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道具使いの学園戦記~勘違いから始まる物語~  作者: 泡漢
第二章 勘違いで広がる新たな可能性
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見回り

 特殊訓練場は依然として秩序が保たれていた。

 歩いて歩いてもどこ戦闘フィールドも埋まっていて、そこで汗を流して己を磨く生徒ばかりだった。


「それにしても、新城君も災難だよねー」


 肩を並べ、特殊訓練場をともに巡回する優真が声をかけてくる。 


「災難?」

「神奈に目を付けられたってこと」

「あー。それは仕方ねーよ。だって俺、配布用のESPブレードを勝手に使ってぶっ壊しちまったから……」

「知ってるよ。でもそれじゃないんだ」

「え?」


 それじゃないとは、つまりESPブレードを壊したから目を付けられたというわけではないということか?


「普通はそんな問題を起こした生徒を生徒会に入れるわけないじゃん」

「言われてみれば確かにそうだけど……」


 生徒会にこき使われるという意味でなら一種の罰になるが、非常勤とはいえ生徒会という一種のステータスを得てしまったことになる。

 そう考えてみると確かに、普通の対処ではない気がしてきた。


「神奈はね、新城君に期待しているんだ」

「期待?」

「まあね。私の勘だけど」

「勘かよっ!!」


 せっかく期待されていると思っていたところを一瞬で落とされる。

 勘なんてあんまりだ。


「だって神奈、最近新城君の話ばっかりするからさ」

「俺の?あの会長が?」

「そうそうあの神奈が!面白い奴を見つけてしまったとか、素晴らしい戦い方をするとか。私のことは全然褒めてくれないのに、新城君のことはもうベッタベタに褒めてて!」

「へ、へぇ。あの会長が俺のことを……」


 自然と頬が緩む。

 褒められて嬉しくない人間などいない。ましてやそれが可愛い女の子でもあり、安全無欠の生徒会長である神奈なのだからこれで嬉しくならない男などいない。


「だから神奈が新城君に色々と期待してるんじゃないかなって思ったんだ。神奈がここまで同じ人のことを褒めるのは滅多にないし」

「ふ……ふふふ……そうか。ならその期待に答えるしかないな!やってやるぜ!!」

(うひゃー。ホントに扱いやすいなぁ。神奈の言った通りだ)


 やる気を出した来人を微笑ましく見守る優真。

 優真はあらかじめ神奈に言われていた。「私が褒めていたということを言っておけ」と。そうすれば簡単にやる気を出すと言っていたが、まさにその通りだった。


「そういやさっきから気になってたんだけどさ、優真と会長って昔からの知り合いだったりするのか?」

「ん?そうだけど。神奈とは昔からの付き合いだよ。まあ、幼馴染ってやつかな」

「やっぱそうだったのか。いや、あの会長のことを呼び捨てにしている上にタメ口聞いてたからよ。そんなこと出来るのは昔から付き合いある奴じゃないと無理かなーって」

「まあそう思うよねー。実際、《朱雀》に来てからの知り合いは今はもうみーんな”会長”って呼んでいるし」


 言われてみれば確かにそうだ。自分もそうだし、周りの人間もすべて会長呼び。

 名前で呼んでいるのは本当に優真だけだ。だからあの時違和感を感じたのだろう。


「神奈は昔っから変な奴だったからなぁ。そのせいで小学生の頃はイジメられてたくらいだし」

「マジで!?会長が!?」


 会長がイジメられていたなんてとてもじゃないが信じられない。

 むしろイジメている奴らを粛清するというイメージ一番だった。


「しかもあの子、イジメられているのに関わらず、わざと憎まれるようなことばっかりやって。それでどんどんイジメがエスカレートしていったんだ」

「わざとって……」

「もう私も見てられなくなってさ。腕っぷしには自信があったから、いじめっ子どもをボコボコにしてやったんだ」


 にひひと悪戯な笑みを浮かべながら腕をまくり上げて見せる優真。

 まあ、こんなデカくて重そうなESPブレードを持っているんだから、腕っぷしが強いのは当たり前といえば当たり前か。


「でさ、いじめっ子を追い払った後に神奈に言われたことがもう衝撃的で。今でも覚えてるくらいだもん」

「さぞとんでもないこと言われたんだろうな。で、何言われたんだ?」

「”愚か者!どうして助けた!”ってね」

「お、おお……」


 確かに衝撃的だ。

 助けたのにこの言われようと、当時小学生なのにこんな言葉が出ること。様々な意味で衝撃的だった。

 これは確かに、今でも覚えているというのもうなずける。もし自分が同じ立場だったとしても、絶対に覚えている自信がある。


「結局この事件がきっかけで神奈とダチになったんだけどさ、言われたときはもう目が点になったよ。でも、今ならどうしてそんなことを言ったのかが分かる」


 優真から笑顔が消え、神妙な面持ちになる。

 それとともに声のトーンも低くなっていく。


「実は神奈がイジメられる前に、イジメられていた子がいたらしくて」

「らしい?ってことはそれに気づいてなかったのか?」

「うん。だってその子に対するイジメは一ヶ月も経たないうちにすっぱり無くなったから」

「一ヶ月も経たないうちにって……まさか!」

「そう。神奈がその子を助けたんだ」


 合点が行く。イジメられっ子を助けたやつが辿る末路。


「それがきっかけで、イジメの対象が神奈に変わった。それだけじゃない。神奈はわざと憎まれるようなことをやって、自分以外がイジメられないように仕向けた」

「……!」


 衝撃が走る。何も言うことが出来なくなる。

 とても小学生の考えることではない。


「私にあんなことも言ったのも、神奈を助けたことで私がイジメの対象になると思ったから。だからあんなに強く言ったんだ。アイツは一人で嫌なことすべてを背負おうとしていた。助けなんて求めていなかった」


 驚きだ。驚いて唖然としている自分がいる。

 普通だったら、助けてほしいと思っているはずだ。どれだけ強がっても、心の中では助けを求めているはずだ。もし優真がやったように、誰かに助けられたとして、愚か者なんて言葉は出ない筈だ。

 でも神奈は違った。どれだけ苦しくても、辛くても助けなど求めず、自分一人を犠牲にして他を守るという選択をとった。

 

「アイツは昔からそういうやつなんだ。やると決めたらとことんやる。たとえ自分が傷つくことになってもね」

「……」

「生徒会長になったのも、この学園をよりよくしよう!って思い立ったから。中等部の頃からコツコツと積み上げていって、高等部になってからの総選挙で、上級生を差し置いて生徒会長になっちゃうんだもん」


 まさに生徒会長になるべくしてなった人間。まさに鋼の意志。ESPブレードで叩き割ることが出来ないどころか、こっちがへし折られてしまう。

 この人以外に誰が生徒会長が出来ようか?いや、誰も出来ない。


「でも……それだけじゃない。アイツは何か、別のことを成し遂げようとしている気がする。とても気持ちのいいものじゃない。私に言えないような、何かを……」


 消えそうな程の小声で優真は言う。

 はっきりと聞き取れず、もう一度何を言ったのか聞こうとしたその時だった。


「おい!まだ私の時間は終わってないぞ!勝手に入ってくるな!」

「この声は――――!!」


 聞いたことのある声。声の方を向くと、その声の主――――雪奈の姿があった。

 雪奈の視線の先には、茶髪の男の姿が。来人は確信する。そこで問題が起こっていると。


「あちゃー。早速問題発生ですか。そんじゃ新城君、行きますか!」


 ……返事が返って来ない。どうしたのかと隣を見てみると、そこにはもう来人の姿がなかった。


「あれ?」


 どこに行ったのかときょろきょろ周りを見渡すと、問題の発生した戦闘フィールド”J”に向かっていく来人の姿を確認する。


「いいじゃんいいじゃん。一緒にやろうよ」

「ふざけるな!出ていってくれ!」

「そんなこと言わずにさあ。何ならこの僕が手取り足取り教えてあげるけど?」


 茶髪のいかにもチャラ男な風貌の生徒が執拗に雪奈に絡んでいる。傍から見ればナンパにも見えなくもない。


「必要ない!」

「遠慮するなって。僕は君より序列ランクが高いんだよ?きっと悪いようには――――」

「待てコラァァァ!!」


 茶髪の男の声をかき消すような怒鳴り声を上げ、来人が乱入してくる。


「君は……」

「誰?ここは僕らのものなんだけど」

「誰だってぇ?耳の穴かっぽじってよぉーく聞きやがれ!――――天下の生徒会特務係!新城来人サマたァ俺のこった!」


 不服そうな顔をする茶髪の男に対して、腕章を見せびらかしながら高らかに言う。

 雪奈の前ということで、少しばかり張り切っていた。


「ちっ。生徒会か」

「そうだ生徒会だ!さっさと雪奈ちゃんから離れろ!そして出てけ!」

「んー。生徒会なら仕方な――――って、そういえば君、どこかで……」


 腕を組み、しばらく考え込む。


「ああ!あの《雷帝ザ・ライトニング》にまぐれで勝った元F組の!!」

「あん?それがどーしたってんだ。さっさと出てけ!」


 実際にまぐれで勝ったのは事実なので、否定はせず退去を促す。


「んー。どうしようかなぁ」


 来人の正体を思い出した途端、茶髪の男が強気に出る。

 完全に来人は舐められていた。


「そうだ!こうしよう!君が勝ったら大人しくここを退こう。けど、僕が勝ったら彼女ごとここをいただくけど?」

「な!勝手に私を賭けに使うな!」


 突然の申し出に反論する雪奈。

 当然だ。雪奈には何も非がない。むしろ一番の被害者だ。


「それは決闘の申し出か?」

「まさか。ただの手合わせだよ」


 非があるのは茶髪の男だというのは明白だ。ルールを破っているのに決闘をなんて、教師が認めないことを分かり切っている。


「お断りだ。悪いことをしてんのはテメーだろうが。さっさとそこを退くのがルールってもんだろ?」


 来人はいたって冷静に対処する。

 だが、茶髪の男はそう簡単に引き下がらなかった。


「ふーん。そっか。まあ仕方ないか。僕に負けるのが怖くて戦いに応じれない臆病者に免じて、今日は引き下がることにしよう」

「……あ?」


 ぶちっ。来人の中のスイッチが入る音がした。


「テメェ、今なんつった?」

「ん?僕に負けるのが怖くて戦いに応じれない、まぐれで勝ったただ運がいいだけの臆病で弱虫な元F組のクズって言ったんだけど?」

「野郎……!言ってくれるじゃねーか……!」


 眉をぴくぴく震わせ、すっかり頭に血が上ってしまった来人。

 まんまと茶髪の男の挑発に乗せられてしまっていた。


「新城君、今どうなって――――」

「上等だ!その喧嘩買ってやろうじゃねーか!!」

「へ?喧嘩?」


 遅れて”J”にやってきた優真は、耳に入ってきた物騒な単語に困惑する。


「フッ。そうこなくっちゃ。それじゃ上に行こうか。ここじゃ迷惑だ」

「お、おい!何故そうなる!?」

「安心していいぜ雪奈ちゃん。こいつはぜってーに俺がぶっ倒すからよ!!」

「い、いや。そんなことを言われても……」


 止めようとしてももう聞く耳を持たない。

 もはや手遅れだった。


「ちょ、ちょっと!?喧嘩って何!?どこ行くのーー!?」


 優真の叫び声も空しく、来人たちは”J”を後にする。

 どうしてこうなった。取り残された雪奈と優真はただただ頭を抱えるばかりであった。


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