3話
窓の外には、テーリア王国の誇る広大な農地が黄金色に輝き、穏やかな風が王城のカーテンを揺らしていた。
いつもなら近衛騎士団の厳しい訓練の声が響き渡る時間だが、今日は静かだ。
「今日は1日なにもないね」
「そうだね」
そう、今日は地獄の訓練である騎士団の訓練の休みの日なのだ。
一歳半にして、大人顔負けの身体強化を強いられる日々。
肉体的な疲労は魔法で癒せても、精神的な解放感までは得られない。
この稀有な休息日をどう過ごすか、双子は、テラスに座って思案していた。
「なにする?アル」
エマは横にいたアルに向けて聞いた。
「王宮探検?街に遊びに行く?図書館に行く?魔導書よむ?」
エマに提案するアル。
選択肢を並べつつも、彼の瞳はすでに一つの結論を見据えて、好奇心に輝いていた。
「魔導書読まない?エマ?」
もうアルの中では答えは出ていたようだ。
双子の渇望は常に一つ。
この小さな肉体に秘められた膨大な魔力を制御し、そして自分たちの運命を切り開くための「知識」だ。
「そうだね。そうしよう!行こっかアル。王立図書館の禁書庫へ!」
王宮や城下町には4つの図書館がある。
1つ目は「王立図書館」
街にも面していて、平民も入ることができる。
教養や一般常識に関する本や生活・生きるために役立つ知恵などがメインで置かれている。
ここには王国の民が豊かに暮らすための技術や、大地の実りを守る農学の基礎が詰まっている。
2つ目は「王立図書室」
王立図書館の半分程度の広さしかない。
王侯貴族しか入ることができない。
ここは主に政治や外交、多国語等に関する本がメインだ。
主に王侯貴族の教養や仕事に関する本しか置かれていない。
公爵家をはじめとする貴族たちが、国の舵取りを学ぶための厳格な空間である。
3つ目は「禁書庫」
ここは王族しか入ることができない。
歴史的価値が高い本、貴重な本、著者が王族とゆかりのあるもの、世の中に出回ってはいけないものなどがメインである。
そこは、テーリア王国の光と影が封印された、魔法と歴史の深淵だ。
4つ目は「シリル・アル・エマのためだけに建てられた小さな図書室」
主に、童話・辞書・絵本・基礎魔術書・基礎魔導書などがメインである。
オフィーリアとヴァルドが3人のために1年前にたてたものだ。
両親の深い愛情が形になったその場所は、双子にとっての癒やしだが、今の2人が求める「解答」はそこにない。
二人はトテトテと、しかし迷いのない足取りで豪華な絨毯の上を歩き出す。
廊下ですれ違う人々は、まだオムツが取れたばかりのような幼児が連れ立って歩く姿に、顔をほころばせる。
「あら、両殿下どこにいかれるのですか?」
そう口々に聞くのは侍女や衛兵だ。
彼らにとって、私達は守るべき幼き主君であり、癒やしの象徴である。
『禁書庫だよ!』
元気よく答える二人だった。
みんなニコニコしながら手を振ってくれる。
まさか、本当に禁書庫に向かっているとは思わず、図書室の言い間違いだろうと微笑ましく思っているのだ。
誰もその先に待ち構える「魔力の門」を一歳児が突破できるとは夢にも思っていない。
廊下の突き当り、重厚な石の壁に隠された扉の前に辿り着く。
「ついた!アル、魔力の扉の鍵を外そう!」
実は魔力というものは両親などの血縁者、特に魔力の強い者の影響を受けやすい。
そのため、魔力を扉に流し込むだけで王族だと認識されるため、魔力を流し込む必要がある。
特に、双子は瓜二つの魔力を持っていた。
本来なら女王や王配の認証が必要な門だが、双子にとって、波長を合わせることは造作もなかった。
「そうだね。エマ。流そっか!」
二人の膨大な魔力が注がれる。
眩い光が扉のテーリア王家紋章をなぞり、術式が高速で分解・再構築されていく。
ガチャ!!!
大きなお音を立てその扉は開いた。
扉の向こう側から、ひんやりとした古い紙の匂いと、濃密な魔力の気が流れ出てくる。
地下に降りる長い長い階段が続いている。
暗い奈落の底へと続くかのようなその光景を見下ろし、二人は不敵な笑みを浮かべた。
「ねえ、エマ。」
アイコンタクトを取る二人。
「うん、アル。多分私もおんなじことを考えましたわ。」
笑い出す双子
『浮遊魔法』 『三重』三重 二人は息ぴったりに魔法を発動した。
魔術師で一流と言われる基準が二重二重なのだ。
普通の魔法使いなら、浮くための術式を展開するだけで精一杯だが、双子はそこに「加速」と「慣性中和」を重ねる。
二人の身体がふわりと地面を離れた瞬間、空気の抵抗を無視した加速が始まった。
「さすがエマ!よくわかったね。僕なんて考えていたと思う?」
猛スピードで下りながら会話をする。
階段の壁が、残像となって後ろへ飛び去っていく。
一歳児の小さな身体が、音もなく闇を切り裂いて疾走する光景は、誰が見ても戦慄を覚えるだろう。
「大体こんな感じ?アル。『僕ら1歳児には流石にこの階段降りるの体力とペース考えたら、まともに降りるの無理だから、浮遊魔法をかけよう。でも、なぜ三重三重かは、早く禁書庫につきたいから。それとも、そうでもしないと日付変わって城中大騒ぎになるから?』そんなところでしょ。」
とても1歳児なんて思えない。この会話は。
「大正解!特にお兄様だよ。ただでさえ、僕らの事情知ってるみたいだし、やはり周囲に天才って言われるだけあって、内容も大体わかってるみたいだし、これ以上心配かけたくないんだよ。それにこれ以上シスコン・ブラコンが悪化したら僕らが大変だ。」
アルは 不安そうな様子だった。
シリルは、私達が少し視界から消えただけで、騎士団を総動員して捜索しかねないほどの過保護ぶりだ。
先日も、庭で隠れんぼをしていただけで、「僕のかわいい、アルとエマ魔物に拐われた!」と泣きそうな顔で走り回っていた。
その献身的な愛は嬉しいが、行き過ぎれば私達の自由はなくなってしまう。
「そうね。それにはいちりあるわ。それに、これ以上心配かけたくないのは私も同じ。」
納得した様子だった。
双子は愛されている。
だからこそ、その愛を裏切りたくない。
自分たちが何をしているのか、何を求めているのか、それを秘匿しつつ成果を出すのが、双子なりの「孝行」でもあった。
そうこうしているうちに、ついてしまった。
階段の最下層。
そこは、数百年分の知識が堆積した知識の墓所、あるいは揺り籠。
「さて、魔術書を読もうか。さすがの僕らの能力も万能ではないからね。一度読んだり、聞いたりすれば新たな魔法が使えるようになるけれど、そうでもしないと魔法を使えないから。」
「そうね。アル。今回はできるだけたくさん読みましょう。」
「エマ、読む速度上げる魔法と浮遊魔法は必須だね。」
「超速読魔法は妥当として、なぜ浮遊魔法なの?」
「僕らの身長では届かないからだよ。」
実は3m近くの本棚がたくさん並んでいるのだ。
一歳児の視点から見れば、それは天を突く巨大な壁に等しい。
「それもそうね!」
二人は読み進めていく。
エマは超速読魔法によって、一冊数秒という速度でページをめくり、脳内に記憶していく。
アルもまた、特定の波長を持つ魔導書を次々と抜き出し、その術式を解体・吸収していった。
静寂の禁書庫に、紙が擦れる音だけが不気味なほど速いテンポで響く。
しばらくして、アルが棚の奥深くから、一冊の古びた革表紙の本を見つけ出した。
その本から放たれる魔力の残滓は、先ほど自分たちの身体を癒やしたあの力と、酷似していた。
「エマ、エマ、エマ!!!来て!!」
「うるさいわね。何よ?」
エマが浮遊魔法で滑るように近づく。
アルの手元にある本を覗き込んだ。
その本の題名は《テーリア王国・王族血統魔法について》と書かれていた。
装飾過多な金文字が、青白い魔法の光に照らされて浮かび上がる。
「これじゃない?お兄様が使った魔法?」
「かもね。だってここに、5歳になるまでは使ってはいけない。体に過度に負荷がかかってしまうから。って記述がある。お兄様は今5歳だ。それにお母様が覚えたばかりでしょう?とおっしゃっていた。それに人払いをしたんだ。ほぼ間違いないと思う。」
アルの指先が、一箇所を指し示す。
そこには、テーリア王家の血を引く者のみが、その王族特有の魔力を引き換えに行使できるという秘術の数々が記されていた。
シリルが、自分自身の魔力を削り、まだ習得したばかりの未熟な器を震わせてまで私達に施した慈悲の正体。
シリルのあの日の青ざめた顔。
そして、オフィーリアのあの不安げな視線。
すべての点がつながっていく。
そこには3つの魔法が書かれていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
明日は20:10更新となります!今後毎日この日程で更新します。(例外を除く)
本作を読み「本作が面白い!」「続きが気になる!」と感じていただけましたらぜひ【ブックマーク】や【評価★★★★★】で応援してくださると幸いです。
今後とも本作をよろしくお願いいたします!




