006-初起動-
部屋に戻った宗哉は、ベットに寝転んで渡されたクレジットカードを見ながら今日を振り返っていた。
(このカードで1億の買い物が出来るのか・・・とは言っても、特に欲しい物があるわけでもないんだよなぁ・・・)
両親を亡くしてからは、特に贅沢をすることも無く、鈴と2人で慎ましくものんびりと暮らしてきたのだ。大金を動かせるカードをいきなり手元に渡されても使い道に困る、宗哉はそう思っていた。
(明日からの訓練も少し不安だな。吹雪先生は大丈夫っていってたけど、訓練機もちゃんと動かせるか分からないのに専用機も用意が進んでるみたいだし・・・
悩んでも仕方が無いか・・・なるようにしかならないしな。)
宗哉は思った以上に疲れていたようで、そんな事を考えている間に眠ってしまったのであった。
翌日の昼食はクラス全員で学食へ行く事になった。
宗哉が学園長達と話しをする為にいなかった昨日の午後の間に、宗哉が適性者となったおかげでクラス全員に与えられた特典カードを、「最初は皆で使おう」と、クラスメイト達が宗哉に内緒で企画してくれたのだ。
皆で学食に行き、それぞれが頼んだ物を受け取って席に着いていく。場所取りの為に先に来ていた数人のクラスメイト達が入れ替わるようにして自分の分を取りに行き、それを持って席に着いた所で昼食が始まった。
それぞれが頼んだ物を見ると、男子はほとんどの者がトレーに皿が載らないほどの品を食べている。女子はさすがに普通の1人前だが、特典で学食が8割引という事もあって、普段は手を出しづらい高いメニューの物を頼んで楽しそうに昼食を取っていた。
「やばいな。これだけ喰ってもまだいつもより安いんだぜ?」
「おう、まだまだいけるぜっ!!」
「よっしゃ、追加だぁ!!」
「食べ過ぎて腹壊すなよっ!?」
近くで食べていた男子達がそんな事を言うのを聞いて、宗哉は暴走気味のそれらの男子に声を掛けるが、男子達は「旨い物喰って倒れるなら本望だぜぃ」と言って、追加の食べ物を取りに行ってしまった。
「あいつら・・・午後一が体育なのを忘れてやがるな・・・」
向かい合う位置に座っていた明がそう呟いたのだが、明もトレーに一杯の物を食べていた。
「明・・・お前も結構食べてると思うが・・・」
「あはは、8割引だからな。調子に乗って定食に単品メニュー追加しまくってたらこうなってたんだ」
どうやら明もあまり人の事を言えないくらいに浮かれていたようだった。宗哉は苦笑いを浮かべる明を見ながら言う。
「卒業までまだ時間もあるし、俺はゆっくりと全メニュー制覇だな」
「それも良いな。あいつらみたいに高い物頼んだって8割引なら定食並みだしな」
明は楽しそうに食事をする女子の方を見てそう言った。宗哉も「ああ、そう言う事だ」と言って、昼食の残りを片付けていった。
「それじゃぁ、行ってくるよ」
昼食を終えて明達と談笑をしていた宗哉は、そう言って、昼休みが終わる10分前に教室を出てPA実習棟に向かっていった。
初日の今日は、宗哉のPA訓練教官を担当する担任でもある遥に、「更衣室の前で待つように」と言われていたので、言われた通りに待っていた。
少しの間待っていると、授業の開始のチャイムが鳴る直前くらいに、遥は宗哉の専用機開発チームの主任である優子と一緒に現れた。
「待たせたな。早速だが、まずはデータ収集用のパイロットスーツを着てもらう」
遥はそう言うと一歩下がり、代わりに優子が楽しそうに話しを始めた。
「んっふふ~、はい、これ着てね~!」
宗哉は渡されたパイロットスーツを持って更衣室に入って着替える事にした。
(実習で着たやつよりも少しきついな・・・このパッチみたいなのでデータ収集するのかな・・・)
宗哉は実習で着たパイロットスーツを思い出しながら着替えを済ませて、部屋の外で待っている2人の所に戻った。
「お待たせしました。あれっ?磯谷主任は何処に?」
「んっ、優子は雪と一緒に管制室でモニターしている。では、移動するぞ」
遥が宗哉の質問に簡潔に答えて移動を開始したので、宗哉は後を付いて移動する事にした。
「もしかして、磯谷主任も同級生だったんですか?」
宗哉は遥が優子と名前で呼んだので、雪の時を思い出して質問してみた。
「そうだ、優子もクラスメイトだった。あの2人とは特に気が合ったのでな、今でも親交があると言う訳だ」
「なるほど・・・」
宗哉は3人を思い出しながら考える。
(吹雪先生が突撃隊長で、磯谷主任が開発担当、白澤中尉が参謀長って所かな・・・)
「まぁ、何を考えているかはあえて聞かんが、その顔を見ていたら訓練は厳しくしたくなった・・・」
「えっ?」
宗哉は考えている事が顔に出ていたのか、遥がそう告げてきた。宗哉は反論しようにも、考えていた事を言うわけにもいかず、苦笑いをするしかなかったのであった。
格納庫に着くと遥が学園所有の訓練機を指差して言う。
「とりあえずその機体乗れ、そのあと指示を出す」
と言ってきたので、宗哉はとりあえず訓練機に乗りこんだ。
「基本操作、計器類は実習時に説明をした通りだ。何か質問はあるか?」
宗哉が搭乗してコクピット内で実習を思い出しながら確認をしていると、遥から声が掛かった。
「いえ、シミュレータと同じですので、一応は大丈夫です」
実機を動かすのは初めてではあるが、実習の授業では誰でも使えるシミュレータを用いて訓練は行われている。3年生になったばかりの宗哉だが、1年の頃からシミュレータ実習をしてきているので、2年間のシミュレータでの訓練経験があり、現時点では質問する事は無かった。
「そうか、では実習場へ移動するぞ。
シミュレータと違って脳波リンク装置をつける必要が無い。実機では躁玉が脳波リンク装置だと思えば良い。躁玉に手を置いて、あとはシミュレータと同じだ。思い描けばその通りに動く。
起動するぞ。整備班は退避しろ。では、付いて来い。」
「了解です」
遥の言葉に了解を返した宗哉であったが、内心はドキドキであった。
シミュレータではなく実機に乗っているのだ。ミスをすれば周りに被害が出てしまうし、それ以外にも、自分が本当に動かせるかと言う不安も拭いきれていなかったのだ。
整備班が退避したのを確認し、遥が乗る訓練機が起動して実習場へと向かっていく。それを見て宗哉は深く深呼吸をする。
(ふぅ。ゆっくりとで良い。焦ったら駄目だ。シミュレータでは出来た。落ち着け・・・)
宗哉は目を閉じて深呼吸を繰り返し、シミュレータ実習を思い出しながら躁玉に手を置き、訓練機を起動した。
ゆっくりと訓練機が歩行を始める。
(よしっ、動いた。このまま実習場へ・・・)
宗哉は訓練機を動かせた事にひとまず安堵したが、気を抜く事はしない。周りにいた人達は退避してくれているが、それでもモニタで確認出来る範囲にはいる。8mほどあるこの巨体の操縦を誤れば被害がでないとは言い切れないからだ。
緊張しながらも、宗哉は実習場に機体を動かす事が出来た。
機体識別で遥の機体を確認してその機体の前で止まり、躁玉から手を離して待機状態にすると、遥から通信モニタが開いた。
「まぁ、緊張しすぎのようだが、起動は問題なしだな。
一息ついたら本格的に訓練を開始する。今日の目標は基本動作の習得だ」
宗哉は遥の言葉をモニタ越しに聞きながら、ようやく気を緩めて一息ついたのであった。




