002-有名人-
教室に戻りしばらくすると担任の吹雪遥が入って来て、連絡事項が伝えられた。
「午前の授業は残り15分ほどなので、私の話しが終わったら自由にして良い。ただし、あまり騒ぐなよ。」
「おっしゃー」と叫ぼうとした男子を制するように遥は釘を刺した。軽い笑い声がクラス中から漏れる。遥は「ふふっ」と笑い、続きを話し始めた。
「まずは、藤森、おめでとう。そして、頑張れ」
宗哉に向けて遥は称賛と激励の言葉を発して同時に拍手をする。クラスメイト全員がそれに習い拍手をしてくれた。
宗哉は少し照れながらも立ち上がり、
「ありがとうございます。出来るだけ頑張ってみます」
そう言うと、礼をしてまた着席した。
「んっ、検査結果については昼の校内放送で発表される。まぁ、今回はそれだけではないが・・・」
適性Bでは政府による公式発表は行われない。適性Aで国内に向けて公式発表がされる。適性Sとなると軍事バランスに変化を及ぼすため、全世界に向けて公式発表する事が国連規定によって決められているのだ。
戦力としての具体的な例は、適性Bの者が乗るPAで戦闘機を50機相手にしても勝てる。適性Aともなればその倍、適性Sに至ってはPAの性能次第では国を相手に出来るほどである。
「て事は、適性Aって事ですか?」
クラスメイトの1人が遥に質問をする。
「まぁ、もうすぐ昼休みなのだ。発表を楽しみにしていろ。何せ私も初めてでな。どうなるのか聞かねば詳細は分からんのだ。
さて、適性者がこのクラスにも現れた事で、このクラスにも特典がもたらされる事になった。内容と特典カードについては、適性検査の結果発表のあと、つまり午後の授業開始時に皆に伝え、渡す事になった」
この言葉には、クラスの全員が大なり小なり声を上げて喜んだ。遥は「騒ぐな、話は以上だ。教室からは出るなよ」と大声を出して皆を制すると教室を出て行った。
話しが終わると昼休みまでは残り5分ほどになっていた。チャイムが鳴るまで明と他愛も無い話をして過ごした。
終了のチャイムが鳴るとそれぞれが昼食の為に動き出す。
宗哉もいつも通り、明やクラスメイト達と弁当を広げて食べ始めた。
昼休みが始まって昼食を取り始めて少しした頃、校内放送が始まった。普段は生徒によって行われる校内放送だが、適性検査の結果発表がある時だけは学園長が行っている。
「皆さん、こんにちは。学園長の新稲です。
本日は適性検査及び、身体測定ご苦労様でした。前回よりも伸びた方、そうでない方も次はもっと良い結果が出るように努力してくださいね」
当たり障りの無い挨拶から校内放送は始められた。ゆったりとした感じで話す学園長の声に、誰もが昼食を取りながら耳を傾けていた。
「今回の適性検査の発表をする前に、各教室にいる方はテレビをつけてチャンネルを1にして置いてください。外で昼食を取っている方は、学園内の各所にあるモニターを起動しますのでそちらを見てくださいね」
学園長の言葉に一番テレビに近かったクラスメイトが電源を入れてチャンネルを1に合わせる。
2分ほどの間を置いて学園長は発表を開始した。
「今回の適性検査で適性有りとなった方は3人です。
内訳は2年生に1人、3年生に2人となっています。3人には午後に直接会ってお話しをさせてもらいますので、その時にお祝いの言葉を言わせて頂きます。
それでは1人目、
2年A組、近藤高志君。適性Bです。
続いて2人目、
3年D組、結城翠さん。適性Bです。
続いて3人目、と行きたい所ですが、あと1分ほどで政府より公式発表が行われます。そのあと改めて発表させて頂きます」
学園長がそう言うと、放送を聞いていた者はテレビに視線を向けた。モニターから離れた位置で食事をしていた者達も、政府の公式発表は適性A以上の場合にしか行われない事は知っているので、モニターの付近へと移動していた。
皆がテレビに注目していると、政府による緊急公式発表が開始された。
テレビにホンニ国政府広報長官が映し出され、公式発表を行う旨を伝える。ここで見ている何人かが外人記者ばかりと言う事に違和感を感じていた。しかしその答えはすぐに政府広報長官によってもたらされた。
「本日、法錬学園で行われたPA適性検査の結果報告におきまして、適性Sの人物が現れたとの報告がなされました。
ホンニ国政府はこのを報告を受け、現地の駐在員に確認を行わせた結果、本件に偽りは無しと判断を致しました。
国連規定に基づき、ホンニ国政府はSランク適性者が現れた事を、ここに公式に発表するものとします。
氏名は藤森宗哉殿、年齢は現在17歳です。現在は法錬学園高等部に在籍しておりますが、適性がSランクと言うことで、ホンニ国政府が定めたPA適性者保護法に基づき、特務少佐の階級と共に様々な特権を付与致します。
発表は以上となります」
この発表で学園内は騒然となった。宗哉のクラスも例外ではなく、教室内に居たクラスメイト達は驚きで半分口を開けたまま宗哉に視線を向けていた。
学園長が再び放送で話し始めるまで、現実では政府の公表が終わってから1分ほどだったのだが、誰も何も言わずにただ見つめられていたこの時間を、宗哉は随分と長く見つめられていた様に感じてた。
「それでは改めて発表を致します。
3人目は、3年B組、藤森宗哉君です。適性は公式発表でも言われた通りにSランクです。
今回適性を得られた3人の方については、後ほど学園長室にお呼びしますのでそのつもりでいてください。
以上です。それでは皆さん、引き続き午後の授業も頑張ってください」
学園長の放送が終わってもクラスメイト達は宗哉を見つめていた。
宗哉はその雰囲気を変えるために明に視線を向ける。明はその意図に気が付いたのか、立ち上がって宗哉に向けて敬礼の姿勢を取った。
(そう来たか・・・)
昔から宗哉は明と一緒にいろいろと馬鹿な事をして、クラスに笑いをもたらしてきた。
宗哉も立ち上がり、明に敬礼をして、すぐに手を下ろす。
「そう硬くならなくて良い、楽にしろっ」
「越後屋、そちも悪よのぉ」
「俺が越後屋っ!!敬礼の意味が分からねーよっ!?」
現代風のコントかと思っていた宗哉であったが、明に越後屋と言われて思わず突っ込んでしまった。だが、その効果は有った様で、固まっていたクラスメイト達はくすくすと失笑し、いつもの雰囲気に戻りつつあった。
宗哉はここだなと思い、クラスメイト達に声を掛ける。
「普段通りに接してくれよ?寂しいと明が倒れちまう」
「俺かよっ」
宗哉がそう言うと、明は間髪いれずに突っ込んできた。だが、これによって教室内はほぼ普段の雰囲気に戻ったのであった。
宗哉と明は座って昼食を再開する。まだ多少の視線は感じるものの、発表直後に比べれば全然ましな状況にはなっていた。
「一気に世界規模で有名人だな」
明がそう言ってきた。
「そうだな・・・とりあえず、いろいろと面倒くさそうだ」
宗哉はそう返すと、視線を気にしないように昼食に集中していったのであった。
昼の休憩も終わり、午後の授業が始まった。
教室に入って来た担任の遥が最初にした事は、クラス全員にカードを配る事だった。
カードを配り終えると、配ったカードについて説明をし始めた。
「今配ったカードが特典カードだ。個人IDが入っているので、人に貸す事は出来ない。
特典の内容についてだが、正直に言うと、私も嬉しい。
まずは学食での割引が、8割引だ」
この言葉にクラスの男子が「やっほー」「3倍喰えるぜぇー」と歓喜の声を上げた。
「あー、嬉しいのは分かるが、授業中なので静かに!!
その他にも、学園内で売られている物は大体が5割引となるようだ。一部例外もあるので使用する際には確認して使うようにな。
それにしても、適性Sがいかに優遇されるかを目の当たりにしてしまったな」
そう言って、遥は宗哉に視線を向けた。
宗哉は、「あはは」と苦笑いをするしかなかった。
「しかし、おかげでようやく私は本来の担当であるPA訓練教官が出来ると言うわけだ」
宗哉は遥の言葉に息を呑む。宗哉のクラスには適性者がいなかったので、遥は数学の教師をしていたが、各担任の本来の受け持ちはPAの訓練教官なのだ。
法錬学園でクラスを受け持つ担任となるには、PA適性がある事が必須条件となっていた。受け持ったクラスで適性者が現れれば、その者にPA実習を行う事が出来ない者が担当となっても仕方が無い。1年から3年まで同じクラスメイト、同じ担任で過ごすのには、互いにその人柄をよく知るためと言う理由もあるのだ。
「お手柔らかにお願いします」
「ふふっ、任せておけ!
とは言え、すぐに追い抜かれてしまうかも知れんが、そう簡単に負けてはやらん!!」
宗哉の言葉に胸を張って答える遥を見ながら宗哉は考える。
(お手柔らかにって言ってるのに・・・スパルタだよなきっと・・・)
そんな宗哉の考えなど気にもせずに、遥は言葉を続けた。
「おっと、もうこんな時間か。
では、藤森は今から指導室へ向かう事。他の者は授業の準備をして待つように」
遥はそう言うと教室から出て行った。
「宗哉、ありがたく使わせてもらうぜ」
親友の明が特典カードを掲げて言ってくる。明の言葉を皮切りに、クラスメイト達が次々と礼を言って来た。
宗哉は立ち上がり、教壇の前に立ってクラスメイト達に言う。
「普段は明がふざけて迷惑ばかり掛けてるからな。遠慮なく使ってくれ」
宗哉がそう言うと、明が、
「お前も一緒にだろぉーがぁ!!」
と言って突っ込んだ。
クラスの雰囲気が和んだ所で、
「んじゃ、指導室にいってきますかね」
そう言って、宗哉は教室から出て指導室へと向かっていった。




