004-開発主任-
学園長室では学園長からのお祝いの言葉をもらい、指導室へと場所を移して、宗哉付きの下士官となった白澤雪中尉に特務少佐の特権などの説明を受けた。
学園長室でもそうであったが、その説明の合間にもからかわれつつ話を聞いた。
説明が終わったのは、午後の授業ももう終わるという頃だった。今から授業に戻ってもあまり意味がなさそうだったので、雪と話しをして残りの時間を過ごす事にした。
「それにしても、良い待遇ですよね・・・」
宗哉は呟くように雪に話し掛けた。
「私も適性Sの待遇を知ってはいたけど、説明したのは初めてよ・・・
世界に5人しかいないんだから凄いんでしょうけど、改めて言うわね。羨ましいわ・・・」
雪も自分で説明はしながら、その待遇の良さを羨ましがっていた。
戦時には必要になれば召集を受ける事になるが、それは一般人であっても変わらない。軍に所属する者だけではどうにもならなくなれば、戦える者は戦う事になるだろう。国が平和で無くなれば、日常を送る事さえ難しくなるのだ。
宗哉に渡された特権の中には、専用機保有権、戦時の部隊指揮権、税金免除などがある。その他にも、給料とは別にクレジットカードが支給された。買い物はこの支給されたカードで済ます事が出来る。もちろん支払いは政府持ちだ。カードには限度額があるが、その額は年間で1億までと説明を受けた。
「ただでさえ高い給料ももらってるんだから、普通に暮らしてればほとんど使わないでしょう?」
「それが普通なんだけどねぇ・・・カードの限度額、Bランクで1千万、Aランクで5千万なんだけど、ほとんどの適性者が毎年使い切っちゃうのが現状なのよね・・・」
宗哉の問い掛けに、雪が呆れを含ませながら答えた。
「待遇を悪くして他の国に行かれるのがまずいんでしょうけど、他の国もこんな感じなんですか?」
「ん~、ホンニ国は飛びぬけて待遇が良い方ね。他の国でも額面上は同水準の国があるみたいだけど、それは実務を伴ってその額なのよ・・・今のホンニ国の様に訓練以外はほとんど何もしなくても良いと言う訳では無いわね」
他の国では軍属、または企業に所属して実務をしているのが普通であった。
ホンニ国では結晶体の製作者である矢神博士が、海外への結晶体の売却を政府に任せていることもあり、その利益によって財政が潤っているからこそのこの待遇となっていた。
雪の話を聞いて、宗哉としてはもっと他に必要な事があるのではないかと感じてしまったのだ。
いろいろと話しをしている内に、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、宗哉は教室へと戻った。
教室のドアが開き、宗哉の姿を見たクラスメイト達に「おかえり~」と温かく迎えられて教室に入り席へと向かう宗哉であったが、皆の視線がいつまでも自分に向いていることに気が付いた。
(なんだ?何かあるのか?)
宗哉は辺りを見回すが、特に何も無いので皆の視線の意味が分からずに首を傾げる。
「宗哉、その人は?」
首を傾げていた宗哉に、明が声を掛けてきた。
「んっ?あぁ、政府からの特権やら、今回の関連の説明をしに来てくれた人だよ。
さっきまでいろいろと話を聞いていたんだ」
宗哉がそう言うと、雪は敬礼をして自己紹介をする。
「はじめまして、私はホンニ国PA部隊所属の白澤雪です。階級は中尉です。
本日付で藤森特務少佐付きの下士官として着任しましたので、これから皆さんとは顔を合わせる事もあると思いますので憶えておいてください。よろしくお願いします」
雪の自己紹介でクラスメイト達は納得したようで、ほとんどのクラスメイトがこちらに向けていた視線をはずしてそれぞれ帰り支度を再開した。
法錬学園には適性Aの人物が2人いる。その2人はどちらも学園内では有名で、その2人にも下士官が付いている事を皆知っているのですんなりと納得してくれたのだ。
「藤森宗哉君はいるかしら?」
教室のドアの方から自分を探す声が聞こえて、宗哉はそちらに視線を向ける。
声を出した人物は、磯谷優子だった。室内を見回して宗哉を探している。
優子と目が合い、宗哉は立ち上がって軽く頭を下げる。優子は目標の人物を発見した事で笑顔となり、近づいて話し掛けてきた。
「良かった。忘れて帰られちゃう前に急いで来たのよ」
「いやいや、忘れていませんよ。ちゃんと教室で待っていたじゃないですか・・・」
「あはは、まぁ、それは置いといて、早速ですが行きましょう!」
優子は宗哉が約束を忘れて帰ってしまうのではないかと思って急いで来たらしいが、宗哉に否定されて苦笑いをする。そして自分が作った少々気まずいその空気に耐えられなくなったのか、すぐに話しを切り替えて移動を促してきた。
優子に先導されて、宗哉と雪は優子が主任を勤める第5PA製作チームの建物へと連れて行かれた。
「ここが第5PA開発棟よ。そしてこれからあなたの専用機を仕上げる場所になるわね」
優子の説明を聞きながら、宗哉は辺りを見回していた。
そこには世界の最先端技術が集まっているという言葉が相応しく、様々な機械が並べられていた。
「中央で造っているのがあなたの専用機になる機体よ」
宗哉は優子の言葉に中央付近へと視線を向ける。
そこには製造中のPAがあり、工員達が忙しく作業をしていた。
「あと1週間くらいで6割まで出来上がるわよ。あとの残りの4割は、あなたの為の調整をしながら完成させていく事になるわね。
だからこれからの1週間は頑張ってもらうわよ?
学園の訓練機でデータ取りとぉ、基本フレームはあまり大きく変えられないけど、外装とかのある程度変えられる部分はあなたが使いやすいようにしていくつもりよ!」
宗哉は優子の説明を聞きながら、製造途中の機体を見ながら考える。
(今日はいろいろありすぎて考えが追いつかないなぁ・・・専用機かぁ・・・俺に乗りこなせるのかな・・・)
今日は一日でいろんな事がありすぎたので宗哉は考え疲れていた。
(明日になればもう少し落ち着いて考えられるかなぁ・・・)
宗哉はそう思いながら溜息をついた。
その様子を見ていた優子は、自分が適性Bの検査結果を得た時の事を思い出して今日は早めに切り上げる事にした。
「まぁ、今日は疲れているだろうから、チームの主要な人達の紹介だけにしましょうか。
あっちの部屋に皆いるはずだからとりあえず行きましょ」
部屋へと先導しながら優子は当時の事を思い返す。
優子はBランクなので、授業が変わる話と、特権の説明を受けただけであったが、それだけでも嬉しさや不安などでなかなか考えが追いつかなかったのだ。
(私はBランクの説明受けただけで結構オーバーヒートしそうだったけど、Sランクともなればもっと大変なんだろうなぁ・・・)
優子が先頭で部屋に入り、全員を宗哉の近くに集めてくれた。
開発チームは優子の他に5人の6人で構成されているようだ。
チームの全員が集まった所で、優子に紹介をされて、宗哉は自己紹介をした。続いてそれぞれが宗哉に自己紹介をしてくれた。
「6人だから全員覚えてね!?
とりあえず6人中4人はいつでもここにいるはずだから、用がある時は誰かに言ってくれれば良いからね」
「了解です。皆さん、これからよろしくお願いします」
宗哉は優子の言葉に答えて、全員に挨拶をして頭を下げた。
「それじゃ、今日はここまでにしましょ。
いろいろと疲れてるでしょうから、しっかりと休息を取ってもらわないと明日からは忙しくなるからね?」
「すいません。気遣ってもらってありがとうございます。
今日はお言葉に甘えさせてもらいます」
宗哉がそう返すと、優子が「入り口まで送るわ」と言って、建物の入り口まで送ってくれた。
優子にお礼と別れの挨拶をして、宗哉は帰路に就いたのであった。




