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道具使いの学園戦記~勘違いから始まる物語~  作者: 泡漢
第二章 勘違いで広がる新たな可能性
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負けてなんかいない

 義輝との戦闘後。

 マフラー少女、もとい風間雅によって生徒会室に連行された来人に待ち受けていたのは、神奈からの厳しい言葉――――ではなかった。

 来人自身、説教が飛んで来ると思って身構えていた。なんせ挑発に乗って勝手に戦闘を初めてしまったのだから。

 だが、神奈に言われたのはたった一言。「帰って頭を冷やして来い」だけだった。

 来人はその言葉に何も言い返すことはなく、言われるがまま帰路についた。

 そして今、二段ベッドの下段で黄昏ていた。


「……」


 先の戦闘で疲労していた、ということもあったが、それ以上に”違う理由で”何もしたくないと思っていた。


(クソッ……なんなんだよ……ッ)


 忘れようとしても、何度も何度も蘇ってくるあの薄ら笑い。

 何度拭おうとしてもフラッシュバックしてくる、あの光景。

 攻撃は当たっているのに当たっていない。回避しているはずなのに回避できていない。

 自分の思うようにいかない。無力さを思い知らせれるあの光景が。


「だぁぁぁあああ!!」


 奇声を発した後、勢いよく飛び上がって鍵を閉めずに部屋を出て行く。

 ――――十数分後。2リットルのコーラとポテチを含めたお菓子の山を両手に持った来人が部屋に戻ってきた。


「食ってやる!食って食って食いまくってやる!」


 バリバリ!と勢いよく袋を開け、汚らしくそれを頬張っていく。

 お菓子を食って、乾いた喉をコーラで潤して、またお菓子を頬張る。

 ちょっと太めの人がドン引きするような勢いでガツガツ食らっていく。

 食って忘れよう。そんな単純な動機のもと、ひたすら食らい続けた。





「……どこだ?ここは……?」


 気が付いた時、来人は真っ暗な空間にただ一人でポツンと立っていた。

 とりあえず外に出よう。そう思って進んでも進んでも、真っ暗なまま。

 もしかしたら外なんてものは存在しないんじゃないか?


「こんなところで何をしているんだい?F組の落ちこぼれくぅん」


 耳に障る声。忘れもしない。間違いなくこの声は、君島義輝のものだ。


「テメェ!なんでこんなところに……」

「なんでって、ここは僕の世界だからさ」


 背後から同じ耳障りな声。振り向くと、そこにも義輝の姿があった。


「僕の世界に僕が居て何が悪いんだい?」

「むしろ君の方こそなんでここにいるんだ?」

「ここは僕の世界だ」

「君はここから出て行くって言うのが筋ってもんなんじゃないかなぁ?」

「負け犬くぅん?」


 四方八方。何人もの君島義輝が来人に言葉を浴びせていく。


「う、うるせぇ!俺は負け犬なんかじゃねぇ!!そもそも、まだ決着はついてねぇだろーが!!」

「何を言っているんだい?」

「あの勝負、邪魔さえ入らなければ僕の勝ちだった」

「そ、そんなこと!最後までやってみなきゃ……」

「君自身、理解しているんだろう?」

「あのまま続けていたら負けていたことを」

「うっ……!」


 何も言い返せない。

 そうだ。その通りなのだ。自分自身で一番良く理解していた。けど、それを認めたくなかった。

 俺がこんな奴に負けたと認めるのが嫌だった。


「さあ出て行こうか」

「負け犬」

「弱虫」

「臆病者!」

「う……うわあああ!!」


 暗黒が義輝の薄ら笑いによって埋められていく。

 そして次々と投げかけられる、自分が負けたという事実。弱いという事実。

 逃げても逃げても、その薄ら笑い振り切ることが出来なかった。


「あああああ!!…………あれ?」


 勢いよく体を起こし、覚醒する。

 周りを見渡す。日が落ちて真っ暗になっていたが、そこは間違いなく自分の部屋。

 義輝の姿などどこにもなかった。


「ゆ、夢かよ……」


 安堵の息を漏らす。

 散らかったお菓子の袋の残骸と、空のペットボトル。どうやらお菓子を馬鹿食いしているうちに寝落ちしていたらしい。


(クソッ……なんつー夢見てんだ)


 汗をびっしょり掻いていることに気付く。

 気持ち悪い。シャワーを浴び着替えよう。

 そう思い立ち、ゴミを放置したままその場を発つ。


「はぁー……」


 大きくため息をつき、脱衣所の扉に手をかける。

 寝起きだったので気付いていなかった。

 普段は開けっ放しの筈なのに閉まっていたこと。そして光が漏れていたことに。


 ガラッ。スライド式の扉が開かれる。

 一瞬、時が止まる。

 扉の先にあったもの。それは――――正真正銘、一糸まとわぬ同居人の裸体。

 本で見るものとはまったく違う、本物の女の体に目が奪われる。

 一度は下着姿を見たことがある。その時もその肌の白さに目を奪われたが、今はそれにくわえ滴る水滴が色っぽさを増している。

 

「……ふぇ?」


 ピーッと、まるでやかんのような音を立てながら顔どころか体全体を真っ赤に染め上げていくクリス。

 マズイ。ようやくことの重大さに気付いた来人だったが、何を言っていいのか分からず立ち尽くす。

 と、言い訳をしてみたがはっきり言えば裸が見たかっ……見とれてたからというのが本音だ。


「あ……あ……あああ……」

(やっべ。どうしよ)


 プルプル震えるクリス。嫌な予感がする。たぶん、平手打ちが飛んできて―――― 


「きゃあああぁぁぁぁッ!?」

「じゃすてぃすッ!?」


 ――――平手打ちを通り越して鉄拳制裁。見事に来人の顔面の中央をぶち抜いていく。


「変態!破廉恥!スケベ!」

「い、いやあ。誤解ダヨ誤解。って、てかさ。その、すげー言いにくいんだけども。いいの?めっちゃ見ちゃうヨ?」


 頬をほんのり赤く染めながら、チラチラと見ている。

 熱くなって忘れていた。咄嗟にタオルで隠したとはいえ、自分は今裸でいることを。それを来人に見られていることを。


「~~~~~っ!す、すぐ服着るからっ!逃げないで待ってなさい!!」


 バタン!勢いよく扉が閉められる。

 痛い思いはしたけどいいものが見れた。たぶん一生忘れないだろう。鼻血が出てきたけどこれは多分胡坐れたからだ。裸を見てしまったからではない筈。

 

(逃げるなと言われたら逆に逃げたくなるもんだぜ)


 来人は立ち上がり、鼻血を拭きとる。

 そして歩み出す。これから飛んで来るであろう怒声の数々を回避するために外へ――――


「来人!!」

「はえーよ!!」


 ガラッと扉を開けて怒声を浴びせる。

 髪をきちんと乾かしていないせいか、王女様とは思えないほどぼさぼさになっていた。


「どうして!なんで!覗きなんかしたの!?」


 鬼のような形相で顔を近づける。

 ぼさぼさの髪も相まって本気で怖い。


「ち、ちげーよ!覗こうとしたわけじゃねーんだ!!」

「じゃあなによ!?」

「いや、俺もちっとシャワー浴びようかなーと思って……」

「なッ!?ま、まさかあなた、私といいい一緒に……!?だ、ダメよそんなの!い、いくら友達でもそれは破廉恥すぎるわ!!」


 顔を真っ赤にしてあらぬ勘違いをする。そんな堂々とした行動が出来るほど来人は勇者ではない。


「違うわッ!!お前が帰ってきてることに気がつかなかったんだよ!!起きた時には真っ暗だったし!!」

「え……?ちょっと待って、もしかしてずっと居たの?」

「居たわ!何故気付かねぇ!?」

「ご、ごめんなさい。帰ってた時に暗かったから、てっきりまだ帰ってないと思って……だから鍵がかけてなかったのね」


 クリスは特訓帰りで汗をかいていたので、電気をつけずそのままシャワーに直行した。

 それが原因で来人の存在にまったく気づかなかったのだ。 

 

「でも!だからと言って勝手に入って来るのは許されないわよ!せめてノックしなさいよ!」

「う……それは俺が悪かったよ。すまねぇ。ずっと寝てたから、寝ぼけてた」

「もう!次からは気を付けなさいよ!」


 パチッ。部屋の電気が点けられる。

 何気ない行為だ。この行為自体は問題なかった。

 だが問題はその後だった。

 照らされて明らかになった、部屋の中にあったものが問題だった。

 

「……なにこれ?」

「あん?ああこれ、俺が買い食いしたやつ」

  

 クリスが指していたもの。それは、来人が馬鹿食いしたお菓子の残骸。


「く~る~と~!!」

「へ?な、なんだよ?」


 再び顔を近づけられて困惑する。眉を逆八の字に変え、頬をぷくーっと膨らませている。

 明らかに不機嫌であることが分かる。


「なんだよじゃないでしょ!なによこれ!食べたらきちんと片付けなさい!」

「へーへー」

「ていうか!ざっと見て5袋くらいあるじゃない!おまけに2リットルのコーラが空になってるし!まさかと思うけど、これ一人で全部食べたとか言うんじゃないでしょうね!?」

「一人で寂しく食ったし一人で寂しく飲んだよ。とりあえず片付けりゃいいんだろ片付けりゃよぉ」


 気怠そうに返事を返し、そそくさと空になった袋とペットボトルを集める。


「一人で……!?信じられない!!バカじゃないの!?」

「あぁん!?だぁれが馬鹿だ!?」

「アナタのことよ!こんなにお菓子を食べた挙句、一人で2リットル飲み干すなんて!不健康極まりないわ!!それにこんなに食べてちゃお夕飯が食べられなくなっちゃうでしょ!?分かってるの!?」


 襲い来る説教の数々。あまりの声の大きさに耳を塞いでも良く聞こえてくる。


「だぁぁぁぁ!!お前は俺のオカンかッ!!」

「オカン?オカンって何よ!?悪口!?悪口なの!?」


 ”オカン”の意味が分かっていないらしく、悪口だと思ってしまう。

 まあある意味悪口かもしれないが。それを説明するのも煩わしい。


「んがぁぁぁぁ!めんどくせぇぇぇ!!」


 くしゃくしゃとゴミを丸め、それをゴミ箱に押し込む。そして乱雑にペットボトルを置き、玄関までズカズカ歩いていった。


「ちょっと!どこに行くのよ!?」

「走ってくんだよ!!そうすりゃ嫌でも腹が空くだろーが!!」


 玄関を飛び出し、そこから走り始める。

 どこまで走るのかなんて決めてない。

 このイライラが晴れるまで、どこまでも走り続けるだけだ。


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