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007-新入生-


 実際に訓練機を起動出来た事で、動かせるかと言う不安も拭い去られた。シミュレータで訓練を重ねてきていた事もあり、初日こそぎこちない動きであったが、そのあとは順調に進んでいった。


「あっ、そうだ!おにぃ、訓練はどんな感じなの?」


 一緒に登校している鈴(りん)が宗哉(そうや)に質問をしてきた。


「んっ?いきなりだな。

 まぁ、先週の状況的には順調かな。吹雪先生も良い調子だって言ってくれてるからね。

 それで、どうして急に訓練状況なんか聞くんだ?」


 宗哉は鈴の質問に答えると、そのまま質問を返した。


「うちのクラスの初のPA実習が今日の午後なんだよ~。

 先生が実習場見学もあるって言ってたから聞いてみたの」

「なるほどねぇ。そう言えば初実習の時は、俺らのクラスも先輩が動かしてるのを見学したりしたなぁ」


 宗哉は1年生の時の記憶を思い出しながら答える。そして、苦笑いをした。

 法錬(ほうれん)学園では、1年の最初のPA実習の時に実際に起動している所を見せる事になっていた。

 宗哉の時も、その時訓練していた者の中から呼ばれた者が起動している所や、コクピット内に1年生を乗せて動かしたりしてくれたのだった。


(今まで考えた事もなかったけど、今年は俺もあの時の先輩みたいにするのか?でも俺はまだ基本動作だけだし大じょぅ・・・)


 そこまで考えた所で担任の遥(はるか)が笑いながら「今日は新入生のお守(も)りだ!行って来いっ!」と言う場面が頭に浮かんだ。


(あはは・・・あの人の性格からして、ほぼ確定かもな・・・)


「おにぃ、考え事?どうかしたの?」


 苦笑いを浮かべながら考え事をしていた宗哉を、鈴が心配そうに覗き込んできた。


「あっ、何でもないよ。担任の先生は見学の内容について何か言ってたか?」

「ん~、それを聞いてた子もいたんだけど、楽しみにしていなさいって言って、教えてくれなかったんだよね」

「そっか、じゃぁ、俺が教えるのも無粋かな。まぁ、俺の時と同じなら結構楽しいと思うし、鈴も楽しみにしてると良いよ」

「そうなんだ!?ん~、知りたいって気持ちもあるけど、おにぃがそう言うなら楽しみにしておく事にするよっ」


 校門を過ぎた辺りで、鈴はクラスメイトを見つけて、「じゃぁ、行くね」と言って掛けて行った。


 午後は完全にPA実習となっている宗哉は、午前中はクラスメイト達と一緒に普通の授業を受け、昼休みが終わると実習棟へ移動をする毎日となっている。


 パイロットスーツを着て訓練機に乗り、実習場へ出て担任の遥を待つ。これで準備は完了だ。だがこの日は、午後の始業チャイムが鳴っても遥が乗る訓練機が実習場に現れる事は無かった。


「待たせたな」


 コクピット内に管制室からのモニタ通信が入り、モニタ越しに遥が話しを続ける。


「今日は新入生のお守りだ!

 基本動作は習得済みだしな、とりあえず行って来い!私は管制室で優子(ゆうこ)達と機体データの分析をする。以上だ」

「了解です」


(朝思った通りの展開だなぁ。怪我させない様に気を付けないとな。あの時の先輩はどんな感じでやってくれたんだったけなぁ・・・)


 宗哉は自身の時の事を思い返しながら待つことにした。


 5分ほど考えながら待っていると、ピーピーと言う音と共に着信ランプが点滅する。通信を許可すると1年生の担任らしき人物がモニタ越しに映し出された。


「1年A組担任の長谷川順子(はせがわじゅんこ)です。

 本日は実習へのご協力をして頂けると言う事で、クラスを代表して感謝を致します」

「ご丁寧にどうも。3年B組、藤森宗哉です。

 指示を頂ければそのように動きますので、よろしくお願いします」


 宗哉は挨拶を返して指示を待つことにした。長谷川(はせがわ)は自分のクラスに向けて話しを始めた。通信が繋がったままなので宗哉にもその内容は伝わっている。

 一通りの説明が終わった様で、長谷川がモニタ越しに宗哉へと話し掛ける。


「では、こちらへ歩行して来て頂けますか?」


 宗哉は「了解です」と返して、躁玉に手を置きPAを待機状態から起動状態にすると歩行を開始した。

 モニタ越しに長谷川が生徒に向けて説明をしているのを聞きながら、長谷川と新入生達がいる観客席へと歩行していった。


 観客席の手前で停止して、次の指示を待つ。そこで宗哉は手を小さく振っている生徒に気が付いた。

 手を振っていたのは鈴だった。


(そういえば鈴はAクラスだったなぁ)


 宗哉がそんな事を考えていると、長谷川から次の指示が出る。


「では、次は高速機動を見せて頂けますか?」


 宗哉は「了解です」と返して、機体を観客席に背を向けるようにする。風圧などもあるので、最初はゆるやかに発進して、少し離れた所で「行きます」と言う声と共に、高速機動へと入った。

 機体はホバーのようにスラスターから噴射する粒子を利用して高速で縦横無尽に移動をする。


 高速機動を続けていると、長谷川から飛行の指示が出た。

 宗哉が(飛ぶ)と思い描くと、スラスターから放出される粒子量が増大して、機体は空中へと舞い上がった。

 長谷川からの指示が「そのまま飛行を」と言うことだったので、宗哉は空中でも高速移動を続ける。


 少しの間、飛行をしていると、長谷川から戻る様に指示が出る。宗哉はスピードを落として観客席に向けて飛行して戻った。


 宗哉が戻って最初の時と同じ位置に停止すると、新入生達は憧れを見るような目でこちらを見ていた。


(初めて見た時は俺もすごいと思ったもんなぁ)


 宗哉はその様子を見ながら、のんきにそんな事を考えていた。


 一方で、管制室で機体データを見ていた、遥と優子、そして雪(ゆき)は驚きを隠せないでいた。

 宗哉が高速機動をしている間、モニタには各部の出力状況の詳細が表示されていたのだが、そのどれもが出力限界値を瞬間的に超えていたのだ。


「訓練機、壊れちゃうかも・・・」


 優子がぼそっと呟く。それを聞いた遥が慌てて宗哉に通信を繋げた。


「藤森、出力を抑えろ。機体の方が耐えられん」


 遥の通信は、繋いだままになっていた長谷川達の方にも聞こえていた。


「えっ?」


 宗哉は慌てて計器類を確認する。一通り確認するが、今の所異常は出ていない様だった。


「すいません、ちょっといつもより張り切ってしまったようです」

「まぁ済んだ事はいい、それより各系統の出力に7割でリミッターを掛けろ。それで十分だ」


 宗哉は遥の指示に「了解です」と返し、長谷川に「少し待ってください」と言うと、出力のリミッターを調整していった。


 宗哉がリミッターを調整している間、待っている新入生達は憧れの視線を強めて騒いでいた。


「機体が持たないとかっ、俺も言われてみて~」「格好良い~」「凄かったね~」と騒ぎ立てる生徒達を、長谷川が鎮める。


「皆さん、お静かに。

 藤森さんが調整している間に言っておきますが、普通は機体が持たないような出力を出す事は出来ません!藤森さんがSランクだからこその事態なのです。手本とするのは良いですが、あれはいきなり真似をしようとして出来るものではありません。無理に真似をしないようにしてください」


 長谷川の言葉を聞いた新入生達は騒ぐのはやめたが、「やっぱSランクって凄いんだ」などと、ひそひそと近くの生徒と会話をしていた。


「お待たせしました。調整が終わりましたので続きをどうぞ」


 調整を終えた宗哉が長谷川に声を掛ける。

 長谷川は頷くと生徒達に説明と注意をし始めた。


「次は実際にコクピット内にお邪魔をして動かして頂きます。「やったー」「マジで!?」・・・静かにっ!」


 長谷川の言葉を遮って数人の生徒が声を上げた。長谷川はそれを大声で鎮めると続きを話す。


「コクピット内で騒いだり、藤森さんに迷惑をかけるような事をした人は即座に降ろして頂きますのでそのつもりで。良いですね?」

「「「はいっ」」」


 いつもは礼儀正しい長谷川が、声を荒げて言うのを見て生徒達は即座に返事をしたのであった。


「ふぅ。では藤森さん、よろしくお願いします」


 長谷川は深呼吸をして、生徒達に向けた調子とは正反対の落ち着いた様子で宗哉に告げてきた。


「了解です。

 乗るにしても自分を入れて3人くらいが限界ですので順番はそちらにお任せしますね」


 宗哉はそう言うと、機体を少し横へ移動して、観客席から乗り込めるようにコクピット部分を近づけて開放した。


 長谷川の指示で2人組となった生徒達を乗せて、歩行と飛行をして次の者を乗せる。これを繰り返している内に鈴の順番が回ってきた。


 コクピットに鈴とペアになったその友人の宮野響(みやのひびき)を乗せて歩行を開始する。

 宗哉も響(ひびき)とは面識があった。鈴と小学校の時から仲良くしてくれていたので、家に遊びに来た事があり、それなりに仲良くなっていたからだ。

 宗哉が「久しぶりだね」と挨拶をすると、響(ひびき)も「お久しぶりです」と挨拶を返してくれた。

 最初の内はコクピット内を見回していた2人だったが、一通り見てからは、


「思ってたよりも揺れないね」「うん、これくらいなら全然大丈夫だね」


 などと、操縦席に掴まりながら会話をしていた。


「ねぇ、おにぃ。もうちょっと早くとかだめ?」

「だめ。パイロットスーツも着てない、固定もしてない状態でGに耐えられるわけないだろ・・・」


 鈴のお願いを理由を説明して却下する。鈴は「ん~」と唸ってまだ何か言いたそうだったので、「飛ぶよ。ちゃんと掴まっておくようにね」と言って、飛行する事にした。


 2人は操縦席ではなく宗哉にしがみついてきた。


「こらこら・・・席に掴まりなさい」

「え~、ボクは妹なんだからいいの~!」


 そんな事を言う鈴から響へと視線を移す。


「えっとぉ、な、何となくです」


 宗哉は「はぁ」と溜息を付きつつも気心の知れた2人なのでそのままにさせておいた。


 飛行を終えて観客席に戻り、鈴達を降ろすと次の生徒を乗せて再び動き始めた時、長谷川の声がモニタから聞こえてきた。


「まったく、藤森さんは許してくれたようですが、ご迷惑をお掛けしないようにと言いましたよね?」

「あうっ、すみません」「すみませんでした」


 鈴と響が長谷川に注意をされているようだった。

 それをコクピット内で聞いていた女生徒が宗哉に質問をする。


「あの、藤森さんが妹って言ってましたけど、本当なんですか?あと、宮野さんは?」

「うん、鈴は俺の妹だよ。響は妹の幼馴染だからね。よく家に遊びに来てたから、いつの間にか俺も仲良くなっていたかな」


 質問をして来た女生徒は「そうなんですか、羨ましいです」と言い、もう1人の女生徒も「うんうん」と頷いていた。


 観客席に戻り、最後の生徒達を降ろすと全員が整列をして待っていた。

 長谷川の号令で全員が頭を下げてお礼を言う。宗哉も礼を返した。

 宗哉が顔を上げると長谷川が近寄ってきて改めて礼を言ってくる。


「ありがとうございました。あの子達もやる気を出してくれたみたいですし、良い体験になったようです」

「いえいえ、1人で乗っている時は気にもしていなかった事に気が付かせてもらいましたから、こちらも良い経験になりました。ありがとうございます」


 長谷川が礼をして生徒達の方に戻っていくのを確認して、宗哉も着信音が鳴っているのでコクピットに戻っていった。

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