすっかり晴れていた。代わりに心の中に現れたのは、”やる気”だった。


「決まってんだろ。俺は前に進む。次はぜってー負けねぇ!今はまだ俺は弱っちいけど、こっから死ぬほど頑張って、もっともっともっと!強くなってみせる!!」


 人生で初めてだったかもしれない。

 こんなにも、強くなりたいと望んだのは。


「ふん。そうだよ、その顔。それでこそこのアタシを倒した男の顔ってもんだ」


 ニヤリと笑い、火恋は空になった缶をゴミ箱に放り投げる。

 見事ストライク。ゴミ箱の中に吸い込まれていった。


「明日の放課後、顔貸しな!」

「ん?デートかよ?」

「だから違うっつってんだろ!特訓だよ!特訓に付き合ってやるっての!でも勘違いすんなよ!別にアンタのためなんかじゃねーからな!またアンタに負けてもらっちゃ、アタシの格も落ちちまうから仕方なくだ!」

「ケッ。相変わらずツンデレくせー台詞ぼやきやがって」

「ツンデレじゃねぇっつの!」

「へいへい。……そんじゃ、また明日な!!」


 ブランコから飛び上がり、一目散に走り去っていく。

 その背中が完全に消えるのを確認した火恋は、置いていった来人の空き缶をゴミ箱に向かって放り投げる。

 明日に備えて、今日はゆっくり休もう。そう考えながら、軽い足取りで帰路についた。

 

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