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道具使いの学園戦記~勘違いから始まる物語~  作者: 泡漢
第二章 勘違いで広がる新たな可能性
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勘違いの実力

「ったく……なんで序列ランク三位のアタシが待たされなくっちゃなんねーんだよ」


 愚痴をこぼしながら特殊訓練場に足を運ぶ火恋。

 予約するのが遅れ、約2時間待たされる羽目となっていた。自業自得と言えばそれまでだが。

 

(ん?やけに騒がしいな?)


 地下の特殊訓練場とは違って、地上の訓練場はあまり賑わっていない、というのが火恋の認識だった。


(誰かが喧嘩でもおっ始めたか?そうだったら面白いんだけどな)


 などと少し期待しながら、火恋は訓練場の方へと近づいていく。

 そこまで大人数ではないが、人だかりができていた。

 その中央で相対するのは、二人の男子生徒。


(って、あいつは……)


 片方には見覚えがあった。

 金髪の、目つきの悪い男。忘れもしない。新城来人だった。


(なにやってんだ?)


 怪訝そうに中央の二人を再度見る。

 どう見ても、今から喧嘩を始めようとしているとしか見えない。目がそう言っているのだ。

 また来人アイツから喧嘩を売ったのか?と思いながらも、なかなか面白そうなことに出会えたとも思っていた火恋はギャラリーとして見届けることに決めた。





「おい。本当に大丈夫なのか?」

「いや、私にそんなこと言われても……」


 2年C組の雪奈は、同じクラスで顔なじみの優真とヒソヒソと小声で話していた。

 止めようたってどうすればいい。来人はすっかりスイッチが入ってしまったし、相手の君島きみしま義輝よしてる女の子ギャラリーを呼んですっかり本気になっていた。


「ああもう!なんでこんなことにぃ~!」

「それはこっちの台詞だ……」


 頭をくしゃくしゃにする優真と、大きなため息を一つつく雪奈

 そんな二人を尻目に、来人と義輝は睨みあっていた。


「義輝さまーーー!」

「こっち向いてーーー!」


 黄色い声援が義輝に投げかけられる。

 義輝はそれに答えるように、女の子ハーレムに笑顔を振り撒く。


(ケッ!ハーレム自慢かよ!気に食わねぇ!)


 内心でイライラをぶちまける。

 一刻も早く義輝をぶっ倒そうと息巻いていた。


「おい!」

「ん?どうかした?」

「どうかしたじゃねーだろ!喧嘩をふっかけてきたのはそっちだろーが!よそ見してねーでさっさと始めんぞ!」


 狂犬のように八重歯をむき出しにして吠える。

 

「はいはい。分かった分かった。そんじゃ始めよっか」


 義輝は言うことを聞かないその狂犬を躾けるように言う。

 完全に来人のことを下に見ていた。


「さ、来なよ」


 クイクイと手を動かしながら来人を挑発する。

 戦いの火蓋が切って落とされた合図に、来人の中で炎が一気に燃え上がった。


「上等ォ!!」


 勢いよくスタートダッシュを切る。標的は目の前のチャラ男。木刀を手にまっすぐ突き進んでいく。


「おー。威勢がいいねぇ。その勢いに免じて特別サービスしちゃうよ!僕は一歩も動かないし、避けもしないってね」


 両手を広げ、高らかに宣言する。

 ――――舐めやがって。その余裕をかました面を歪ませてやる!

 木刀の届く範囲まできた。あとはこの木刀を、あの憎きチャラ男の顔面にぶち込むだけだ!

 全力の袈裟切り。確実にとらえた!筈、だった。


「!?」


 木刀が切っていたのは、義輝の顔ではなくその前の空気だった。


(避けられた!?いや、そんな素振りは一度も――――)


 そう。避けた素振りなど見せなかった。義輝は棒立ちしたままだった。

 なのに、木刀は空を切った。確実に当たった。そうだ、当たった筈なのだ。なのになぜ空振った?

 形容しがたい違和感。むず痒さと気持ち悪さが同時に押し寄せてくる。


「おいおい。どこ狙ってんの?僕はここだよ?ちゃーんと狙いなよ」

「ッ!クソッ!」


 木刀を振る、振る、振る。ひたすらに振り回す。

 だが、どれだけやっても一向にかすりもしない。あの薄ら笑いを崩すことは出来ない。

 自分の中ではもう何十回も当たっているはずだった。頭がどうにかなりそうな気持ち悪さ。何がどうなっているのか全く分からなかった。


(何やってんの新城君!そんなとこでESPブレード振り回しても当たるわけないじゃん!)


 優真の目の前には、どう見ても木刀の届かない距離でそれを振り回す来人の姿と、その光景を面白そうに薄ら笑いを浮かべて眺めていた義輝の光景。


来人あいつの相手……確か……)


 自分の記憶の中を探る火恋。そこで一致した、その男の名と能力。


(クソ!なんでだよ!なんで当たらねぇんだ!!)

「はははは!まーだ当てられないの?僕はここ――――」

「うっせぇ!!」


 やけくそ気味に木刀を義輝の方へぶん投げる。

 グルグルと回転しながら向かっていく木刀に、義輝の体がようやく動いた。


「おっと!」


 寸でのところで木刀を回避する義輝。

 ここでもまた、違和感を感じる。

 だがそれと同時に、確信につながる何かを掴んでいた。


(避けた……?さっきまで一歩も動かなかったのに……投げた木刀だけは避けやがった)


 あと少し。この違和感の謎を解くにはまだ何かが必要だ。その何かが分かれば苦労はしないが――――


「ふー。危ない危ない。でも、自分からESPブレードを手放しちゃうなんて。まるで自殺行為だね」


 そしてとうとう、義輝のESPブレードがその刀身を顕す。

 薄ら笑いも消え、本気の眼差しを来人に向ける。


「サービスタイムは終わりだ。今度は僕から行くよ!」


 そう言って、義輝は距離を詰めてくる・・・・・・・・

 ――――距離を詰める?一体何を言っているんだ?もう距離を詰めるまでもなく、届く距離にいる・・・・・・・じゃないか。

 違和感と同時に、身の危険を察する。このままでは義輝の攻撃をモロに受けてしまう。

 来人は無意識のうちに道具使いアイテムマスターを使用し、手に戻ってきた木刀で、振り下ろされた義輝のESPブレードを受け止めていた。


「ッ!防いだ!?……そう言えば君の能力はそういうやつだったねッ!」


 鍔迫り合いの後、互いに距離を置く。

 

(まだだ!まだ足りねぇ!)

「ヘッ!そんじゃまた、こっちから行かせてもらうぜッ!!」


 掴めそうで掴めないこのカラクリを暴くため、もう一度正面から切り込む。


「ッ!また……!」


 当たっているのに、当たっていない。

 自分の中では当たっているはずだ。けど、現実は違う。自分の見ているものと、起こっていることが一致しない。


「がら空きだ!!」


 義輝のESPブレードが振り下ろされる。

 これくらいなら回避できる。そう思って体を動かす。だが――――


「う!?」


 避けた筈なのに、痛みを感じる。ESPブレードの感触を感じる。

 

「ほらほらァ!次行くよォ!」

「ぐ!?がッ!!」


 斬撃の雨あられ。中には避けられる攻撃もあった。だがその全てが、自分に当たっていた。

 あと少しで掴めそうだったその感覚さえ、痛みが上書きしていく。


(や、やべぇ……また、これか……ッ!)


 幾度となく降り注ぐ斬撃によって生じた、超能力障害。

 斬撃による痛みとひどい頭痛で、意識が遠のいていく。


「か……は……ッ」


 斬撃の嵐が言った止み、膝から崩れ落ちる来人。もう立っていることすらままならない状態まで追い詰められていた。


「あははははは!なんだよなんだよ!大したこと無いじゃん!やっぱアレは運だったんだ!こんなに弱っちいなんて拍子抜けだよぉ!!」


 笑い狂う義輝。

 確かにそうだクリスに勝ったのは運が良かったからだ。それは否定しない。けど、だからといって、このまま終わってたまるものか。

 足に力を入れ、大地を踏ん張る。まだ俺は戦えるぞと、鋭く睨みつける。


「ん?おいおい……まだやるっていうの?」

「はぁはぁ……当たり前……だ……ッ」


 しかしどれだけ強がっても、足はプルプルと震え、背筋もピンと伸ばすことは出来ず猫背にしかならない。

 誰がどう見ても、まともに戦える状態ではなかった。


「しつこい男は嫌われるよ?」

「るせー……よ……」

「はぁー。仕方ない。さっさと終わらせて――――」


 刹那。

 義輝の言葉を巻き上げるように小さな竜巻が起こる。

 竜巻の中央には人影。それも、見たことのあるもの。


「!? き、君は……!」

「生徒会の風間かざまみやびだ。会長マスターの命により参った」


 凍り付いてしまうような冷たい声。

 来人の左隣の席に座っていた、マフラーの少女だ。


「これ以上の戦闘は許可しない。もし戦闘を続行するというなら、私が相手をする」


 ギロリと冷たく睨みつけられる義輝。

 その気迫の前に、後ずさりする。


「は、はは……生徒会で、しかも序列ランク8位の願いというならしかたかないか。分かったよ!止めだ、やめ!さ、行こうか」


 来人に背を向け、ハーレムを引き連れて訓練場を後にする。

 待て!そう言って止める気力も今の来人には残されていなかった。

 もう一度、膝から崩れ落ちる。

 

「チクショウ……ッ」


 何もできなかった。

 クリスの時も、火恋の時も、何とかしてやったのに、今回は何もできなかった。


「チクショウッ……!」


 そうだ。あの時は運が良かっただけなのだ。運が良かったから勝てただけなのだ。それなのに自分は強いんじゃないかと勘違いしていた。

 これが本当の自分の実力。嘘偽りない、正真正銘の実力。自分は本当は無力で、大した力のない凡人だったということに気付かされた。

 昔ならそんなこと知っていたじゃないか。でも、強いと勘違いしてしまったせいで、そのことを強く再認識されてしまった。


「チクショォォォオオオッ!!」


 この惨めさを、不甲斐なさを、悔しさをすべてぶつけるように、拳を強く地面に叩き付けた。


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