特殊訓練場
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!?生徒会特務係ってなんだよ!?」
「静かに」
「う、うす……」
騒いでいたところを神奈に注意され、ボリュームを落とす。
でも、こんな唐突すぎる展開にパニックになるなという方が無理な話はあるが。
「さて、君の質問に答えよう。生徒会特務係とは、正式な生徒会役員とは違う。いわば非常勤の役員であり、いわゆる補欠だ。生徒会役員だけでは対処しきれない問題が発生した時に助力してもらう、というのが主な役割だ。まあ、もっと言えば雑用係ともいえるが……」
「そうじゃなくて!なんで俺がこんなことしなくちゃならねーの!?」
問題はそこじゃない。こんなことをさせられる理由が知りたかった。
「新城。これに見覚えがないか?」
そう言って出してきたのは、ESPブレードに見えるガラクタ。
というか、おそらくESPブレードだった。けれどあまりにもボロボロになっていて、それをESPブレードと呼ぶのはどうかと思った。
「……あ!」
ふと思い出す。このガラクタ、もといESPブレードのことを。
これは間違いなく、火恋戦で自分がブン投げたものであった。
現にこのESPブレード、火恋の炎で焼け焦げた跡があった。
「新城。このESPブレード……実は生徒に配布するために用意したのだがな。それが今はこのありさまだ。とても人様に出せたものではない」
「……」
ダラダラと滝のように汗を流す。
後先なんて考えてなかった。あの時は”今”を乗り越えるために必死だった。
それがまさか、こんな結果につながってしまうなんて思いもしなかった。
「さて新城。これについて、お前はどう責任をとるつもりだ?」
笑顔で威圧される。暗にこれは、”やれ”と言っている。
来人に拒否権など存在しなかった。
「わ……分かったよ……やりゃいいんだろ?特務係とやらをさ……」
「うむ!その心意気だ!期待しているぞ!」
肩を落とし、項垂れる背中をバシバシ叩かれる。
何が心意気だ。半ば脅迫じゃないかと心の中で毒づく。まあ勝手にESPブレード持ち出してぶっ壊したのが悪いのだが。
「よし!早速だが仕事だ!」
「えええ!?いきなりっスか!?」
「まあそんなに慌てるな。助手はつけておく。優真!」
のっそのっそと、奥の方から歩いてこちらに近づいてくる。
桃色のショートヘアで、神奈よりも頭一つ分背の高い少女だった。てっきり男だと思っていただけに意外だった。
「どーもー。神奈のダチの西東優真でっす。新城君のことは神奈から聞いてるよ」
「あ、ああ。どうも」
神奈と呼び捨てにしたことと、ダチと言ったことに少し驚く。
まさかこの子が、神奈が以前言っていた友人というやつだろうか?それにしては何というか、普通の女の子だ。想像よりも普通すぎて達筆する点がない。決して可愛くないというわけではないし、むしろかわいい方だと思うが、何故かパッとしない。特徴がないというのが一番正しいか。
「優真も君と同じく特務係だ。優真はもう特務係に任命されて一年経っている。ゆえに仕事内容はばっちり把握している」
「そんな過信されても困るって。で?何やればいいの?」
「見回りを頼む」
「あーい。そんじゃいこっか、新城君」
優真の後に続いて、生徒会室を後にする。
その後どこかを目指して、周りなど見向きもせずずんずん進んでいく。
「なあ、どこ行くんだ?」
「特殊訓練場。この時期は人でいっぱいだからね。なんせ来週は序列入れ替え戦だから。特訓に励む人たちであふれかえってる」
「へ?はいぱー?」
「あれ?新城君は知らないんだっけ?」
「全然知らねぇ。つーか初めて聞いた」
この間の火恋との闘いをした《訓練場》なら知っている。しかし、それに特殊がつくとなると別だった。
「ま、すぐに分かるよ。序列証は持ってるでしょ?」
「序列札?……ってこれのことか?」
今朝響子に手渡されたブロンズのカードをポケットから取り出して見せた。
「そうそれ。それがなきゃ入れないからね」
ということは序列所持者にしか入れない場所ということ。
一体どんな場所なのかを想像し、胸を躍らせていたらあっという間に《訓練場》にたどり着いていた。
《訓練場》に入ると、何人かのペアが手合わせをしていた。だがそれは、とても多いといえる人数ではない。つまりここは特殊訓練場ではないということだ。
優真は訓練場の奥に進んでいく。するとその先に、明らかに怪しい扉を視認する。さらに目を細めてよく見ると、カードをスキャンする装置のようなもの発見し、胸が高鳴る。
「ほいっと」
案の定、優真はその機械に序列札を通す。
『序列67位。西東優真』
「おお!?喋った!?」
機械音に思わず興奮してしまう。好奇心がすでにメーターを振り切っていた。
『本人確認を行います。ESPブレードを前へ』
機械音にしたがって、優真は自身の持つ大剣型のESPブレードを前にかざす。すると光がESPブレードに照射され、何かの情報を読み取っているのが分かる。
『本人であることを確認。扉が開きます』
「とまあこんな感じで。すぐ扉は閉まっちゃうから、私がやったのと同じ手順でやってみて」
「おう!」
扉の向こうに優真が消えたのを確認し、来人は前に出る。
まず、序列札をスキャンする。
『序列105位。新城来人』
「おお!俺の名前言った!」
『本人確認を行います。ESPブレードを前へ』
「あいよ!」
ESPブレードを前にかざし、しばらく待つ。
『本人であることを確認。扉が開きます』
「おおお!!」
目を輝かせながら、扉を潜り抜ける。そこでは来人を待ち受ける優真の姿があった。
「お、きたきた」
「すげぇ!なんだこれ!なんかの基地に来たみたいだ!すげぇ!」
「あははは。大袈裟すぎ。そんなんじゃこの先で卒倒しちゃうよ?」
「マジかよ!上等だ!」
すでに見回りという役割を忘れてすっかり初めてのことを楽しんでいる来人。
これから先にどんなものが待ち構えているのか、楽しみで仕方ない。
胸を躍らせながら階段を駆け下りていく。すると、光が差す場所を確認する。
光の差す方へ、来人は全力で駆けていく。
光を全身で浴びた後、目の前に広がった光景は――――
「す、すげぇ……!」
A~Zと書かれた計26の戦闘フィールドがびっちりと敷き詰められている光景。そしてそこで汗を流し、己を磨く生徒の姿。
自分の知らなかった覇道学園の姿がここにあった。
「どう?驚いた?」
「驚いたも何も、なんかもうすごくて、すげぇと言うしかないくらいすげぇよ!」
「ほんとさっきからすごいとしか言ってないね。ま、そうなるのも無理はないか。私も最初はびっくりしたもん」
子供のようにはしゃぐ来人を見て、過去の自分を思い出していた。
ここは序列所持者しか知らない。序列所持者だけが使える施設。
「お?何だあの黒いの?」
「ああ。あれは”ゴースト”だよ」
「ごーすと?」
入口から一番近い生徒が、戦闘フィールドで”人型の黒い何か”と戦闘をしている。
その”人型の黒い何か”こそ、優真のいう”ゴースト”であった。
「戦闘フィールドに取り付けられた機能の一つだよ。あれは私たち序列所持者一人一人の動きや能力を忠実に再現した、いわば分身みたいなもの。基本的にあれを使った模擬戦がここでのメインだね」
「なるほど。ん?なんかあっちではいっぱいそのゴーストがいるみたいだけど?」
その隣戦闘フィールドでは、複数体のゴーストと戦闘する生徒の姿を発見する。
「一つの戦闘フィールドに呼べるゴーストの最大数は6体。つまり一度に6体を相手にすることも出来る。数だけじゃない。強さだって選べちゃう。ちなみに、強さの段階は序列同じ。やろうと思えばあの神奈との戦闘も体験できちゃうってわけ」
「おお!なんか面白そうじゃん!」
「とはいっても、所詮はデータだからオリジナルよりは劣っちゃうんだけどね」
「よーし!んじゃ俺も早速」
「ちょーーっと待った!」
「ぐえっ!?」
がしっと腕を掴まれ止められる。予想外の怪力に、マヌケな声を出しながら尻餅をついてしまった。
「なんだよ!?」
「言ったじゃん。特殊訓練場は人であふれかえってるって」
「だったら空くまで待てばいいだろ!」
「それもダメ。ここは予約制だから」
「予約制ィ!?」
「今日はもう完全下校時刻まで予約で埋まってるから。また次の機会にね」
「ぶー」
口を尖らせブー垂れてみる。
まるで欲しい玩具を買ってもらえなかった子供のようだ。
「ま、中にはルールを無視しちゃうおバカさんもいるんだけどねぇ。そんなおバカさんを取り締まるのが今回の私たちの役目ってわけ」
「おお。なるほど。それでここの見回りか」
「そうそう。そういうこと。そんじゃ始めますか!」
「へーい」
生徒会特務部としての初仕事。
ほどほどに頑張ろうと決めながら、来人は立ち上がった。




