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001-適性検査-


 朝起きると体が熱い。宗哉(そうや)は慌(あわ)てて自分の体を見ると何やら不思議な輝きが体を覆っていた。


(何だこれ・・・)


 体を覆っている輝きに恐る恐る触ろうとするが、触る事は出来なかった。


(触れないのか・・・て言うか、夢?)


 手の甲を抓(つね)って見る。


「痛い・・・」


 普通に痛かった・・・

 現状を理解出来ずに10分ほどぼぉ~っとしていると輝きも消え、体の熱も治まった。


「何だったんだ・・・」


 理解が出来ないままであったが、休日ではないので学校へ行く支度をしてリビングへと向かう。

 リビングで朝食を作っていた妹の鈴(りん)に朝の挨拶をして朝食を取り、一緒に学園へと向かった。


 宗哉(そうや)と鈴(りん)が通っているのは私立法錬学園(ほうれんがくえん)の高等部だ。法錬学園は有名な名門校で、高校と大学、そして優秀な卒業生がそのまま残って研究を続けるための施設がある巨大な学園だ。


 有名な理由は、残って研究を続けている卒業生の一部が様々な分野で多大な成果を挙げている事にある。

 具体的な例を挙げるとすると、結晶式(けっしょうしき)動力炉だ。

 結晶式動力炉は、核燃料を一切使っていない。不思議な結晶を核とした動力炉で、1基で原発5基分のエネルギーを生成出来る優れものなのだ。クリーンエネルギーとして世界各国が注目し、その結晶体の出所(でどころ)を探したのは言うまでも無い事だろう。

 各国がその結晶体の解析をして利を得ようとしたが、結晶体の解析に成功した国はなかった。世界各国が国連を通して情報開示を求めてきたのだが、発表者である卒業生、矢神博士は世界各国に向けて、ホンニ国政府を通じて声明を出した。


「結晶は私が作った物だ。製法は教えない」


 これには世界各国が動揺した。いつも弱腰のホンニ国政府が堂々と声明をそのまま発表したのだ。当然非難の声も上がったが、声明の続きが発表されると声を上げる国はなかった。

 その声明の続きはこうだ。


「ごたごた言う国には、今後一切、結晶の輸出はしない」


 たった2行の声明ではあったが、世界各国を黙らせるには十分な威力を備えていた。既に自国の主エネルギーを結晶式動力炉に転換した国がほとんどで、結晶を得られなくなれば自国のエネルギー問題に加えて、防衛力の低下にもつながるからだ。


 結晶の実用研究は進んでいて、結晶を核とした人型の機動兵器である結晶機動兵『プロテオーネ・アルージュ』通称、PAが現在の主力兵器となっていた。


 PAには誰でも機乗する事は出来るが、動かすには適性が必要となる。その為、どの国でもPA適性のある者は優遇される。

 しかし適性のある者はその数自体が少ない。その為、PAが発表された当初に隣国のチャウ国で弱冠9歳の兵士が国の英雄として報道された。

 これに対して動いた者達が居た。結晶の製作者の矢神博士とPAの製作者達が、国連と全世界のマスコミに対して声明を送りつけたのだ。


「PAパイロットの最低年齢を満15歳とする。破った国には今後一切、結晶の輸出はしない」


 一方的な通告ではあったが、これにはチャウ国を除く全ての国が賛同した。これにより国連規定として、PAパイロットの最低年齢は満15歳と定められたのであった。


 面子を一方的に潰された形になったチャウ国は、ホンニ国に対して経済的な締め付けをしようと試みたが、ホンニ国との関係を悪化させたくない他の国々によってその計画は意味を成さなかった。そしてこの件以降、ホンニ国とチャウ国の外交関係は表面上は何も無いように見えても、水面下では確実に悪化していったのであった。


 その事件以降、各国は適性のある者をまずは保護、そして15歳から訓練していたのだが、PA適性は検査で適性が無くても、後天的に発言する事もあると、PAの製作者達により発表されたのだ。この発表を受けて、各国は高等学校からパイロット課程を必修とした。


 法錬学園の必修課程にも当然ながらパイロット課程の授業はあるが、その前に入試倍率がとても高い。

 結晶の製作者の矢神博士とPAの製作者達が、法錬学園の卒業生であり、現在もその研究施設にいて研究を続けている。つまり、入学して優秀な成果を収めれば、共に研究をする事が出来る可能性があるからなのだ。


 入学の倍率を高めている理由がもう1つある。それは、入試を受けて入学する生徒は学年の約半数と言うことだろう。あとの半分は学園側の独自の選定基準によって選ばれて、招致状(しょうちじょう)が送られてくる。その招致状が届いた者は、本人が希望すれば入試を受ける必要も無く入学する事が出来るのだ。

 選定基準は公表されていないが、宗哉(そうや)は2年前に、そして鈴(りん)は今年その招致状が届き、法錬学園へと入学する事が出来たのであった。




 宗哉(そうや)と鈴(りん)はいつも通りに電車で登校をして来た。辿り着いた校門で宗哉(そうや)はふと違和感を感じて辺りを見渡す。そこで見慣れぬ人物がこちらを見ている事に気が付いた。


(だれだ、あれ・・・)


 その人物は自分を見ながら考え事をしている宗哉の方に小さく手を振ると、学園の敷地内へと去っていった。


「おにぃの知り合い?」

「いや、知らない・・・はず・・・」


 宗哉は自身の記憶を探るように考えたが該当する人物はいなかったので鈴の問い掛けにそう答えた。


「ふ~ん、ボクも知らないんだけど・・・」

「制服じゃなかったし、新任の教師とか・・・ってそれじゃますます知らない人だな・・・」

「う~ん・・・まぁいっかぁ。用があるならその内来るんじゃない?」


 そう言って歩き始めた鈴に、「そうだな」と答えて校舎へと向かっていった。

 下駄箱で鈴と分かれたあと、


(周りにも人は居たし、俺達に手を振ったんじゃないかもしれない。気にしないで置くか)


 宗哉はまだ少し気にはなっていたが、そんな事を考えながら自分のクラスである3-Bの教室に入っていった。


 教室に入り、窓際にある自分の席に着く。


「おっす、宗哉」


 前の席に座る友人の後藤明(ごとうあきら)が朝の挨拶をして来た。


「おはよう、明。今日も朝から元気そうだな」

「まぁな~、今日は憂鬱な適性検査もあるしよぉ。気持ちだけでも前向きにしとかねぇとよぉ・・・」


 法錬学園では学期が始まって1週間ほどしてからPA適性の検査が行われる事になっている。検査結果は4段階で各自に通知される。

 適性無しのC、適性有り(可)のB、適性有り(良)のA、適性有り(優)のSの4段階だ。最も、適性のある者でもほとんどがB、稀にAがいて、本当に極稀にSがいる程度となっている。

 適性有りを3段階に分けている理由は、適性が高ければ高いほどPAの性能を効率良く引き出せると言われているからだ。現在、法錬学園には適性Aが高等部に2人、大学の方に3人いるだけである。1学年が200人なので、適性A以上がいかに少ないかがよく分かるのだ。

 どの国でも適性A以上の者は優遇されていて、ホンニ国でも、適性A以上の結果を得れば学生であっても特務大尉の階級が与えられ、様々な特権に加えて給料が支払われる。


「あまり考えすぎるなよ。検査結果なんてどうあがいてもなるようにしかならないんだしさ」


 宗哉(そうや)は明(あきら)にそう言い、担任が現れるまで他愛も無い話をして過ごした。


 しばらくして現れた担任に引き連れられて検査場になっている体育館へと向かった。身体測定も同時に行われる為、検査は割りと賑やかに進んでいく。

 宗哉のクラスは身体測定から始まり、適性検査は最後となっていた。宗哉自身も運動は得意な方なので、クラスメイト達と賑やかに身体測定を進めていった。


 身体測定も終わり、適性検査の為に検査室へと移動をする。適性検査が始まるとクラスメイト達は、「見てな!今日の俺は一味違うぜ!!」などと、様々な台詞を残して検査室に入っていくが、出てきた時には「ふっ、今回はこれで勘弁してやろうっ」とか「今日はお腹が痛かったからな」と適性が無かった時の為の捨て台詞を用意している位に余裕を持って撃沈していった。


 宗哉の番になり、名前を呼ばれて検査室へと入っていく。室内に入るとベットに寝かされて、検査の為にケーブルの先にパッチの付いたものが宗哉に取り付けられる。

 パッチを付けられている間にモニター室の方を見ると、そこには見覚えのある人物が居た。今朝校門で手を振っていた女性だ。

 またもや小さく手を振る女性に問いかけてみる。


「何処かで会いましたっけ?」

「いいえ、はじめまして・・・ん~?今朝校門で会ったから2回目だし、久しぶり?」


 室内の音は集音マイクでモニター室へ届けられる。女性は手元のマイクで宗哉に返事をした。


(やっぱ知り合いじゃなかったか。忘れてるだけかとも思ったけど・・・)


 宗哉がそんな事を考えていると女性が自己紹介をする。


「私は磯谷優子(いそやゆうこ)よ。法錬学園の卒業生で、今年から第5PA製作チームの主任をする事になったのよ。よろしくね」

「はあ、よろしくお願いします」


(そう言われても、俺って適性の無いんだけどなぁ)


 宗哉がそんな事を考えているとパッチを貼り終わったようで、適性検査が開始された。検査自体はこのまま寝ていれば、5分も掛からずに測定が終わり結果が告げられる。


「あっ、しばらくの間いろいろと付き合ってもらうからバイトとかしていたら辞めちゃってね?」


 優子の突然の言葉に宗哉は意味が分からず、「は??」としか答えようが無かった。

 そんな宗哉を置き去りにして優子は言葉を続ける。


「専用機を作るのに本人の意見は不可欠だからね!」

「専用機って、俺って適性ないですよ??」


 優子は宗哉に専用機を作る為に付き合えと言う。宗哉はますます理解出来ずに疑問を返した。


「大丈夫、もうすぐ結果も出るから、もうちょっとだけ待ってね~」


 優子は宗哉の質問に適当に答えると、眼前のモニターに集中してしまった。


(大丈夫って言われてもなぁ・・・学生で専用機って少なくとも適性Aって事だよなぁ・・・それは無いだろ・・・)


 優子がモニターに集中してしまったので、宗哉はそんな事を考えながら測定が終わるのを待った。


 モニター室から人が出て来て宗哉に付けられていたパッチが外されていく。


(終わったか。さて・・・)


 宗哉が優子の方に視線を向けると優子も宗哉の方を見ていて、その顔はすごく上機嫌な様子だった。

 モニター室から出て来た優子から検査結果が宗哉に告げられた。


「おめでとう。世界で5人目の、ホンニ国だと2人目だけど適性Sだよ」

「へっ?・・・」

「昼には校内放送で、適性Sだと午後には政府が全世界に向けて公表しちゃうと思うけどその辺は割り切ってね。

 君と君の親族については、国が総力を挙げてガードとフォローをしてくれるから日常生活はちょっと忙しくなるけど普通に送れるよ?

 他にも特権の話とかいろいろあるんだけど、その辺りは午後にでも政府から人が来ると思うからその時だね。にしても博士から覚醒すれば少なくとも適性Aって聞いていたけど、Sって言うのには私もちょっと驚いちゃったよ?」


 優子は検査結果を告げられて、いまいち気持ちの整理がつけ切れていない宗哉に話しかけてくる。


(適性Sって・・・国がガード、フォロー。ん~・・・)


 気持ちの整理をつけようとする宗哉に優子はこう言って話しを終わらせてしまった。


「詳細は今日いろいろな人と話すことになるだろうから、それをゆっくり理解して気持ちの整理をつけると良いよ。今日の放課後に呼びに行くから、私で良ければ、私の知っている事は答えてあげられるよ?

 とりあえず、次の子の検査も有るし、何か有ればまた放課後にね」


 優子にそう言われて、宗哉は検査室から出た。部屋を出た所でクラスメイト達の視線が集まる。


「やったのか?」


 クラスの中では最も親しい友人である明(あきら)が代表して聞いてきた。


「あぁ、適性有りだった」


 宗哉のその言葉にクラスメイト達は歓声を上げて喜んでくれた。クラスに適性者がいると、学園内でいろいろとそのクラスに所属する全員に少なからず利をもたらす。最も嬉しいと思われているのは、学食の5割引だ。お小遣いで生活する学生にとっては魅力的なものだった。その他の学園内で売られている物にも割引率は物に寄るが、割引が適用されるようになるのだ。


「ランクは・・・まぁ、昼の発表までのお楽しみにするかぁ!

 皆!明日からは倍の飯が喰えるぜぇ!!」


 明(あきら)のその言葉にクラスの男子達は「おっっしゃー!!」と歓声を上げ、女子達は学園内で売られているその他の物に興味を馳せていた。


 現在、法錬学園高等部の3年生には10名の適性者が在籍しているのだが、宗哉達のクラスには適性者がいなかったのである。法錬学園ではクラス替えが無いのだ。1年から3年まで同じメンバーで過ごす事になる。その為、適性者がいないクラスも出てくるのだ。


 皆がそれぞれに喜んでくれた事で、宗哉もただ良かったと思えるようになっていた。考えてみれば将来が安定したと言う事であり、悪い事はほぼ無いのだ。


(何にせよ、とりあえず良い事だよな)


 喜ぶ皆を見ながら宗哉がそんな事を考えていると、最後のクラスメイトの検査も終わったようだ。最後のクラスメイトと一緒に出て来た担任から「教室へと戻っているように」と言われ皆で教室へと戻っていった。

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