008-射撃訓練-
宗哉がコクピットに戻り通信回線を開くと、相手は遥だった。
「ご苦労、引き続き射撃訓練に移る。準備をしろ。
優子、観客席のシールドを元に戻してくれ」
観客席のシールドは新入生達の為に一時的に落としてあった。その間は火器類の使用を禁じるのと同時に、進入禁止とされていたので、訓練を予定していた者達は格納庫に戻っていたのだが、シールドが張られると再び実習場に現れた。
宗哉も訓練機の両太ももにあたる部分に格納されているハンドガンタイプの法撃銃を装備して区画シールドが張られるのを待つことにした。
宗哉の乗る機体はすでに実習場内にいたため、その場を動く事も無く準備をするだけだった。
訓練予定者の数によって区画シールドが張られるのだが、今日は3kmほどの広さを持つ実習場がシールドで7つのエリアに分断された。
(さてと、頑張りま・・・んっ?)
気合を入れ直そうとした宗哉は、さっきまで相手をしていた新入生達が座ってこちらを見ていることに気が付いた。
(俺の時は乗せてもらったら教室に戻ったような気がするんだけど・・・まだ何かあるのかな??)
宗哉はそう思って、先程まで繋がっていた新入生の担任である長谷川の持つ端末へとリコールで通信を繋げた。
「すいません、射撃訓練に入ってしまいますが、もしかしてまだ何かありましたか?」
「いえ、ここからは見学をさせて頂くだけですのでお気になさらないでください」
「そうでしたか、自分の時は乗せてもらったら教室に戻った記憶があったので、何か変わったのかと思ってお聞きしただけですので」
宗哉の疑問も長谷川の答えで解消し、宗哉はシールドが張られた事で、観客席に被害が出ることも無くなったため、最初から高速で割り当て区域の中央へと移動をした。
モニタから「すご~い」「はや~い」と声が聞こえてきた。
(あっ、通信切るの忘れてた・・・)
宗哉は長谷川に「それでは」と言い、長谷川も「はい」と返した所で通信を切ろうとしたのだが、そこに鈴が大きな声で声援をくれた。
「おにぃ、頑張ってね~」
すぐに長谷川に「こらっ」と注意されていたが、宗哉は小さく微笑むと、
「鈴、あまり先生を困らせないようにな。それと、射撃はあまり得意じゃないから期待しないように。それじゃ」
宗哉はそう言って通信を切った。
妹のクラスメイトの前であまり兄の格好悪い所を見せるわけにもいかないと思い、宗哉は深く深呼吸をした。
(ふぅ~。それじゃ、頑張りますかねぇ)
そんな事を考えながら、遥の指示が来るまで他のエリアの様子を見て待つことにした。
区画シールドで遮断された隣接する3つのエリアではすでに射撃訓練が開始されているようで、ターゲットとなる50cmほどの球体が高速で飛び交っていた。
射撃訓練ではこの球体が同時に次々と放たれ、1分以内に撃墜できなければ戻っていってしまう。同時に放たれる数はランダムで、撃墜で1点。攻撃アラートから2秒以内の回避成功でセーフ、回避失敗で-1点となっており、全部で100の球体の撃墜と回避で評価される。
宗哉は訓練を開始してからずっと基本機動と射撃訓練を延々と繰り返してきた。
宗哉の平均は95点を上回るのだが、担当教官を勤める遥に「攻撃アラートしかしてこない的なんだ。満点以外は0点、撃墜判定だ」と言われ、自分の腕がまだまだなんだろうと解釈していた。
実際の所を言うと、平均で8割を上回れば及第点なのだが、遥は宗哉には伝えておらず、まだまだだと言って努力を怠らないようにさせているのだ。
宗哉が見ている他のエリアの者達も最初は調子が良い。30~40辺りまでは大体の者がパーフェクトペースで、誰かの訓練を最後まで見た事の無い宗哉は遥の言葉を信じているのであった。
「準備は良いな?10秒後にターゲットの放出を開始する」
「了解です」
宗哉は遥からの通信で他にやっていた意識を戻して集中していった。
(3・2・1・0!!)
カウントが0になりレーダーが直上の球体を捕捉する。
宗哉は即座に飛行すると視認した端から次々に撃墜していく。
(48!次はっ!?って10機同時とか多いだろっ!!)
数が多くなれば当然回避がきつくなる。宗哉は焦りつつも全体の動きをレーダーで確認しながら、視認したターゲットから順に撃墜していった。
管制室でその状況を見ている遥と雪はその様子を見て呆れていた。
「ねぇ、あれ、明らかに動きが他の所と違うわよね?」
「んっ?あぁ、優子がいじった・・・」
遥と雪は視線を優子に向ける。
優子はその視線に「あはははは」と苦笑いをして口を開く。
「だってぇ、被弾扱いでマイナスがあったけど2日目の最後には100個全部撃墜されちゃったでしょ?だからちょっとスピードアップしようかなって、土日にいじってたら面白くなっちゃってつい・・・」
優子はばつが悪そうに呟いた。
「それで、あれはどれくらい上がってるんだ?」
「50%・・・」
「はぁっ!?」「えっ!?」
遥と雪は同時に声を上げて驚いた。
訓練機は汎用性が高く、適性B~Aクラスの者が乗っても大丈夫なように出来ている。攻撃をしてこないとは言っても、優子がいじる前から訓練機の通常速度とほぼ同等の速度で動くのだ。50%の性能アップと言う事はほぼMAX出力、Aランクの者が操る速度で動いているに等しかったのだ。
「ねぇ、遥・・・あなた同じ事出来そう?」
「・・・無理だ。80点・・・行けるかも怪しいな・・・」
遥と雪のそんな会話に優子が追い討ちを掛ける。
「でもやっぱりすごいねぇ。リミッターが常時作動しちゃってるけど、出力7割であれじゃ訓練機が持たないわ。」
「「なっ!!?」」
遥と雪はもう優子に聞き返す事はせずに遠くを見ていた。
優子はそんな2人を置き去りにして、
「専用機の仕上げを急がないといけないわね・・・んふふ~最高の機体に仕上げて見せるわよ~♪」
と上機嫌でデータを見つめながら、自分の世界に入っていってしまった。
(ラスト1っ!!)
キュイーンと言う音と共に放たれたエネルギー弾がターゲットの球体を貫き撃墜し、訓練終了の文字が正面モニタに表示される。
(92点か・・・同時10機が3回ってきついって・・・逃げられたのが5機に、回避失敗が3回か・・・)
「お疲れ、まぁ、撃墜されたな」
「うっ、すみません・・・」
「いや、まぁ良くやった。たまには褒めておこう」
「えっ??」
宗哉はいつもの様に「まだまだだな。次はもっと頑張れ」と言われると思っていたのだが、思いも寄らぬお褒めの言葉に反射的に「えっ?」と聞き返してしまった。
「ふぅ、たまには褒めてやろうと思っただけだ。
今日はここまでとする。残りの時間は専用機の方だ」
「あっ、ありがとうございます。残り時間は調整ですね。了解です」
宗哉は訓練機を格納庫へと移動させて第5PA開発棟へと移動していった。
宗哉の射撃訓練を見ていた新入生と長谷川は圧倒されていた。
長谷川が生徒達に射撃訓練の概要を説明して全員で見学していたのだが、動きが早く遠目でも視認するのが精一杯だった。
(あのターゲットの速度は異常だわ。以前見た九重さんと同じくらいの速さだわ)
長谷川は管制室に通信を繋ぎ、それを受けた優子が宗哉視点とエリア内を写す多角度のモニタ映像を見る事が出来るようにしてくれた。
生徒達は観客席のシールド前に展開されたモニタに映し出される訓練の映像に釘付けになってしまった。
長谷川自身もモニタから目を逸らす事が出来ないでいた。
長谷川は学園で何人もの適性者を担当してきたベテランの教官だった。当然この射撃訓練の事も熟知している。
昨年3年生を見送り、今年から受け持つ事になった新入生達にも自信を持って概要を説明した。だからこそ、実際に今現在自分の目の前で行われている射撃訓練は、自分の知る物とは違う事に気が付く事が出来たのだ。
長谷川が例えに出した九重とは、現法錬学園生徒会長でAランクの適性者である九重陽菜子の事である。
2年の時から適性者として専用機で訓練をしていた彼女を見た事があったので、宗哉が相対するターゲットの比較としてすぐに彼女の名前が出て来たのだった。
(九重さんの時は、複数の訓練機を相手に立ち回る彼女を見て「これがAランク」と驚かされたけれど、目の前のこれをみればSランクが桁違いと言われているのも分かる気がするわ・・・)
そうこうしている内に宗哉の射撃訓練も終わり、宗哉の乗る機体は格納庫へと戻って行った。
新入生達は興奮冷めやらぬ様子で、今見た光景についてお喋りをしている。平常時の長谷川であれば注意をするのだが、今は考え事に夢中になっていた。
優子がデータリンクを切断した事で、モニタ消えてからも騒いでいた生徒達であったが、注意をしてくるはずの長谷川が何も言ってこない事で逆に静かになっていった。
長谷川は他の生徒達に押し出されて来たクラス委員に声を掛けられて我に帰る。慌てて腕時計を確認すると、自分が10分も考え事に没頭していた事に気が付き、生徒達を引き連れて教室へと戻っていったのであった。




